5ヶ年数値計画作成(中期経営計画)の基本

2022/11/02

5ヶ年数値計画を作成する目的と策定ポイント

5ヶ年数値計画の作成目的

5ヶ年数値計画作成の目的を端的にいうと、中期的な数値計画の中で、「将来、会社をこうしたい」というビジョンを共有するためとなります。
通常、経営者なら誰しもビジョンを持っています。しかし、社員はそこまで具体的にビジョンを持っているわけではありません。むしろ、「会社がどこに向かっているのか分からない」と言う社員の方が実際は多いでしょう。
そこで、経営者が思い描いているビジョンを共有し、1つの方向に全社員を向けさせるために中期経営計画が必要となってきます。
中期経営計画を策定することで、経営者の描くビジョンが社員に伝わります。日々の業務をその目標達成のためと社員が理解し進むことで、ビジョン達成のスピードは格段に上がります。
更には、社外に対しても中期経営計画策定は重要です。例えば、金融機関融資時の提出資料として計画が求められることもあります。また、補助金の申請も3年、5年の中期経営計画を提出するケースがあります。社外にも公表する前提で作成しておくと良いでしょう。
ここでは、5ヶ年計画を「中期経営計画」と呼び、主として数値計画の立て方を中心に解説します。

中期経営計画を策定する上のポイント

策定ポイントは、以下の通りです。

  • 経営理念(会社の存在意義)
  • ビジョン(中期的に達成したい具体的な目標、①との一貫性)
  • 基本方針・基本戦略(②達成のための基本方針・戦略)
  • 重点課題と改善(③における課題と改善)
  • アクションプラン(実行のための組織)

ポイントを整理します。

①の「経営理念」は、経営者が世の中に問う存在意義といえ、会社がどうありたいかを示すものです。「有名企業の名前」と「経営理念」をセットで検索すると数多くヒットするでしょう。例えば、『情報革命で人々の幸せに貢献し、「世界の人々から最も必要とされる企業グループ」を目指す』などです。
まさに経営者が「どうありたいのか?」につきますし、基本的には経営者自身が考えるものでしょう。

②の「ビジョン」は、中期的に達成したい具体的な目標です。「会社のイメージや規模」「業界でのホジション(順位やシェア)」「売上高や利益(全社や事業毎)」「資本金」「従業員の満足度」などです。「経営理念」と一貫性あるビジョンでないと行けません。
ビジョンは将来の「姿」ですので、何をどう表現しても自由ですが「定量目標」と「定性目標」を示すことが必要です。特に、定量目標は重要です。誰もが共有出来る売上高や利益などといった数値を決めましょう。

③の「基本方針・基本戦略」は、「ビジョン」を達成するための基本的な方針・戦略です。
販売・生産・人事・財務等さまざまな観点がありますが、以下の視点から決めると良いでしょう。

現状分析 取扱商品・サービスの内容を把握し、大分類・中分類・小分類と詳細な商品・サービス毎に現状の分析を行う
商品・サービスの特色
(強み、弱み、脅威、機会)
ビジネスの核となる部分をどう実施して行くのかの決定
(強みを生かしてた新商品開発を核とするなど)
ここをしっかりしないと、その後のプロセスが上手くいかない
市場規模・マーケットシェア等 経営資源には限りがあるため、特定市場に戦力を集中する必要
ターゲットの特定、同業他社の動向・ビジネスの成長性・市場規模を確認など

更に企業は「販売なくして存続なし」ですので、マーケティングの戦略が必要です。良く言われるのが競争戦略で以下の3つになります。

コストリーダーシップ戦略

他社よりもローコスト地位をとる

  • より安く提供する
差別化戦略

製品・商品・サービスで差別化して価値を提供する

  • デザインや品質といった差別的な優位性を持つ
集中戦略

特定の顧客、特定の商品、特定の地域など特定のセグメントにターゲットに経営資源を集中させることで競争優位を構築する

  • 絞り込んだターゲットに対してコスト戦略をとるのを「コスト集中」、差別化戦略を展開するのが「差別化集中」と言う

全社戦略を策定した後に、担当部門に落として行くこととなります。

④の「重点課題と改善」は、「基本方針・基本戦略」を実現するための課題とその改善策を指します。課題を整理し、重要性・緊急性から順にその改善に着手するプランを構築します。
また、課題を検討する際は、他課題との関係性や、1つの課題改善が出来た場合の波及効果も重要です。1つの課題改善に着手することで複数課題が改善されることが望ましいですし、課題は別々に見えても関連することが少なくないので、検討してその取組順位を決定します。

⑤のアクションプランは、「重点課題と改善」の実行のための組織構築も含め検討します。その際に、「誰が」「何を」「どうやって」「いつまでに」「いくらの費用をかけて」改善する。といったプランにします。
「④課題改善」は、顕在化・潜在化を問わず、これまで着手を試みても中々上手く改善出来なかった場合が少なくありません。だからこそ、課題とも言えます。
よって、⑤でより具体的なアクションプランとし、そしてそのプランにおける進捗管理を実施する必要があります。

年次予算計画と中期経営計画の違いと作成の視点(月ごとと年度ごとの視点)

よく「予算」と言いますが、これは通常、年次予算計画を指します。中期経営計画との違いは何でしょう?
一言で言うと、中期経営計画は進むべき方向性を明確にし、年次予算計画は「今を知るモノサシ、今やるべき短期的な計画」です。
中期経営計画は、中期的なビジョンを実現するために、企業の進むべき方向性を明確にし、「今、何をなすべきか」を明らかにすることを狙いとして策定されるものです。「将来を示すもの」と言えます。
それに対し、年次での予算計画は数値計画などを詳細に立てたものであり、中期的な目標を達成するがためのその詳細計画と言う位置づけです。
中期経営計画あっての年次予算計画と言う位置づけが「中期的に実現するために、今何をすべきか、どう今後に繋がるのかが明確になる」と言う意味で効果的でしょう。

イメージとしては、以下のようになります。

中期経営計画(1期~5期):年次予算計画(1期)→年次予算計画(2期)→年次予算計画(3期)→年次予算計画(4期)→年次予算計画(5期)
  • 中期経営計画=1年ごとに細分化して年次予算計画を策定

例えば、現在赤字に苦しんでいる会社があるとします。1年後に黒字にするのは難しい状況です。年次の予算計画を立てても、結果赤字となりますね。
しかし、1期目が赤字でも「数年後には黒字になる」と言うことであれば、経営者や経営陣の事業意欲も異なるでしょうし、取引金融機関などに提出する場合も随分と印象が違ってきます。
このように、中期経営計画を作成した上で、そこから年次予算計画に落し込むことで「予実差管理(予算・実績・差異分析の管理)」の運用を行うことが望ましいでしょう。
また、実際の運用においては、中期経営計画は、「将来を示すもの」ですので、現状の前提条件が変わったり、将来目指す方向性が変ったら毎年作り直すことが理想的です。年次の予算計画も、中期経営計画の実現のために、年度ごとの実行計画を策定したものですから、中期経営計画の変更と共に見直すこともあります。
ただし、予実差管理をする中で、あまり頻繁に年次予算計画を変更するとその管理・チェックする意味がなくなります。特に期中での変更は上期・下期など一定時期に行うなど社内ルールも必要でしょう。

著者:星 武志(経営コンサルタント)

株式会社アスタリスク代表取締役。金融機関、コンサルタント企業、IT企業を経て、2000年代表取締役就任。IT企業、不動産業、商社等の経営戦略、財務戦略、管理会計支援等を行う。
これまで、銀行等の金融機関の研修・講演講師を70行庫以上務める。主な著書は「渉外マンの現場力/近代セールス社」金融商品取引法・各種業法に基づく「金融商品セールス対応話法集/銀行研修社」等でありその他金融機関向け、雑誌連載実績等多数。

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