金融における「リスケジュール」の意味、実施率、事業再生との関係

2021/01/29(2021/9/15更新)

リスケジュールとは何か?リスケジュールと事業再生の関係は?災害等における国のリスケジュール支援の状況は?そしてリスケジュールの実施率(成功率)など、リスケジュールについての概要について解説いたします。

金融における「リスケジュール」の意味

リスケジュール(reschedule)とは一般的には、“スケジュールを変更する”という意味で使われていますが、金融機関取引上では、リスケ、貸付条件の変更などとも呼ばれており、「融資の返済条件を変更すること」をいいます。具体的には、毎月の返済額の変更や返済期日の変更、利率の変更などを意味します。

金融機関に支援要請をすることにより、借入金の返済等を止め、返済分の資金を運転資金に使うことで、キャッシュフローが改善。事業の再建に効果を発揮するというものです。一般的にリスケジュールというと、毎月の返済額の低減を指すことが多いでしょう。

経営者の中には、「リスケジュール=事業再生」と思われている方もいますが、企業が事業再生を図るための一つの手法がリスケジュールだと理解してください。リスケジュールは、事業再生における重要な通過点の一つですが、リスケジュールが終了したからといって、それは事業再生が終了したというわけではありません。

〈参考〉事業再生の流れ、イメージ 業績悪化!! リスケジュール開始 売上・利益の改善、リストラ等 1年間? リスケジュール終了 通常取引

念のため「事業再生」の定義にも触れておきます。事業再生の定義は様々ですが、「認定支援機関向け経営改善・事業再生研修テキスト」には以下のように書かれています。

事業再生とは?

事業再生とは、窮境(きゅうきょう)状況にある企業(または事業)が過剰債務や営業キャッシュフローのマイナス等を解消するために、事業内容の見直しや財務構造の見直しを実行することにより、持続的な事業の存続及び成長を可能にするプロセスをいいます。また、財務的視点からみた場合は、事業損益の黒字化、債務超過解消、過剰債務解消、金融機関との取引正常化(新規融資等)が実現することをいいます。事業再生の目的は、主に『事業の継続』と『金融取引の正常化』であるといえます。

コロナ禍におけるスケジュールに関する政府の支援について

政府は新型コロナウイルス感染症の影響により、事業者の資金繰りに重大な支障が生じることがないよう、金融機関等に対して再三にわたって要請を行っています。具体的には、これまでに何度も「元本・金利を含めた返済猶予等の条件変更」が要請されています。事業者の皆さんは、是非、この事実をしっかりと把握しておいてください。

具体的な文書をご案内しましょう。新型コロナウイルスが拡大し始めた2020年3月には、既に以下のような文書が公表されています。

新型コロナウイルス感染症の影響拡大を踏まえた事業者の資金繰り支援について

麻生財務大臣兼金融担当大臣談話(一部抜粋 3月6日)

  • 年度末の金融繁忙期を控え事業者からの相談が増加している中、相談受付や融資審査・実行、保証承諾、元本・金利を含めた返済猶予、元本の据置期間の長期化・フル活用など、事業者の資金繰り緩和に向けて全力をあげて丁寧かつ迅速に取り組むこと
  • 既往債務について、事業者の状況を丁寧にフォローアップしつつ、元本・金利を含めた返済猶予等の条件変更について、迅速かつ柔軟に対応すること。また、この取組状況を報告すること

出典:https://www.fsa.go.jp/news/r1/ginkou/20200306/20200306-2.pdf

また同時に以下のような要請文書も公表されています。

新型コロナウイルス感染症の影響拡大を踏まえた事業者の資金繰り支援について(要請)

内閣府特命担当大臣(金融)麻生太郎(一部抜粋 3月6日公表)

  • 既往債務について、事業者の状況を丁寧にフォローアップしつつ、元本・金利を含めた返済猶予等の条件変更について、迅速かつ柔軟に対応すること
  • 金融庁から金融機関に対して、条件変更等の取組状況(金融円滑化法と同様に「貸付けの条件変更等の申込み数」、「うち、条件変更を実行した数」、「うち、謝絶した数」等)の報告を求め(銀行法第24条等による報告徴求)、その状況を公表することとする

出典:https://www.fsa.go.jp/ordinary/coronavirus202001/05.pdf

新型コロナウイルス感染症特例リスケジュールについて

現在、新型コロナウイルス感染症の影響を受けた中小事業者に対して、「中小企業再生支援協議会」が窓口相談や金融機関との調整を含めた「新型コロナウイルス感染症特例リスケジュール計画策定支援」を実施しています。

中小企業再生支援協議会とは、中小企業の事業再生に向けた取り組みを支援する「国の公的機関」として47都道府県に設置されている地域における再生支援のプラットフォームです。平成15年の設置以来、累計で43,000件以上の相談実績、14,000件以上の支援完了実績があります。

「新型コロナウイルス感染症特例リスケジュール」の具体的な支援内容は以下の通りです。

1)一括して既存債務の元金返済猶予要請

資金繰りに悩む中小企業者に代わって金融機関などの支援姿勢を確認の上で、一括して1年間の元金返済猶予の要請を実施します。

2)資金繰り計画策定における金融機関調整

中小企業者と金融機関等が作成する資金繰り計画の策定を支援します。複数の既往債権者が存在する場合、新規融資を含めた金融機関調整を行った上で、既往債権者の合意形成をサポートします。

3)資金繰りの継続サポート

特例リスケジュール計画成立後も、毎月資金繰りを継続的にチェックし、適宜助言します。

なお、1)~3)における中小企業者の費用は原則不要となっています。しかしながら、状況に応じて2)において一部費用負担が生じる場合もありますが、国がその費用の一部を支援する場合もあります。また、特例リスケジュール後に、本格的な再生支援を希望する中小企業者に対して、再生支援を実施する場合もあります。

リスケジュールの実施率はどれくらいか?

それでは、リスケジュールはどれくらいの確率で成功するのでしょうか?説明した通り、「金融庁から金融機関に対して条件変更等の取組状況の報告を求め、その状況を公表することとする」となっていますので、実際にその資料を確認してみましょう。金融機関のリスケジュールの実行率はどうなのでしょうか。

2021年9月時点においての最新の情報について、以下の資料を見てください。

〈主要行等、地域銀行〉貸付条件の変更等の状況について
(令和2年3月10日から令和3年6月末までの実績)

(単位:件)

申込み A/(A+B)
申込み 実行(A) 謝絶(B) 審査中 取下げ
主要行等(9) 89,907 79,160 2,430 6,060 2,257 97.0%
地域銀行(100) 449,712 421,518 2,609 16,889 8,696 99.4%
その他の銀行(77) 897 771 53 37 36 93.6%
合計(186) 540,516 501,449 5,092 22,986 10,989 99.0%
  • 主要行等とは、みずほ銀行、みずほ信託銀行、三菱UFJ銀行、三菱UFJ信託銀行、三井住友銀行、りそな銀行、三井住友信託銀行、新生銀行、あおぞら銀行をいう。
  • 地域銀行とは、地方銀行、第二地方銀行及び埼玉りそな銀行をいう。
  • その他の銀行とは、主要行等・地域銀行を除く国内銀行、外国銀行支店、整理回収機構をいう。
  • 左端の欄中の括弧内は、令和2年9月末時点の金融機関数。
  • 件数は、貸付債権ベース。

〈信金、信組等〉貸付条件の変更等の状況について
(令和2年3月10日から令和3年3月末までの実績)

(単位:件)

申込み A/(A+B)
申込み 実行(A) 謝絶(B) 審査中 取下げ
信用金庫(255) 349,420 318,441 1,559 22,755 6,665 99.5%
信用組合(146) 57,297 53,933 109 2,312 943 99.8%
労働金庫(14) 11 10 0 1 0 100.0%
信農連・信漁連(61) 1,880 1,793 8 29 50 99.6%
農協・漁協(652) 4,150 3,853 33 107 157 99.2%
合計(1128) 412,758 378,030 1,709 25,204 7,815 99.5%
  • 信用金庫には信金中央金庫の計数を含む。
  • 信用組合には全国信用協同組合連合会の計数を含む。
  • 労働金庫には労働金庫連合会の計数を含む。
  • 信農連・信漁連はそれぞれ信用農業協同組合連合会、信用漁業協同組合連合会の略。農林中央金庫の計数を含む。
  • 農協・漁協はそれぞれ農業協同組合、漁業協同組合の略。
  • 労働金庫、信農連・信漁連、農協・漁協については令和2年3月13日から令和3年3月末までの実績を記載。。
  • 左端の欄中の括弧内は、令和3年3月末時点の金融機関数。
  • 件数は、貸付債権ベース。

政府系金融機関における貸付条件の変更等の状況について
(令和2年3月10日から令和3年6月末までの実績)

(単位:件)

実績
貸付けの条件の変更等の申込みを受けた貸付債権の数(A)   162,124
うち実行に係る貸付債権の数(B) 150,507
うち謝絶に係る貸付債権の数(C) 451
うち審査中の貸付債権の数(D) 7,681
うち取下げに係る貸付債権の数(E) 3,485
実行率(B)/[(B)+(C)] 99.70%
  • ※1
    計数は、日本政策金融公庫(中小企業事業、国民生活事業、農林水産事業)、沖縄振興開発金融公庫、商工組合中央金庫、日本政策投資銀行の合計値。代理貸付は含まない。
  • ※2
    件数は、貸付債権ベース。
  • ※3
    「うち審査中の貸付債権の数」には、条件変更を承諾する旨の判断決定後、契約手続きが未了の債権が含まれる。

リスケジュールの実施率は、主要行等、地域銀行、信金、信組、政府系などにおいて99%以上という、ほぼ100%に近い実績となっています。つまり、ほとんどの申請した事業者は、何かしらの貸付条件の変更等の承諾を受けているのです。

ご存じの方も多いと思われますが、かつて中小企業金融円滑化法という法律がありました。中小企業金融円滑化法は、リーマンショックによる景気の悪化を受け、中小企業者等の資金繰りを下支えすることを目的に2009年12月に施行された法律です。

その主な内容は、中小企業等の借り手から貸付条件の変更等の申込みがあった場合には、金融機関はできる限りこれに応じるよう努めることを義務付けるものでした。当時の貸し付け条件の変更実施率も、約97~98%という高水準でした。

中小企業金融円滑化法は、平成25年3月末に期限を迎えましたが、「金融機関が引き続き円滑な資金供給や貸付条件の変更等に努めるべき」という主旨は、現在も引き継がれているという見方もできます。

今回の新型コロナウイルス感染症の拡大は、リーマンショック以上に、大中小問わず、多くの事業者の資金繰りに大きな影響を与えています。そういう意味では、高い貸付条件の変更実施率は、当然のことといえるのかもしれません。

著者:吉田 学(財務・資金調達コンサルタント)

株式会社MBSコンサルティング代表取締役。1998年の起業以来、「資金繰り・資金調達支援」に特化して創業者や中小事業者を支援。これまでに1,000 社以上の資金調達相談・支援を行い、その資金調達支援総額は20億円超。
主な著書に、「社長のための資金調達100の方法」(ダイヤモンド社)、「究極の資金調達マニュアル」(こう書房)、「税理士・認定支援機関のための資金調達支援ガイド」(中央経済社)などがある。

また、全国の経営者・士業などを対象にした会員制の資金調達勉強会「資金調達サポート会(FSS)」を主催している。

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