中小企業が銀行融資を受ける方法は?融資の種類や銀行融資以外の方法
2023-08-23更新
方法や目的、種類別のメリットや注意点を解説
2022/08/03
従業員20名以下の中小企業や個人事業主など、いわゆるスモールビジネスの財務においては、「資金をショートさせない」ことが重要となります。資金ショートさえ起こさなければ、倒産はしません。資金調達は、資金をショートさせないための手段のひとつなのです。
資金調達の知識があれば、金融機関に対する交渉力は向上します。また、日頃から資金調達に関する情報を仕入れておけば、いざ資金繰りに困ったときにも慌てずに済むでしょう。先々の財務状況を予測して計画的に資金調達すれば、経営上の余裕になるはずです。
ここでは、スモールビジネス事業者のための「資金調達の目的」や、「種類別のメリット・注意点」について解説します。
資金調達の目的には、大きく分けて「起業・開業資金」「運転資金」「設備投資」「事業拡大」の4つがあります。まずは、この4つの目的について解説します。
起業や店舗の開業には、資金が必要です。店舗の開業に必要な資金は、店舗・事務所の準備資金のほか、電話・電気などの設備費用や、オフィス用品・店舗の什器などの費用があります。開業後はすぐに売上が立つ保証がなく、まだ代金が入金されるまでに時間を要しますが、その間にも家賃や光熱費などの経費がかかってしまいます。開業前後の費用をまかなうために、資金調達しておく必要があるでしょう。
仕入ビジネスは、材料の仕入れ費用や広告宣伝費、従業員の給料などを支払った後、そこから生み出した商品などの売上が立って、しばらく経って入金されます。支払いと入金のタイムラグを埋めるのが、運転資金の資金調達です。運転資金の資金調達には、一定期間分の借り入れを繰り返す場合もあります。
資金調達時における金融機関の融資審査において、最も重要なのは「資金使途」。「運転資金は、何に使ってもいい」と誤解されることもありますが、運転資金の資金調達時も資金使途はやはり重視されており、金融機関は「何に必要なお金か」をしっかり審査しています。その際には資金繰り計画表を作成すると、お金の流れやどこで資金が不足するかが説明しやすくなるでしょう。
スモールビジネスにおいて「赤字補填のために運転資金を借りたい」というケースも往々にしてありますが、基本的に金融機関は赤字補填のために融資してくれません。また、事業再生においても、リスケジュール(融資先と相談の上で貸付条件を変更すること)をして返済中断していることから、新たな運転資金の借り入れは困難といえます。
スモールビジネスでは設備を更新したり、新たに設備を導入したりするなどの設備投資が生じます。その際にも資金調達が必要です。設備投資目的の資金調達は比較的長期での借り入れとなり、小規模事業者では7~10年、中小企業では5年が目安となるでしょう。最終的には事業計画をもとに、金融機関との交渉の上で、返済期間を設定するケースが多いです。
設備投資の結果、想定より収益が上がらないと一気に資金繰りが厳しくなります。そのため損益計画、資金繰り計画、事業計画などを作成して、ROI法や回収期間法などをベースに、総合的な投資判断ができるのが理想的でしょう。
スモールビジネスの事業を拡大させるためにも、資金調達は必要です。内訳としては店舗・工場を増やす資金、人員を増強するための採用コストなどが挙げられます。費用を投じてから、実際に売上や利益を回収するまでに時間がかかるため、その間の経営を支える資金調達が必要となってくるのです。
資金調達の方法は、大きく「デットファイナンス」「エクイティファイナンス」「アセットファイナンス」「補助金・助成金」に分類できます。
スモールビジネス事業者に関係の深いものから現段階で縁遠いものまでさまざまですが、将来的に利用する可能性もあり、知識として知っておいて損はありません。ここでは、主な資金調達の方法をご紹介します。
デットファイナンスとは、例えば「金融機関などから融資を受け、資金を調達すること」です。スモールビジネス事業者にとって利用頻度や利用する可能性が高いものから順に解説します。
政府系金融機関には日本政策金融公庫、商工組合中央金庫などがあり、スモールビジネスにおいては日本政策金融公庫の国民生活事業が主な窓口です。スモールビジネスで一番利用されることが多い窓口であり、起業相談から事業承継まで、幅広く相談に乗ってくれます。起業時・起業後問わず、資金調達についてはまずここに相談すべきでしょう。返済が終わる前に、次の運転資金調達の相談をして関係継続させることをおすすめします。
日本政策金融公庫とは? 3つの窓口(国民生活・農林水産・中小企業事業)について
都道府県ごとに設置されている信用保証協会の審査を受け、債務保証を得られた際に融資を受けられます。実際に融資を行うのは銀行、信金、信用組合といった民間の金融機関です。また、自治体が窓口となり、自治体予算も入れて融資内容も決めている自治体からの制度融資や、金利・保証料を自治体が補助してくれる自治体保証付き融資もあります。
「資金調達手段を検索」で検索をすると、制度融資の情報を確認できます。
銀行や信用金庫、信用組合などの金融機関が独自に審査を行って融資をする「プロパー融資」もデットファイナンスのひとつです。
信用保証協会の保証なく金融機関がリスクを負うため、当然、審査は厳格です。スモールビジネスでプロパー融資を受けるのはハードルが高いのが実情ですが、自治体からの制度融資などを利用して返済実績を積むと、事業拡大時にプロパー融資を受けられる可能性も高まっていくでしょう。信用金庫などで地元のスモールビジネスにプロパー融資を行っている実例も見られます。
「ノンバンク」と呼ばれる金融会社のローンや、事業者向けカードローンもあります。ノンバンクとは「預金業務を行わずに融資などを行う金融会社」で、銀行などより金利は高め。ヤミ金(悪徳金融)と誤解されることもありますがまったく異なる存在で、計画的に利用すれば何の問題もありません。
創業時、親族や知人から資金を借りることがあります。また、創業後、経営難が続いてどこからも借りられない状況となり、親族・知人に頼らざるをえないケースもあります。ただ、その状況で借り入れを依頼するのは心苦しさが生まれるもの。創業時以外は、親族・知人からできるだけ借りないのが望ましいといえるでしょう。
手形割は、先々受け取るはずの売上金について、手数料を払うことで早く資金化する仕組みです。取引先から受け取った手形を、記載期日前に現金化し、金融機関や手形割引業者に手数料を支払います。手形割は昔からある資金調達の方法ですが、一部の業界を除きスモールビジネスにおいてはあまり一般的ではありません。
私募債は、債券を発行し、知人や親族、取引先などに買ってもらうもの。私募債には「金融機関から融資が受けられないために私募債で資金調達する」というイメージも一部にあるようですが、期日が来れば償還(返済)の必要はあるため、企業の業績がそもそもかんばしくなく、償還可能性が低ければ、私募債発行は困難です。
一定規模の中小企業では私募債を金融機関が引き受け、信用保証協会が保証をつける特定社債保証制度 もありますが、スモールビジネスにおいて、私募債を発行するケースはまれといえます。
クラウドファンディングは出資者に対する特典提供を条件に、インターネットを通じて事業計画を公開し、広く資金を集める方法です。スタートアップや、一定規模の企業が新規事業を興す際に使うケースもあります。
スモールビジネスになじみが深い「株式型」「貸付型」「ファンド型」クラウドファンディングは、投資者への還元(償還、返済)が必要な金融商品取引法の対象となるため、デットファイナンスに含まれることが多いです。
注目の資金調達方法「クラウドファンディング」の概要や種類、その具体的な進め方
資本を増やして資金調達するエクイティファイナンスは、スモールビジネス事業者の選択肢に挙がらないかもしれません。ただし、事業拡大に伴って資本増強が視野に入ってくる可能性もあるため、基本的な知識は押さえておきたいところです。
新株発行は、新たに株式を発行して資金を得る方法です。新株発行には、既存株主の持ち分に応じて株式を割り当てる「株主割当増資」と、新規・既存株主問わず、良好な関係の第三者を選んで割り当てる「第三者割当増資」があります。私募債などの債券は利払いや償還の必要がありますが、株式は「出資を受ける」もの。償還の必要がありません。
ベンチャーキャピタルとは、機関投資家などから資金を集めてファンドを立ち上げ、未上場のスタートアップ企業に投資する投資会社です。ベンチャーキャピタルの投資目的は、投資先企業が新規株式公開(IPO)したり、他社に買収されたりする際に株式売却益を得るため(IPOを義務付けず、インカムゲイン目的で投資する中小企業投資育成のような例もある)。多くの場合、ベンチャーキャピタルからの資金調達ができるのは、将来的に上場の可能性がある成長企業です。
エンジェル投資家とは、起業前や起業して間もない企業に出資する個人投資家のこと。スモールビジネスでエンジェル投資家に投資を受けるケースはごくまれです。
資本性劣後ローンは、日本政策金融公庫などの政府系金融機関や民間金融機関が実施している融資制度です。借入を負債(借金)ではなく、自己資本と見なすことから財務安定化につながります。新型コロナウイルス感染症や各種危機への対応策として、注目を集めている制度です。
アセットファイナンスは、中堅・大企業など保有資産がある企業が、資産を現金化する資金調達の選択肢です。スモールビジネスは、ファクタリングを除いて難しいのが実情です。
企業が売掛債権や在庫を売却して資金調達する方法です。ファクタリングは金融機関やそのグループ会社、ノンバンク系企業も手掛けています。ただ、高額な手数料を取るような一部のファクタリング会社には注意が必要です。金融庁からも注意喚起の通達 が出ていることもあり、利用の際は顧問税理士に確認しておきたいところです。
社宅、保養所、有価証券、ゴルフ会員権など、処分しても事業継続に差し支えない資産を売却し、資金を調達する方法もあります。最近では、「企業は固定資産をあまり持たないほうがいい」という考え方が一般的になってきているため、事業に直接関わらない資産について検討してもいいでしょう。ただし、税金の関係もあるため、顧問税理士との協議が必要です。
事業に必要な資産を、リース会社に売却して資金を得る方法です。工場設備や営業車両などをリース会社へいったん売却し、リース会社から設備などを賃貸して事業を継続させます。リース会社に対する賃貸料が発生するため、本当に効果的かどうかは十分な検討が必要です。
なお、リースバックは業績悪化時や事業再生時にも活用される場合があります(事業再生時は『セール&リースバック』)。
国や地方自治体、財団などから支給される補助金・助成金も、資金調達の手段として挙げられます。経済産業省が技術開発・研究開発費として支給する補助金や、厚生労働省が人件費や人材育成のために支給する助成金があり、基本的にはどちらも返済不要です。
代表的なものとして、2022年6月現在、「事業再構築補助金」「ものづくり補助金」「IT導入補助金」「小規模事業者持続化補助金」「事業承継・引継ぎ補助金」 があります。採択率は高く、要件を満たす制度があればぜひ申請してください。
注意したいのは、公募期間が決まっていること。公募中の補助金・助成金を探す必要があります。
中小企業庁のWebサイトの情報や、弥生会計の「資金調達ナビ」内で検索すると、公募情報がタイムリーに得られます。
また、補助金申請にあたっては、経済産業省の認定支援機関になっている税理士に相談するのがおすすめです。まずは顧問税理士に問い合わせてみましょう。
厚生労働省の助成金を申請する際は、申請書類準備が厳しいため、社会保険労務士に相談するのも良いでしょう。
上記以外にも、活用できる資金調達方法がいくつかあります。それぞれ詳しく見ていきましょう。
2016年の中小企業等経営強化法施行によって、事業拡大のため経営力向上計画を作成し、認定を受けた事業者は保証限度枠が拡大され、より多くの融資を受けられます。
ただ、別に用意されている金融機関の審査に通らなければ融資を受けられない点に注意が必要です。また、「業績悪化により金融機関に借り入れの相談をして門前払いされたものの、保証枠拡大を受ければ借りられる」という誤った情報に惑わされないよう、注意してください。
保険や共済を解約して資金調達する方法がありますが、解約までしなくても、「契約者貸付制度」を活用して資金を得る制度もあります。例えば、中小機構の「小規模企業共済」と「経営セーフティ共済(中小企業倒産防止共済制度)」です。自身の保険金などを担保に借りる制度で、審査もいらず、手早く資金を得られます。国の機関である中小機構は信頼度が高く、コロナ禍においても推奨されていました。
共済は加入による節税効果もあり、資金が必要になるときに助かります。同様に保険も資金調達の有効な手段のため、必要な保障を考えて加入しておくのが賢明です。保険や共済に加入している場合は、保険会社や共済運営機関に対し、契約者貸付制度が利用できるのかなどの条件を確認しておくといいでしょう。
「ICO」(Initial Coin Offering:イニシャルコインオファリング)は、企業が「トークン」と呼ばれる独自の暗号資産(仮想通貨)をブロックチェーン上に発行し、そのトークンを世界中の投資家に購入してもらって資金調達する方法です。ただし、課題も多く、金融庁もその活用には注意喚起 しています。スモールビジネス事業者にとって、あまり現実的な資金調達の方法とはいえません。
資金調達の方法はさまざまな種類がありますが、それぞれどのような特徴があるのでしょうか。続いては、種類別のメリットと注意すべきポイントについて解説します。
資金の借り入れは多くの金融機関で相談でき、スモールビジネスにとってわかりやすさと手軽さが魅力です。中でも、「公的融資」と呼ばれる日本政策金融公庫や自治体からの制度融資を中心とした資金調達はおすすめといえます。公的融資は性質上、利益追求よりも「スモールビジネスを助けたい、育てたい」という考えにもとづいて運用されているものだからです。計画的に返済していけば金融期間の信用力も向上し、その後の資金調達も有利になっていきます。
ただし、借り過ぎると返済負担が重くなるなど、注意が必要です。無理のない返済計画を立てることと、借り入れ額が多くなる場合は、貸借対照表上は負債が増えて自己資本率も低下することも念頭に置いておいてください。
デットファイナンスのメリット | デットファイナンスの注意点 |
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新株発行などによる資金調達は、利息もかからず、返済の必要がないのがメリットです。自己資本が増えて財務体質が強化され、金融機関からの評価が高まる効果も見込めます。
ただし、株主が増え、第三者の持ち分比率が高くなることで、経営が常に評価され、さらに外部の介入が強まるおそれもあります。資本政策については、顧問税理士など専門家のアドバイスを受けて慎重に判断すべきでしょう。また、ベンチャーキャピタルからの出資なども含め手続きが煩雑で、急な資金調達には向かない施策でもあります。
エクイティファイナンスのメリット | エクイティファイナンスの注意点 |
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資産の現金化による資金調達は、保有資産の信用力によってキャッシュが手に入るうえ、返済の心配がないという利点があります。
ファクタリングは、使いこなせると有力な方法になりますが、現在の日本の金融機関はそれほど積極的に取り組んでいるとは言い難いのが現状です。海外ではファクタリングが普及しているのに対し、日本では「ファクタリングを使う会社は、経営状態が良くないのではないか」と捉えられかねないのは、デメリットのひとつといえます。
アセットファイナンスのメリット | アセットファイナンスの注意点 |
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補助金・助成金を利用するメリットは、一定の利益が出た場合に国に返納する「収益納付」制度もありますが、基本的に返済の義務がないこと。スモールビジネスには、実に魅力的な手段といえます。
ただ、これらの公的なサポートは、膨大な資料の提出が必要なことが多く、税理士や社会保険労務士などの専門家に依頼するコストが生じます。また、情報収集に手間取ったり、自社で利用できるかどうかの見極めが難しかったりすることも注意すべきポイントでしょう。
メリット | 注意点 |
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スモールビジネス事業者にとっての資金調達は、情報収集力がカギを握ります。「知らないと損をする」がセオリーだと考えてください。経営者自身が資金調達について最低限の知識を持ったうえで、自社に適したものを適切に選択することが重要です。
そのためにも、弥生会計の「資金調達ナビ」で資金調達に関する記事を定期的にチェックしたり、日本政策金融公庫や地元信用保証協会のWebサイトなどを確認したり、顧問税理士や取引先の金融機関と密な情報交換を心掛けたりするようにしましょう。
もうひとつ重要なのは、資金繰りに困ったときに資金調達について調べ始めるのではなく、日頃から資金調達の習慣をつけておくこと。日々、先回りして資金調達の対策をしておけば、資金繰りに苦しまずに済みます。また、余裕があるときに動いておけば選択肢が広がり、最適な方法を選んだうえで資金調達が可能になるはずです。
来期の事業計画と同時に資金繰り計画も考え、計画が決まった時点で融資の申込みをするのもおすすめです。
大規模な天災や感染症など、有事の際には臨時的な補助金が創設されたり、日本政策金融公庫の貸付制度や信用保証協会の保証制度において新制度創設や別枠設定が行われたりするケースもあります。コロナ禍で実施された補助金・奨励金などについても、「知らなかった」「申請を忘れていた」という人は少なくありませんでしたが、「知らないと損をする」「知っているかどうかが経営を左右する」ことを念頭に置いて事業を展開してください。
資金調達に必要な基礎知識については、こちらで解説していますので、参考にしてください。
株式会社MBSコンサルティング代表取締役。1998年の起業以来、「資金繰り・資金調達支援」に特化して創業者や中小事業者を支援。これまでに1,000 社以上の資金調達相談・支援を行い、その資金調達支援総額は20億円超。
主な著書に、「社長のための資金調達100の方法」(ダイヤモンド社)、「究極の資金調達マニュアル」(こう書房)、「税理士・認定支援機関のための資金調達支援ガイド」(中央経済社)などがある。
また、全国の経営者・士業などを対象にした会員制の資金調達勉強会「資金調達サポート会(FSS)」を主催している。
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