少人数私募債の概略

2021/11/24

中小・零細企業の資金調達の方法の1つである、少人数私募債について解説します。

少人数私募債は、単に銀行から融資を受けるのと異なり、会社・経営者のビジョンと現実の資金繰りをうまく結び付ける資金調達の手段です。なぜなら「新事業をしたい」「新商品を開発したい」といった会社・経営者の考えに対して、少人数私募債を募集しその資金を使って実現するからです。中小・零細企業の皆さまは、少人数私募債の仕組みを理解し、活用を検討いただければと思います。

なお、個人事業主は少人数私募債を発行することができません。

私募債の基礎知識

「私募債」とは、社債の一種であり、金融機関を通さずに市場から直接資金を調達するものです。「社債」は、会社が主に資金調達を目的として発行する債券のことを意味します。

不特定多数を相手に発行される債券を「公募債」、特定の少人数のみに限定して発行される債券を「私募債」と呼びます。

公募債
  • 証券会社などの店頭を経由して、多くの人から募集を図る大規模な資金調達方法
  • 金融商品販売法にもとづき、対象有価証券の性質についての情報開示など、詳細な規定がある
私募債
  • 少数の投資家から募集を図る比較的小規模な資金調達方法
  • 一般に適格機関投資家のみを対象とした私募(プロ私募)と、投資家を限定せずに募集対象者数を限定した私募(少人数私募)とがある
  • 公募債と異なり、情報開示などの規定がないため、手続きが簡単で小規模な会社でも利用しやすい

このように私募債は、公募債に比べて発行手続きが非常に簡略化されているのが特徴です。例えば、公募債であれば「金融商品取引業登録」「有価証券届出書の提出」や「社債管理者の設置」をしなければなりませんが、私募債であれば原則として不要です。

少人数私募債とは

さらに、私募債の中でも少人数私募債は「6か月の通算で50人未満(49人まで)を対象とした募集」になります。

プロ私募債
  • 募集対象が適格機関投資家という投資のプロであり、要件を満たす募集方法であれば、対象となる適格機関投資家の数は何人でも良い
少人数私募債
  • 募集対象となる投資家の数を、「少人数」(50人未満、すなわち49人まで)に限定する代わりに、投資家の性質を問わない(投資のプロでなくても良い)

発行総額は一般的に「1億円未満」となりますが、1億円以上募集してはいけないということではありません。

ただし1億円以上の場合、金融商品取引法に基づくさまざまな義務が生じますので、手軽に実施するなら1億円未満で募集をすると良いでしょう。1億円未満の場合は、特段の行政手続きなしで社債の発行及び私募を行うことができます。

少人数私募債は、会社と関わりがある取引先や知人など特定の縁故者を対象にしているため、発行手続きが非常に簡略化されているのが特徴ですので、その点を活用しましょう。

以下、少人数私募債を発行する場合の基本的な方針を整理します。

少人数私募債発行の基本的な方針
  • 取締役会を設置している株式会社は取締役会の決議、取締役会非設置会社は株主総会の決議が必要
    • 取締役個人の判断ではできない
  • 購入者の募集を、6か月間での通算で50人未満(49人まで)にすること
  • 取引先や知人など特定の縁故者を対象に募集
    • 購入者の中に適格機関投資家がいないこと
    • Webサイトなどで一般に広く募集することはできない
  • 発行総額は原則として1億円未満
    • 社債総額を最低券面額で割った数が50未満であること
  • 譲渡制限をつけること
    • 取得者から多数の者(50人以上)に譲渡されるおそれがないようにする

銀行などの金融機関も少人数私募債の発行を商品として取り扱っていますが、第三者である金融機関に依頼しなくても、審査なしで簡単に発行できますので、経営者自らが手続きを行うことも可能です。

また、少人数私募債は銀行融資と異なり、償還期間や利息を会社側が決定できます。

少人数私募債の特徴

少人数私募債の特徴を整理すると、以下のようになります。

  • 発行金額、利率(一般的に2~5%程度)を自由に設定することができる(社債総額は1億円未満を基本とする)
  • 有価証券の届出書、報告書等の提出は不要
  • 償還期間は一般的に、2年から7年の一括償還(利息も後払いなどで半年後や年に1度支払うなどの決定をすることも可能)
  • 少人数の縁故者を対象としている(50人未満)
  • 縁故債であるため、引受人がある程度限定されることから、引受人一人あたりの購入金額が大きくなる傾向がある
  • 銀行審査などがないため、手続きの知識があれば、申込期日を早く設定することで短期間での発行が可能
  • 基本的に担保、保証人は不要(条件は発行会社が決定する)

少人数私募債を発行する際の注意点

注意点をまとめると、以下のようになります。

  • 一括償還のため、償還時にはまとまった資金が必要となることが多い
  • 「信用力」が大切
  • 「事業計画書」の作成が必要
  • 社債発行後には、定期的なフォローを行うと良い

「信用力」と「事業計画書」の必要性について詳しく説明します。

特定の縁故者に社債を買ってもらうということは、発行する会社に信用力がなければなりません。信用力のない会社の場合、社債を引き受けてくれる人が見つからないという場合もあるでしょう。中小・零細企業の場合、ここで言う信用力は「経営者への信頼」と言えます。

そして少人数私募債の発行にあたっては、確実な利益が期待できるような「事業計画書」を作成することが重要となります。「事業計画書」で、まず資金調達の目的である「資金使途」を明確にします。つまり何にお金を使い、どのような効果を、どの位の期間で得るのかを明確にすることが大切です。次に、その少人数私募債の発行から、償還までの期間の返済計画を作成します。

上記に説明した点は、銀行などの融資への返済と同じ考え方です。「事業計画書」を作成することなく無計画に資金を集めても、有効に活用できなければ返済も難しくなり、信用を失ってしまいます。

また社債発行後に、社債引受者に対する定期的なフォローを行うことも重要です。例えば年に1・2回、事業計画書に基づいてその進捗度や課題、成果を報告するなど、社債発行後に定期的なコミュニケーションを行います。少人数私募債は、縁故者を中心とした社債です。コミュニケーションが不足すると、発行者・引受者の関係が悪化してしまうケースがありますので、関係が近しい分、注意が必要でしょう。

著者:星 武志(経営コンサルタント)

株式会社アスタリスク代表取締役。金融機関、コンサルタント企業、IT企業を経て、2000年代表取締役就任。IT企業、不動産業、商社等の経営戦略、財務戦略、管理会計支援等 を行う。
これまで、銀行等の金融機関の研修・講演講師を70行庫以上務める。主な著書は「渉外マンの現場力/近代セールス社」金融商品取引法・各種業法に基づく「金融商品セールス対応話法集/銀行研修社」等でありその他金融機関向け、雑誌連載実績等多数。

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