少人数私募債のメリット・デメリット

2021/11/24(2022/5/19更新)

少人数私募債には、メリットとデメリットがあります。
会社の資金使途や今後の事業展開を加味し、メリットとデメリットのバランスを勘案しながら、少人数私募債発行についての検討をすると良いでしょう。

少人数私募債による資金調達のメリット

少人数私募債のメリットを整理すると、以下のようになります。

メリット① 資金調達がしやすい

手続きが簡易で融資審査がない

銀行融資と少人数私募債とを比べると、銀行融資は審査があるために、決算書など必要書類の提出が必要です。審査で信用力が低いと判断された場合には、別途、保証人の設定や担保の差入が必要となるケースがあります。また、銀行融資では、融資を断られ、資金調達ができなくなる可能性もあります。

これに対し、少人数私募債は発行手続きが簡易であり、発行に伴う保証人や担保の設定も不要であるため、会社にとって負担が少なく、資金調達がしやすいといえます。

毎月の返済がなく、長期間の資金調達も可能

金融機関からの融資では、毎月元本の返済と利息の支払いがあるのが一般的です。

これに対し少人数私募債は、償還日や金利を発行会社が柔軟に決めることができ、償還日まで元本の支払いがありません。よって、会社にとっては資金繰りが楽になります。

また、少人数私募債を発行すると、集めた資金をもとに商品開発などをする場合、償還期日まで長期間にわたり元金返済を気にせず開発に専念できますし、開発後に売上が上がったタイミングを償還期日にすれば、回収した売上代金から償還することができます。したがって、少人数私募債による資金調達は長期間に渡る事業に対する資金調達に向いているといえます。

ただし、少人数私募債を発行者側に有利で、引受者側に不利な条件で発行すると、実際に引受人が集まらないケースもあります。発行者側に有利な条件とは、例えば「償還期間が10年など長い」「金利が0.1%など融資金利よりも安い」といった場合です。この点については、発行者側が比較的自由に発行条件を決められるため、発行者側と引受者側が納得できる条件を決めるとよいでしょう。

低コストでの資金調達が可能

少人数私募債の場合は、公募債に必要な有価証券届出書の作成と、それに伴う専門家への手数料が不要となるため、結果的にコストを低くおさえられるというメリットがあります。

また、銀行融資と比べても、信用保証協会の保証料や不動産の担保設定で発生する登記料なども不要ですので、低コストで資金調達できます。

このほかにも少人数私募債では、引受人に金利以外のメリットを付けることも出来ます。例えば、店の開業資金を調達したいのであれば割引サービスを付ける、新商品開発資金であればその商品をプレゼントするなどです。

引受人は経営者と、ビジネスライクな付き合いをしているわけではありません。取引先や知人・友人といった経営者を応援してくれる人が多いため、事業内容や資金使途にもよりますが、少人数私募債にどのようなメリットを付けるのがよいのかを検討すると良いでしょう。

  • 公募債:不特定多数の投資家を対象に発行される債券をいいます。50名以上の一般投資家に対して、新たに発行される有価証券の募集を行うもので、通常、幹事会社の引き受けを必要とし、有価証券届出書の提出など、費用がかかります。

メリット② 経営権が保持できる

少人数私募債は、社債の一種であるため株式発行を伴いません。よって、経営権を保持しながら資金調達することができます。
増資のような株式発行を伴った資金調達では、他人に株式を取得されるため、株式持分比率によっては経営権を失うという問題が発生します。

メリット③ 取引先、従業員への波及効果

少人数私募債の引受人を取引先や従業員にすると、思わぬ波及効果を生む可能性があります。例えば、取引先を引受人にすると、その取引先が事業成功を一層応援してくれたり、顧客を紹介してくれたりすることがあります。従業員を引受人にすると、仕事への意欲が向上したり、協力的になったりすることがあります。

これらの効果が生じるのは、少人数私募債発行の段階で、会社の方針や具体的な事業計画を説明するため、会社への理解が深まるからです。取引先や従業員は、少人数私募債の発行を「我が事」として捉え、事業成功に向けて、例えば取引先であれば開発した新商品の販売促進を一層強化したり、従業員であれば新商品開発を納期までに仕上げたりするなど、最大限取り組んでくれるようになるでしょう。

少人数私募債による資金調達のデメリット

少人数私募債にはメリットがある一方、以下のようなデメリットもあります。

デメリット① 元本の一括償還が必要となる

少人数私募債の償還日には、元本の一括償還(返済)が必要となります。会社側が決めた償還期限に、あらかじめ決められた金額を引受人(債権者)に返済する必要があります。

当然、償還時には、大きな金額が会社から流出することになります。そのため、運転資金に影響を与えないか、資金繰りを事前にシミュレーションをしておく必要があります。
事業計画上では黒字になっていても、売掛金等の回収条件、買掛金などの支払条件によっては、償還時に資金がないというケースもあり得るからです。

デメリット② 財政状態が悪いと発行自体が出来ない可能性がある

会社の財政状態ときの引受人の立場

財政状態が悪い場合には、少人数私募債の発行ができない可能性があります。引受人の立場では、会社の財政状態があまりに悪ければ、少人数私募債を引き受けることができないと考える可能性があるからです。

少人数私募債は、経営者の知人、取引先、従業員などに引き受けてもらういわゆる「縁故債」です。これらの人々は、基本的には顔の見えている引受人候補であるため、その経営者への熱意や会社への想い、期待などがあります。
これらの人々は、単純に「赤字だから引き受けができない」という結論を出すわけではありませんが、赤字である場合には、いくら経営者への熱意などがあったとしても、引き受けることが不安になるでしょう。

事業計画の必要性

赤字になっているなど財政状態が悪いときに少人数私募債を発行したい場合には、「調達した資金で具体的に何を実施するのか」「今後どのよう事業を目指しているのか」「事業の実現可能性はどうか」を、より明確に事業計画に盛り込む必要があるといえます。

デメリット③ 引受人(債権者)が増えると連絡・報告やプレッシャーも増える

少人数私募債は、複数の引受人に発行して資金調達をします。引受人が増えることで、連絡・報告の手間やプレッシャーが増えることがあります。

連絡・報告の必要性

必ずしも、連絡・報告をしなければならないわけではありませんが、社債引受人に定期的に進捗状況や実績を連絡・報告した方が、円滑にコミュニケーションがとれます。
いわゆる「縁故債」である少人数私募債は、会社・経営者に近い方々が引受人となるため、銀行からの融資や大企業の発行する公募債などとは異なる連絡・報告が必要になることがあります。

引受人に対するプレッシャー

事業が上手く行っていない場合は、引受人に対しプレッシャーを感じることもあります。「1回の募集で49人までの勧誘が可能」というルールがあるため、引受人が最大で49人になる可能性もあります。引受人の人数が多ければ多いほど、上手くいっていない場合のプレッシャーは大きなものになります。

著者:星 武志(経営コンサルタント)

株式会社アスタリスク代表取締役。金融機関、コンサルタント企業、IT企業を経て、2000年代表取締役就任。IT企業、不動産業、商社等の経営戦略、財務戦略、管理会計支援等 を行う。
これまで、銀行等の金融機関の研修・講演講師を70行庫以上務める。主な著書は「渉外マンの現場力/近代セールス社」金融商品取引法・各種業法に基づく「金融商品セールス対応話法集/銀行研修社」等でありその他金融機関向け、雑誌連載実績等多数。

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