運転資金の基礎知識(1)

~運転資金の種類~

2022/01/25

企業が日々のビジネスを運営していくのに必要な運転資金には、さまざまな種類があります。今回は「運転資金の概要とその種類」について説明します。

運転資金とは

運転資金は、企業が日々のビジネスを運営していくのに必要な資金のことです。具体的には「物を仕入れる」「従業員への給与を支払う」「テナントの家賃を支払う」など、事業運営を順調に進めるための「血液」のような存在です。

仮に運転資金が不足してしまうとどうなるでしょうか。

現金預金が手元にあったり売上代金の回収があったりすれば、それを支払いに充てることができますが、それらがなければ金融機関などから借り入れをして資金を工面し、支払いをしなければなりません。

運転資金を上手に調達し事業に活かしていくことは、事業主にとって非常に重要な課題です。なぜならば手元にあるお金だけでは支払金額にも限度があり、大きな取引ができないからです。運転資金は事業運営をするうえで、また企業が大きくなって行くうえで、必要な資金と言えます。

運転資金が不足する理由

売上代金を全額現金で回収した後に、仕入などの支払いをすればよいのであれば、経営するための運転資金は不足しないでしょう。しかし実際、現金でその売上代金のほとんどを回収できるのは、小売業などの一部の業種だけです。

その理由は、企業の資金の流れには「掛取引」があるからです。掛取引とは、一定期間内の取引金額をまとめて後払いで精算する取引です。具体的には、商品やサービスの提供時に代金を支払わず、定められた期日までに代金を精算する取引です。

売り手側からすると商品やサービスを提供した後に、まだ代金を受け取っていない期間が発生します。

例えば、以下の取引の流れを想定してみます。

1.買掛金の発生 (材料や在庫の仕入) 2.売掛金の発生 (販売代金) 3.買掛金の支払い 4.売掛金の入金

通常「4.売掛金の入金」よりも「3.買掛金の支払い」が先に来るため、資金繰りが圧迫されます。

多くの業種では企業間の取引において「掛」が発生しますし、在庫を持つ必要のある企業であればなおさら、その必要となる運転資金は多くなります。

例えば仕入れた商品をストックしておき、取引先の要望に応じて納める(販売する)場合、商品を先に仕入れ、その仕入代金を支払い、仕入れた商品は在庫として持ちます。それが2か月先に売れて、その売上代金が取引の翌月支払い(回収)の場合、商品を仕入れた代金は3か月後に売り手側に入ってくることになります。

逆の言い方をすれば、3か月間仕入代金分のお金が減っていることになります。その間でも、給与や家賃など決まった毎月の支払いなどが来るわけですから、その分、資金繰りが圧迫されることになりますね。

それを踏まえて、資金繰りを計画する必要があります。

運転資金の種類

ここでは運転資金の種類について説明します。資金が何に必要かという発生原因ごとに、運転資金の種類を分類しています。

種類 内容
  • 1.
    経常運転資金
日常の事業活動において通常必要とされる、一般的な運転資金。仕入代金(買掛金)や給与の支払い、家賃などが該当します。
  • 2.
    増加運転資金
売上業績が順調に伸びている状態の時に発生する資金。例えば売上が増えると、同時に仕入代金が増加します。
また売上増加に対応するための人件費も増加し、売掛金を回収するまで増加した費用を補うために必要な資金(いわば「つなぎ資金」)です。
  • 3.
    減少運転資金
事業の売上業績が減った状態で過去の仕入代金(買掛金)や給与などの支払いが困難な場合に必要となる資金。
不足資金を補うために必要な資金のため「前向きな資金」とは言えません。「売上を増加させる」「経費を削減する」といった対策が早急に必要となります。
  • 4.
    季節性運転資金
ある特定の時期に必要となる資金。
典型的な例としては、従業員への夏季賞与・冬季賞与や、アパレルショップなどの季節を先取りした仕入が発生する事業で必要な資金です。
  • 5.
    赤字補填資金
3の減少運転資金と同様の意味であり、さらにひっ迫した状況で必要となる資金で、文字通り、事業の赤字を埋めるための資金。
慢性的に赤字の状況が続くと、現預金の減少はもちろん仕入代金や給与の支払いが難しくなってしまいます。経営状況の悪化を防ぐために借り入れなどによって資金調達を検討しなければなりません。

上記資金を、経営および対金融機関取引という視点で見ていきます。

1. 経常運転資金ついて

経常運転資金は、自社で通常の経営を続けた場合にどのくらいの運転資金がかかるのかを押さえる目安になりますので、確認しておきましょう。詳細は、次の「経常運転資金の算出方法」で説明します。

2. 増加運転資金について

増加運転資金は、売上業績が順調に伸びている場合に発生する資金です。資金使途や過去の決算書・試算表の状況によりますが、運転資金が圧迫されて資金繰りが厳しくなっても、金融機関に相談すると前向きに対応してくれる可能性が高いです。

3. 減少運転資金/5. 赤字補填資金について

減少運転資金と赤字補填資金は基本的に売上が下がったり、赤字であったりという状況ですから、きちんと経営状況を見直し、そのうえで資金調達などの対応を考える必要があります。
金融機関は、このような状況で融資の相談をすると厳しくチェックしてきますので、きちんとした資金計画や経営改善計画が必要となります。

4. 季節性運転資金について

季節性運転資金は、一過性の不足する資金と考えることができますので、金融機関からすればその融資の返済源をポイントとしてみます。

例えば夏物などの季節性の商品を春に仕入れ、秋に販売した回収代金から返済できるかなどです。

著者:星 武志(経営コンサルタント)

株式会社アスタリスク代表取締役。金融機関、コンサルタント企業、IT企業を経て、2000年代表取締役就任。IT企業、不動産業、商社等の経営戦略、財務戦略、管理会計支援等 を行う。
これまで、銀行等の金融機関の研修・講演講師を70行庫以上務める。主な著書は「渉外マンの現場力/近代セールス社」金融商品取引法・各種業法に基づく「金融商品セールス対応話法集/銀行研修社」等でありその他金融機関向け、雑誌連載実績等多数。

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