日本政策金融公庫の金利は高い? 融資を受ける際の金利を解説 基準利率と特別利率はどうやって決まる?

2023/10/05

日本政策金融公庫は政府系金融機関のひとつであり、従業員20人以下のいわゆるスモールビジネスの経営もサポートしてくれる心強い存在です。その金利は融資の細かい諸条件や申込額や返済期間などによって「基準利率」と「特別利率」が決まります。仮に融資を申し込んだ場合、好条件で融資を得たいと思うのは当然ですが、それはどのような仕組みで決まるのでしょうか?
この記事では、日本政策金融公庫の融資事業の種類や金利の決まり方の他、好条件で融資を受ける方法などについて解説します。

日本政策金融公庫の融資事業

日本政策金融公庫では、大きく分けると3つの事業を行っています。まずは、これら3つの事業についてご紹介しましょう。

国民生活事業(スモールビジネス対象)

日本政策金融公庫の国民生活事業は、個人事業主や小規模事業者など、いわゆるスモールビジネスを対象とした組織です。開業資金だけでなく、短期の運転資金についても借入ができます。国民生活事業の平均融資残高は約1,000万円となっており、コロナ禍の影響によって厚めになっているようです。

中小企業事業(中小企業対象)

日本政策金融公庫の中小企業事業は、主に中小企業を対象とした組織です。中小企業事業では、短期の運転資金は借りられませんが、最長で20年の運転資金・設備資金が利用可能です。平均融資残高は約1.3億円となっています。

農林水産事業(農林漁業分野対象)

日本政策金融公庫の農林水産事業は、農林漁業や国産農林水産物を扱う加工流通分野を対象とした組織です。こちらも、長期の事業資金を借りることができます。

日本政策金融公庫の融資制度

日本政策金融公庫の国民生活事業の事業資金融資は、大きく分けて3種類あります。ほとんどすべての業種の事業者が利用できる「一般貸付」と、事業承継や海外展開といった対象ごとに設けられた「特別貸付」、飲食店営業や理容業などの生活衛生関係事業者を対象とした「生活衛生貸付」です。

ここでは、国民生活事業の事業資金融資のうち、スモールビジネス事業者に関連の深い融資制度についてご紹介します。

一般貸付

一般貸付は、ほとんどすべての業種の事業者が利用できる一般的な融資制度です。

一般貸付は融資限度額の観点から2種類に分けられます。担保が不要な「無担保融資」と、担保を用意する必要がある「有担保融資」です。一般貸付のうち、全体の9割以上が無担保融資となっています。

いずれも設備資金や運転資金を借りることができ、融資限度額は4,800万円です。返済期間は、設備資金の場合は10年以内、運転資金では7年以内となっています。やむなく取扱商品や取扱業種を変更する事業者には、「特定設備資金」という通常よりも優遇された融資も設定されています。特別設備資金の場合は、7,200万円まで融資を得ることが可能です。

特別貸付

特別貸付は、新たに事業を始める事業者に向けた「新企業育成貸付」や、一時的に業績が悪化している事業者向けの「セーフティネット貸付」などに分かれます。

特別貸付の融資制度の一例

融資制度 資金
新企業育成貸付 新規開業資金
新事業活動促進資金
セーフティネット貸付 経営環境変化対応資金
取引企業倒産対応資金
資本性ローン(挑戦支援資本強化特別貸付)

このうち、新企業育成貸付においては、女性や若者、シニアで創業する人や廃業歴がある人などに向けて、通常より有利な条件である特別利率で利用できる制度も、別途設けているのが特徴です。

ここでは、特別貸付の各融資制度、および資金について解説します。

新規開業資金

新規開業資金は、新たに事業を始める事業者、または事業開始後、おおむね7年以内の事業者が対象です。設備資金は返済期間が20年以内、運転資金は7年以内で、基本的には基準利率が適用されます。

女性の起業家や、35歳未満か55歳以上の起業家の他、廃業歴などがある事業者に対しては、運転資金返済期間が15年以内と長くなったり、特別利率が適用されたりといった特例措置が設けられています。

新事業活動促進資金

新事業活動促進資金は、経営多角化・事業転換により、第二創業を図る事業者が対象です。返済期間は新規開業資金と同じ20年以内となっているものの、事業開始後おおむね7年以内の制限はありません。

また、条件によって一部の利用者は、特別利率の適用を受けられます。

経営環境変化対応資金

経営環境変化対応資金は、社会的、経済的環境の変化などの外部要因により、一時的に業況が悪化している人が対象です。融資限度額は無担保・有担保いずれも4,800万円で基本的に基準利率が適用され、返済期間は設備資金では15年以内、運転資金では8年以内となっています。

取引企業倒産対応資金

取引企業倒産対応資金は、取引企業など関連企業の倒産により経営が困難になっている事業者が対象です。

融資限度額は無担保・有担保いずれも3,000万円(基準利率適用)、運転資金の返済期間は8年以内です。

資本性ローン(挑戦支援資本強化特別貸付)

資本性ローン(挑戦支援資本強化特別貸付)は、財務体質を強化する事業者を対象とした融資制度です。スタートアップ企業や新事業展開・海外展開・事業再生などに取り組む事業者が利用できます。

担保は不要で、融資限度額は7,200万円、返済期間は5年1か月以上20年以内です。一括返済で、利息は毎月払いです。

生活衛生貸付

生活衛生貸付は、理容業や美容業、クリーニング業などの事業者が利用できる融資制度です。「一般貸付(生活衛生貸付)」と「振興事業貸付」に分かれ、有担保融資の融資限度額が最大7億2,000万円と大きいのが特徴です。

スモールビジネス事業者向けのその他の融資制度

日本政策金融公庫の国民生活事業の融資には、上記以外にもスモールビジネス事業者向けの制度が設けられています。ここでは、スモールビジネス事業者が活用したい融資制度を2つご紹介します。

マル経融資(小規模事業者経営改善資金)

マル経融資(小規模事業者経営改善資金)とは、商工会議所・商工会で経営指導を受けることで借入可能となる融資です。融資限度額は2,000万円、返済期間は設備資金では10年以内、運転資金では7年以内です。

新型コロナウイルス感染症などの影響を受け、一定の要件に該当する場合は、融資限度額が上乗せされる他、返済期間が20年以内となります。

マル経融資についてはこちらの記事で解説していますので、参考にしてください。

商工会等サポートの融資「マル経融資」とは? 条件や審査時のポイント

新創業融資制度

一般貸付などと併用できる融資制度として、新創業融資制度があります。新創業融資制度は、新たに事業を始める人、または事業開始後、2期目の税務申告を終えていない人が対象です。

この制度では、無担保・無保証人で融資限度額3,000万円(うち運転資金は1,500万円)を借りられます。

日本政策金融公庫の融資制度の選び方

日本政策金融公庫の融資制度にはさまざまなものがありますが、どれを利用すればいいのでしょうか。ここでは、スモールビジネス事業者が融資制度を選ぶ際のポイントをご紹介します。

迷ったら日本政策金融公庫や専門家に相談する

日本政策金融公庫の融資制度は、数ある制度の中で、自分に合ったものを選ぶのが一般的です。どれを選べばいいか迷った場合は、日本政策金融公庫の支店に行き、どの制度を利用すればいいか相談することをおすすめします。相談は予約も可能で、場合によってはオンライン相談も可能です。

また、日本政策金融公庫には、中小企業診断士などの専門家が約1時間相談にのってくれる「ビジネスサポートプラザ」が用意されています。ビジネスサポートプラザは東京、名古屋、大阪にあり、オンライン相談も可能です。ただし、事前予約制なので注意してください。

日本政策金融公庫以外にも、税理士などの専門家に相談する方法もあります。なお、弥生の「資金調達ナビ」では、資金調達に関して相談できる税理士・会計事務所を無料でご紹介しています。

資金調達ナビ|税理士紹介サービス

スモールビジネス事業者は一般貸付や新企業育成貸付をメインにする

ほとんどの業種の事業者が対象となる一般貸付は、日本政策金融公庫の基本となる融資制度です。

また、新たに事業を始める人や、事業開始から7年以内で融資を得たいのであれば、特別貸付の新企業育成貸付で新規開業資金を利用して、事業拡大の際には特別貸付の企業活力強化貸付「企業活力強化資金」で融資を受けるのもひとつの選択肢です。

ある事業者が一般貸付の利用について日本政策金融公庫に相談したところ、社会的課題の解決を目的とした事業内容によって特別貸付の企業活力強化貸付「ソーシャルビジネス支援資金」の利用が可能であることがわかり、金利も有利であることを助言された例もあります。一般貸付より有利に利用できるものについて、窓口で相談してみるのもいいでしょう。

認定経営革新等支援機関などの支援を受けていると融資が得られやすくなる?

日本政策金融公庫で融資を受ける際、認定経営革新等支援機関の支援を受けて事業計画などの助言・指導を得ると、融資が得られやすくなる場合があります。

認定経営革新等支援機関(以下、認定支援機関)とは、中小事業者のさまざまな経営課題に関する専門的な知識を持っている、金融機関や税理士、公認会計士などのことです。認定支援機関は事業計画策定や財務面の見直しなど、経営全般に関するサポートをする機関として国から認定を受けています。

この認定支援機関に指導・助言を受けて事業計画を策定した中小事業者は、結果として通常より金利面の優遇を受けたり、融資金額が増額されたりといったメリットが得られる可能性が高くなるのです。

また、商工会議所・商工会の経営指導を受けて、マル経融資を受けるのもひとつの手といえるでしょう。

認定支援機関や商工会議所・商工会についてはこちらの記事で解説していますので、参考にしてください。

金利の種類

一般的に金利には、「固定金利」と「変動金利」があります。ここでは、それぞれのメリットや注意点について見ていきましょう。

固定金利

固定金利とは、借入当初の金利が、完済まで適用されるタイプです。ちなみに日本政策金融公庫の融資制度では、ほとんどが固定金利です。メリットと注意点は、下記のようになっています。

メリット:長期の計画が立てやすい

金利が変わらないということは、返済額も一定であることを意味します。そのため、資金繰りの計画が立てやすいという点はメリットです。また、低金利時に借りれば、完済するまで低金利の恩恵を受けることができます。

注意点:高金利時に借りると総返済額が多くなる

固定金利の注意点として、高金利のときに借り入れると、完済まで高めの金利が変わらず適用され、総返済額は低金利時に比べて大きくなります。借入のタイミングには注意が必要です。

変動金利

変動金利とは、返済期間中に利率が見直されるタイプの金利です。メリットと注意点としては、下記のとおりです。

メリット:金利変動に対応できる

金利は、一般的に景気と連動しています。景気が良くなれば金利が上がり、反対に景気が悪化すれば金利が下がります。仮に、景気とともに事業環境が悪化したとしても、変動金利の場合は金利も同時に下がるため、返済額は減る可能性があります。

また、借入時の金利が高くても途中で金利が下がれば、結果として返済額は少なく済むことになるのです。

注意点:長期の計画が立てにくい

変動金利で注意したいのは、返済途中で金利が上がって返済額が増える可能性があることです。長期的に見た場合、固定金利に比べて返済計画が立てにくいことに注意しなければなりません。

日本政策金融公庫の融資における金利の決まり方

日本政策金融公庫の融資の金利は、利用する融資制度の種類によって異なり、種類ごとに「基準利率」が設定されています。基準利率は1.92~2.90%など、一定範囲の中で融資の申込額や返済期間などにより、適用される金利が決められるのです。

基本的には、融資額が多い、あるいは返済期間が長いほど、金利は高くなる傾向があります。各種融資の基準利率の例は、下記のとおりです。

国民生活事業の融資における基準利率の例(2023年8月時点)

融資の種類 基準利率 備考
担保を不要とする融資で税務申告を2期終えている場合 1.94~2.90% 担保を提供する融資より金利は高め
担保を提供する融資 0.99~2.55% 担保を提供するため、金利は低め
新創業融資制度(無担保・無保証人)で税務申告を2期終えていない場合 2.24~3.20% 無担保・無保証人のため、担保などを提供する融資より金利は高め
災害貸付、東日本大震災復興特別貸付(震災セーフティネット関連を除く)、新型コロナウイルス感染症特別貸付など 1.09~2.05% 災害支援などの意味もあり、金利は低め

特別な条件がある場合は特別利率が適用される

融資の種類ごとに基準利率が設けられてはいるものの、事業者が持つ技術やノウハウに新規性があるといった特別な条件がある場合は、基準利率より低い特別利率が適用されます。

この特別利率は、非常に多くの段階に分かれており、段階ごとに利率が設定されています。

適用金利が決まるタイミング

融資の種類ごとの基準利率と特別利率は、日本政策金融公庫新しいウィンドウで開くのWebサイトに掲載されています。基準利率の範囲内で実際にどのレベルの金利が適用されるか、あるいは特別利率が適用されるか、適用されるならどの特別利率かは、審査を通じて日本政策金融公庫が決定する仕組みです。

ただし、融資制度ごとに金利体系が提示されているので、その種類の基準利率が1.94~2.90%だとしたら、その範囲内で決まるということはわかります。

利率の決定方法

利率については、担保や開業業種、年齢・経歴、性別、連帯保証の有無、事業内容、返済期間などに応じて適用されます。

具体的な例を挙げると、日本政策金融公庫の特別貸付の中に、新企業育成貸付があります。この新企業育成貸付の新規開業資金には基本利率が設定されていますが、「女性または35歳未満か55歳以上」という条件を満たした場合には、特別利率が適用されるのです。

さらに、事業者の有する技術やノウハウによっては、特別利率の中でもより低金利なタイプが適用されることもあります。

事業者が金利を選べるわけではない

日本政策金融公庫の融資において、基準利率あるいは特別利率が適用されるかどうかは、融資を申し込む事業者が選択できるわけではないので注意が必要です。適用金利は、細かく規定されていると思われるものの、詳細に基準が公表されているわけではないのです。

例えば、新企業育成貸付の「女性、若者/シニア起業家支援関連」に該当すれば特別利率が用意されていることは、Webサイトを見ればわかるでしょう。ただ、最終的な金利については日本政策金融公庫による決定を待つしかないのが実情といえます。

金利が不満であれば借入をやめてもよい?

審査の結果、「実際に適用される金利が、思っていたより高い」というケースもあるかもしれません。

ただ、事業者は資金が必要だから借りるのであって、想定より若干金利が高いとしても、他の民間金融機関に改めて融資を申し込むのは、スモールビジネス事業者や開業直後の事業者にとってどうなのか、冷静に判断する必要があるでしょう。

借入金額や返済期間にもよりますが、多少の金利差では返済額の差もそれほど大きくは広がりません。日本政策金融公庫の融資は利用しやすい融資であり、そこで実績を積み上げていくことを重視してください。

借入を検討の際には、日本政策金融公庫の返済シミュレーションもご活用ください。

日本政策金融公庫の融資を好条件で受けるには?

お金を借りるとき、融資は少しでも好条件で受けられた方がいいでしょう。民間金融機関による融資では、返済実績を積み、決算書を作成したり、事業計画書を提出したり、あるいは特許や公的認証を取得してアピールするなど、信用を高めることで融資が受けやすくなったり、金利が低くなったりすることがありますが、日本政策金融公庫はどうなのでしょうか。

ここでは、日本政策金融公庫の融資を好条件で受ける方法についてご紹介します。

担保を提供する

日本政策金融公庫ではほとんどが無担保融資となっていますが、担保を提供すると、担保なしで借りるより金利は低くなります。担保になるものとしては、事業者の邸宅や会社の資産(抵当に入っていないもの)が挙げられます。

とはいえ、日本政策金融公庫の方から、積極的に担保提供を求めることは少ないのが一般的です。

連帯保証を免除する制度を使う

一定の要件を満たす経営状態にある事業者は、経営者の連帯保証を免除する「経営者保証免除特例制度」が利用できます。

ただし、金利は0.2%上乗せされます(一定の要件を満たせば上乗せなし、または0.1%上乗せ)。ただし、0.1~0.2%の上乗せは金額にすると大きくはないので、保証免除を選ぶ経営者も一定数いるようです。金利負担分は、経費に算入できることも念頭に置いておくべきでしょう。

日本政策金融公庫の融資をうまく活用して事業経営に活かそう

日本政策金融公庫の融資は、個人事業主を含めたスモールビジネス事業者にとって、積極的に検討したい融資制度です。ただひとつ、気をつけたいのは「絶対に借りられるとは限らない」ということ。

「国の融資だから申し込めばきっと借りられるだろう」と考えている事業者も少なくありませんが、日本政策金融公庫ではきちんとした審査もあり、返済できる人でなければ融資は得られないのです。借入額も、融資限度額まで借りられるわけではありません。借りられるのは、あくまで返済能力に応じた額までとなっています。

とはいえ、開業時には融資が必要となることが多いもの。開業後は運転資金の他、事業拡大の際など、融資を利用する場面が多く訪れます。日本政策金融公庫の融資をその局面で上手に活用できるよう、融資制度の内容について理解を深めておきましょう。

資金調達に必要な基礎知識についてはこちらの記事で解説していますので、参考にしてください。

著者:吉田 学(財務・資金調達コンサルタント)

株式会社MBSコンサルティング代表取締役。1998年の起業以来、「資金繰り・資金調達支援」に特化して創業者や中小事業者を支援。これまでに1,000 社以上の資金調達相談・支援を行い、その資金調達支援総額は20億円超。
主な著書に、「社長のための資金調達100の方法」(ダイヤモンド社)、「究極の資金調達マニュアル」(こう書房)、「税理士・認定支援機関のための資金調達支援ガイド」(中央経済社)などがある。

また、全国の経営者・士業などを対象にした会員制の資金調達勉強会「資金調達サポート会(FSS)」を主催している。

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