商工会等サポートの融資「マル経融資」とは? 条件や審査時のポイント

2023/01/11

マル経融資は、商工会・商工会議所の経営指導を受けている従業員20人以下の中小企業や個人事業主など、いわゆる小規模事業者(スモールビジネス)が利用できる融資制度です。日本政策金融公庫から無担保・無保証で運転資金の融資が受けられるのが特徴で、借り入れの手続きにおいても、商工会・商工会議所のサポートが受けられるメリットがあります。
この記事では、マル経融資の制度の内容や融資条件、融資の審査を受けるにあたっての注意点について解説します。

スモールビジネス育成・経営改善が目的のマル経融資

マル経融資は、スモールビジネスの育成や経営改善を目的とした融資制度で、「小規模事業者経営改善資金融資制度」が正式名称です。

商工会・商工会議所は、小規模事業者支援法にもとづいて、経営改善普及事業を行っています。この経営改善普及事業とは、経営や税務、労務の他、社会保険などスモールビジネスに関する幅広い分野について指導・支援するもの。スモールビジネスの補助金申請支援の他、記帳指導などもサポートしています。
商工会・商工会議所がスモールビジネス事業者に示した経営改善策を実行するため、資金が必要になる場合があります。その資金も商工会・商工会議所が金融面でカバーしようというのがマル経融資なのです。

マル経融資は、1973年に元となる制度が創設され、その後、融資額の見直しなどを経て2008年に現在の名称になりました。新型コロナウイルス感染症の影響で売上が減少した場合や、天災などで事業者が被害を受けた場合には、臨時的な融資枠が設けられることもあります。
ちなみに、「マル経」と呼ばれるようになった理由は、「申請書類の『経営改善』の文言に丸印(マル)をつけたことがきっかけ」といった説があるようです。

マル経融資の特徴

マル経融資には、どのような特徴があるのでしょうか。ここでは、スモールビジネスに効果的なマル経融資の特徴について解説します。

無担保・無保証で最大2,000万円の借り入れが可能

マル経融資の最大の特徴は、無担保・無保証で最大2,000万円の融資が受けられることです。
スモールビジネスは担保がないケースも多いため、保証人を立てるのも簡単ではないのが実情です。その意味で、無担保・無保証での融資が可能なのは、スモールビジネスにとって使い勝手が良いといえるでしょう。

従業員が21人以上の企業は対象にならない

マル経融資を利用するための条件は、従業員数が20人以下の法人、または個人事業主です。従業員が21人以上いる場合には、マル経融資は受けられません。
なお、宿泊業と娯楽業を除く商業・サービス業では、5人以下が条件となっています。

資金使途は運転資金・設備資金のみ

マル経融資の資金使途は、運転資金と設備資金です。またマル経融資は本来、スモールビジネスの経営状態を審査したうえで、経営改善を行うための融資です。経営実績のない状態では融資できず、創業資金も対象外となっています。
もし、申告使途以外に資金を使った場合は「資金使途違反」となり、金融機関との信頼関係に影響が出ることがあります。マル経融資に限らず、資金使途には十分に注意しましょう。

申し込みまでに原則6か月、申込みから融資まで1か月以上はかかる

マル経融資に申し込むには、原則6か月以上、商工会・商工会議所などの経営改善普及事業にもとづく経営指導を受けたうえで、推薦を受ける必要があります。その後、日本政策金融公庫に融資を申し込むことになりますが、審査結果が出るまでは1か月以上の審査期間がかかるので注意が必要です。
ちなみに、商工会・商工会議所などの推薦を受けるには、数名の審査委員による審査会を経る必要があり、審査会の開催タイミングによっては、推薦を受けるまでにさらに1か月程度(合計で2ヶ月間の審査期間)を要する可能性もあります。
つまり、商工会・商工会議所などの経営指導を受けていない、加入していないスモールビジネス事業者がマル経融資を利用するには、最大で8か月の期間が必要です。ただし、商工会・商工会議所によって対応が異なる可能性もありますので、まずは相談してみることをおすすめします。

マル経融資を受ける条件

スモールビジネスがマル経融資を受けるためには、いくつか必要な条件があります。ここでは、マル経融資を受けるための条件を確認しましょう。

小規模事業者か個人事業主である

マル経融資の対象となるのは、従業員数が20人以下の法人または個人事業主です。宿泊業と娯楽業を除く商業・サービス業では、従業員数が5人以下と制限が厳しくなります。

確定申告ならびに納税をしている

マル経融資を申し込む際には、法人・個人事業主にかかわらず、前期・前々期(前年、前々年)の決算書および確定申告書が必要です。つまり、確定申告をしていることが融資の条件となります。
法人では法人税、事業税、法人住民税、個人事業主では所得税、事業税、住民税の領収書または納税証明書も必要なので、税金を完納していることも条件の1つです。

商工会・商工会議所の経営指導を6か月以上受けている

マル経融資は、商工会あるいは商工会議所の経営指導を受け、経営改善のために行われる融資です。ですので、経営指導を受けていない状態では、マル経融資は利用できません。また、6か月以上という指導期間も必要となります。事情によっては期間が異なる場合もあるので、まずは商工会・商工会議所に相談してみるようにしてください。

同一の商工会・商工会議所の地区内で直近1年以上事業を営んでいる

商工会・商工会議所は、事業者の経営状況を調査したうえで、マル経融資推薦のための審査を行います。そのため、直近1年以上、同一の商工会・商工会議所の地区内で事業をしていることが条件です。

商工会・商工会議所とは?

商工会・商工会議所は、地域の事業者が会員となり、事業や地域の発展のために活動を行う団体です。経営改善普及事業の実施機関であり、スモールビジネスを支援するさまざまな施策を実施しています。
商工会と商工会議所の最も大きな違いは根拠法です。また、商工会は主に町村部に設立されているのに対し、市部には主に商工会議所が設立されています。スモールビジネス事業者の割合が高いのは、地域密着型の傾向が強い商工会といえるでしょう。

商工会と商工会議所の比較

商工会 商工会議所
目的 地区内における商工業の総合的な発展・改善 地区内における商工業の総合的な発展・改善
地区 1つの町・村の区域 1つの市の区域
事業 商工業者のための相談や指導、販路開拓 商工業者のための相談や指導、販路開拓、原産地証明といった貿易関係証明発給の国際的な業務
根拠法 商工会法 商工会議所法
管轄官庁 経済産業省 中小企業庁 経済産業省 経済産業政策局
会員構成 小規模事業者 小規模事業者
執行機関 会長 会頭
指導体制 都道府県ごとに設置されている商工会連合会が各商工会に対して指導 日本商工会議所が各商工会議所に対して指導

商工会・商工会議所については別の記事で解説していますので、参考にしてください。

商工会・商工会議所の審査に通るコツ

スモールビジネスにとって、商工会・商工会議所の経営指導員は最大の味方となる存在です。審査に経営指導員に、事業内容、資金の必要性を理解してもらうためには、積極的なコミュニケーションを図り、信頼関係を築くことが重要です。
スモールビジネスの経営状態を改善したい、支援したいという思いがある経営指導員には、金融機関の担当者よりざっくばらんに相談できる距離の近さもあります。彼らと相談をして、経営改善、融資獲得を目指しましょう。

マル経融資の種類

マル経融資には通常の融資の他、新型コロナウイルス感染症拡大による営業自粛などで売上が低下した事業者向けの融資や、自然災害で被害を受けた事業者向けの融資など、「特別枠のマル経融資」が臨時で設けられることがあります。
ここでは、通常のマル経融資と新型コロナウイルス関連のマル経融資について、現時点での公表情報をもとに詳細を比較してみましょう。

マル経融資の比較

マル経融資(通常枠) 新型コロナウイルス対策マル経融資
融資限度額 2,000万円 別枠1,000万円
担保・保証人 不要
返済期間
()内は元金返済の猶予期間
  • 運転資金7年以内(1年)
  • 設備資金10年以内(2年)
  • 運転資金10年以内(3年)
  • 設備資金10年以内(4年)
融資条件 下記のすべてを満たすこと
  • 従業員20人以下(宿泊業と娯楽業を除く商業・サービス業は5人以下)の法人・個人事業主
  • 商工会・商工会議所の経営・金融指導を受けて事業改善に取り組んでいる
  • 直近1年以上、同一の商工会・商工会議所の地区内で事業を行っている
  • 商工業者であり、日本政策金融公庫の融資対象業種を営んでいる
  • 税金(所得税、法人税、事業税、住民税など)を完納している
通常枠の条件に加え、下記の要件を満たすこと
  • 最近1か月の売上高または過去6か月(最近1か月を含む)の平均売上高が前4年のいずれかの年の同期と比較して5%以上減少、またはこれと同様の状況にあるスモールビジネス
融資利率 1.13%※1、※2 0.23%
  • 4年目以降は1.13%※2
資金使途
  • 運転資金(仕入資金、掛金・手形決済資金、給与・ボーナスの支払い、諸経費等の支払い)
  • 設備資金(店舗・工場改装、営業車両購入、機械・設備・什器などの購入)
  • ※1
    自治体によって利子補給を行っている場合もある
  • ※2
    特別利率F(2022年10月現在)。融資利率は金融情勢により変わることがある
  • 東京商工会議所「マル経融資 ご融資の条件 新しいウィンドウで開く」(2022年10月)

借入額については、返済可能な範囲に収めることが重要です。経営指導員の推薦があっても、返済能力を上回って融資限度額いっぱいまで融資してもらえるわけではありません。
反対に、一度融資を受けて返済を順調に進め、その後に追加融資を申し込むことも可能です。借入額については、経営指導員に相談することをおすすめします。

マル経融資を受けるための手続きの流れ

スモールビジネス事業者がマル経融資を申請する際には、どのような流れの手続きになるのでしょうか。ここでは、申し込むところから融資を受けるまでの流れを見ていきます。
ポイントは、商工会・商工会議所に推薦を受けるための審査と日本政策金融公庫における審査の、2度の審査を通過する必要があることです。

1. 経営指導員に相談する

マル経融資の申込窓口となるのは、商工会・商工会議所です。経営指導を受けているスモールビジネス事業者は、経営指導員にマル経融資を利用したいことを伝えます。経営指導を受けていない場合は、まずは経営指導員に経営指導を受けたいこと、マル経融資の利用を考えていることを相談します。

2. 審査会の審査を経て推薦を受ける

マル経融資を受けるためには、商工会・商工会議所の推薦が必要です。
経営指導員は融資を希望するスモールビジネス事業者の調査を行い、それをもとに、複数名で構成される審査委員が審査を行います。審査委員には税理士や民間金融機関関係者など、財務や金融の知識がある外部有識者が任命されていることもあります。審査委員全員の一致があれば、マル経融資を利用するための推薦が受けられます。

3. 必要書類を提出する

推薦が決まったら、日本政策金融公庫に申し込むための書類を提出します。必要書類は下記のとおりです。

法人の場合

  • 前期、前々期の決算書と確定申告書
  • 決算後6か月以上経過している場合は直近の残高試算表
  • 登記事項証明書
  • 法人税、法人住民税、事業税の領収書
  • 設備資金として借りる場合は見積書やカタログなど

個人事業主の場合

  • 所得税、住民税、事業税の領収書
  • 前期、前々期の決算書と確定申告書
  • 設備資金として借りる場合は見積書やカタログなど

1,500万円超の融資を申し込む場合には事業計画書など、必要に応じて追加書類の提出を求められることがあります。書類に関してわからないことがあれば、経営指導員に相談してください。

4. 日本政策金融公庫の審査

書類を提出すると、日本政策金融公庫による審査が行われます。商工会・商工会議所の審査も含めた審査期間は、約2か月はかかると考えておきましょう。

5. 融資決定・実行

日本政策金融公庫の審査をパスすると、融資契約を結ぶことになります。手続き完了後、融資が実行されます。

マル経融資以外のメリットもある商工会・商工会議所に加入検討を

マル経融資の対象となるのは、商工会・商工会議所に6か月以上の経営指導を受けたスモールビジネスです。

スモールビジネスに該当する事業者は、経営において課題があれば、商工会・商工会議所に相談するのもひとつのアイディアです。商工会・商工会議所の経営指導員からアドバイスが受けられるうえに、それを6か月間継続することで無担保・無保証で融資が受けられる道が開けます。
仮に、「6か月も経営指導を受けてからでは資金繰りが間に合わない」という場合でも、商工会・商工会議所に相談すれば、日本政策金融公庫の他の融資制度や自治体制度融資など、さまざまな公的融資のアドバイスをしてくれると思われます。

現状ではマル経融資を利用する必要はない事業者も、メリットが多い商工会・商工会議所への加入は検討してみるべきです。商工会・商工会議所に加入すれば、経営相談だけにとどまらず、従業員の研修やセミナー、共済・福利厚生などの面で、さまざまな支援が受けられます。
例えば、東京商工会議所だと、経営相談加入金は法人・団体、個人事業主は共に3,000円。年会費は法人の場合、資本金(出資額)によって異なりますが、資本金500万円未満では1万5,000円、個人事業主では1口1万円以上です。
スモールビジネスにとって、経営に関する相談先を持っておくこと、マル経融資のような資金調達の可能性を確保しておくことも、事業を長く発展させていくために重要なことだといえるのではないでしょうか。

著者:吉田 学(財務・資金調達コンサルタント)

株式会社MBSコンサルティング代表取締役。1998年の起業以来、「資金繰り・資金調達支援」に特化して創業者や中小事業者を支援。これまでに1,000 社以上の資金調達相談・支援を行い、その資金調達支援総額は20億円超。
主な著書に、「社長のための資金調達100の方法」(ダイヤモンド社)、「究極の資金調達マニュアル」(こう書房)、「税理士・認定支援機関のための資金調達支援ガイド」(中央経済社)などがある。

また、全国の経営者・士業などを対象にした会員制の資金調達勉強会「資金調達サポート会(FSS)」を主催している。

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