第三者割当増資(株式会社の場合)

2020/03/24(2021/9/1更新)

中小の株式会社が資金調達として増資を検討する場合、最も有効な方法が「第三者割当増資」です。
使える手もと資金が増えるだけでなく、資本関係を持つことでお互いの関係が密になり、その後の事業展開において相乗効果が見込まれるというメリットもあります。
しかし、増資は株主を増やすことになりますから、既存株主に生じるデメリットについても考慮して行わなければなりません。
今回は第三者割当増資の注意点について見ていきましょう。

第三者割当増資とは?

第三者割当増資は、取引先など、株主以外の第三者から出資を受ける方法です。

大企業では、企業買収の手段として使用されることも多くあります。新しく株を発行する会社を自社の企業グループ傘下に収めるため、増資を引き受け、子会社化するのです。

中小企業においては、事業における提携関係を深める目的で取引先から出資を受けたり、双方で新株を発行し持ち合ったりするなど、事業規模の拡大や多角化などの事業の発展のために利用されることが多くあります。

既存株主への影響

第三者割当増資の条件によっては既存株主が不利益をうけるケースもあります。
なぜなら、株の構成比率が変わることになってしまい、議決権に影響を及ぼすからです。

株式会社の意思決定に関する最高機関は「株主総会」ですが、株主総会の決議は原則として1株1票の議決権を持ちます。そのため、「自分が持っている株式の数/発行済株式の総数」(持分比率)が重要になるのです。

既存株主にとって、自分以外の人に新株が割り当てられてしまうと、分子である自分の持分は変わらず、分母の総数のみが増えることになりますから、持分比率が下がり、増資前より自分の意見が通りづらくなってしまうのです。

株式の希薄化による影響

また、増資は株価にも影響します。

一般的に株価は、「(資本金+利益剰余金)/発行済株式数」で算定することができます。そのため、株式数に変化がなければ、会社の利益が増えた分、株価も上昇します。

しかし、増資を行った場合、実際の株価より低い金額で新株を発行してしまうと1株当たりの価格が下がってしまうケースがあります。

たとえば、増資前の資本金10万円、利益10万円、発行済株式総数が10株だとすると、1株当たりの評価額は(10万円+10万円)/10株=2万円となります。

資本金10万円 利益10万円 1株2万円

このときに、1株1万円で6株発行すると、増資後の株価は(10万円+10万円+6万円)/(10株+6株)=1.625万円となってしまいます。

資本金10万円 利益10万円 増資額6万円 1株1.625万円

このように、既存株主の持分に変更はないのに全体の影響で1株当たりの価値が下がることを「希薄化」といいます。

会社法による規制

株式を時価評価額以下の金額で発行すると新株の引受先は割安で株式を取得できることになってしまい、既存株主にとって不利な状況となってしまいます。

そのため、会社法において、特に有利な価格で株式を発行する場合には、株主総会の「特別決議」を必要としています。特別決議は、議決権の半数を持つ株主の出席を要件とし、議決権の2/3の賛成が得られなければ成立しません。この特別決議が行われず株式を発行しようとしている場合には、既存株主は会社に対し発行の差し止め請求をすることができます。
つまり、既存株主を保護するための規定が作られているのです。

発行価額による税金の問題

それでは、特に安い価格で株式を発行しなければ問題はないのでしょうか?

上の例とは反対に、時価よりも高い価格で発行された場合は、株価が上昇するため、時価と発行価格との差額は既存株主の利益となります。そのため、その差額が大きい場合には贈与税の問題が生じてしまうことがあるのです。

たとえば、株価が2万円の上記ケースで、6株を1株100万円で発行したとすると、増資後の株価は(10万円+10万円+600万円)/(10株+6株)=38.75万円となり、1株の価値が20倍近く増えてしまうことになります。

そのため、既存株主の利益を極端に増やす結果となります。同族会社の場合、この部分が既存株主に対する贈与とされてしまうのです。

資本金10万円 増資額600万円 利益10万円 1株38.75万円

このように増資を行う際の発行価格が時価からかけ離れた金額になると、多くの問題が生ずるため、増資を行う際は増資前の株価を計算し、適正な時価で発行することが重要です。なお、株式の時価算定方法は専門性が必要なため、税理士などの専門家に相談するとよいでしょう。

著者:小島 孝子(税理士)

早稲田大学 社会科学部,青山学院大学 会計プロフェッション研究科卒。
大学在学中から地元会計事務所に勤務し、その後、都内税理士法人、大手税理士受験対策校講師、大手企業経理部に勤務したのち2010年に小島孝子税理士事務所を設立。会計事務所、経理職員向け税務・経理に関するセミナー多数担当。

著書

  • 簿記試験合格者のための初めての経理実務(税務経理協会)
  • 税理士試験計算プラクティス消費税法解法の極意(中央経済社)
  • 3年後に必ず差が出る20代から知っておきたい経理の教科書(翔泳社)

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