株式会社以外の増資

2020/03/24(2021/9/1更新)

一般に株式会社は、株式を公開し大規模な事業を行うことに適した形態の会社といえます。中小企業が多い日本では、親族などの少ない身内で事業を守り続けるという慣習があり、小規模事業者特有の事情を考慮した「有限会社」が存在しました。
この制度は原則廃止されたものの、現在も一部引き継がれています。また、「有限会社」のかわりに制度化された「合同会社」もあります。
ここでは、「有限会社」や「合同会社」などの株式会社以外の増資についてみていきましょう。

「有限会社」の廃止と「特例有限会社」

有限会社法に基づく「有限会社」は、時代とともに株式会社に株式の譲渡制限を設けたものと変わらなくなっていったことから、平成18年(2006年)に新設できなくなりました。

これに伴って、これまでに「有限会社」として成立した会社は、原則的には会社法の適用を受けるものの、株式会社とは違った取扱いを受ける「特例有限会社」に自動的に移行しました。結果、会社名や定款の内容を変更せずに、法律上は株式会社と同様の権利を持つ会社となったのです。

「特例有限会社」の増資における注意点

「特例有限会社」であっても増資のような登記事項は、株式会社と同じように登記変更を行う必要があります。特に注意しなければならないのが「発行可能株式総数」に関する条項です。

過去に存在した有限会社法では、定款に定められた記載事項は「資本の総額」と「出資一口の金額」だけとなっていました。そのため、もともと発行できる株式数の上限まで株が発行されていることになってしまい、定款変更なしではこれ以上株式が発行できません。

つまり、新株を発行するには、増資の手続きを行う前に定款変更の登記を行い「発行済可能株式総数」を登記する必要があるのです。

この登記が行われれば、増資手続きは株式会社のものがそのまま利用できます。(具体的な手続きの流れは株式会社の増資手続きを参照してください。)ただし、株主総会の特別決議の可決要件が株式会社より重くなっている点は注意が必要です。(「総株主の半数以上が出席し、その株主の4分の3の賛成で可決」)

「合同会社」とは

有限会社法の廃止により、「有限会社」の新規設立ができなくなりました。その代わりに簡便的な手続きで設立できる新たな会社の形態として誕生したのが「合同会社」です。

「合同会社」は、会社法に株式会社とは別に規定がありますが、ほとんど株式会社と同じように運営できます。
しかし、「社員」(出資した人を指す。株式会社における株主であり一般にいう社員ではない)の考え方が少し違います。原則として、出資を行った人は全員「社員」となり、「社員」は共同で業務を行う「業務執行社員」になります。
株式会社における「株主」と「取締役」の関係とは違い、会社の決議事項は「業務執行社員」全員で決定しなければなりません。

「合同会社」における増資の注意点

合同会社において、「出資はするが、経営には参加しない」社員を作るには、あらかじめ「定款の変更等を出資者の同意なく行える」といったように定款の内容を変更したうえで、その出資者を、業務を行う権限を持つ「業務執行社員」や「代表社員」にしないことが必要です。

また、大きな特徴として、出資を受けた金額を必ずしも資本金とする必要がなく「資本剰余金」として計上することができます。その場合、登記する必要もありません。
出資を受けた金額のうち、資本金に計上する金額は「業務執行社員」で決定します。

なお、出資の決議ですが、「合同会社」では「社員総会」を設置する必要がないため、社員全員が集まって決める必要はなく、それぞれから同意をもらえれば決めることができます。登記の際は「業務執行社員」から同意書をもらって登記を行います。

その他の法人形態

これ以外に古くから「合名会社」「合資会社」も存在しています。

これらは、増資について「合同会社」と同様の取扱いができますが、もともと経営を出資者だけで行う目的で作られた制度なので、経営に関わる人に出資してもらうことが一般的です。

このように、増資は定款の記載事項などによって権利関係が異なる可能性がありますので、司法書士などの専門家に相談するのがよいでしょう。

著者:小島 孝子(税理士)

早稲田大学 社会科学部,青山学院大学 会計プロフェッション研究科卒。
大学在学中から地元会計事務所に勤務し、その後、都内税理士法人、大手税理士受験対策校講師、大手企業経理部に勤務したのち2010年に小島孝子税理士事務所を設立。会計事務所、経理職員向け税務・経理に関するセミナー多数担当。

著書

  • 簿記試験合格者のための初めての経理実務(税務経理協会)
  • 税理士試験計算プラクティス消費税法解法の極意(中央経済社)
  • 3年後に必ず差が出る20代から知っておきたい経理の教科書(翔泳社)
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