事業承継ファイナンス(4)
~民間金融機関の事業承継支援~
2024-04-23更新
~株主総会の特別決議から資本増資の登記まで~
2022/03/08
第三者割当増資の具体的な手続きについて、全体の流れは以下のようになります。別記事では、「募集事項の決定(基本的な流れ①)と株主総会招集手続き(基本的な流れ②)」について解説をしました。この記事では、その後の株主総会の特別決議(基本的な流れ③)から資本増資の登記(基本的な流れ⑧)までを解説していきます。
取締役会で「募集事項」の決定(基本的な流れ①)をしましたが、これを承認してもらうため、株主総会を開催し、その特別決議を取ります。
特別決議では、議決権を行使できる株主の過半数(議決権の数の過半数)が出席し、出席した株主の有する議決権の2/3以上の賛成で決議する必要があります。
ただし、それぞれの要件は定款でさらに重くでき、定款に記載があればそれに従います。募集事項の決定は、株主総会の特別決議によって、取締役会設置会社※1であれば取締役会※2に委任することができます。定款で、取締役会を設置しているかどうかを確認しましょう。
取締役会設置会社であれば、株主総会で「募集株式の数の上限」および「払込金額の下限」の決議を行い、それ以外の募集事項の決定を取締役会に委任することもできます。なおこの場合、払込期日は決議の日から1年以内であることを要します。
参考に株主総会議事録のサンプル掲載いたしますので、ご確認ください。
「株主総会の特別決議」(基本的流れ③)で決定した内容に従って、募集株式を引き受けようとする者(実務的には、事前に増資やその引き受けについて協議し承諾した会社や個人)に通知をします。この通知には「募集する会社の商号(社名)」「募集事項(株主総会で決めた条件)」「払い込みを行う場所(振込口座)」の記載が必要です。
引受人に「募集株式を受けようとする者への通知」(基本的流れ④)で行った通知を受け、株式の申し込みをしてもらいます。具体的には申込書に記入のうえ、提出してもらうことになります。
参考に株式申込書のサンプルを掲載いたしますので、ご確認ください。
第三者割当増資によって募集株式の発行をするときは、申込者の中からだれに何株を割り当てるかを決定します。この決定する機関は、定款に別段の定めがない限り、以下の通りです。
なお定款で別段の定めがある場合(例えば、引き受ける者の募集において株主以外の者に株式を割り当てる場合には、取締役の過半数の決定によって行うなど)には、定款に従います。
株式の割り当てを決定した後、その旨を募集株式の引受人に連絡し、出資の履行(出資金の振込)をしてもらいます。念のためトラブルにならないように、書面で通知するなどの方法で記録を残しておくと良いでしょう。
引受人に、指定する銀行口座に出資金の振り込みをしてもらいます。実際には、株式不発行(株主に現実に株券を発行していない)としている会社がほとんどです。その場合、引受人の手元には、引受けた株式の証拠が残りませんので「株式払込金受入証明書」を発行して引受人に渡すと良いでしょう。また、この段階で会社では株主名簿の更新をしておくと良いでしょう。
株式払込金受入証明書と株主名簿のサンプルを掲載いたしますので、ご確認ください。
第三者割当増資により株式を発行した後、資本金や発行株式数の増加についての登記変更を、払込期日または払込期間の末日から2週間以内に行います。
手続きに必要な書類は、以下の通りとなります。
上記書類に加え、取締役会議事録が必要となります。
上記の総数引受契約書(総数引受契約の場合)とは、募集株式を発行する会社が、募集株式の引受人を事前に決め募集株式を引き渡す契約です。この契約では、1人の引受人へすべての募集株式を引き渡すことも、複数人へ募集株式を分けて引き渡すこともできます。
さらに、総数引受契約では簡略な手続きで募集株式の引き渡しが可能であるため、通常ならば必要なプロセスである「募集株式の申し込み」「割当決議」を省略することができます。もし総数引受契約書があれば提出する、という認識で問題ありません。
資本金の額の計上に関する証明書は、司法書士に依頼すればひな型をもらうことができます。サンプルとして、資本金の額の計上に関する証明書を掲載いたしますのでご確認ください。
資本増資の登記は、現実的には司法書士に依頼することが多いのですが、その場合、以下の費用がかかります。
費用の金額は増資金額にもよりますが、数万円から十数万円であることが一般的です。ご自身で手続きをする場合には、登録免許税はかかりますが、それ以外の費用は節約できます。
登記が完了し、増資金額が反映された商業登記簿謄本ができあがった段階で、引受人に対しその写しを配布しておくと良いでしょう。
「第三者割当増資の手続き」は複雑ですので、専門家に相談することで経営者の負担を減らすことができます。顧問税理士や「専門家に相談」の活用をご検討ください。
株式会社アスタリスク代表取締役。金融機関、コンサルタント企業、IT企業を経て、2000年代表取締役就任。IT企業、不動産業、商社等の経営戦略、財務戦略、管理会計支援等
を行う。
これまで、銀行等の金融機関の研修・講演講師を70行庫以上務める。主な著書は「渉外マンの現場力/近代セールス社」金融商品取引法・各種業法に基づく「金融商品セールス対応話法集/銀行研修社」等でありその他金融機関向け、雑誌連載実績等多数。
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