第三者割当増資の具体的な手続き(1)

~募集事項の決定と株主総会招集手続き~

2022/03/08

第三者割当増資の具体的な手続きについて全体の流れは、以下のようになります。
ここでは、募集事項の決定(基本的な流れ①)株主総会招集手続き(基本的な流れ②)について解説していきます。

基本的な流れ 1 募集事項の決定 2 株主総会招集手続き 3 株主総会の特別決議 4 募集株式を受けようとする者への通知 5 株式の申し込み 6 株式の割当決定(取締役会決議または株主総会の特別決議) 7 引受人による出資の履行 8 資本増資の登記

①募集事項の決定

第三者割当増資を行うには、まず「募集事項」を決定します。最終決定をするには、株主総会の特別決議(基本的な流れ③)が必要です。その株主総会の前に、取締役会で「募集事項」を決定します。

募集事項は、以下の通りです。

  • 1.
    募集株式の数
  • 2.
    募集株式の払込金額、その算定方法
  • 3.
    現物出資を行う場合にはその可否、出資する資産の内容、金額
  • 4.
    出資の申込金の払込期間と払込期日
  • 5.
    株式を新たに発行するときは、増加する資本金や資本準備金に関する内容

つまり「何株発行するのか」「払込金額はいくらか」「払込の期日または期間」「資本金と資本準備金にいくら振り分けるか」を決める必要があります。

なお株主総会では「1.募集株式の数」については「募集株式数の上限」を「2.募集株式の払込金額、その算定方法」については「払込金額の下限」のみを決議し、その他の内容の決定を取締役会に委任することもできます。

募集事項について、それぞれ順に説明します。

1. 募集株式の数

「募集株式の数」の決定では、第三者割当増資について、株式の割り当て数や新規の発行株式数を決定します。具体的には以下の2つを決めることになります。

  • どのくらい株式を割り当てるのか
  • 新規にどのくらいの株式を発行するか

決定後でも、その数を変更できないわけではありません。「株式の割り当て決定(取締役会決議または株主総会の特別決議)(基本的流れ⑥)」で実際の割り当て株式数を決定します。実際には割り当て株式数は、決定した募集株式数より少なくなるというケースが多いです。

募集株式の数を決定する前に、以下の2点についても確認しておきましょう。

  • 新規に株式を募集する場合、その発行可能な株式総数の確認
  • 募集株式の種類

募集株式の種類について、発行する株式には「普通株式」と「種類株式」がありますが、中小零細企業では普通株式を発行するのが一般的です。

種類株式を発行するには、定款に「発行する種類株式の内容」と「発行可能種類株式総数」を定めて、その旨の登記を行う必要があります。ベンチャーキャピタルに引き受けをしてもらう場合は、種類株式を発行することがあります。

ここでは簡単に普通株式と種類株式について、以下のようにご理解いただければ問題ありません。

・普通株式

株主の権利について何ら制限を受けない標準的な株式で、株主間では所有株式構成割合により株主の権利を主張できる。

・種類株式

普通株式とは別に権利の内容が異なる株式を発行することができる。例えば、配当を優先的に受けることができる「剰余金配当優先株式」と、株主総会での議決権を制限することができる「議決権制限株式」などがある。

種類株式の詳細については、以下の「種類株式の発行」をご確認ください。

株式の種類(株式会社の場合)

2. 募集株式の払込金額、その算定方法

次に募集株式1株と引き換えに払い込む金額、つまり1株当たりの金額、または算定方法を明示します。その1株当たりの金額に「1.募集株式の数」を掛けると払込金額総額となります。

上場会社の株式であれば、証券取引所において多数の市場参加者による多数の取引の集積を通じて、そのときどきの適正な株価が形成されています。

これに対し未公開株式である中小企業の場合には、株価算定には多様な方法があります。代表的なものは、純資産価額方式やDCF(ディスカウント・キャッシュフロー)法です。現実にはこうした算出を行わず、単純に「現在資本金100万円、発行株式数が100株」の会社が1株当たり1万円とする場合もあります。

募集株式の払込金額を明示するにあたり、算定方法の根拠となる株価の計算方法を定めておきましょう。株価計算について、詳しくは「第三者割当増資の株価算定と株主への影響」で説明します。

3. 現物出資を行う場合にはその可否、出資する資産の内容、金額

出資をしてもらう場合は、金銭を指定する口座に現金振込してもらうことが一般的です。ただし、金銭以外の何らかの「現物出資」をもってそれに代えることも可能です。現物出資は、貸借対照表に資産として記載する事ができる財産で、具体的には「自動車」「パソコン」「不動産」「特許権などの権利」などが考えられます。

しかし現物出資の場合、その財産や価額が適切かどうかを判断しなければなりませんので、司法書士や税理士などに確認してから決定しましょう。

現物出資の場合、手間がかかる点や、実際に出資された資金を活用して事業を伸ばすという目的になじまないことから、現実的には金銭で出資を受けるほうが良いでしょう。

4. 出資の申込金の払込期間と払込期日

募集株式に対する金銭の払い込みや財産の給付について、期日や期間を決定します。

第三者割当増資の引受人の払い込みに支障がないように、期日を設定すると良いでしょう。金銭での払い込みでは、会社が定めた期日や期間に銀行などに払い込みをしてもらいます。増資登記をする場合、払い込みがあった証拠として通帳のコピーが必要です。

5. 株式を新たに発行するときは、増加する資本金や資本準備金に関する内容

第三者割当増資による増資分について、全額を資本金に算入するかどうかを決定します。

払い込まれた全額を資本金に算入するのではなく、資本準備金として積み立てておくことによって、会社の業績が悪化した場合に、資本準備金を取り崩すことで会社財産を維持することが可能となります。資本準備金は、資本金の1/2を超えない額を積み立てておくことができます。

中小零細企業の税金は資本金額によって変わります。例えば、資本金1,000万円を超える場合、設立1年目から消費税の課税事業者になり、地方税の均等割額(住民税における固定金額の部分)も上がります。よって、増資する資本金額に応じて、資本準備金に計上することを検討すると良いでしょう。

②株主総会招集手続き

取締役会で「①募集事項」の決定をしましたが、これを承認してもらうために株主総会を招集します。株主総会の招集は定款によりますが、すべての株主に対し、原則として株主総会開催日の2週間前までに行います。

株主招集通知のサンプルを掲載いたしますので、ご確認ください。

株主への招集通知は定款に基づき、その株主総会の日程に合わせて発送します。しっかりといつ発送したのかを記録しておきましょう。株主に株主総会への出欠届けを返送してもらい、株主総会が有効に開催されるための出席株主数と議決権数を確保して、株主総会当日を迎えるようにします。

著者:星 武志(経営コンサルタント)

株式会社アスタリスク代表取締役。金融機関、コンサルタント企業、IT企業を経て、2000年代表取締役就任。IT企業、不動産業、商社等の経営戦略、財務戦略、管理会計支援等 を行う。
これまで、銀行等の金融機関の研修・講演講師を70行庫以上務める。主な著書は「渉外マンの現場力/近代セールス社」金融商品取引法・各種業法に基づく「金融商品セールス対応話法集/銀行研修社」等でありその他金融機関向け、雑誌連載実績等多数。

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