行政の支援制度や助成金・補助金を有効活用/
中小企業における資金調達事例「株式会社アシストメイト」

株式会社アシストメイト 代表取締役 木村秀和様

IT機器やクラウドサービスの導入支援、運用サポートなどの事業展開を行う株式会社アシストメイト(東京・板橋区)は、創業期や法人成りの検討期、そして成長期などのステージごとに多くの資金調達を実施してきたそうです。今回は、普通のサラリーマンからITエンジニアとして独立し、起業された代表取締役の木村 秀和さんに、事業ステージごとの資金調達のポイントや、活用すべき支援策や補助金などについてお話を伺いました。

創業期~法人成り検討期

創業時の資金調達

木村:

創業時の資金調達は、「行政の支援制度などを活用して初期投資を抑える」ことがポイントです。私の場合、創業時は自分のみだったことやITエンジニアという職種だったこともあり、設備投資はほぼ不要でPCがあればいい程度なので、初期費用やランニングコストがそれほど必要なかった点が幸いでした。
オフィスについてですが、弊社は行政が運用するスタートアップ用のオフィスの審査を経て無事借りることができたので、ランニングコストの大幅な圧縮が可能でした。厳密に言えば資金調達ではありませんが、創業時の収支面においては非常に助かったと思います。

独立時の自己資本について

木村:

ITエンジニアから独立しようとした場合の自己資本ですが、最初は「とりあえず100万円くらいあればいいかな」というざっくりとした感覚でした。前述のとおり設備投資する必要があまりなく、基本的にランニングコストだけの発生だったことが、その理由です。
潤沢な資金があるなら別ですが、そうでない場合は、まず小さく始めることも大切だと思います。初めから大きな借入をしてからスタートすると、借入金の返済に追われ思うように事業遂行ができない可能性があります。増資は後からでもできますので、利益が出るようになってから徐々に資本を増やしていけばよいでしょう。
もちろん、実店舗などを運営する場合であれば大きな初期投資が必要ですし、毎月の固定費を把握し、収支面で運用できる計画を整備する必要があります。ただ設備投資や仕入れなどがない、ITエンジニアのような自らの技術などが商品となるサービス業であれば、起業時にそれほど大きな資本金は必要はありません。

行政のスタートアップ向け支援制度を活用

木村:

私が創業をした板橋区には、行政が運営している企業の活性化支援を目的とした施設があり、さまざまな制度が活用できます。その中の1つにスタートアップ向けの支援として、施設内のオフィス賃料が割安になる制度があり、3~4万円程度で事務所を借りられました。
事務所賃貸だけでなく、経営相談ができる専門家も在籍されていたので、起業をするためには最適の環境でした。自治体によってはこのような施設がいくつかあると思いますので、お近くにスタートアップ向けの施設がないか調査してみてください。
ただし行政の管理施設の場合、民間のシェアオフィスなどと異なり、入居時には審査があり、適正な業務内容かどうかが判断される場合があります。また、施設によりますが、スタートアップ向けの施設では入居期間の制限がある場合もあり、利用検討の際は留意すべきでしょう。

法人成りのきっかけ

木村:

「機会損失を減らしたい」という思いが強くなったことが、法人成りのきっかけです。創業時はITエンジニアの個人事業主から始めましたが、企業によっては「個人事業主とは取引はしない」というところもあり、機会損失を減らすために法人成りを検討し始めました。
仕入れを行う際も同様に、個人とは取引しないという企業も多くあります。ビジネスチャンスを逃さないことと、信用力を上げることが法人成りのメリットと言えるでしょう。

起業や法人成り検討時の注意点

木村:

起業や法人成りを検討している方は、会社がある地域の行政機関や商工会議所、税理士や中小企業診断士などの専門家へ相談に行くことなどが大切だと思います。自分1人の頭で考えていても知識の限界がありますので、公的機関や経営の専門家に相談して、自社に最適な方法を助言してもらうことが肝要です。今の時代はインターネットでも基本的な手続きは確認できます。しかしネットから得た情報と、実務を行っている専門家の知見には大きな差があります。会社の実情はそれぞれ異なるため、ネットで得た情報が自社で活用できるかどうかも判断は難しいでしょう。自身で調べることはもちろん良いことですが、多様な意見や助言を受けたうえで判断することをおすすめします。

商工会との関係性構築

木村:

経営者同士の情報交換の際「商工会とか入ってる?」という話になりました。その場でさまざまな情報提供が受けられることを知り、自分で商工会議所へ問い合わせをしました。商工会議所に入ることで、得られる情報の質や量が大きく変わります。年会費などは必要ですが、インターネットでは得られない情報を獲得できるなど、補って余るメリットが得られます。
また、商工会議所に加入することは、経営者同士のつながりを築くことや、会社の信用力を第三者視点で得られる点もメリットです。

決算用の申告書は税理士へ依頼

木村:

もともと簿記の知識もあり、弥生会計の機能も十分だったため、税理士の先生との顧問契約はしていませんが、決算時は依頼しています。帳簿類の作成だけであれば、弥生会計を活用することでほぼ整備することも可能です。しかし、例えば融資を受けるために金融機関へ相談に行った際、税理士の関与がない決算書では決算書の信用力が低かったり、融資決定までに時間がかかったりする可能性があります。
また、補助金申請時なども決算書の提出はほぼ必須ですから、決算書の信用力はとても大切です。これらを加味し、決算時の税務申告は税理士の先生にお願いをしています。

成長期

成長期の資金調達

木村:

事業拡大や従業員を増やす時期には、新たな資金調達が必要になります。事業拡大に伴う支出の増加や、従業員の社会保険費が追加されることを考えると、手持ち資金を厚くしておきたいと考えるようになり、取引実績のあった信用金庫から融資を受け始めました。
事業拡大の際には銀行系では日本政策金融公庫(以下、公庫)からも資金調達を行いました。調達額で最も多いものは公庫です。また従業員の採用に際し、キャリアアップ助成金も活用しました。

参照:厚生労働省「キャリアアップ助成金」 新しいウィンドウで開く

相談先の銀行や公庫を決めた理由

木村:

メインバンクは相談のしやすさなどを考慮し、信用金庫にしようと考えていました。会社から近かったという理由もポイントです。結果的にはよく相談に行くことになるので、正解だったと思います。
一方、株式会社日本政策金融公庫の場合は、直接相談するのではなく商工会議所を通じて相談を始めました。また補助金の申請の際、中小企業診断士にコンサルタントとして入ってもらい、その方を通じて公庫担当者の紹介を受けたこともあります。

銀行から資金調達するポイント

木村:

銀行から融資を受ける場合には、何のための資金が必要なのか明確化しておくことが大切です。例えば「〇〇という案件があるので、つなぎの資金のために●●円の融資をお願いしたい」「〇〇のために長期的な設備投資をするので●●円の融資が必要です」など、何がしたいのか事前に明確化しておき、それに紐づく資料を準備して銀行の担当者と相談しながら進めましょう。
融資を申し込む際に必要な事業計画の作成ポイントですが、規定フォーマットが存在しない場合があるため、必要と思われる資料を準備します。何のためにいくら必要か担当者と相談し、そのうえで試算表や指示された資料を滞りなく準備しなくてはいけません。
弊社は弥生会計の「スマート取引取込」機能を活用して、試算表などの資料を準備しています。2~3か月分のデータを読み込ませれば、AIが判別して自動で仕訳も行ってくれるので、非常に助かっています。すぐに資料を準備するためには、定期的にデータをメンテナンスしておくことが大切です。

参照:スマート取引取込 活用ガイド/弥生 新しいウィンドウで開く

銀行から資金調達する際の注意点

木村:

銀行から資金調達する際に気を付けることとしては、融資の申し込みなどをしたときに、すぐに融資が受けられることは少ないという点です。
融資を申し込んだ後は、審査などの手続きが必要になるため一定期間を要します。それを見越したうえで申し込みをしなくてはいけません。「この時期にいくら必要」ということがわかれば、前もって「このくらいの資金が必要になるので相談したい」と銀行の担当者と対処法を一緒に考えることができます。
リードタイムは金額によって異なりますが、大きな金額であるほど長い期間がかかることを見越すべきでしょう。注文書などの具体的な書類がある場合は、銀行の担当者が社内決済や稟議を通す際に役立ちますので、準備しておくとスムーズです。

助成金・補助金を活用した資金調達

木村:

助成金は基本的には厚生労働省の管轄であり、欠格事由がなく必要書類を不備なく揃えられれば、基本的には支給されます。国が用意した雇用維持のための制度ですから、申請要件に当てはまるのであれば、必要に応じて活用するのは良いと思います。
一方、補助金は基本的に経済産業省の管轄であり、さまざまな審査を通過しなければなりません。事業計画書や製品・サービスの将来性など、さまざまな点をチェックされますので採択されない可能性もあります。しかし補助金は借入金ではなく、採択されれば原則として給付されるものですから、事業を推進するうえでは非常に有益です。
国が実施している補助金は金額も大きいのですが、都道府県や市町村、特別区などの自治体の行政が実施しているものも、探してみると多くの種類が存在します。自治体の補助金は、地元企業が活用しやすいものも多いため、ぜひ有効活用してください。
知らない情報が多く、助成金や補助金はハードルが高いと思われがちですが、商工会議所で情報を得たり、行政の支援策をきちんと調べて活用してみるところから始めてみることをおすすめします。

助成金・補助金を活用して資金調達するポイント

木村:

助成金や補助金は締め切りがタイトなため、申し込みたいと思っていても、必要な書類を揃えているうちに締め切りが過ぎてしまい機会を逃したことはありました。そうならないためにも普段から情報収集をすることや、他の経営者と情報交換を行うことは、非常に重要です。
助成金に関しては、書類や申請要件さえそろっていればOKなので、スケジュールを把握しておけばよいでしょう。一方、補助金に関しては募集要項をしっかり読み込むことが大切です。どんなにすばらしい事業計画や熱意のある新規事業について書かれた企画書を準備したとしても、募集要項の質問項目にきちんと回答できていなければ、審査の対象にさえなりません。
例えば、募集要項に「事業終了後、●年で付加価値額を●●%達成できる目標になっているか?」と記載されていた場合には、図や表などで説明して根拠を示しながら回答できなければ、評価すらしてもらえないでしょう。したがって補助金を申請する場合には、募集要項をきちんと読み込み理解したうえで、それに対する回答をきちんと書くことが大原則で、それに加えて自分たちの事業への想いや熱意を書くことがポイントです。
また助成金や補助金を申請する際には、会計書類などが必要になります。決算書は既に期が終わったものであれば持ち合わせがあると思います。ただし、当期の試算表が必要なる場合もあるため注意しましょう。
こうした機会損失を防ぐためにも「スマート取引取込」機能を活用して、会計情報を日々メンテナンスしておくことをおすすめします。

助成金・補助金専門のコンサルや中小企業診断士を活用

木村:

初めて助成金や補助金の申請をする際は、社会保険労務士やコンサルタント・中小企業診断士の先生に相談をしました。2回目以降は、自分でも申請をしてみました。例えば、初めての補助金申請で、ものづくり補助金は中小企業診断士の先生にご相談しましたが、事業再構築補助金 新しいウィンドウで開くは自分で申請の手続きを行いました。
助成金の場合は、社労士の先生に申請にかかる書類作成の大部分を依頼することが可能です。会社として必要なのは、社員名簿や勤怠記録の提出などです。弊社の場合は計画策定や就業規則作成から、書類提出まですべて依頼しました。
助成金の申請にかかる社労士の先生への委託費用は、書類作成から提出などすべて依頼する場合や、自社で作成した場合の添削など内容によって変わりますが、いずれにしても支給されれば十分回収ができるものです。申請にかかる労力などを考えると、社労士の先生にお願いすることは費用対効果が非常に高いと思います。
一方、補助金は必ず採択されるわけではないので、コンサルタントなどへの支払い費用は、着手金と成功報酬が別々に発生するケースが多いと感じます。補助金は採択されると大きな金額が得られる場合があるため、着手金が安く抑えられていても、成功報酬の割合が大きいと支払総額は大きくなるかもしれません。
しかし、これまで補助金の事業計画書などを作成したことがない方が申請書類を提出しても、採択されるのは難しいと思います。私もいざ取り掛かろうとしても、何から手を付けてよいか判断できなかったため、中小企業診断士の先生に依頼をしました。事業計画が採択され補助金が支給されれば、計画遂行の大きな支えとなりますので、中小企業診断士やコンサルタントなどの専門家に相談することは有用だと思います。
私が依頼した際は、中小企業診断士の先生に「こういったことをしたい」と伝え、持っている資料や写真を提供したところ、わかりやすく計画書をまとめていただくことができ、無事に採択されました。仮に自分で計画書を作成しようとしても労力だけかかって、採択されなかったと思います。とはいえ専門家に依頼しても、採択されない場合もあるので、非採択となった場合の考慮は必要です。依頼する場合はどういった分野が得意なのか、 過去の採択実績などを参考に、検討ができると良いのではないでしょうか。

参照:中小企業庁「ものづくり補助金 新しいウィンドウで開く
参照:中小企業庁「事業再構築補助金 新しいウィンドウで開く

今後の見通し今後の経営ビジョン

木村:

弊社はITサポートを中心に事業展開をしており、特に教育機関向けのサポートに注力しております。GIGAスクール構想 新しいウィンドウで開くに関連する教育機関向けのICT支援や、直近ではコロナ禍のオンライン授業に必要な体制構築のご支援などを提供しております。
教育現場でのICT活用は今後も増え続けていきますので、教職員の皆さまや学生、生徒の指導・学習環境向上を支え、将来を担う人材育成の一助となるよう精進いたします。

参照:文部科学省「GIGAスクール構想 新しいウィンドウで開く

今後の資金調達

木村:

大変ありがたいことに案件が増加しているため、今年度での増員計画をしております。新規採用となるため、キャリアアップ助成金などを活用した資金調達計画を始め、申請できる補助金の情報収集なども進めていきたいです。

最後に一言

木村:

創業者はなんでもできてしまうタイプの方が多いと思いますが、すべてを自分だけでやっていると、会社の成長はある一定の地点で止まってしまいます。ある程度の道筋ができたら社員に任せていくことや専門家に相談すること、弥生会計のようなITツールを導入するなどして、資金調達や経営情報の収集など、自分にしかできない仕事に注力することが会社の成長には大切です。頑張っていきましょう。

木村 秀和(株式会社アシストメイト 代表取締役)

大学卒業後、派遣社員としてITエンジニア経験を積み、大手小売業のIT部門に中途入社。その後、過労により退職。リーマンショックなどの紆余曲折を経て、2010年に個人事業で創業し、2011年に法人化。2021年で法人10期目。青年会議所などにも参加し、ボランティアや地域活動にも積極的に参加している。いろいろな活動で得た人とのつながりに感謝しつつ、会社としても個人としても、社会に貢献できことを目指したい。趣味は旅行とPCいじり。

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