リーガルテック領域で急成長を遂げる注目のベンチャー企業/VCからの資金調達事例「株式会社LegalForce」

テクノロジー発展により、契約書のレビュー(チェック)作業をサポートしてくれるサービスが登場し、多くの企業で活用されています。国内のリーガルテックサービスといえば、LegalForce(リーガルフォース)を思い出す方も多いでしょう。

同社は当時日本ではほとんど知られていなかったリーガルテック領域で創業し、これまで5回の資金調達を実施しています。そこで今回は、株式会社LegalForce 執行役員 経営企画担当の大木 晃(おおき あきら)さんに、同社における資金調達のポイントや苦労された点などについてお話を伺いました。

企業の概要

創業のきっかけと、創業時の資金調達で苦労したポイントを教えてください。

大木:

弊社の創業者で弁護士でもある角田と小笠原が大手法律事務所に勤務していた当時、契約書のチェックなどの契約業務にテクノロジーが利用されず、非効率を生んでいることに課題を感じていたためです。契約書は一度締結してしまうと戻れないという不可逆性を持つため、ミスを発生させないために細心の注意を払う必要がありますが、弁護士も人間なので絶対にミスがないとは言い切れません。2016年当時、欧米ではAIを活用したリーガルサービスが登場しはじめていました。今後、日本でも同じ流れになることは必然であると考えた2人は、LegalForceを創業するに至ったのです。

創業当時、テクノロジーを利用した契約チェックというサービスは存在せず、ニッチなイメージのある法務領域を対象としていたこと、製品がまだ確立していなかったことから、製品の可能性や理念をいかに信じていただけるかという点で、最初の資金調達時は非常に苦労したと聞いています。市場規模のポテンシャルがどれくらいあるのかを示すことが、最初の課題だったそうです。

現在のビジネスモデルについて教えてください。

大木:

弊社はクラウドベースでソフトウェアサービスを提供しているいわゆるSaaSのスタートアップであり、契約領域で2つの製品を中心に展開しています。

Saasとは

「Software as a Service」の略で、ベンダーが提供するクラウドサーバーにあるソフトウェアを、インターネット経由してユーザーが利用できるサービスのこと。

大木:

1つ目が「LegalForce」という、お客さまの契約書チェックをテクノロジーを活用してサポートする製品です。もう1つが、契約締結後の契約書をクラウド上で管理する「LegalForceキャビネ」という製品です。

資金調達に至った経緯

何がきっかけで資金調達が必要になりましたか。

大木:

LegalForceを創業しソフトウェアサービスを開発して提供するには会社としての体制を整え、人材を採用する必要があります。角田と小笠原は2017年3月に法律事務所ZeLoを立ち上げ、その翌月に株式会社LegalForceを創業しました。

2017年9月にエンジニアである時武が入社してサービスの開発が進み、β版として提供を開始したのは創業から1年後の2018年4月でした。法律事務所ZeLoで収益を得て、外部からの資金調達を行わずに時間をかけて事業を成長させる選択肢もあり得ましたが、早期に製品を世の中に届けたいという気持ちを大事にしていたため、事業成長を加速させるためにエクイティ調達(資本による調達)を決断しました。

スタートアップ企業の資金調達方法はベンチャーキャピタル(VC)からの出資が主となります。私たちも創業から約1年経った2018年2月から3月にかけて、複数のエンジェル投資家やVCから出資をいただきました。それがシードラウンドといわれる、いわゆる最初の資金調達になります。

ベンチャーキャピタル(VC)とは

高い成長率が期待されるスタートアップや、未上場のベンチャー(振興)企業にたいして出資する形で投資をして株式を取得しておき、将来その企業が上場した際に株式を売却して値上がり益獲得を目指す投資会社や投資ファンドのこと。

エンジェル投資家とは

起業して間もない企業に対して、資金を出資する個人投資家のこと。

資金調達先を選んだポイントなどについて教えてください。

大木:

最初の資金調達は、そもそもこちらが選ぶ立場ではなかったので、弊社を選んでいただいたところに出資していただいたというのが正直なところです。シードラウンドの出資が2018年2、3月で、β版の提供を開始したのが4月なので、調達時点では製品は存在していませんでした。事業の可能性を信じてくださったVCの方に出資・投資をしていただいたというのが実情です。

資金調達の実施

資金調達の概要(大まかな金額、時期)を教えてください。

大木:

2018年3月のシードラウンドで8,000万円の調達を行ったことを皮切りとして、同年11月に約5億円(シリーズA)、2020年2月に約10億円(シリーズB)、2021年2月に約27億円(シリーズC)、2022年6月に約137億円を調達しています。創業時からの累計調達額は株主資本のみで約179億円となります。またこれとは別に、銀行からの融資による調達も直近2年間は行っています。

シリーズとは

シリーズ(投資ラウンド)とは、VCにおける投資判断時に用いられる用語。「シリーズA」「シリーズB」「シリーズC」は、企業を成長過程別に分類したもの。

シリーズA

シリーズAは本格的に事業がスタートし、顧客が増え始める成長段階。今後さらなる成長をとげるために採用活動や設備投資などを検討する時期であり、資金不足になりがちな時期となっている。

シリーズB

シリーズBは、事業が軌道に乗りはじめ、収益が伸びて安定しはじめる成長段階。

シリーズC・D

一般に経営が安定し、M&Aなどを意識する段階がシリーズC以降となる。VCなどの投資ファンドの投資資金回収を実施するために、十分な売り上げ確保と利益が必要な時期。

VCにアプローチするときの一連の流れをご説明いただけますでしょうか。

大木:

ご連絡をいただく場合もあれば、こちらからアプローチしてアポイントメントをとるケースもありますし、既存株主や知り合いからご紹介いただくこともあります。最近は証券会社主催のカンファレンスに参加することで、新たな投資家の方にお会いする機会も増えてきました。

初回のミーティングではお互いの紹介をしたうえで、LegalForceがどのようなことを行っていて、今後どのように事業を伸ばしていくのかというご紹介します。実際に投資を検討いただく段階になると、企業価値、出資金額、その他主要な契約条件を合意したうえで、契約に落とし込んで締結に至るという流れです。

またVCから資金調達をする際には、当該資金調達シリーズを取りまとめる「リード投資家」を決めて進めるケースも多いです。まず、1社のリード投資家とタームシートで大まかな条件を合意し、同条件で参加いただけるフォロー投資家を探すという流れです。

資金調達時に、VCや金融機関からどのようなサポートが得られましたか?

大木:

リード投資家が他のフォロー投資家との間に入って、各種調整をサポートいただいたことがありました。スタートアップは人的リソースが不足していることが多いため、投資実行にあたって必要な契約上の細かい詰めや、立場の異なる各投資家との調整を一緒になってまとめていただけて非常に助かりました。

資金調達後について

調達した資金はどのようなことに使いましたか。

大木:

初期ラウンドの頃は、基本的にほぼ人件費に費やしました。製品を開発するためにまずエンジニアを採用する必要がありましたし、弊社の製品はB to Bということもあって販促活動を行う上で営業組織を拡充する必要がありました。

金融機関とは現在どのような付き合い方をされていますか。

大木:

弊社の株主にはメガバンク系VCがいらっしゃいますので、銀行のネットワークを活用したビジネスマッチングなど事業面でもサポートしていただいています。自社のみでいきなりネットワークを拡大することは難しいため、これらのサポートは大変ありがたいです。

また、2021年2月にオフィス移転を行った際、初めて銀行から融資をしていただきました。その後、同年12月には総額15億円の借入も実行しています。

最後に

ベンチャー企業が資金調達を行ううえでのポイントはありますか?

大木:

VCから出資していただくためには「今はまだできたばかりの市場なので小さいですが、将来的にはこれぐらい成長する可能性があります」など、市場のポテンシャルを説明して、理解していただくことが大切です。

会社概要、製品説明、事業モデル、事業計画などをまとめた数十枚の資料を用意し、どのような事業を運営していて、どこに向かって進むんでいくのかを示します。ただし資料で完結することはありませんので、継続的なご説明や、デューディリジェンスを通じて理解を深めていただいたうえで、投資判断を行っていただきます。

一方、銀行借入の場合、返済計画を示すことが重要なポイントとなります。

弊社はスタートアップということもあり、財務基盤が強いわけではありませんがSaaSという事業モデルの特性として取引数が急減することはありませんので、安定性を強みとして説明をすることが多かったです。

加えて競合優位性や参入障壁の高さを訴求することも重要なポイントと考えます。

資金調達を実施する際には、事業計画などの資料作成が欠かせませんが、作成時のポイントなどがあれば教えてください。

大木:

初期の頃は、計画といっても綿密な計画を作成することは難しいと思いますので、事業計画よりも製品の可能性や理念をいかに信じていただけるかが重要です。

一方、製品がローンチして実績が積み重なってくると、実績を踏まえて将来性を説明できることが必要になるかと思います。

最後に、これから資金調達を考える事業者さまへアドバイスをお願いします。

大木:

個社ごとの状態やニーズによって、どの手法で資金調達をするのか千差万別なので、自社に合った形でやることが大前提です。

例えば、弊社のようなスタートアップで「初期は積極的に投資して事業を拡大しよう」と考えるなら株式による資金調達の方がよいでしょう。しかしキャッシュフローの見通しが立ちやすい場合は、株式ではなく銀行融資による資金調達を行った方がよいと思います。

大木 晃(株式会社LegalForce 経営企画担当)

東京大学 経済学部卒業後、2011年4月、野村証券株式会社に入社し、投資銀行部門にて引受業務に従事。2019年5月、University of Texas at Austin (MBA) 修了。投資銀行部門に戻りM&A業務に従事。2021年5月、経理財務責任者としてLegalForceに入社。2022年4月、執行役員 経営企画担当 現職。

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