中小業企業における不動産活用の目的とメリット・デメリット

2022/08/29

中小企業でも、経営に不動産を活用していこうとする考え方は重要です。

一般的に不動産の活用といえば、企業が保有している不動産の賃貸や売却がイメージされるかもしれません。しかし、ここでは企業の不動産を単に保有するだけでなく、戦略的に活用していくことを指します。

中小企業で不動産を活用することの目的と、上手に活用した場合の効果を説明します。

不動産活用の目的

中小企業における不動産活用の目的は、不動産を購入、売買、投資、担保活用することで、企業全体としての価値を高めることを意味します。

企業の不動産について『CRE(Corporate Real Estate)戦略』という考え方があります。これは、企業の不動産を企業価値向上の観点から、経営戦略的視点に立って見直しを行い、不動産投資の効率性を最大限向上させていこうというものです。

不動産活用の重要性

不動産を戦略的に活用する方法として、不動産を本業で利用したり、売買や賃貸したり、有望なビルや不動産事業に投資したりして利益を得る方法があります。

また、資金調達の際に不動産担保として活用し、スピーディに資金調達することで他の事業に投資する方法もあります。保有している遊休土地を売却するという選択だけでなく、そこに賃貸住宅などを建て、賃料を得ることで安定した収入を増やすことも可能でしょう。

中小企業の場合、経営者(創業者)の資産と会社の資産の区別があいまいなことが多い傾向にあります。それは、金融機関から融資を受ける際に経営者が保証人となって、個人所有の不動産を担保提供しているからです。

会社と経営者の資産の区別を明確にし、不動産活用をしっかり考えていくことは大切なことです。不動産の戦略的活用は、経営を次の世代に引き継ぐ事業承継の際に、有効な手段になり得るのです。

例えば、会社の事業承継では、現在の経営者の所有する株式を新しい経営者に譲渡することになります。この場合、新しい経営者に譲渡すために株価を計算しますが、内部留保が多く純資産額が高い会社の株価は想定以上に高くなり、新しい経営者の負担となります。

このようなケースでは、会社で土地を購入すると株価を引き下げる効果があります。土地の評価額は路線価が基準(市場取引の70~80%程の価額)ですので、会社の資産を現金預金より土地で持っている方が、土地が低く評価される分だけ純資産額が低くなります。

このようにさまざまな観点から、中小企業経営にとって不動産を活用することは重要なのです。

不動産活用のメリット

不動産活用のメリットには、主に以下のものが挙げられます。

  • 1.
    資金調達力向上
  • 2.
    経営の柔軟性・スピードの確保
  • 3.
    不動産収益を上げる
  • 4.
    経営におけるリスク管理
  • 5.
    企業ブランドの確立
  • 6.
    事業承継問題の解決
  • 7.
    従業員満足度の向上

以下、順に解説していきます。

1.資金調達力向上

企業が不動産を保有している場合、その不動産を担保にして金融機関から融資を受けられます。不動産担保がある場合は、無担保での融資申し込みよりも資金調達しやすいと考えられます。

資金調達を行うには、融資を返済できるかどうかや、その保有する不動産に担保余力があるかどうかが重要です。

金融機関は、担保を評価する際に担保余力をチェックしています。担保余力とは、不動産に他の融資のための担保が既に設定されている場合に、その担保設定額や担保付き融資の残高を差し引いた額のことです。

不動産担保融資については「不動産担保付融資による資金調達」で詳しく解説いたします。

2.経営の柔軟性・スピードの確保

1.資金調達力向上」とも関連しますが、不動産があり、その担保余力もあれば経営の柔軟性やスピードが確保できます。

資金繰りに心配がある企業は、売上が落ちていても、これまでの事業に頼らざるを得ないなど経営の柔軟性を失ってしまうことがあります。また、売上拡大のチャンスに大量仕入れができず販売機会を逃してしまうなど、スピード感を持った経営ができないといった結果になりかねません。

もし不動産を活用して資金ができれば、既存事業のテコ入れと同時に新規事業を始めることも可能です。また、売れ筋商品も販売機会を逃すことなく大量に仕入れ、価格交渉まで並行して進めるなど、経営に柔軟性・スピード感を持たせる効果が期待できます。

3.不動産収益を上げる

現在の事業が好調であっても、事業には「ライフサイクル」があります。今は華やかなビジネスも、時間が経過すると業界の上位企業のみが大きな収益を上げて、多くの同業他社は厳しい状況に置かれてしまいがちなのです。

「創業期」「成長期」「安定期」「衰退期」という事業サイクルは、かつては20~30年間といわれていました。しかし、現在は10~15年と半減しています。

年数が経てば、企業は徐々に衰退期を迎えます。この時、新規事業に転換しようとしても、それは容易ではなく、かつある程度の期間も必要です。

もしその期間に不動産を有効活用し、賃料収入などを得ることができれば、企業にとってセーフティネットとしての役割を果たすことにもなります。さらに、この収入をもとに新規事業の検討も可能かもしれません。

4.経営におけるリスク管理

3.不動産収益を上げる」で説明したように、不動産収入はセーフティネットの役割も果たします。

さらに「1.資金調達力向上」で説明したように、不動産に担保余力があれば資金力に余裕ができ、経営に行き詰まってもある程度耐えられます。

ひとまず目先の資金繰りが何とかできれば、リスクに向き合い問題を解決するための時間が稼げますから、資本力に乏しい企業に比べると圧倒的に有利です。このように、不動産活用をすることは経営上のリスク管理にもつながります。

5.企業ブランドの確立

企業ブランドは、他社と比べて独自の価値を持つものです。その独自性によって選ばれる企業となして成長でき、競争力向上も可能となります。

例えば、建築デザイン会社が自社デザインのオフィスで顧客とミーティングをする場合、その場でデザインを実績として見てもらうことが可能です。

また、既存の老朽化した社宅を建て替える際に増築して一部を賃貸住宅として一般の方に貸し出すと、従業員の就業満足度や企業への帰属意識向上につながると同時に、賃貸収入を得られます。

不動産の有効活用は、このような経営姿勢に対する評価を社内外から受けることにもつながり、自社の企業ブランドの確立に役立つのです。

6.事業承継問題の解決

中小企業の事業承継で、経営者である両親の株式を子が買い受ける場合、内部留保が潤沢だと株価が高くて買い取れなかったり、相続税や贈与税などの納税ができないなどの問題が生じることもあります。このような事業承継問題を解決するには、計画的な事前準備が必要です。

例えば、不動産を購入することで現金を減らして相続税や贈与税をおさえる方法や、所有している不動産の評価見直しや自社株の評価額を下げられないかなど、専門的な知識を基にアドバイスしてもらうといいでしょう。まずは、顧問税理士などの専門家に相談することをおすすめします。

7.従業員満足度の向上

オフィスが自社所有であれば、これを改装することで働きやすい環境を提供することが可能です。

また福利厚生としての社宅は、社員の就業意欲・満足度・企業への帰属意識向上につながる可能性があります。

例えば、不動産活用として社宅を保有しているケースを考えてみましょう。相対的に若手社員が多い場合、社宅を安価で貸すことは金銭的なメリットだけでなく、そこでの共同生活が一体感をもたらし、従業員同士の関係性が深めることにもつながります。これは、仕事においてもプラスに作用することが期待できるでしょう。

土地を購入して賃貸住宅を建てるケースでは、借り上げ社宅と異なり空室があれば一般の方に貸すことも可能です。もし経営が良くない状況になった場合には、売却して資金を得ることもできます。

不動産活用のデメリット

不動産活用には、メリットがある一方でデメリットもあります。不動産活用は、デメリットを理解したうえで検討していく必要があります。

デメリットには、主に以下のものが挙げられます。

  • 1.
    購入と売却に手間がかかる
  • 2.
    維持管理が必要
  • 3.
    固定資産税がかかる
  • 4.
    空室リスクがある
  • 5.
    災害リスクがある

1.購入と売却に手間がかかる

不動産は「売りたい」「買いたい」と思っても、相手がいますので時間がかかり、すぐには売買できません。また金融機関の融資審査などがあり、手間もかかります。

2.維持管理が必要

不動産はその価値を維持し、賃貸している場合には管理をする必要があります。建物は新築以降、時間の経過とともに古くなっていくため、老朽化した建物の修繕や故障した設備の買い替えなどを行わなければならず、その分の費用がかかります。

3.固定資産税がかかる

不動産を所有していることで、固定資産税が課税されます。固定資産税額は土地と建物それぞれに課され、面積や地価、建物構造などによって決定されます。

4.空室リスクがある

賃貸経営の場合、賃貸募集してから入居者が決まるまでの期間は空室となります。また、入居者が引越しなどで退去した場合にも空室となります。空室期間が長引くと収益が減ってしまう、空室リスクがあります。

5.災害リスクがある

建物は、地震で倒壊したり火災で消失したりしてしまうことを想定する必要があります。このような災害リスクに備えるには、地震保険や火災保険などに加入する方法がありますが、これには保険費用がかかります。

著者:星 武志(経営コンサルタント)

株式会社アスタリスク代表取締役。金融機関、コンサルタント企業、IT企業を経て、2000年代表取締役就任。IT企業、不動産業、商社等の経営戦略、財務戦略、管理会計支援等 を行う。
これまで、銀行等の金融機関の研修・講演講師を70行庫以上務める。主な著書は「渉外マンの現場力/近代セールス社」金融商品取引法・各種業法に基づく「金融商品セールス対応話法集/銀行研修社」等でありその他金融機関向け、雑誌連載実績等多数。

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