災害・疾病等、環境変化による緊急時の資金調達(2)

2020/04/17(2021/9/15更新)

企業がとるべき資金調達活動について

もし万が一、実際に災害・疾病の流行等にあったら、企業としてどのような行動をすればよいのでしょうか?

ここでは「資金調達」に特化してご説明いたします。専門家によって様々な考え方があると思われますが、一般的には以下の順番で対応することをお勧めいたします。なお、以下に説明する項目については、優先順位をつけたものの、実際に災害・疾病の流行等にあった場合は、ほぼ同時に行動、判断する必要があると思われます。

1. 身の安全の確保、避難を最優先に行う

まずは、中小企業BCP支援ガイドブック 新しいウィンドウで開くにも書かれているように、「身の安全の確保、避難」を最優先にしてください。自分と従業員の命を守りましょう。

2. 被害額の算定及び必要資金額の算定をする

直ぐに被災・影響の状況を概算でよいので把握してください。そして、現在の自社の現預金額も考慮しながら、必要な「資金調達額」を試算してください。地震、台風、豪雨などの場合は、設備などの固定資産の被害が甚大になります。ウイルスや細菌などの場合は、設備より運転資金が必要になると思われます。

しかし実際には、災害にあった状況でこのような試算を即算出することは困難だと思われます。そのためにも、平時に「BCP(緊急時企業存続計画または事業継続計画)」を作成しておき、およその概算を算出しておくことを強くお勧めします。

なお、災害にあった場合は多くの事業者が「罹災証明」の申請をすることになると思われますので、被害を受けた建物、設備などの写真撮影をすることを忘れないでください。
また、売上の減少を証明するために、普段からこまめに帳簿づけをいただければと思います。

3. 政府などの「中小企業支援策」を調べる

「2. 被害額の算定及び必要資金額の算定をする」のと同時に、迅速に経済産業省、中小企業庁、日本政策金融公庫のホームページなどに、また、ウイルスや細菌などの場合は厚生労働省のホームページなどにアクセスして支援策について調べてください。

主な支援策は、

  • 一般より有利な条件で借入ができる「融資」
  • 金融機関からの借入に対して保証人として保証をする「保証」
  • 返済不要の資金を提供する「補助金・助成金」
  • 上記支援策や対策について相談できる「相談窓口」

の4種類となることが一般的です。

これらの制度のことが分かりにくいようでしたら、設置される相談窓口や取引先の金融機関、顧問税理士や資金調達の専門家に相談するようにしてください。

4. 金融機関への迅速な相談、手続きを行う

災害等にあった場合は、まずは手元資金を増やすことを考えてください。「必要以上に借りる必要はない」という考え方もありますが、キャッシュがなくなれば資金ショートを起こします。資金ショートすれば事実上の倒産状態に陥る可能性が高くなります。

まずは、迅速に日本政策金融公庫等が実施している融資制度の相談と、申請手続きを行ってください。同時に取引先の金融機関にも融資相談をしてください。公的な支援制度に加え、取引先の金融機関にもプロパー融資を打診してみてください。

「保証」については、出来るだけ取引先の金融機関に相談しながら、申請手続きを行ってください。「保証」の中でも「セーフティネット保証4号、5号」「危機関連保証制度」は、市区町村に「認定申請」をしなければなりません。先に市区町村に行ってしまう事業者の方も多いのですが、できれば金融機関と密にコミュニケーションをとりながら認定申請の手続きをするようにして下さい。連携の結果、時間と労力の節約になる場合が多くあります。

災害等発生時に実施される日本政策金融公庫等の「融資制度」や「セーフティネット保証4号、5号」は、通常枠とは「別枠」にて実施されますので、既に通常枠を使い切っていても利用ができます。「危機関連保証制度」は更に「別枠」となりますので、通常枠・「セーフティネット保証4号、5号」の枠を使い切っていても利用ができます。

「相談・申請のコツ」

  • 諦めずに、粘り強く、感情的にならず論理的に交渉しましょう
  • 行政機関の大きな方針が、現場に浸透していないこともあります。行政機関が公表しているWebサイトやパンフレットに書いてあることを示して理解を求めましょう
  • 現場の人にどうしても理解してもらえない場合、現場に対し管理・監督権限がある行政機関が開設した相談窓口などで、現場の人が言っていることが正しいかどうか確認し、その結果を伝えましょう
  • 申請が上手くいかず、どうにもならなくなる前に、専門家や別の相談窓口に相談しましょう。別のルート・手段を紹介してくれたり、補助資料を準備してくれたり、説明に協力してくれる可能性があります

5. 支出の削減を検討する

災害等にあった際は、一時的に事業活動が停止しますので、売上高が激減する場合があります。企業継続のためには、出来る限り手元キャッシュを増やしておきたいので、迅速に資金調達活動をすると同時に、支出削減に取り組んでください。仕入れ、販管費など、各項目について削減できるものはないか精査してください。
公共料金や民間保険料金などの支払いも交渉により、猶予していただける場合があります。

また、本当に必要な支出まで削減しないように注意してください。その判断が難しい場合は、顧問税理士などに相談することをお勧めします。

6. 補助金、助成金などを検討する

資金調達方法は、融資ばかりではありません。補助金、助成金など利用できるものはないか調べましょう。たとえば、新型コロナウイルスに対しては、「ものづくり・商業・サービス補助金」「持続化補助金」「IT導入補助」に関しては、影響を受けている事業者に対して「低感染リスク型ビジネス枠」などの支援策が実施されています(2021年9月時点)。また雇用調整助成金などの要件緩和や「事業再構築補助金」などの新たな補助・助成制度が創設されています(2021年9月時点)。

7-1. 金融機関以外の資金調達方法を検討する

災害等にあった場合は、あらゆる選択肢を否定せずに検討するようにしてください。たとえば、以下のような方法があります。

  • 1.
    銀行以外からの融資
  • 2.
    ファクタリング(債権の譲渡による早期現金化)
  • 3.
    小規模企業共済、セーフティ共済の契約者貸し付け
    https://www.smrj.go.jp/kyosai/ 新しいウィンドウで開く
  • 4.
    法人保険の契約者貸し付け
  • 5.
    消費者金融、銀行などの個人向けローン

なお、それぞれの手法にメリット・デメリット、リスクがあります。たとえば、公的融資が実行されるまでには、申請額が急増するために時間がかかる場合があります。そういう場合は、即日融資が可能なAIオンランレンディングなどを利用するのも一案です。AI融資は、早ければ即日で融資が実行されます。公的融資が実行されたらすぐに返済するつもりで利用すれば、利子もそれほど大きな額にはならないはずです。

また、「ノンバンクを利用するならリスケジュールなど(返済猶予等の既往債務の条件変更等)を優先した方がよい」という考え方も間違っておりません。なお、リスケジュール中でもノンバンクから借り入れをすることが可能な場合もあります。安易に意思決定せずに、顧問税理士や事業再生等の専門家に相談してみましょう。

ただし、法律の枠外にあるいわゆる「闇金」「闇ファクタリング」に手をだすことはやめましょう。また、災害等が発生すると詐欺も増加しますので、注意しましょう。

7-2. リスケジュールなどを検討する

資金繰りが悪化しますと、金融機関への返済も困難になるケースも少なくありません。順番としては、出来る限り資金調達をして手元キャッシュを増やして、再生を図ります。しかしながら、どうしても借入金返済が困難になった場合は、リスケジュールを検討させざるを得ません。

災害等にあって直ぐにリスケジュールを申し入れるのも一つの考え方ですが、原則として、やはりリスケジュールをするとその後の借り入れは困難になってしまいます。メリット、デメリットを見極める必要があります。

これらの判断はとても専門性を有しますので、まずは顧問税理士に相談してみましょう。できれば事業再生や資金調達の専門家にご相談するようにしてください。

8. 国税、地方税、厚生年金保険料の猶予制度を活用する

急速な資金繰りの悪化に伴い、税金や公的保険料の支払いなどが困難になる場合があります。その場合は、猶予制度を利用するのも一案です。考えられるリスクとしては、原則として、これらの未払い、未納が発生した場合は金融機関としては積極的な融資をしにくくなる、ということです。しかしながら、災害が拡大している最中、税金などの未納が資金調達活動に影響が出るのかどうかについては何とも言い難いです。

そういう点についても理解しながら顧問税理士、顧問社会保険労務士などと相談をして決めるようにして下さい。

なお、新型コロナウイルス対策として、政府から「厚生年金保険料等の猶予制度」「税務申告・納付期限の延長」「国税の納付の猶予制度」「地方税の猶予制度」について公表されています(2020年4月時点)。

著者:吉田 学(財務・資金調達コンサルタント)

株式会社MBSコンサルティング代表取締役。1998年の起業以来、「資金繰り・資金調達支援」に特化して創業者や中小事業者を支援。これまでに1,000 社以上の資金調達相談・支援を行い、その資金調達支援総額は20億円超。
主な著書に、「社長のための資金調達100の方法」(ダイヤモンド社)、「究極の資金調達マニュアル」(こう書房)、「税理士・認定支援機関のための資金調達支援ガイド」(中央経済社)などがある。

また、全国の経営者・士業などを対象にした会員制の資金調達勉強会「資金調達サポート会(FSS)」を主催している。

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