障害者雇用で支給される補助金・助成金は? 支給の条件や種類一覧

スモールビジネスが補助金・助成金を支給するには

2023/08/23

「障害者雇用」とは、障害がある方が一人ひとりの能力や特性に応じて働けるよう、企業や自治体が取り組むべきものです。国や地方自治体では、障害者雇用を促進するためにさまざまな助成金や補助金を設けています。これは、従業員20人以下の中小企業や個人事業主のようなスモールビジネスでも、活用できるものなのでしょうか?
この記事では、障害者雇用によって支給される補助金・助成金の種類の他、事業者が申請する際のチェックポイントなどについてご紹介します。

障害者雇用の支援策

障害者雇用についての制度は、主に障害者の雇用の促進等に関する法律(障害者雇用促進法)によって定められました。従業員を43.5人以上雇用している事業主は、障害のある方を1人以上雇用することが義務付けられています。
しかし、法的義務のない従業員20人以下のスモールビジネス事業者でも、下記のように障害のある方を雇用することに対する国や地方自治体のサポートがあります。

補助金・助成金の支給

障害のある方と共に働くためには、職場のバリアフリー化のような職場環境の整備や、職場定着のための取り組みが必要になるケースもあります。国や地方自治体は、その環境整備のための補助金・助成金を設けています。障害者雇用によって、事業者は国や自治体から助成金や補助金の支給を受けられるのです。
この補助金・助成金による職場環境の整備が、結果的に健常者の働きやすさにつながることもあります。

障害者雇用に関して優良な取り組みを行う中小企業主に対する「もにす認定」

厚生労働省は、障害のある方の雇用促進・雇用安定に関して、優良な取り組みを行う中小事業主を認定する「もにす認定制度」を導入しています。
もにす認定制度は、スモールビジネス事業者を含む中小事業主(雇用する労働者数が常時300人以下)が対象です。障害者雇用への取り組みや成果、情報開示について一定の基準を満たすこと、障害のある方を法定雇用障害者数以上雇用していることなどが認定の条件となっています。認定を受けると、次のようなメリットがあります。

<もにす認定制度のメリット>

  • 商品や広告、事務所などに「障害者雇用優良中小事業主認定マーク(愛称、もにす)」が使用できる
  • 日本政策金融公庫の「働き方改革推進支援資金」の対象になり、低金利で融資が受けられる
  • 厚生労働省や都道府県労働局のWebサイトに掲載される
  • 公共調達(国・地方自治体が発注する工事など)において加点評価を受けられる場合がある

2020年に第1号の認定があって以降、認定されている企業は284事業主(2023年3月末時点)です。今後、障害者雇用の気運が高まる中で、ますます増えていく可能性があります。

「もにす認定」については、こちらを参照してください。

障害者雇用に関する優良な中小事業主に対する認定制度(もにす認定制度) 新しいウィンドウで開く

障害者雇用に取り組む意義とは?

43.5人に1人以上の割合(2.3%)の障害のある方を雇用する「障害者の法定雇用率」は法律によって定められています。しかし、従業員20人以下のスモールビジネス事業者にはその義務は適用されず、障害者雇用に取り組まなくてもペナルティはありません。
とはいえ、今後大きく成長していくつもりであるなら、下記のとおり、社会貢献の観点や人材確保のためにも、障害者雇用に早めに取り組んでおくことは重要です。

社会貢献につながる

国は、障害の有無にかかわらず、誰もがその能力と適性に応じた雇用の場に就き、地域で自立した生活を送ることができる社会の実現を目指すため、障害のある人の雇用対策を推進しています。スモールビジネス事業者でも障害者雇用に取り組めば、雇用の創出につながることはいうまでもありません。
また、今後成長していく事業者にとっては、ダイバーシティ(多様性)やインクルージョン(受容性)の観点からも、障害者雇用は当たり前のことになっていくでしょう。

人材不足解消になる

少子高齢化が進む日本においては、労働力不足が大きな課題になっています。特に、知名度が低いスモールビジネスにおいては、求人を出してもなかなか人が集まらないもの。そこで、障害者雇用により、人材を確保するのです。
障害のある方の中には、例えば肢体不自由で移動を伴う営業活動は難しくても、社内や在宅で行う業務であれば問題なく従事できる人もいます。また、特定の専門分野で優れた能力を持っている人もいるので、障害者雇用により自社にとって優秀な人材を確保できるケースもあるでしょう。

障害者雇用で支給される助成金の種類

障害者雇用や職場定着への取り組みを行ったり、職場環境を整えたりすると、助成金が受けられます。下記の表は、どのような場合に、どんな助成金が受けられるかをケースごとに分類したものです。
各助成金は、厚生労働省や独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構が管轄しています。詳細は各労働局・ハローワークなどのWebサイトで確認してみてください。

障害者雇用に関連する助成金の種類

ケース 助成金名 コースの種類 助成条件
障害のある方を雇用したケース 特定求職者雇用開発助成金 特定就職困難者コース ハローワークなどの紹介で、障害のある方を雇用する場合
発達障害者・難治性疾患患者雇用開発コース ハローワークなどの紹介で、発達障害のある方または難治性疾患患者を継続雇用し、配慮事項を把握・報告した場合
トライアル雇用助成金 障害者トライアルコース・障害者短時間トライアルコース 障害のある方を試行的に雇用した場合、または週20時間以上の勤務が難しい精神障害・発達障害のある方を20時間以上の勤務を目指して雇用を行った場合
障害者雇用のために施設整備や適切な雇用管理をしたケース 障害者雇用給付金制度に基づく助成金 職場の作業施設・福祉施設などの設置・整備、適切な雇用管理のために必要な介助などの措置、通勤を容易にするための措置などを講じた場合
障害のある方の職業能力を開発したケース 人材開発支援助成金(障害者職業訓練開発コース) 障害者職業能力開発訓練事業を行うための施設または設備の設置・整備または更新を行う場合
障害のある方を職場定着させるケース キャリアアップ助成金(障害者正社員化コース) 障害のある有期雇用労働者を正規雇用労働者などにした場合
障害者介助等助成金 職場介助者の配置または委嘱を継続して行った場合

障害者雇用で支給される補助金

障害のある方を雇用し、働きやすい環境を整えた事業者に対し、地方自治体によっては施設整備などにかかる費用の一部を助成しています。これらは「補助金」や「奨励金」など、名称も地方自治体により異なりますので、有無も含め、お住まいの地方自治体に確認することをおすすめします。

障害者雇用に関連する補助金の種類

ケース 補助金名 補助条件
障害のある方を雇用したケース 障害者雇用促進補助金(奨励金) 障害のある方を新規に雇用した場合
障害者雇用のために施設整備や適切な雇用管理をしたケース 障害者雇用施設等整備事業費補助金 障害のある方が就労しやすくするために雇用施設の玄関や階段、トイレなどの新築・増築または改築をした場合
障害者作業施設等整備事業補助金 障害のある方が就労しやすくするために作業施設の玄関や階段、トイレなどの新築・増築または改築をした場合

障害者雇用の条件

障害者雇用を促進するため、国は従業員100人以上の事業者に対して、一定人数の障害者雇用を求めています。ここでは、障害者雇用の制度と条件について解説します。

障害者手帳を交付された方を一定以上雇用する義務がある

障害のある方の雇用について法定雇用率を定めたのが「障害者雇用率制度」です。国は、従業員100人以上の事業者に、従業員43.5人につき1人以上(法定雇用率2.3%)の障害者雇用を義務付けています。法定雇用率を達成している場合は、「障害者雇用調整金」として1人当たり月額2万7,000円が支給されます。従業員100人以下の事業者の場合は「報奨金」として1人当たり月額2万1,000円です。一方で、従業員100人以上の事業者でこの法定雇用率を満たさない場合は、障害者雇用納付金が徴収されることになるのです。

ちなみに、法定雇用率は引き上げられることが決まっており、2024年4月からは40人に1人(2.5%)、2026年7月からは37.5人に1人(2.7%)となります。

障害者雇用制度の対象者

障害者雇用制度において対象となる障害のある方は、具体的には身体障害者手帳、療育手帳、精神障害者保健福祉手帳のいずれか(いわゆる障害者手帳)を持っている人のことを指します。具体的には、下記のとおりです。

障害者手帳の種類

名称 交付対象
身体障害者手帳 視覚、聴覚、手足や臓器など、身体の機能に一定以上の障害があると認められた人
療育手帳 児童相談所または知的障害者更生相談所において知的障害があると判断された人
精神障害者保健福祉手帳 統合失調症、気分(感情)障害、てんかん、発達障害、その他の精神疾患がある人

スモールビジネス事業者が障害者雇用の補助金・助成金を申請する時のチェックポイント

スモールビジネス事業者が障害者雇用に取り組んで、助成金や補助金を申請するとなったとき、どんなことに気を付けるべきなのでしょうか。ここでは、申請時のチェックポイントを見ていきましょう。

スモールビジネスは補助金・助成金申請時に法定雇用率を問われる可能性は少ない

43.5人以上の従業員を雇用している事業者は、1人以上の障害のある方を雇用することが法律で義務付けられています。障害者の法定雇用率は従業員の2.3%なので、「企業全体の常時雇用する労働者総数×法定雇用率(2.3%)」にあたる障害のある方を雇用する必要があるのです。

なお、多くの補助金・助成金は、事業者の法定雇用率達成の支援をするものです。しかし、従業員100人未満の事業者は法定雇用率を守る義務はあるものの、障害者雇用納付金の納付義務はありません。助成金ごとの要件を満たしていれば、従業員20人以下で障害者雇用について法的義務のないスモールビジネスでも申請できるのです。

障害のある方が働きやすい職場環境を整備する

障害のある方を雇用するためには、彼らが安全に働くことができる環境を整える必要があります。
事業者には安全配慮義務があり、設備などが整っていないためにケガをしてしまった場合には、安全配慮義務違反として損害賠償請求につながったりすることもあるからです。

職場環境の整備について、具体的には事業所内の段差を減らしたり、スロープを設置したりする他、扉を開き戸から引き戸に改修するといったことが挙げられます。障害の内容や程度は個々人によって異なりますから、ハローワーク管轄の障害者雇用に関するアドバイザーに相談し、アドバイスを積極的に受け、職場環境の整備に努めましょう。

故意ではなくても不正受給には気を付ける

故意に障害者雇用に関する補助金・助成金の不正受給をしてはいけないのはいうまでもありませんが、過失による不正受給にも気を付けてください。障害者雇用は弱者を支援する制度という特性もあるため、補助金・助成金の審査は厳密に行われる傾向があるといわれています。

例えば、書類の記載ミスで本来より多い金額を受け取ってしまったり、対象従業員のカウント方法に誤りがあったりした場合です。自社で点検して、誤りが見つかった場合は、修正を申し出ればペナルティを回避することができます。
時には行政が抜き打ち検査を行い、従業員に直接ヒアリングをするケースもあります。もし悪質と判断されれば、事業者名の公表や逮捕もあるので注意してください。

スモールビジネス事業者が障害者雇用制度をうまく活用する方法

法的義務のないスモールビジネス事業者でも、障害者雇用は決して不可能ではありません。ここでは、実際に障害者雇用に取り組んだ事例をもとに、障害者雇用をうまく活用する方法をご紹介します。

ハローワークの指名求人を活用するとスムースな雇用と助成金申請ができる

ハローワークを通じて求人を行う際、求人票は不特定多数の人に見られることになります。それを防ぎ、求人票の番号を特定の人にのみ共有するのが「指名求人」という方法です。
指名求人の仕組みを使うと、雇用しようと考えている障害のある方を確実に雇い入れることが可能になります。また、ハローワークを通した求人を行うことにより、助成金を受給しやすいというメリットもあります。

外部の障害者就労施設と連携する

スモールビジネスが障害のある方を直接雇用するとなれば、さまざまなハードルが生じるでしょう。そこで、障害のある方が働いている就労施設と連携し、特定の業務のみを委託して、相応の報酬を払うというパターンもあります。
外部委託という形で障害のある方に活躍してもらい、自社の人手不足を解消するという選択肢も考えられます。

組織風土変革のきっかけにする

数十人規模の事業者で「障害者雇用によって組織風土が変革できた」といったケースもあります。障害者の方に仕事を教えるに当たって、改めて指導方法の見直しなどが行われると同時に、社員同士の連携が良くなって殺伐としがちだった職場が温かみのある職場に変わり、結果的にパフォーマンスや業績が上がったのです。
障害者雇用が職場の課題解決につながり、既存の社員にとっても働きやすい職場環境が整った好例といえるでしょう。

障害者雇用をイノベーションや働き方改革の起点にしよう

2024年から障害者の法定雇用率が引き上げられることになり、今後ますます障害者雇用に向き合う姿勢が注目されていくはず。それは大企業のみならず、法的義務のない100人未満の事業者でも同様です。

多様性や受容性はイノベーションの起点であり、障害者雇用が働きやすい環境を整えるきっかけになることは大いに考えられます。
成長意欲の高いスモールビジネスにおいては、補助金・助成金をうまく活用しながら、障害のある方の能力をフルに発揮してもらえる職場づくりに取り組んでいきましょう。

補助金・助成金活用に必要な基礎知識についてはこちらの記事で解説していますので、参考にしてください。

補助金・助成金の基礎知識

監修者:金野 美香

有限会社人事・労務ヘッドESコンサルタント。厚生労働省認定キャリアデベロップメント・アドバイザー。一般社団法人日本ES開発協会代表理事。

福島大学行政社会学部卒業後、有限会社人事・労務にて、日本初のES(人間性尊重経営)コンサルタントとして、企業をはじめ、大学、商工団体で講師を務めるなど幅広く活動する。“会社と社員の懸け橋”という信念のもと、介護事業所や福祉施設、製造業、サービス業などさまざまな中小企業でのクレドづくり・ES組織開発に取り組む。また、「日本の未来の“はたらくカタチ”をつくる」をテーマに、社員一人ひとりが地域社会との接点を持ち共感資本を高めるための活動を推進中。

監修者:髙橋 健太

有限会社人事・労務チーフコンサルタント。行政書士。

中央大学法学部卒業後、早稲田大学大学院法務研究科を経て、有限会社人事・労務に入社。労働・社会保険手続き、給与計算、規則規程の整備などの業務を中心に企業の体制を整えるサポートに関わる。多岐にわたって求められるさまざまな働き方を実現し、個々の能力を十分に活かせる環境作りを支援中。新しい働き方を行うコミュニティカンパニーの設立支援に携わる。

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