経営者保証ガイドラインの活用(5) 事業承継時の対応と二重徴求の原則禁止の特則

2022/02/22

「経営者保証に関するガイドライン(以下、ガイドライン)」では、事業承継時に経営者保証を引き継がせたくない場合の対応について記載されています。さらに令和元年(2019年)12月にガイドラインの「特則」が策定され、二重徴求の原則禁止が盛り込まれました。今回は、この「事業承継時の対応」と「二重徴求の原則禁止の特則」について説明いたします。

事業承継時の対応について

「経営者」が事業承継時に「後継者」に、できれば経営者保証を引き継がせたくないと考えるのは当然だと思われます。例えば、父親が自分の子供に事業承継する際に10億円の経営者保証があるとしたら、父親としてはその経営者保証を後継者である子供に引き継がせるのは心苦しいでしょう。また、後継者である子供としても大きな不安を抱きます。その結果、事業承継が思うように進捗しなくなるケースも少なくありません。

そのようなケースに対して、ガイドラインには「事業承継時の対応」【6項(2)】で、どのように対応すればよいのかが具体的に示されています。

債務者と保証人(事業者側)はどのように対応すればよいのか

「事業承継を行うので個人保証を解除したい」「後継者が保証なしで融資を受けたい」「旧経営者の保証を解除したい」というようなケースに対して、ガイドラインでは、経営者(及び後継者)がやるべき対応として、以下の3つが示されています。

主たる債務者及び保証人における3つの対応【4項(1)】
  • 1.
    法人と経営者との関係の明確な区分・分離
  • 2.
    財務基盤の強化
  • 3.
    財務状況の正確な把握、適時適切な情報開示等による経営の透明性確保

この3つの対応については「経営者保証ガイドラインの活用(3)~経営者保証を外すための3つの対応と交渉ポイント~」にて既に説明していますので、そちらで確認してください。

なおガイドラインでは「経営者保証なしで融資を受ける」または「経営者保証を解除したい」という場合に、経営者がやるべき対応策として共通してこの3項目が常に示されています。

債権者(金融機関等)はどのような対応をするのか

主たる債務者及び後継者からの要望に対して、対象債権者(金融機関等)の対応についてはガイドラインにおいて、以下の5つの要件が示されています。

対象債権者における5つの要件〉【4項(2)】
  • 1.
    法人と経営者個人の資産・経理が明確に分離されている。
  • 2.
    法人と経営者の間の資金のやりとりが、社会通念上適切な範囲を超えない。
  • 3.
    法人のみの資産・収益力で借入返済が可能と判断し得る。
  • 4.
    法人から適時適切に財務情報等が提供されている。
  • 5.
    経営者等から十分な物的担保の提供がある。

この5つの要件と債権者(金融機関等)の対応については「経営者保証ガイドラインの活用(4)~金融機関の対応と経営者保証の代替融資方法~」にて既に説明していますので、そちらで確認してください。

なおガイドラインでは「経営者保証なしで融資を受ける」または「経営者保証を解除したい」という要請があった場合に、対象債権者に対応をする際の要件として共通してこの5項目が常に示されています。

「後継者」および「前経営者」の保証契約について

後継者との保証契約の締結について

ガイドラインでは「対象債権者(金融機関等)は、前経営者(例えば父親)が負担する保証債務について、後継者(子供など)に当然に引き継がせるものではない」としています。

そして「必要な情報開示を得た上で、上の5項目に則して保証契約の必要性等について改めて検討して、どうしても保証契約が必要な場合には、その必要性について丁寧かつ具体的に説明するように努める」と書かれています。

つまり事業承継の際に、金融機関から「息子さんに事業承継をするのであれば、経営者保証も当然のように引き継いでほしい」と言われたら「ガイドラインに沿って検討をしてほしい。それでも保証契約が必要であれば、ていねいに具体的に説明してほしい」と要望してもよいのです。

前経営者との保証契約の解除について

ガイドラインでは「対象債権者(金融機関等)は、前経営者から保証契約の解除を求められた場合には、前経営者が引き続き実質的な経営権・支配権を有しているか否か、当該保証契約以外の手段による既存債権の保全の状況、法人の資産・収益力による借入返済能力等を勘案しつつ、保証契約の解除について適切に判断すること」と書かれています。

事業承継の際に、金融機関から「息子さんが継いでも支援をしていきますから、社長(前経営者)の経営者保証は継続してください」と言われて、そのまま保証契約を残している場合があります。

これについても「『前経営者(父親)が引き続き実質的な経営権・支配権を有しているか否か』『法人の資産・収益力による借入返済能力があるのか』などを考慮しながら、金融機関は保証の解除について検討すること」と書かれています。前経営者はガイドラインに沿った対応を金融機関に求めることができるのです。

事業承継時に焦点を当てたガイドラインの特則~二重徴求の原則禁止~

平成26年(2014年)2月にガイドラインの運用が開始されましたが、事業承継に際しては、経営者保証を理由に後継者候補が承継を拒否するケースが少なくありません。

そのような状況を受けて、「原則として前経営者、後継者の双方からの二重徴求を行わない」という内容を盛り込んだ「ガイドラインの特則」が策定され、令和元年(2019年)12月に公表されました。本特則は、ガイドラインを補完するものとして、事業承継に際して期待される具体的な取り扱いを定めたものです。

これには「後継者との保証契約に関しては、事業承継の阻害要因にならないように十分な考慮が必要であり、前経営者との保証契約に関しては、保証解除に向けて適切に見直すことが必要である」と書かれています。また、この判断に当たっては「対象債権者における対応【第4項(2)】」に即して検討をして、合理的かつ納得性のある対応を行うことが求められています。

つまり、事業承継時に金融機関から二重徴求が求められた場合には「ガイドライン特則に則して判断してほしい」ということを主張できます。最終的には金融機関側の判断になりますが、主たる債務者及び後継者はガイドラインや特則を最大限活用して、交渉できるのです。

例えば後継者が完全に事業を引き継ぐ前に、金融機関から「後を継ぐということを(金融機関に)示すために、経営者保証に入ってほしい」という要望があった場合に、ガイドラインでは「対象債権者(金融機関等)は、前経営者が負担する保証債務について、後継者に当然に引き継がせるものではない」とされていますので、「ガイドラインに即して対応してほしい」と主張し、個人保証などの交渉をすることができます。また、保証をする場合でも、将来的に「外せる基準」について丁寧に教えてもらうことも大切です。

著者:吉田 学(財務・資金調達コンサルタント)

株式会社MBSコンサルティング代表取締役。1998年の起業以来、「資金繰り・資金調達支援」に特化して創業者や中小事業者を支援。これまでに1,000 社以上の資金調達相談・支援を行い、その資金調達支援総額は20億円超。
主な著書に、「社長のための資金調達100の方法」(ダイヤモンド社)、「究極の資金調達マニュアル」(こう書房)、「税理士・認定支援機関のための資金調達支援ガイド」(中央経済社)などがある。

また、全国の経営者・士業などを対象にした会員制の資金調達勉強会「資金調達サポート会(FSS)」を主催している。

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