事業承継ファイナンス(4)
~民間金融機関の事業承継支援~
2024-04-23更新
借換における注意点
2021/06/03
借換は毎月の返済額を削減したり、金利を引き下げたり、様々な効果があります。特に業績のよい事業者においては金融機関対策として、是非検討していただきたいものです。しかしながら、借換はテクニカルな交渉事であるという側面もあります。今回は、借換における基本的な注意点などについて説明いたします。
事業者が金融機関に借換を申し出る際には以下の2点について注意してください。
1についてですが、特に業績のよい事業者は、より金利の低い金融機関に借換をしていくことによって金利負担コストを削減しようとします。これは決して間違いではないのですが、過度にやりすぎますと金融機関からの信頼・信用を失いかねません。
また一部の専門家の中には、徹底的に金融機関を天秤にかけて(競合させて)金利を引き下げさせるというやり方を指導する方もいます。たとえば以下のような会社があるとしましょう。
〈例〉借入状況
現在、特に毎月の返済が厳しいということはありませんが、業績が安定しているので、借換をすることによって、金利の引き下げを検討しています。
たとえば、A銀行の金利が高いので、これを引き下げるためにC銀行に借換の打診をしたところ、金利1.4%という提案をしていただきました。この提案はとても有難いです。この事業者は、さらにA銀行に「C銀行から1.4%の提案をもらっているのですが、A銀行さんも提案してください」と依頼します。後日、A銀行は1.3%の提案を持ってきました。さらに、その提案をもって、新規のD銀行に打診したところ1.2%の提案をしてくれました。このように取引先の金融機関を天秤にかけて全体的な金利を引き下げることもできるわけです。
しかしながら、今現在、業績が良いからといって、このような交渉ごとを繰り返しては、金融機関も疲弊します。さらに、「それなら当行は御社と取引しなくても結構です」と言われてしまう可能性も否定できません。
次に2についてですが、金融機関を競合させながら借換を検討する場合には、長い目でみて、今後の金融機関との関係を十分に考慮しながら判断してください。これはとても重要な視点であって、業績のよい事業者が目の前のメリットを追いかけるばかりに陥ってしまうケースが少なくありません。
借換に関しては、目に見える成果が出るので、一部の専門家においては、乱用して指導する傾向があるようです。経営はよい時もあれば悪い時もあります。また、金融機関は、原則として金利が儲け(利益)になります。利益を削られる交渉ばかりされたら、いくら優良企業であっても優遇対応することができなくなる可能性があります。
その他にも留意する点は多々ありますが、事業者としてはこの2つを大前提として注意して下さい。
金融機関から借換の提案を受ける多くの場合は、やはり業績のよい事業者だと思われます。よって、決して悪い提案ではないので、事業者側としては積極的に検討してもよいでしょう。繰り返しになりますが、提案を受けた場合は、十分に他行との関係も考慮して判断して下さい。
また、後述する「旧債振替」の場合は、原則禁止となっていますので、万が一、提案されるようでしたら「これは旧債振替に該当しませんか?」と確認するようにして下さい。
また、業績が思わしくない事業者が新規融資の相談をした場合に、金融機関によっては、借換保証制度などを利用して借換の提案をすることもあります。この借換保証制度については、複数取引のある金融機関から受けている信用保証付き融資を一本化することになりますので、やはり各金融機関との今後の付き合いなどを十分に考慮して判断する必要があります。
旧債振替とは、「借り換えのパターン(2)」でも簡潔に解説していますが、全国信用保証協会連合会のホームページでは以下のように解説しています。
旧債振替とは、金融機関が新規貸付をもって当該金融機関の既存債権の回収に充当することをいう。信用保証協会は、中小企業・小規模事業者の事業資金の調達を円滑にするために信用保証を行っていることから、単なる金融機関の債権回収に充当される旧債振替を制限し、違反した場合には、保証債務の履行責任を負わないもの(いわゆる免責)としている。
ただし、この旧債振替を事業経営上プラスになるという理由で中小企業・小規模事業者が希望し、信用保証協会が予め承認した場合には例外として認められることがある。
出典:https://www.zenshinhoren.or.jp/guarantee-system/kyokaiyogo/
旧債振替は、「中小企業金融安定化特別保証」(1998年10月1日から2000年3月31日)が実施された際に、金融機関が自行のプロパー融資をこの特別保証に切り替えてリスク回避を行ったという経緯がありました。これが契機となって、信用保証協会は、旧債振替に関しては特に目を光らせています。
なお、同じ金融機関のプロパー融資の返済をすると旧債振替ですが、他行の金融機関のプロパー融資を返済しても、原則として旧債振替ではないといわれています。取引先の金融機関を前向きに集約する時などはこういうケースもあり得ます。
また、経営者保証を不要とする「事業承継特別保証制度」のように、旧債振替を承認している公的制度もあります。本制度は、「既存のプロパー借入金(保証人あり)の本制度による借り換えも可能」としています。
業績が思わしくない事業者が借換を申し出ると「やはり業績悪化によって返済が厳しいのだな」と判断されてしまって、条件変更(リスケジュール)の認識で取り扱われてしまう可能性があります。その判断基準については、状況に応じて金融機関が判断することです。
当然ですが、あまりにも業績が悪化しているので「この状況では借換どころではなく、条件変更した方がよい」という金融機関側の判断もあり得ます。しかしながら、事業者側としては、前向きなコスト削減策として、可能なら「借換」をしたい、と考える場合もあり得ます。
「借換とは?」でも簡潔に説明しましたが、毎月の返済額を減らすという意味では、借換も条件変更(リスケジュール)も同じ効果があります。しかしながら、条件変更をすると、原則として追加の新規融資を受けることができなくなります。
原則的な認識として、「借換と条件変更は別物」という見解でよいと思われます。一例ですが、「借換保証制度」においては、中小企業庁などの見解として「条件変更中であっても、当該条件変更のみを理由として借換保証の対象から除外しないこと」となっています。また、条件変更をしている事業者を対象とした「条件変更改善型借換保証」という制度があるくらいです。
ただし、借換をした場合に、金融機関側としては、“条件変更ではない”という認識に立っているものの、“条件変更している企業と同じように注意しなければならない事業者”としてみなしている場合もあります。特に、業績が思わしくない事業者の借換は十分な留意が必要になります。
借換の基本や原則論について説明してきました。また、「借り換えのパターン(1)」「借り換えのパターン(2)」においては、基本パターンなどについて説明いたしました。
借換パターンには、経営者保証付きの融資を無保証人融資に借り換えるということなども考えられるでしょう。また有担保型融資も同様です。さらに借換によって融資の種別(証書貸付、手形貸付など)を変更する場合もあるという見方もできるでしょう。
また、事業者によっては、複数の金融機関から融資を受けているケース、一つの金融機関から複数の融資を受けているケース、また、プロパー融資を受けているケース、信用保証付き融資を受けているケース、個人保証を入れていたり、担保を差し入れていたりする等、様々な方法で借入をしていると思われます。
このように、それなりの規模の中小事業者になると、借入状況が複雑化しているところも少なくありません。借換は金融機関とのテクニカルな交渉ごとになりますので、安易に意思決定せずに、長い目でみて、今後の金融機関との付き合いを十分に考慮した上で、借換のパターンなどを検討するようにしてください。
借換を検討する際は、顧問税理士や融資・資金調達に専門家などに相談されることをお勧めします。
株式会社MBSコンサルティング代表取締役。1998年の起業以来、「資金繰り・資金調達支援」に特化して創業者や中小事業者を支援。これまでに1,000 社以上の資金調達相談・支援を行い、その資金調達支援総額は20億円超。
主な著書に、「社長のための資金調達100の方法」(ダイヤモンド社)、「究極の資金調達マニュアル」(こう書房)、「税理士・認定支援機関のための資金調達支援ガイド」(中央経済社)などがある。
また、全国の経営者・士業などを対象にした会員制の資金調達勉強会「資金調達サポート会(FSS)」を主催している。
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