日本政策金融公庫の創業融資は自己資金50万円でも受けられる?注意点も解説

2025/08/04

起業を考えている方にとって、日本政策金融公庫の創業融資は大きな支えとなる重要な資金調達手段です。例えば、手持ちの自己資金が50万円と限られている場合でも、融資を受けられるのか不安を抱える方は少なくないでしょう。本記事では、少ない自己資金でも創業融資を受けるためのポイントや注意点、自己資金に含められるものなども解説します。創業計画書の重要性や、作成に役立つ情報サイトも紹介するので、ぜひお役立てください。

日本政策金融公庫の創業融資は自己資金が50万円でも受けられる?

日本政策金融公庫(JFC)は、中小企業や個人事業主の創業を支援するための融資を提供していますが、自己資金が限られている場合、例えば50万円であっても、融資を受けることは可能なのでしょうか?

自己資金50万円の融資上限の目安は450万円

自己資金が50万円の場合、融資上限の目安は450万円程度です。これは、旧「新創業融資制度」での、自己資金を創業資金の最低10%とする要件が根拠になっています。例えば、50万円の場合、創業資金総額は500万円、融資上限額はその90%にあたる450万円です。

旧制度は2024年3月に廃止され、現在の「新規開業・スタートアップ支援資金(旧:新規開業資金)」制度では、自己資金に関する明確な要件はありません。しかし、審査時には自己資金の額が参考にされるため、自己資金50万円の場合は、450万円を超えないようにして事業計画を立てると、現実的な融資額の範囲内に収めやすくなるでしょう。

自己資金が最低10%という数字はあくまで目安で、それだけで融資が確定するわけではありません。融資の可否は、創業計画の内容、事業の実現可能性、申込者のスキルや経験、既契約や売上実績などによって総合的に判断されます。

自己資金に加えて大切なのが「創業計画」の中身

創業融資を受けるためには、自己資金の額だけでなく、「創業計画書」の内容がきわめて重要です。事業内容、資金計画、収支予測などをまとめた資料で、これによってその事業が実現可能なものなのか審査されます。自己資金が多くても、計画が不十分だと審査には通りません。

日本政策金融公庫では、創業計画書のテンプレートを提供しています。もちろん、テンプレートを使用せずに独自に作成しても問題ありません。重要なことは、事業の実現性や収益見込みを客観的に説明し、説得力を持たせることです。特に、事業の強み、ターゲット市場、競合分析、資金の用途、返済計画を明確に示す必要があります。

創業計画書の作成にあたっては、下記の「資金調達ナビ」が役立ちます。解説やポイントを参照しながら、日本政策金融公庫の創業計画書を無料で作成できるため、特に初めての方には非常に有用です。

自己資金50万円でも日本政策金融公庫の融資審査を通りやすくする方法

自己資金が限られている場合、創業融資を受けるためには、いくつかのポイントを押さえる必要があります。

知識やスキルを証明する

融資審査では、事業者の経験やスキルが事業の成功に大きく影響すると考えられています。特に会社を退職し、同じ業種で独立開業をする場合、事業に関連する資格や実績、経験が大きなアピールポイントとなります。

まず、過去の職歴や業務内容を振り返り、今後の事業にどのようなスキルや経験が活かせるかを明確にしましょう。例えば、当該業界での実務経験が豊富であれば、実績を具体的に示すことが重要です。また、事業に関連する資格証の写し、過去のプロジェクトの実績書、研修参加証明書、職務経歴書などの書類があれば、用意しておくことをおすすめします。

既契約や売上実績を証明する

既に顧客との契約がある場合や売上が発生している場合には、その事実を証明することが重要です。例えば、既に取引先との契約が決まっている場合は、当該契約書を提出することで、事業の実現可能性を示せます。既存の顧客からの発注書、顧客への請求書なども有力な証拠となります。

また、今後の売上見込みについてのアピールも有効です。例えば、見込顧客がいる場合には、それらを裏付けるメールのやり取りなどの資料を準備しておくことをおすすめします。

自己資金50万円で日本政策金融公庫に融資を申し込んだ際の注意点

自己資金が限られている場合、日本政策金融公庫に融資を申し込む際には、いくつかの注意すべき点があります。

融資の限度額は制限される

日本政策金融公庫では、融資額を決定する際に自己資金の割合も考慮されるため、自己資金が少ない場合、融資額が制限される可能性があります。

もちろん、事業計画が綿密で実現性が高く、事業者に既に実績や大口の契約があり、融資しても十分回収できるとみなされれば、希望通りの融資額を受けられる可能性もあります。とはいえ、自己資金をより多く準備したほうが、より多くの融資を引き出しやすいのは事実です。

審査が厳しくなる可能性がある

自己資金が少ない場合、経営の安定性や返済能力への懸念が生じるため、融資審査は厳しくなる傾向があります。一般的には、創業資金の30%程度は自己資金でまかなうのが望ましいとされています。自己資金が20%を下回ると審査に通るのが難しくなるため、事業計画の強化や返済能力の証明など、対応策を整えることが重要です。

自己資金が少ない場合でも、審査に通る可能性はあります。日本政策金融公庫サイトには「自己資金は重要な要素の1つですが、それ以上に創業計画全体がしっかりしているかが重要になります。」と記載されています。

融資においては、事業計画書の内容や事業者の経験・スキルなどが総合的に判断されます。しかしながら、自己資金が少ないことは、一般的に不利な要素であることに留意しましょう。

引用:日本政策金融公庫 「Q&A Q8」 新しいウィンドウで開く

金利が上がる可能性がある

自己資金が少ない場合、融資を受ける際の金利が高くなる可能性があります。自己資金が少ないとリスクが高いとみなされ、金利が上昇することがあるためです。

自己資金が少ない状況では、運転資金や開業費用のほとんどを借入金でまかなうことになりますが、金利が高くなると、融資額に加えて、利息の返済も大きな負担となります。こうしたリスクを避けるためにも、できるだけ自己資金を増やし、有利な条件で融資を受けられるように努めるのが得策です。

融資を受けられたとしても資金繰りが厳しくなる可能性がある

日本政策金融公庫の「創業の手引き_202406_デジタルブック」に掲載されている「新規開業実態調査」によると、創業資金調達総額に占める自己資金の割合は「24%」です。自己資金が少ない状態で多くの融資を受けると、借入依存になり、資金繰りがショートすることがあります。同調査では、事業開始から約1年のうちに黒字基調となったのは全体の65%であることから、残りの35%の事業者は創業から1年以上赤字や資金繰りの問題を抱えていることがわかります。特に借入の割合が大きな計画では、想定していたよりも売上が上がらないと、資金繰りが悪化する恐れがあります。

参照:日本政策金融公庫「創業の手引き_202406_デジタルブック 」p.18 新しいウィンドウで開く

手持ちは本当に50万円?自己資金に該当するものを確認しよう

自己資金とは、自分自身の財産だと明確に証明できるもので、事業用に転用できる資産のことを指します。金融機関などから借りたお金や、返済義務がある資金とは異なり、返済の必要がない資産であることが条件です。また、出所が不明であったり、証明が難しかったりするものは、自己資金とはみなされません。

銀行預金

銀行預金は、最も一般的な自己資金です。自分名義の銀行口座にある預金は、自己資金として認められます。預金通帳の残高が多ければ多いほど、融資の審査も有利に進む可能性が高まります。自己資金として証明するには、預金通帳のコピーや残高証明書を提出します。

ただし、事業用の口座と個人の生活用の口座を分けている場合は、事業用口座にある預金のみが自己資金の対象です。開業にあたっては、生活用口座と事業資金口座を分けて管理することが望まれます。

生命保険などの解約返戻金

生命保険や学資保険などの解約返戻金は、自己資金として認められます。解約返戻金とは、保険契約を解除した際に契約者に支払われる金額のことで、積立型の保険に多く見られます。返戻金を自己資金に含める場合、保険会社に解約手続きを行い、解約返戻金証明書を取得する必要があります。この証明書を日本政策金融公庫に提出することで、自己資金として証明できます。

ただし、解約返戻金の金額は契約期間や支払った保険料の総額、契約内容により異なります。また、契約内容によっては解約返戻金が目減りする場合もあるため、解約前に保険会社から返戻金の金額を確認することをおすすめします。

さらに、解約返戻金を自己資金にする場合は、保険証券や解約手続きの控えなどの書類も準備しておきます。これらの書類は、融資審査の際に資金の出所を明確にするために必要です。

退職金

退職金は、退職後に受け取る予定の金額も自己資金として認められます。勤務年数や役職、会社の規模などによって金額は異なりますが、まとまった額になることが多く、創業資金として有効に活用できます。ただし、まだ受け取っていない退職金を自己資金に含める場合は、退職金見込額証明書など、金額や支払時期が明記された書面を会社から取得し、日本政策金融公庫に提出する必要があります。退職金を既に受け取っている場合には、退職所得の源泉徴収票や通帳の記録を用いて、受領を証明することが可能です。

家族からの支援金(相続・贈与なども含む)

家族からの支援金や相続・贈与によって得た資金も自己資金として認められます。家族間の信頼関係に基づいて行われるこのような形の資金提供は、返済条件が柔軟に設定されたり、返済不要となったりしている場合があり、多くの起業家や事業者が利用しています。

支援金や贈与を自己資金として証明するためには、贈与契約書などの書類を提出することが必要です。これにより、家族からの支援を正式に証明できます。ただし、家族からの支援金が借入金として扱われる場合には、自己資金とは認められません。借入金は返済義務があるため、自分の資産として申告できません。

注意点として、支援金や贈与として多額の金額を受け取ると、年間(1月から12月まで)の受け取り額が110万円を超える場合には、贈与税の申告が必要になります。複数人から贈与された場合、それぞれの人から贈られた額が110万円以下でも、合計して110万円を超える額を受け取れば、贈与税の対象です。例えば父親から80万円、祖母から40万円贈与された場合は贈与税の申告が必要になります。

参照:国税庁「No.4402 贈与税がかかる場合」 新しいウィンドウで開く

不動産などの売却で得た資金

不動産や車などの現物資産を売却して得た資金も、自己資金として認められます。特に不動産の売却によって得られる利益は数百万から数千万にも及ぶことがあり、自己資金として活用するケースが多く見られます。

ただし、不動産を売却して得た所得については、金額によって譲渡所得税がかかることがあるので注意しましょう。なお、譲渡所得税の控除額は、マイホームを売却した場合は3,000万円、被相続人のマイホームを売却した場合は3,000万円か2,000万円で、それを超える利益があったときは課税対象となります。

不動産や車、貴金属などの資産を売却することで得たお金を自己資金の一部として融資を受ける場合、売買契約書など売却の事実を証明するための書類が必要です。

参照元:国税庁「No.1440 譲渡所得(土地や建物を譲渡したとき)」 新しいウィンドウで開く

不動産や有価証券などの現物資産

不動産や有価証券などの現物資産は、時価評価額を自己資金として計上できます。例えば、既存の事業で使用しているコンピューター、不動産、有価証券などを現物資産として申告することで、自己資金を増やすことが可能です。現物出資の評価額は、購入時の価格ではなく、時価相場の価格となります。したがって、不動産鑑定書や有価証券の取引明細などを提出することで、現物資産の時価評価額を証明する必要があります。現物資産の存在は事業の安定性や信用度を示す指標となり、融資を受ける際に有効な自己資金です。

創業準備で既に使った費用(みなし自己資金)

創業に必要な設備や機材の購入費用は、みなし自己資金として自己資金に加えられます。例えば、事業で使用するコンピューターや事務用品、店舗の内装工事費などのうち、既に支払ったものが該当します。ただし、これらの費用を自己資金として認めてもらうには、領収書や請求書などを保管しておくことが必要です。

注意点として、事業計画と直接関連性があることが明確な場合のみ、みなし自己資金として認められます。例えば、事業内容に必要な機器や設備費は対象になりますが、私的な用途の出費を含めることはできません。購入した物品やサービスが事業と直接関連している場合は、事業計画書にその関連性も含めて記載しておきましょう。

自己資金として認められないものに注意

自己資金として少しでも多くのものを含めたいと思うかもしれませんが、認められないものもあります。以下では、具体例について紹介します。

家族などから借りたお金

家族や親族から借りたお金は、返済義務のある借入金とみなされるため、自己資金には該当しません。たとえ無利息であっても、返済が必要な場合は、事業に自由に使える資金とは認められないためです。

もし、家族からの支援を自己資金に含めたい場合は、それが返済不要な「贈与」であることを証明する必要があります。そのためには贈与契約書を作成することが有効です。また、金銭の流れを明確にするために、贈与者名義の口座から自分の口座へ直接振り込んでもらうとよいでしょう。

タンス預金

自己資金としては、銀行に預けず現金を自宅などに保管する、いわゆる「タンス預金」も認められません。存在を証明することが難しく、出所が不明なためです。ただし、タンス預金を銀行口座に入金し、預金通帳や残高証明書などで証明できる場合は、自己資金として認められることがあります。しかし、入金してすぐのお金は後述する「見せ金」と疑われる可能性があるため、入金後1年程度は経過していることが望ましいです。

見せ金

見せ金とは、融資審査を有利にするために一時的に預金口座に預けられたお金のことであり、違法です。貸金業者や知人などから一時的に借りて、自己資金として計上する見せ金は、審査の際に発覚すると信用を失うだけでなく、重大な問題を引き起こす恐れがあります。金融機関を騙す行為を働いたとして、詐欺罪に問われるかもしれません。

融資審査では、過去の預金通帳や取引履歴などが確認されるため、見せ金は容易に見破られることがあります。見せ金を使って融資を受けることは避けましょう。

日本政策金融公庫への融資申請は「創業計画」が重要

自己資金50万円でも日本政策金融公庫の創業融資を受けることは可能ですが、融資額には限度があり、審査も厳しくなる可能性があります。自己資金を増やす努力に加えて、創業計画の内容が非常に重要です。実現性や客観性のある計画書を作成することで、審査を有利に進められます。「資金調達ナビ」では創業計画書の作成を無料でサポートしているので、ぜひ活用し、計画的に融資準備を進めましょう。

監修者:高崎文秀

高崎文秀税理士事務所 代表税理士/株式会社マネーリンク 代表取締役。早稲田大学理工学部応用化学科卒。都内税理士事務所に税理士として勤務し、さまざまな規模の法人・個人のお客様を幅広く担当。2019年に独立開業。現在は法人・個人事業者の税務顧問・節税サポート、個人の税務相談・サポート、企業買収支援、税務記事の監修など幅広く活動中。また一般社団法人CSVOICE協会の認定経営支援責任者として、業績に悩む顧問先の経営改善を積極的に行う。

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