日本政策金融公庫の新規開業・スタートアップ支援資金(旧:新規開業資金)とは?申込方法や必要書類、審査のポイントを解説

2025/08/04

2024年に拡充された日本政策金融公庫の新規開業・スタートアップ支援資金(旧:新規開業資金)の内容を知りたい、融資の申込方法がわからないとお悩みの方も多いのではないでしょうか。本記事では、日本政策金融公庫の新規開業・スタートアップ支援資金(旧:新規開業資金)の概要、申込方法から、利用するメリット、審査を通過するためのポイントまで解説します。

日本政策金融公庫の新規開業・スタートアップ支援資金(旧:新規開業資金)とは

日本政策金融公庫の新規開業・スタートアップ支援資金(旧:新規開業資金)は、新たに事業を始める方や、事業開始から約7年以内の個人・スタートアップを対象とした融資制度です。併用可能だった新創業融資制度が2024年3月に廃止された一方、新規開業・スタートアップ支援資金(旧:新規開業資金)が拡充されました。拡充によって返済期間が延長され、利率が引き下げられています。

これまで設備資金の返済期間は20年以内(据置期間2年以内)かつ運転資金が7年以内(据置期間2年以内)でしたが、設備資金20年以内(据置期間5年以内)かつ運転資金が10年以内(据置期間5年以内)に延長されました。基準利率は旧利率よりも原則0.65%引き下げになっています。新規開業・スタートアップ支援資金(旧:新規開業資金)は、設備資金や運転資金を低金利・好条件で借りられる制度です。

▼概要(表1)

対象者 新規事業を始める、もしくは事業開始後おおむね7年以内の方
資金の用途 新規事業を始めるため、もしくは事業開始後に使用する設備資金および運転資金
融資限度額 7,200万円(うち運転資金4,800万円)
返済期間 設備資金/20年以内(据置期間5年以内)
運転資金/10年以内(据置期間5年以内)
利率(年) 基準利率。ただし、以下の(1)~(10)の要件に当てはまる場合は特別利率(土地にかかわる資金は基本的に除外)。
融資後に利益率や雇用の一定の目標を達成した場合には利率を0.2%引き下げ。
(1)女性である、(男女にかかわらず)35歳未満または55歳以上である
(2)外国人起業活動促進事業の特定外国人起業家で、新しく事業を始める
(3)創業塾や創業セミナーなど(産業競争力強化法規定の認定特定創業支援等事業)を受け、新しく事業を始める
(4)「中小企業の会計に関する基本要領」か「中小企業の会計に関する指針」を適用し(予定も含む)、かつ自分で事業計画書を作り、認定経営革新等支援機関で指導と助言を受けている
(5)地域おこし協力隊の任期2年目以降または任期終了後1年以内に、同隊として活動した地域で新しく事業を開始する
(6)Uターン等により地方で新しく事業を開始する
(7)日本ベンチャーキャピタル協会会員(賛助会員は除外)等、または中小企業基盤整備機構や産業革新投資機構が出資する投資事業有限責任組合等の出資を受けている(見込みを含む)
(8)新しい地方経済・生活環境創生交付金(旧:デジタル田園都市国家構想交付金)を活用した起業支援金の交付を受け新しく事業を始める
(9)新しい地方経済・生活環境創生交付金(旧:デジタル田園都市国家構想交付金)を活用した起業支援金と移住支援金の両方の交付を受け新しく事業を始める
(10)技術・ノウハウ等に新規性が認められる
担保、保証人 相談可
併用可能な特例制度 経営者保証免除特例制度
創業支援貸付利率特例制度
設備資金貸付利率特例制度(東日本版)
賃上げ貸付利率特例制度

参照:日本政策金融公庫「新規開業・スタートアップ支援資金」 新しいウィンドウで開く

新規開業・スタートアップ支援資金(旧:新規開業資金)への申込方法

新規開業・スタートアップ支援資金(旧:新規開業資金)への申し込みの前に、日本政策金融公庫で相談が可能です。ビジネスサポートプラザや、全国各地の支店にある「創業サポートデスク」で行う窓口相談の他に、オンラインでの相談も選べます。予約制で、専任の担当者と1時間ほど創業計画や融資の申込方法について相談できます。

新規開業・スタートアップ支援資金(旧:新規開業資金)の申し込みは、開業する住所地を管轄する日本政策金融公庫の支店か、インターネットで行います。インターネットの場合は、メールアドレスの登録を行い、申し込みフォームに必要情報を入力し、事前に用意しておいた書類を添付します。申し込み完了後、登録したメールアドレス宛てに受付完了メールが届き、後日担当者から面談に関する案内が送られてきます。コンピューターやタブレットなどから24時間365日申し込みが可能です。

参照:日本政策金融公庫「インターネット申込(国民生活事業)」 新しいウィンドウで開く

新規開業・スタートアップ支援資金(旧:新規開業資金)の申し込みに必要な書類

基本的に必要なのは以下の書類です。インターネット申し込みでは、書類の電子データが必要です。

▼申し込みの際に共通して必要な書類

▽個人事業主

  • 最近2期分の申告決算書(申告している方)

▽法人

  • 最近2期分の確定申告書、決算書(勘定科目明細書も必要)
  • 最近の試算表(決算から6か月以上経っているか決算申告前の場合)

▼日本政策金融公庫を初めて利用する際に必要な書類(上記書類に加えて必要)

  • 創業計画書(新しく事業を始める、または事業を開始したばかりの方)
  • 法人の履歴事項全部証明書(法人)
  • 企業概要書(創業計画書を提出する場合には不要)
  • 運転免許証(両面)もしくはパスポート(顔写真のページと現住所のページ)
  • 許認可証(飲食店などの許可や届け出が必要な事業の場合)

▼希望や手続き方法に応じて必要な書類

▽電子契約サービス(国民生活事業)の利用を希望する場合

  • 日本公庫電子契約サービス(国民生活事業)利用申込書
  • 預金通帳写し(表紙と1ページ目)

▽設備資金を申し込む場合

  • 見積書

▽郵送で手続きをする場合

  • 借入申込書(国民生活事業用)

参照:日本政策金融公庫「個人企業・小規模企業の方」 新しいウィンドウで開く

「創業計画書」の重要性

融資の審査には、創業計画書をはじめとした書類の提出が求められます。日本政策金融公庫では創業計画書のテンプレート(書式)が用意されており、公式サイトからダウンロードして必要事項を書き込む形で作成できます。ただし、テンプレートを使用しなければならないという義務はないため、別途で用意しても問題ありません。創業計画書には、「創業の動機」「取扱商品・サービス」「事業の見通し(月平均)」など、事業に関して記載すべきさまざまな項目があります。

記入する項目が決まっていても、創業計画書の作成に慣れていない初心者にとっては、ややハードルが高いかもしれません。そのため、具体的にどう書けばよいか悩んでしまうことも考えられます。「資金調達ナビ」は、解説・ポイントを確認しながら日本政策金融公庫のテンプレートに沿った創業計画書を作成できるサービスです。ぜひ、ご活用ください。

日本政策金融公庫の新規開業・スタートアップ支援資金(旧:新規開業資金)のメリット

日本政策金融公庫の新規開業・スタートアップ支援資金(旧:新規開業資金)は、融資限度額の上限が高い、無担保・無保証人でも申し込めるなど、さまざまなメリットがある制度です。従来の新創業融資制度よりも拡充されており、開業する事業者が利用しやすい制度になっています。

融資限度額の上限が高い

新規開業・スタートアップ支援資金(旧:新規開業資金)の融資限度額は7,200万円で、そのうち運転資金としての融資が4,800万円までです。店舗や事務所の取得や改装、機械設備など、業種によっては多額の開業資金を要することがあります。融資限度額が低いと、融資を受けても必要額に満たないといった問題が発生します。不足した資金分は、他の金融機関にも申請をして融資を受ける協調融資が必要です。

新規開業・スタートアップ支援資金(旧:新規開業資金)では、融資限度額が7,200万円であるため、多額の資金が必要な場合でも十分にまかなえると考えられます。日本政策金融公庫からの融資だけで創業資金が用意でき、協調融資を利用しなくて済めば、手続きに掛ける手間や時間を節約できます。ただし、実際の融資額は審査で決まるため、希望額の融資を受けられない場合もあるため、あらかじめ留意しておきましょう。

無担保・無保証人でも申し込める

新規開業・スタートアップ支援資金(旧:新規開業資金)は、担保や保証人なしでの申し込みが可能です。民間の銀行などでの融資では担保や保証人を求められるのが一般的であり、十分な資産や保証人を準備するのが難しい事業者にとって、大きなハードルとなっていました。新規開業・スタートアップ支援資金(旧:新規開業資金)では、担保や保証人の有無について融資担当者と相談できます。

ただし、融資には事業計画の実現可能性や融資した資金を返済する能力が問われます。市場動向や競合を考慮した販売戦略や収支予測などを創業計画書に含め、計画性や返済能力を証明することが必要です。

自己資金要件がない

新規開業・スタートアップ支援資金(旧:新規開業資金)の旧制度「新創業融資制度」の申し込みでは、創業資金総額の10分の1にあたる自己資金の準備が要件に含まれていました。そのため創業資金が3,000万円の場合には、融資の申し込み前に300万円の準備が必要でした。

参考までに、日本政策金融公庫が公表した「2024年度新規開業実態調査」によると、創業資金総額に対する自己資金額の平均は24.5%で、平均293万円でした。

新規開業・スタートアップ支援資金(旧:新規開業資金)の申込要件には自己資金に関する項目が含まれていないため、自己資金が少なくても融資の申し込みが可能です。ただし、自己資金の額は審査の中で重要な要素の1つであり、自己資金が多いほど審査に通りやすい点には注意が必要です。

参照:日本政策金融公庫「2024年度新規開業実態調査」p.11 新しいウィンドウで開く

返済期間が長い

融資を完済するまでの返済期間は、設備資金の場合20年以内(据置期間5年以内)、運転資金の場合には据置期間5年以内を含む10年以内です。従来に比べ、運転資金の返済期間は3年間、据置期間は設備資金と運転資金どちらも3年間延長されました。返済期間を長く設定すると、月々の返済金額を低く抑えられるため、返済負担を軽減できます。

ただし、返済期間が長くなるほど多くの利息が発生するため、総返済額は増加します。そのため、月々の利益や支出を細かく試算したうえで、ある程度余裕をもって返済できる期間を設定することが重要です。

据置期間を設定できる

据置期間とは元金の返済が不要で、利息のみを支払う期間のことです。新規開業・スタートアップ支援資金(旧:新規開業資金)では、設備資金と運転資金のどちらも5年を上限として据置期間を設定できます。創業から半年程度は、採算が取れないことも少なくありません。据置期間を設定して創業初期の返済額を抑えることにより、資金繰りの安定につながります。

元本の返済が始まると支出額が増加するため、据置期間の終了時期をいつに設定するかはよく見極めることが重要です。事業計画を策定し、いつごろ事業が安定して利益が出るのかをよく検討してから、元本の返済開始時期を設定しましょう。

特定条件に該当する場合は優遇される

新規開業・スタートアップ支援資金(旧:新規開業資金)は、特定の条件に該当する場合に金利などを優遇する制度を設けています。

女性、若者/シニア起業家支援関連

新しく開業または開業から7年以内の方で、女性、35歳未満の若者、55歳以上のシニアが活用できる融資制度です。通常の新規開業・スタートアップ支援資金(旧:新規開業資金)の設定金利基準利率よりも0.4%低い特別利率Aが適用されます。

返済期間は、設備資金が20年以内(据置期間5年以内)、運転資金が10年以内(据置期間5年以内)です。ただし廃業歴がある場合には、前事業で発生した債務の返済にも利用でき、運転資金の期間が通常より長い15年以内に設定されています。

参照:日本政策金融公庫「新規開業・スタートアップ支援資金(旧:新規開業資金)(女性、若者/シニア起業家支援関連)」 新しいウィンドウで開く

再挑戦支援関連

「再挑戦支援関連」は、事業の倒産や廃業などを経験した方が、再度創業にチャレンジする際に利用できる融資制度です。新規開業または開業から7年以内で、以下の要件に該当する場合に利用が可能です。

  • 廃業経験のある個人や、廃業経験のある経営者が運営する法人である。
  • 新たに始める事業に影響を与えずに廃業時の負債を整理できる見込みがある。
  • やむを得ない理由、事情で廃業した。

ただし、新たに始める事業について、適正な事業計画を記載した創業計画書を提出し、その事業計画を遂行できると認められる必要があります。「再挑戦支援関連」の金利は、基本的に基準利率が適用されますが、通常より返済期間が長いのが特長です。設備資金は返済期間20年以内(据置期間5年以内)で変わらないものの、運転資金が通常より長い15年以内(据置期間5年以内)と長い期間に設定されています。

参照:日本政策金融公庫「新規開業・スタートアップ支援資金(旧:新規開業資金)(再挑戦支援関連)」 新しいウィンドウで開く

中小企業経営力強化関連

中小企業の経営力を高める目的で作られた融資制度が「中小企業経営力強化関連」です。IT導入など、経営力強化につながる取り組みを行っている中小企業を対象としています。新規開業または開業から7年以内で、以下の要件に該当している場合に利用が可能です。

  • 「中小企業の会計に関する基本要領」もしくは「中小企業の会計に関する指針」を適用している、または適用予定。
  • 事業計画書を策定している。
  • 中小企業等経営強化法で定める認定経営革新等支援機関で指導や助言を受けている。

利率は特別利率Aが適用され、返済期間は通常と同様、設備資金20年以内(据置期間5年以内)と運転資金10年以内(据置期間5年以内)です。

参照:日本政策金融公庫「新規開業・スタートアップ支援資金(中小企業経営力強化関連)」 新しいウィンドウで開く

新規開業・スタートアップ支援資金(旧:新規開業資金)の融資審査を通過するためのポイント

無担保・無保証人でも申し込めるなど、一般的な金融機関での融資に比べて申し込みのハードルが低い新規開業・スタートアップ支援資金(旧:新規開業資金)ですが、審査通過のためにはいくつかのポイントがあります。

事業計画の妥当性を示す

融資の審査では、事業計画の妥当性が重要視されます。内容が矛盾している、現実的ではないなど、提出した創業計画書の事業計画に問題があると、事業成功の可能性が低いと判断されてしまいます。融資した資金が回収できないリスクが高ければ、審査を通らない恐れがあります。

創業計画書には、どのような事業を行うのか、ターゲットとする顧客層は誰か、事業の強みや競争優位性は何か、売上目標や利益計画はどのようになっているか、資金調達が必要な理由などについて具体的に記入します。また、事業を計画通りに実現させる可能性や収益性についても、市場動向や競合分析、リスクなどを踏まえて、担当者を納得させられる内容が必要です。面談の際に詳細を尋ねられた際にも、説明できる状態にしておきましょう。

資金の使途を明確にする

事業計画のどの部分に融資された資金を使うのか、明確に示すことも重要です。資金使途内訳書(資金の使い道を示した書類)を作成し、融資を希望する資金のうち、どのような用途でいくら必要かを具体的に説明できると、事業計画の妥当性も高まります。

資金の使途として設備資金と運転資金があります。設備資金は、建物や機械など金額が大きいものを購入する資金であるため、それぞれの見積書を提示しましょう。運転資金には、売掛金や受取手形の回収までの間、経営を維持するために必要な資金(商品の仕入れ、従業員の給与、家賃、光熱費)、決算後の税金納付、賞与支給の資金などがあります。

自己資金を準備する

先述の通り、新規開業・スタートアップ支援資金(旧:新規開業資金)の申し込みは自己資金なしでも可能です。ただし、審査に通るかどうか、融資額がどれほどになるかには、自己資金も影響すると考えられます。自己資金を多めに準備しているほど開業に向けての熱意や返済能力の高さが伝わるため、融資審査には通過しやすくなります。

また、自己資金が多ければ事業の運転資金が多くなり、創業後の資金繰りに余裕が出ます。審査のためだけでなく、開業後の安定した経営のためにも、できる限り自己資金を準備しておくとよいでしょう。

新規開業・スタートアップ支援資金(旧:新規開業資金)は万全の準備を整えてから申し込もう

新規開業・スタートアップ支援資金(旧:新規開業資金)は、開業予定、または開業して間もない個人や中小企業を対象にした融資制度です。2024年3月に内容が拡充されました。融資限度額の上限が高く、無担保・無保証人でも申し込みが可能で、返済期間が長いなど、メリットの多い制度です。融資の審査に通るにはできるだけ自己資金を準備することも大切ですが、担当者に納得してもらえる、具体的かつ現実的な「創業計画書」を作ることが重要です。

「資金調達ナビ」では、解説・ポイントを参照しながら、創業計画書を無料で作成することが可能です。

監修者:高崎文秀

高崎文秀税理士事務所 代表税理士/株式会社マネーリンク 代表取締役。早稲田大学理工学部応用化学科卒。都内税理士事務所に税理士として勤務し、さまざまな規模の法人・個人のお客様を幅広く担当。2019年に独立開業。現在は法人・個人事業者の税務顧問・節税サポート、個人の税務相談・サポート、企業買収支援、税務記事の監修など幅広く活動中。また一般社団法人CSVOICE協会の認定経営支援責任者として、業績に悩む顧問先の経営改善を積極的に行う。

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