融資における金融機関の審査とは

~変わりつつある金融機関の融資姿勢と会計データ融資~

2023/11/08

金融機関からの融資を検討する際、希望通りの融資を受けられるかは事業者にとって重要なポイントになるでしょう。特に、事業に専念したい中小企業にとって、資金調達にかける時間や手間は最小化したいもの。金融機関がどのような審査を行っているかを知っておくことは、融資を検討するうえで助けとなります。この記事では、金融機関の融資審査について解説します。

融資における金融機関の審査を考える上での前提

金融機関が融資を行う際に融資審査が重要な理由として、融資した資金が返済されなければ金融機関の実質上の損失になってしまうため、ということはイメージしやすいでしょう。もう一つ重要な観点として、金融機関は融資先の企業評価に応じて貸倒引当金を計上しなければならず、少なくとも引当率を上回る金利で貸出を行わなければ採算に見合わないという点があります。つまり、貸出時の引当率と貸出金利設定、および貸出先の引当率変更有無によって金融機関の決算における収支は大きく左右されることから、的確な企業評価を行わなければならないことになります。

金融検査マニュアルに基づく企業評価

メガバンク、地域金融機関、信用金庫、信用組合といった金融機関では、金融検査マニュアル(2019年12月廃止) 新しいウィンドウで開くの債務者区分を基準とした融資実務を行われているといわれます。たとえば「正常先」と「要注意先」以下を経常利益黒字かどうか、および資産超過かどうかを基準として分け、「要注意先」以下では引当率を高く見積ります。さらに「破綻懸念先」以下では引当率が跳ね上がり日本の法定金利上限を大幅に上回るために、基本的には新規融資ができないという判断になります。

債務者区分 内容 引当率(例)*
正常先 業況が良好であり、かつ、財務内容にも特段の問題がないと認められる債務者 0.1%~0.3%
要注意先 金利減免・棚上げを行っているなど貸出条件に問題がある債務者、元本返済もしくは利息の支払が事実上延滞しているなど履行状況に問題がある債務者のほか、業況が低調ないしは不安定な債務者または財務内容に問題がある債務者など今後の管理に注意を要する債務者 2%~15%
破綻懸念先 現状、経営破綻の状況にないが、経営難の状態にあり、経営改善計画等の進捗状況が芳しくなく、今後、経営破綻に陥る可能性が大きいと認められる債務者 50%~70%
実質破綻先 法的・形式的な経営破綻の事実は発生していないものの、深刻な経営難の状態にあり、再建の見通しがない状況にあると認められるなど実質的に経営破綻に陥っている債務者 100%
破綻先 法的・形式的な経営破綻の事実が発生している債務者をいい、例えば、破産、清算、会社整理、会社構成、民事再生、手形交換所の取引停止処分等の事由により経営破綻に陥っている債務者 100%
  • *
    引当率は例であり、実際の設定数値は個別金融機関毎に異なります

金融検査マニュアルはバブル崩壊に伴い発生した不良債権を的確に把握し、引当を正確に反映させることを目的としたため、金融機関の裁量の余地が少ない一律の基準が策定され、貸出が担保・保証により保全されているかが重視されました。また引当の見積についても過去の貸倒実績等を基本として、債務者区分毎に一律の計算式に基づき引当額の計算を行う実務が定着したとされます。

変わりつつある金融機関の融資姿勢

金融機関の融資実務について、「融資に関する検査・監督の考え方と進め方」(2019年12月金融庁) 新しいウィンドウで開くで問題点が指摘され、金融検査マニュアルが廃止、「債務者区分を出発点に、現行の会計基準に沿って、金融機関が自ら融資方針や債務者の実態を踏まえ、認識している信用リスクをより的確に引当に反映する」方針が示されました。文書のなかでは課題として、検査マニュアルが想定している金融機関のビジネスモデルはかなり限定された類型のものとなり、各金融機関の経営戦略や融資方針が十分考慮されないものとなっていたため、「担保や保証への過度な依存、貸出先の事業の理解、目利き力の低下といった金融機関の融資行動への影響が生じた」こと、「過去の貸倒実績のみに依拠する実務の定着により、金融機関が認識している将来の貸し倒れリスクを引当に適切に反映させることが難しくなった」ことが指摘されています。
現在でも多くの金融機関では廃止された金融検査マニュアルに基づいた債務者区分により融資実務を行われているとされますが、各金融機関は経営方針や地域特性、足元や将来情報を踏まえて融資ルールを定めることが重要となり、決算書数値やチェックリストを基にした基準ではなく、融資先の足元の業況や将来性、無形資産等を勘案した企業の事業性に着目した融資に取り組むことが重要となりました。実際に先進的な取組として、企業の事業性に着目した融資や既存の枠組みに囚われない新たな信用評価をもとに融資や引当の計上を行う金融機関が現れ、企業の実態を詳細に把握することで適切なリスクテイクと収益増が期待されています。

事業者に求められる対応

金融機関に独自の経営方針や融資姿勢に基づく審査判断を行う余地が拡がったことで、事業者の資金調達にも変化がみられています。金融検査マニュアルが廃止されるまでは「赤字見込みの場合は黒字決算の段階で早めに資金調達をしておくこと」や「将来のリスクに備えて多めに借入を行い必要以上の現預金を常に保有しておくこと」が一般的な対応とされていました。しかし現在は、自社の経営戦略やビジネスモデルについて積極的に金融機関に情報開示を行い自社の潜在的な収益性や成長性を理解してもらうことにより、新たな資金調達の可能性や、希望する金額や期間で資金調達ができる選択肢が拡がりました。事業者は真に目利き力があり、効果的な経営の助言をしてくれる金融機関との継続的な取引関係が望ましく、それらを満たしてくれる金融機関を選別し、取引をしていく必要があるといえます。そして、自社の信用力向上には、自社事業にまつわる各種データを日々丁寧に記録、蓄積、共有することがより重要となっていきます。そうすることで、データを介して、顧問税理士や金融機関から自社経営に関する様々なサポートを受けることも可能になるでしょう。

会計データ融資という選択肢

資金調達を中心とした研究会討議用資料「データの利活用・共有等がもたらす 中小企業経営へのインパクト」(2019年5月 中小企業庁) 新しいウィンドウで開くでは、デジタル化が中小企業経営にもたらす本質的価値を、中小企業と金融機関等との関係における企業の信用力等にかかる情報の非対称性を解消することと明記しています。自社事業を正確に伝えるには事業者、金融機関の双方に相応のコストがかかってしまいます。会計データは事業者が日々記録する情報であり追加の手間なく、金融機関に自社事業について正確かつ効率的な理解を促せるものです。一方、金融機関にとっては日々業務で触れることの多い決算書が形作られる基となるデータであるため、事業者に関わるデータの中でもなじみやすく、決算書よりも詳細に事業実態を把握できる情報となります。会計データ融資は、急激な外部環境変化を好機と捉え、変革の手段として金融機関から提供されている融資サービスになり、特に中小企業にとっては融資の選択肢を拡げる1つの手段となるでしょう。
この機会に自社で記録している会計データの利活用を検討されてみてはいかがでしょうか。

なお、資金調達ナビの『資金調達手段を検索』から各種資金調達手段を検索いただけます。会計データ融資は「弥生製品データ利用」を詳細条件に追加し絞り込みください。

著作:アルトア株式会社(英語名:Altoa, Inc.)

弥生株式会社の子会社。2017年より与信モデル・融資支援サービス(LaaS)の開発・提供サポート事業を展開。事業者の事業活動全体が時系列で連続的に記録されている会計データの特徴を活かし、事業者が日々入力している会計データを用いて申し込みできる融資サービスの普及により、中小企業事業者が本業に専念できる環境の実現を目指す。

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