融資の種類と特徴(3)

2021/12/15

株式会社商工組合中央金庫(商工中金)は、中小事業者にとってあまり馴染みがないかもしれませんが、年商3億円~5億円と事業が拡大できた際に融資を受ける必要がある場合には、取引を検討されることをお勧めします。

商工中金は、2016年に国の制度融資(危機対応業務)の不正利用が発覚して世間を騒がせましたが、基本的には審査が細かくて厳しいといわれています。よって一部の民間金融機関においては、商工中金との取引が評価される場合もあります。今回は、商工中金の提供する融資の種類や特徴について解説していきますので、取引を検討される際の参考にしてください。

  • なお、これらは2021年10月現在の情報になります。今後、変更されることもありますのでご理解ください。

商工中金とは

株式会社商工組合中央金庫(商工中金)は、特別法(株式会社商工組合中央金庫法)に基づく、政府と民間団体が共同で出資する唯一の政府系金融機関です。

日本政策金融公庫は「融資」のみの支援ですが、商工中金は「預金受け入れ」「債券発行」「国際為替」「手形」など、幅広いサービスを行っています。融資業務においては設備資金や長期運転資金をはじめ、手形割引などの短期運転資金まで、中小企業に対して幅広い支援を行っています。

なお商工中金は、中小企業団体(例:事業協同組合、商店街振興組合、酒販組合など)とその構成員を融資の対象先としていますが、中小企業団体の構成員になっていない事業者の相談にも応じています。

商工中金の融資形態

商工中金の融資形態は以下の通り、「組合貸」、「構成員貸」に分かれています。

融資形態

形態 概要
組合貸
共同事業資金
共同生産、共同加工、共同販売など、中小企業団体が行う共同事業に必要な資金を融資します。
転貸資金
構成員の事業に必要な資金を、組合を通じて融資します。
構成員貸 商工中金株主団体の構成員に直接融資します。

中小企業向け融資の全体像

商工中金の中小企業向けの融資は「一般的な融資」を中心に、「国・地方公共団体の施策に基づく対応」「組織化、組合共同事業支援のための融資」「業界団体の制度融資」などに分かれています。

中小企業向け融資の全体像

概要
一般的な融資 設備資金や長期運転資金、手形割引などの短期運転資金などの資金に対して幅広い融資を行っています。
国・地方公共団体の施策に基づく対応 国や地方公共団体の施策に基づいて実施している融資制度です。
貸付期間、資金使途、財務内容により貸付利率が異なり、別途短期資金の取り扱いを行っています。
組織化、組合共同事業支援のための融資 老朽代替・再整備ニーズを有する団地組合や、財務改善・新事業進出などのサポートをしています。
業界団体の制度融資 トラック、通運、バス近代化基金融資、自動車整備業エコ・ローンなどを実施しています。
その他の融資 地方公共団体の融資制度などを取り扱っています。

なお、商工中金では「経営者保証に関するガイドライン」(経営者保証なしの融資など)の積極的な対応をしています。また、その他に「私募債受託」「売掛債権流動化」「シンジケートローン」「ABL」など、さまざまな制度を実施しています。

なお「経営者保証に関するガイドライン」について、資金調達ナビ「借入の基本」の「経営者保証ガイドラインの活用」にて詳しく解説していますので、参考にしてください。

「一般的な融資」の概要

商工中金には多くの特徴のある融資制度があります。この中で中小事業者が利用しやすい代表的なものは「一般的な融資」ですので、その概要を押さえておきましょう。

一般的な融資の概要

概要
資金使途 設備資金 運転資金
融資期間 原則として設備資金15年以内(うち据置期間2年以内)、運転資金10年以内(うち据置期間2年以内)
返済方法 分割返済または期限一時返済
利率 金融情勢による。詳細は窓口に応相談
担保・保証人 必要に応じて判断

上記の概要は、あくまでも原則です。実際の融資の条件などについては、案件ごとに異なります。詳細については民間金融機関と同様、窓口に相談することになります。

融資だけじゃない!商工中金が実施している資金調達サポート

商工中金では中小事業者に向けて、融資以外の資金調達サポートを実施しており「私募債受託」「売掛債権流動化」「シンジケートローン」「ABL」などがあります。中小事業者はこれらについて、あまり馴染がないかもしれませんので簡単に説明いたします。

私募債受託

「私募債受託」とは中小企業が社債(私募債)を発行して、商工中金が受託してくれるスキームです。商工中金では「中小企業特定社債保証制度(信用保証協会保証付私募債)」「担保付私募債」「商工中金保証付私募債」を取り扱っています。

売掛債権流動化

「売掛債権流動化」とは、中小企業が保有している売掛債権(手形、売掛金など)を基に資金提供を行う手法です。

シンジケートローン

「シンジケートローン」とは、複数の金融機関が同じ契約で実施する融資のことをいいます。商工中金では主幹事となってシンジケートローンを取りまとめる以外にも、他の金融機関が組成したシンジケートローンへの参加も行っています。

ABL

「ABL」とは、アセット・ベースト・レンディングの略で、中小企業の在庫や売掛債権などを担保とした融資のことをいいます。国が推奨している過度に不動産担保に依存しない融資手法の一つです。商工中金は、政府系金融機関としてABLをいち早く導入し、普及に向けて積極的な取り組みを行ってきた実績があります。

ABLについてさらに詳細を知りたい方は、資金調達ナビ「売掛債権担保付き融資・動産担保付き融資(ABL)とは」を参考にしてください。

ファクタリング

ファクタリング (factoring) とは、保有している売掛金を買い取って、その債権の回収を行う金融サービスのことをいいます。一般的には、売掛金をファクタリング会社へ売却して、手数料を差し引かれた代金を受け取って早期現金化する手法のことをいいます。さらに詳細な解説が「ファクタリング・債権譲渡」にありますので、ご興味のある方はご覧ください。

著者:吉田 学(財務・資金調達コンサルタント)

株式会社MBSコンサルティング代表取締役。1998年の起業以来、「資金繰り・資金調達支援」に特化して創業者や中小事業者を支援。これまでに1,000 社以上の資金調達相談・支援を行い、その資金調達支援総額は20億円超。
主な著書に、「社長のための資金調達100の方法」(ダイヤモンド社)、「究極の資金調達マニュアル」(こう書房)、「税理士・認定支援機関のための資金調達支援ガイド」(中央経済社)などがある。

また、全国の経営者・士業などを対象にした会員制の資金調達勉強会「資金調達サポート会(FSS)」を主催している。

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