売掛債権などを担保に資金調達ができる「担保融資」の活用

2023/02/21

新型コロナウイルス感染症や戦争、資材の原価高騰など、市場の状況はさらに厳しさを増しています。このような社会背景を受け、資金繰りに苦慮する個人事業主や中小企業は、これまで以上に多くなっているのが現状です。そのような中、信用力の劣る企業でも借入ができる可能性のある担保融資に、注目が集まっています。

担保融資と聞くと、土地や建物などの不動産を担保にするイメージが強いと思いますが、それ以外にも担保にできるものがあります。個人事業主や中小企業でも借入はしやすくなっていますから、資金調達の1つの選択肢として、担保融資の活用を検討してみてください。

今回は資金調達支援を数多く手掛けられている、Biz Bloom 経営会計事務所代表で税理士でもある室田 昌克さんに、担保融資の概要やメリット、デメリットなどについて解説していただきました。

担保融資とは

担保融資とは、会社の資産を担保にした資金調達の方法です。

会社の融資は、決算書の内容に基づいて借入をするケースが一般的ですが、担保融資の場合は担保を設定して借入をし、返済できなくなった場合はその権利が債権者へ移る方式になります。

例えば土地を担保に借り入れをした場合、返済ができなくなったら土地の権利が債権者に移るということです。

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担保融資の種類

担保融資の種類として、不動産担保融資とABL(動産・売掛債権担保融資)、また担保融資と混同されがちなファクタリングについて解説します。

不動産担保融資

不動産担保融資は、土地や建物といった不動産を担保に借入をする資金調達の方法です。返済できなくなった場合、債権者に建物や土地を処分する権利が移ります。

不動産の時価は比較的把握しやすいので、使いやすい資金調達の方法といえるでしょう。ただしバブル崩壊以降、土地の値段が右肩上がりという時代ではなくなったため、今後も主流かといわれると疑問が残ります。

ABL(動産・売掛債権担保融資)

ABLは「Asset Based Lending」の略語で、売掛債権または機械・車などの動産を担保として借入をする資金調達の方法です。

返済できなくなった場合、債権者は売掛金や動産を処分する権利を手に入れますが、それがいくらになるのかという評価は、非常に難しいものとなります。自動車であれば、中古市場などもあるのでイメージしやすいのですが、機械などは査定が困難になるでしょう。

ファクタリング

ファクタリングとは、売掛債権をファクタリング業者に売却することで借入を行う資金調達の方法です。担保融資と混同されるケースが多いのですが、ファクタリングは売掛債権を売却するため、担保にするわけではありません。つまり、ファクタリングは担保融資ではないということです。

ファクタリングは担保も保証人も不要な点が特徴で、近年利用者が増加傾向にあります。

担保にできる対象

担保融資を利用する際、担保の対象には「人的担保」と「物的担保」の2種類があります。それぞれについて解説します。

人的担保

人的担保とは、簡単に言えば保証人です。例えば、会社が借入をする際には、経営者本人が保証人になることが一般的でしょう。もし返済できなくなったら、経営者が代わりに返済する必要があります。

物的担保

物的担保とは、動産や不動産、売掛債権などが該当します。物的担保はものによって評価が難しいケースが多く、特に動産や売掛債権などを担保にした融資を手掛ける場合、金融機関側のリスクが高くなるでしょう。

物的担保は基本的に動産と不動産がメインですが、ブランドなどを担保にすることも可能です。ただし、あくまでも理屈上の話であり、実際に時価を正しく評価するためには大変な工数が発生するので、現実的とはいえません。

担保融資の活用メリット

担保融資の活用メリットは、企業自体の信用力が低い場合でも融資が受けられる可能性がある点や、高額の融資を受けられる可能性がある点などが挙げられます。

担保融資は不動産以外にも、動産や売掛債権などを担保にして融資が受けられるため、中小企業でも比較的利用しやすい点がメリットです。つまり、業績が悪化したことで金融機関からの信用力が低下し、融資を受けられない企業でも、融資が受けやすくなるということです。

また、ファクタリングを行う場合は、資金調達するまでの期間が短くなる可能性があるでしょう。通常、銀行に申し込んで融資を受ける場合、申し込んだ後、決算書や書類などを提出してから審査が入るため、1〜2か月程度の期間は必要です。しかし売掛債権を担保にした場合は、1〜2週間程度の期間で融資が受けられることがあります。

そのため売掛債権を活用した担保融資は、急場の資金調達に適しているといえるでしょう。

担保融資は不動産や売掛債権などを担保にしているため、無担保融資とは異なり、債権者側の貸倒れリスクが低い点も特徴です。よって、担保融資のほうが無担保融資よりも、多くの融資を受けられる可能性が高いでしょう。

さらに、大企業と取引をしている中小企業が売掛債権を担保にする場合は、時価評価を高く見積もってもらえる可能性があるので、より高額な融資を受けられる効果が期待できます。

担保融資のデメリット

担保の評価は金融機関が独自に評価するため、必要以上の資産を担保に取られてしまう可能性があります。

また売掛債権を担保に入れる場合、返済がとどこおって差し押さえられると倒産するリスクもありますから、注意が必要です。なお売掛債権を担保にする場合は、債権者側に在庫や売掛金の情報を適宜報告しなくてはいけない義務も発生します。

そして担保融資は担保の評価によっては、融資が受けられない可能性がある点についても留意する必要があります。

場合によっては一般的な融資よりもコストが高くなる場合もあります。一般的な銀行融資の場合は年利1〜2%というレベルですが、ファクタリングの場合は月に1〜2%(年利10〜15%程度)というケースも散見されます。

担保融資の返済が滞ったときはどうなる?

担保融資を受けて返済できなくなったときには、まず人的担保の場合、経営者が持っている資産で弁済することが基本です。弁済できない場合には、自己破産などの可能性も出てくるでしょう。

一方、物的担保の場合は、債権者に差し押さえられるため、動産や不動産を自分たちで利用できなくなります。ただし売掛債権を担保にした場合は、注意が必要です。

売掛債権を担保にするときには、売掛先の企業へ承諾・通知が原則不要なのですが、返済が滞った際には、通知しなくてはいけなくなります。そのため、取引先の企業との関係性が悪化する可能性がある点がデメリットです。

担保融資の申込・相談先

担保融資の申込先は、銀行などの金融機関と、民間の事業者の2種類があります。企業ごとに審査や担保の評価方法などが異なるため、事前に確認したうえで相談しましょう。担保融資を比較的活用しやすいのは、売掛金や在庫が多い企業です。例えば、アパレルなど在庫を多く抱える必要がある業種などに向いているでしょう。

また、東京都産業労働局が展開している「東京都動産・債権担保融資(ABL)制度」などをも検討してみてください。売掛債権をはじめ、車両や建築・工作機械、在庫などを担保に、事業資金の借入が行える東京都独自の制度です。

本制度を利用した場合、1企業当たりの借入額は、最大で2億5千万円となります。また、機械・設備を担保とする場合は長期資金(7年以内)の借入、売掛債権・在庫を担保とする場合は短期資金(1年以内)の借入となっています。なお、借入に必要な経費(保証料や担保物件の評価費用など)の一部を東京都が補助してくれるので、資金調達の選択肢として検討してみるのはいかがでしょう。

担保融資の全体像はこちらを確認

参考

東京都産業労働局 東京都動産・債権担保融資(ABL)制度 新しいウィンドウで開く

室田 昌克(Biz Bloom 経営会計事務所代表 税理士)

大学卒業後、複数の企業の財務部門で国内外の税務業務に加え、資金繰り・資金調達、経営計画策定およびM&A業務に携わり、その後、税理士法人および税理士事務所において法人・個人の税務業務および相続税の申告に携わる。その後、独立開業して現在に至る。
「成長経営の羅針盤」として会社のお金の流れの見える化(管理会計)、経営計画策定、資金繰り・資金調達といった「財務」サポートを提供している。

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