抵当権と根抵当権の違い、メリット・デメリット

2022/07/25

抵当権と根抵当権の内容と手続き」では、抵当権と根抵当権の内容や違いについて説明しました。ここでは、両者のメリットやデメリットと注意点を解説します。また、事例として新たに工場建設のための不動産担保付き融資を行う場合を例に、具体的な手続きや注意点を紹介します。

抵当権と根抵当権のメリット・デメリット

抵当権や根抵当権を設定した場合のメリット・デメリット・注意点を整理すると以下のようになります。

抵当権 根抵当権
メリット
  • 対象となる債権が明確
  • 債務移譲した場合、付随して抵当権も移る
  • 連帯債務者を設定することができない
  • 何度も融資を利用する場合、登記費用が節約できる
デメリット
  • 連帯債務が認められている(仮に、お金を返せなくなった場合、連帯債務者が代わりに返済することを金融機関が要求できる)
  • 極度額設定時に債権が明確に確定しておらず、返済が終わっても根抵当権は抹消されない。
  • 基本的には他人に根抵当権を譲渡することができない
注意点
  • 抵当権が付いている不動産を売却できるが、設定されている物件は買い手が見つかりにくい
  • 融資が完済していれば抵当権を抹消しておくか、(売却の場合は、同時に抵当権を抹消する)ことが一般的
  • 根抵当権は元本の返済が終わっても抹消されない
    (根抵当権は元本を返済しても極度額の範囲内でまたお金を借りる可能性があるため)
  • 根抵当権を抹消する場合は、双方の同意のもと抹消手続きを行う必要がある

事務所や工場、社宅など特定の債務に対する担保として考えるのであれば、抵当権が活用しやすいでしょう。継続的な仕入や季節変動の大きい仕入れ、複数の融資を円滑に利用することを前提とするなら根抵当権など、目的に合わせ資金調達に活用すると良いでしょう。

抵当権と根抵当権の違い

上記のメリット・デメリット・注意点の表から、それぞれの特徴を説明します。

対象となる債権の明確さ

抵当権は、どの債権を対象としているかが明確です。例えば、借入時に抵当権で担保される債権の金額が1,000万円など、明確に金額を決めて借り入れを行います。根抵当権では極度額(その融資を担保する額)は定めますが、極度額の範囲で何度も融資を行うため、根抵当権設定時に明確な債権があるわけではありません。

設定時に債権が明確となっているか否かは、抵当権と根抵当権の大きな違いといえるでしょう。

連帯債務者の有無

抵当権は連帯債務が認められています。
例えば、対象不動産が企業経営者Aさんと妻のBさんの所有(共有)などの場合、AさんとBさんの連帯債務とすることを融資の条件とする場合があります。

この場合、Aさんが返済できなくなった場合、Bさんに代わりに返済を求めるというものです。根抵当権は極度額を定めてその範囲で融資を行うという性質から、連帯債務という概念がなじみません。そのため、根抵当権では連帯債務者を設定することができません。

権利の移譲可否

抵当権では、債務は人へ移譲することができます。

例えば、AさんがBさんに債務を移譲した場合、債務に付随して不動産に抵当権を設定していた場合、抵当権もAさんからBさんに移ることになります。

根抵当権は当事者同士で極度額を設定しています。そのため、根抵当権の性質から基本的には他人に根抵当権を譲渡することはできません。

工場建設のための不動産担保付き融資の事例

具体的事例として、現在遊休地となっている会社の土地に工場を建設するケースを考えてみます。

工場建設計画、融資申し込みの流れ

この場合、まずは工場建設計画とその製品の増産計画、販売計画を考えることとなるでしょう。そして、その工場計画を元に総額費用、自己資金と融資金額、不動産担保提供(土地と工場建設後の建物)を検討します。

その流れはおおよそ、以下の通りです。

1.工場建設計画の立案 工場建設計画、増産計画、販売計画の検討 総額費用の検討 自己資金・融資予定金額・返済イメージの検討 2.融資申し込み必要書類の取得・整理 工場建設計画図、工事見積り 工場建設後の事業計画書および現在の経営状態が分かる決算書などの整理 土地の不動産登記簿謄本・公図など 3.金融機関への相談・申込み 2.の書類の提出 工場建設計画の説明 4.金融機関の審査・調査 工場建設への融資が有効なものであるかを事業計画で精査 ※ 工場建設後の商品生産量増加、売上増加について見込みを中心に精査不動産担保の調査 現在の土地の担保価値、用途地域や周辺道路環境などを調査し、工場として適切かを確認 5.金融機関審査承認 6.融資契約書類提出 金銭消費貸借契約書 抵当権設定契約書 7.融資実行 工場建設会社など、工事見積り先への支払い実行 8.工場の完成 工場(建物)の抵当権設定 土地・建物両方に担保設定

金融機関での審査・調査

工場建設資金ですので、融資としては「設備資金」と区分されます。

流れとしては、工場建設の計画を立てたら、「2.融資申し込み必要書類の取得・整理」の通り必要な資料を金融機関に提出し申し込みをします。

その後、「4.金融機関の審査・調査」の通り金融機関で審査・調査を行いますが、その際に金融機関が重視する視点は、事業計画の妥当性と担保評価です。

事業計画の妥当性とは「工場建設後の商品生産量の増加と、それによる売上増加の見込みがあるか」「その企業規模などからこの工場建設は、投資に見合うものか」という視点です。よって、事業計画書の妥当性から融資額の減額や計画の中止を勧められる可能もあります。

担保評価とは、現在所有する土地と今後建設する工場の両方の評価です。評価方法・掛け目は金融機関によって異なりますが、路線価格の70%、近隣の取引事例の60%などです。金融機関にその評価を確認しましょう。はっきりと教えてくれないケースもありますが、概算でも捉えておくと良いでしょう。また、建設する工場は、その建設見積額をベースに検討することが多いです。

予備費・工事期間中の資金繰りに関する注意点

工場建設を計画する際に企業側では、予備費や工事期間中の資金繰りにも注意する必要があります。

建築費用には予備費を見込む

工事途中での不測の事態により、追加工事費が必要などのケースもあります。

それに供え、自己資金や予備費を金融機関提出の見積書にあらかじめ入れておくと良いでしょう。

工事期間中の資金繰りに注意

工場を新たに建設する間、経営者や担当従業員が建設プロセスに時間を取られることになるため、その分、本業にかける時間が減ります。売上に影響が出ないような人員配置などが必要です。

今回のように、工場新築であれば既存の生産ラインへの影響はないでしょう。しかし仮に工場建替えの場合は、仮設工場の準備と生産性の確保が必要です。

工場建設という大きな投資をするためには、工場の規模や生産性ももちろん重要ですが、併せて、それを実現するための金融機関の融資も含めた資金計画が大切です。

著者:星 武志(経営コンサルタント)

株式会社アスタリスク代表取締役。金融機関、コンサルタント企業、IT企業を経て、2000年代表取締役就任。IT企業、不動産業、商社等の経営戦略、財務戦略、管理会計支援等 を行う。
これまで、銀行等の金融機関の研修・講演講師を70行庫以上務める。主な著書は「渉外マンの現場力/近代セールス社」金融商品取引法・各種業法に基づく「金融商品セールス対応話法集/銀行研修社」等でありその他金融機関向け、雑誌連載実績等多数。

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