金融機関との上手な付き合い方(2) ~良い担当者の見分け方・付き合い方~

2022/05/30

金融機関は、担当者次第で大きくその取引のスムーズさが変わってきます。ここでは、企業にとって良い金融機関の担当者とはどのような担当者かを考え、もし担当者に問題があった場合にはどのように対応したらよいのか、その方法を紹介します。

金融機関は担当者次第

どのような業界でもそうですが、金融機関も担当者次第で大きくその取引のスムーズさが変わってきます。製品や商品と異なり金融機関のサービスは、形のない無形のサービスです。そのため、その担当者の役割は他の業界より大きいかもしれません。

企業が金融機関の担当者と付き合う前提として「担当者には業界的な知識はほぼない」と思って説明などをすることが必要です。

金融機関の担当者は「金融面では専門家」ですが、それぞれの業界の「財務やお金の流れ」「事業概要」は理解できても、本当の意味での事業内容を理解しているわけではないからです。しかも、企業から見れば金融機関の担当者は1人でも、担当者からすれば多くの担当先の1社です。

それを踏まえ簡潔に、あまり詳細な内容ではなく大きな枠で、まず自社の「事業内容、商品、その強み、顧客、将来性、現状の課題や改善点」などを理解してもらうことから始めると良いでしょう。

自社の事業を理解してもらう必要性

金融機関の担当者には自社の事業をより理解してもらった方が、企業にとってメリットがあります。

例えば、資金調達の場面で「季節性がある繁忙期の夏に向けの商品」を仕入れなければならない企業があるとします。

繁忙期に向け仕入れを行うわけですから、通常よりも仕入れ資金がかかりますね。その場合、通常よりも多額の仕入れ資金を自己資金で賄うのは大変なので、融資を受けようとします。もちろん、仕入れ計画や過去の販売実績などの資料を持って融資の申し込みをするのですが、その企業の事業内容を金融機関の担当者が良く理解していれば、その手続きや融資可否の稟議もスムーズに進むでしょう。

しかし、担当者が事業内容を理解していないのであれば、あれこれヒヤリングされたり、資料も後から追加で依頼されてしまい、そのやり取りに手間取って、仕入れ代金の支払い期日が迫ってくるなどということもあり得ます。

融資が実行されればよいのですが、支払い期日直前に「うちでは融資できません」などと言われてしまうと、手の打ちようがなくなりますね。

この場合、自社の事業内容を理解している良い担当者であれば「いつも、この時期は季節性の資金が発生するのですが、今年はいかがでしょうか?」などと先に声を掛けてくれるでしょう。その場合、融資の申し込みを想定していますので、担当者は必要書類などもその時点で企業に示してくれるでしょう。

「支払期日に余裕を持って資金調達できるか」と「支払期日が迫る中で、どきどきしながら担当者の連絡を待つのか」の差は、経営者にとって、心理的にもお金の面でも非常に大きいものです。

良い金融機関の担当者とは

ここでは、企業にとって良い金融機関の担当者とはどのような担当者かを考えてみます。

さまざまな性格の方がいるので、絶対的なものではありませんが、以下のような姿勢の方が良い担当者と言えるのではないでしょうか。

1.レスポンスが早い
  • 何らかの相談、依頼事などに対する回答や対応、連絡が早い。
2.事業面の理解
  • 事業を知ろうという意欲がある。
  • 以前に説明した事業内容を理解している。
  • 業界的な課題、個別企業の課題を理解し、その改善事例などの情報収集をしている。
  • 業界や企業を知ろう、勉強しようという姿勢がある。
3.必要書類の依頼が明確
  • 融資相談時に依頼する必要書類が明確。なぜ、その資料が必要かも理解している。
  • イレギュラーがない限り、1度で必要書類の依頼が済み、何度も、後から「○○をください」などということがない。
  • 必要書類でなくても、融資検討に必要な資料(事業計画書、予算計画書、投資計画書、主要取引一覧表など、その融資を検討するうえで、企業の実態把握のために必要な資料)も合わせて求めることができる。
4.相手の都合・事情を考えられる
  • 時期、時間など相手の忙しくない時間を考慮でき、
    場合によっては、アポイントを取るなどして充分な面談時間を作れる。
  • 業界、個別企業の事情やニュースなどからの状況変化をキャッチし、提案できる。
    (例えば「業界的に原油高は大きな問題になりそうなので、このタイミングで長期安定資金として資金調達をしておきましょう」など)

金融機関の担当者の多くは、責任感と誠実さを備えていますが、その中でも上記のような担当者が良い担当者なのではないでしょうか。

特別優秀で何でも知っている担当である必要はなく、例えば、新人や経験のない人でも「事業を知ろう」「勉強しよう」という意欲があり、わからないことは上司や専門部署に確認して、早めに企業に回答できれば良いのです。

金融機関では、例えば手数料収入を得るために、投資信託などの商品を勧めることもあります。企業側として、その商品に魅力、必要性を感じて契約することは問題ありませんが、そうでなければ断ってもその後の融資取引に影響はありません。企業としては自社のメリットを考え、金融機関と契約するかどうかを考えれば良いのです。

金融機関の担当者との付き合い方

企業は金融機関の担当者と取引しているわけではなく、金融機関という「組織」と取引をしています。しかし、その組織の窓口になるのは担当者です。その担当者と上手に付き合うことで、融資取引だけでなく、金融機関の持つ資産(情報やネットワークなど)を活用して、双方Win-Winになるようにしたいものです。そうした視点で、担当者とどのように付き合うべきかを検討します。

良い担当者の場合

「良い担当者とは」の章で挙げた「良い担当者」が担当になった場合、非常にラッキーと言えます。定期的に面談などの場を作り、自社の情報を開示し、現状の課題改善や将来の事業の見通しなど目先の資金調達の話だけでなく、より話題を広げて話をすると良いでしょう。

融資提案以外にもさまざまなアドバイスをしてくれたり、また今後の販路拡大が課題であれば金融機関の取引先を紹介してくれたりする可能性もあります。

問題がある担当者の場合

担当者に問題があるケースでは、企業側が「良い担当者とは」の章で示した1.~4.を確認し、対応していくことが必要です。例えば、以下のような対応になるでしょう。

1.レスポンスが遅い
  • 一定期間が経過したら、企業側から連絡をして確認する。
  • 企業側から次のアポイントなどの期日を決める。
2.事業面の理解がない
  • 企業側でビジネスモデル、商流、エンドユーザーなどを、図などでわかりやすく示す。
  • 業界特性やよくある課題などを、図表などでわかりやすく示す。
3.必要書類の依頼が不明確
  • 企業側で日本政府金融公庫や信用保証協会などのホームページなどで必要書類を押さえておく。
    (例えば、それぞれ独自の申込書など以外の「決算書2期分」「試算表」「資金繰り表」など)
4.相手の都合・事情を考えられない
  • 基本的にはアポイントを前提とする。
  • 企業側の都合などをきちんと伝える。

これを実行することで「手間が少なくて済む」「無駄に何度も役所などに行かなくて済む」「こちらの手を止めて、対応しなくて済む」というメリットがあり、効率的になるのではないでしょうか。

担当者に問題があるケースでは、どんどん企業側から打診や依頼、確認をしていくという対応をすると、結果的に自社にプラスになります。

それでも問題が解決しない場合、複数の金融機関と取引していれば、他の金融機関に切り替えるという方法もあります。金融機関に担当者の変更を依頼することもできますが、すぐに担当者を変更してくれない場合に備えるためにも、複数の金融機関と取引をしておくとよいでしょう。

著者:星 武志(経営コンサルタント)

株式会社アスタリスク代表取締役。金融機関、コンサルタント企業、IT企業を経て、2000年代表取締役就任。IT企業、不動産業、商社等の経営戦略、財務戦略、管理会計支援等 を行う。
これまで、銀行等の金融機関の研修・講演講師を70行庫以上務める。主な著書は「渉外マンの現場力/近代セールス社」金融商品取引法・各種業法に基づく「金融商品セールス対応話法集/銀行研修社」等でありその他金融機関向け、雑誌連載実績等多数。

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