事業承継ファイナンス(1)

~事業承継の現状と事業承継ファイナンス~

2022/05/20

日本の総人口(2021年9月15日時点:総務省統計局による)は、前年に比べ51万人減少している一方、65歳以上の高齢者人口は3640万人と、前年(3618万人)に比べ22万人増加し、過去最多となっています。これは同時に経営者の高齢化も急速に進んでいることを意味しています。政府は、事業承継に力をいれているものの、思うように進捗していないのが現状です。

日本における事業承継の現状

中小企業経営者の高齢化が進み、今後、多くの中小企業が事業承継のタイミングを迎えようとしています。しかしながら、約6割が後継者未定であり、60代以上の経営者においては、事業承継計画を進めていなかったり、そもそも計画を策定していない割合も半数程度となっています。また、事業承継ガイドラインによれば、一般的に経営者の高齢化が進むと、企業の業績が停滞する可能性も高くなります。

このような事業承継の状況に対して、政府は様々な施策を実施しています。主な施策として、2016年12月に「事業承継ガイドライン」を改訂し、2017年7月には「事業承継5ヶ年計画」を策定しました。そして、2022年3月に「事業承継ガイドライン」を5年ぶりに改訂。さらに事業承継支援を強化する方針です。

事業承継の手法、類型

事業承継の手法や類型は、様々な視点で分類することができますが、事業承継ガイドラインでは、親族内承継、従業員承継、社外への引継ぎ(M&A)の3つの類型に区分しています。

事業承継の類型

概要
親族内承継 現経営者の子をはじめとした親族に承継させる方法。一般的に他の方法と比べて、内外の関係者から心情的に受け入れられやすいこと、後継者の早期決定により長期の準備期間の確保が可能であること、相続等により財産や株式を後継者に移転できるため所有と経営の一体的な承継が期待できるといったメリットがある。
従業員承継 「親族以外」の役員・従業員に承継させる方法。経営者としての能力のある人材を見極めて承継させることができること、社内で長期間働いてきた従業員であれば経営方針等の一貫性を保ちやすいといったメリットがある。役員による株式取得はMBO(Management Buy-Out)、従業員による株式取得はEBO(Employee Buy-Out)と呼ばれている。
社外引継ぎ
(M&A)
M&Aを活用して事業承継を行う事例は、企業規模の大小を問わず、法人だけでなく個人事業主においても近年増加傾向にある。後継者難のほか、中小企業のM&Aを専門に扱う民間のM&A支援機関が増えてきたことや、国の事業承継・引継ぎ支援センターが全国に設置されたことからM&Aの認知が高まったことも一因となっているものと考えられる。

事業承継と経営者保証

事業承継時に経営者保証(中小企業が金融機関等から融資を受ける際に経営者個人が会社の連帯保証人となること)が後継者候補確保の最大の障害の一つとなっているといわれています。そのため、中小企業団体・金融機関団体共通の自主的ルールとして、2013年12月に「経営者保証に関するガイドライン」が策定されました。さらに、2019年12月には、「前経営者、後継者の双方からの二重徴求の原則禁止」を盛り込んだ「事業承継時に焦点を当てた経営者保証に関するガイドラインの特則」が策定されました。

また、中小企業庁からは「事業承継時の経営者保証解除に向けた総合的な対策」や「中小M&Aガイドライン」などが公表されています。

事業承継を進めるにあたって、特に「経営者保証に関するガイドライン」に関する知識は必須になります。しかしながら、内容がとても難解であるため、顧問税理士や外部専門家などからのアドバイスを受けることをお勧めいたします。

事業承継に関するファイナンス

事業承継の際には、多額の資金が必要になる場合もあります。また、経営者交代に伴い信用状態が悪化して金融機関からの借入条件や取引先の支払条件が厳しくなる場合もあります。よって、取引先の金融機関等に対して、事業承継計画や課題、資金需要などについての情報を共有しておくことが重要だといえるでしょう。

また、事業承継時においては、民間の金融機関だけでは対応困難な場合も想定されます。この対応策としては、「経営承継円滑化法」の認定を受けることによって、以下のような施策を利用できる機会を得ることができます。

主な融資対応策

概要
日本政策金融公庫 経営承継円滑化法の都道府県知事の認定を前提として、後継者個人の株式取得資金の融資が可能となっている。
信用保証協会
(信用保証制度)
経営承継円滑化法における都道府県知事の認定を前提として、事業承継にかかる資金は通常の保証枠と別枠(会社の代表者、事業を営んでいない個人に対しては、通常の保証枠)で信用保証を行うことが可能となっている。

2018年の経営承継円滑化法改正により、(これから他の中小企業者の経営を承継しようとする)「事業を営んでいない個人」を対象とする支援措置が追加されています。これが本法律の最大の特徴です。

また、公的融資以外にも、民間金融機関独自のプロパー融資などによる金融支援や補助金や投資ファンドによる金融支援なども実施されています。

経営承継円滑化法

事業承継の施策などを活用する際に、「経営承継円滑化法」(中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律)が関わることが多々あります。行政は経営承継円滑化法の認定事業者に対して、以下のような施策を実施しています。

経営承継円滑化法の支援策

  • 1.
    税制支援(贈与税・相続税の納税猶予及び免除制度)の前提となる認定
  • 2.
    金融支援(中小企業信用保険法の特例、日本政策金融公庫法等の特例)の前提となる認定
  • 3.
    遺留分に関する民法の特例
  • 4.
    所在不明株主に関する会社法の特例の前提となる認定

なお1、2、4については各都道府県、3については中小企業庁において確認を行っています。経営承継円滑化法の認定を受けるには、所定の申請書類を作成して、窓口に提出する必要があります。申請書類作成が困難な場合は、顧問税理士又は外部専門家に相談することをお勧めいたします。

著者:吉田 学(財務・資金調達コンサルタント)

株式会社MBSコンサルティング代表取締役。1998年の起業以来、「資金繰り・資金調達支援」に特化して創業者や中小事業者を支援。これまでに1,000 社以上の資金調達相談・支援を行い、その資金調達支援総額は20億円超。
主な著書に、「社長のための資金調達100の方法」(ダイヤモンド社)、「究極の資金調達マニュアル」(こう書房)、「税理士・認定支援機関のための資金調達支援ガイド」(中央経済社)などがある。

また、全国の経営者・士業などを対象にした会員制の資金調達勉強会「資金調達サポート会(FSS)」を主催している。

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