金融機関との上手な付き合い方(3) ~担当者のタイプ別の付き合い方~

2022/05/30

金融機関との上手な付き合い方について、いくつか事例を挙げて、その担当者のタイプと、それを踏まえてどう付き合うべきかの事例を紹介します。

【B社の事例】積極的なA銀行の担当者

B社の状況

事業の現状 年々売上が増えているが、その分、仕入・在庫が増加し、従業員も増加している。
取引内容 預金、融資、従業員への給与振込みなど、総合的に取引しており、複数ある取引先の中でもメインとしてA銀行を利用
今後の希望・要望 運転資金が不足しがちになることが予想されるため、タイムリーに融資による資金調達をしたい

B社は年々売上が増えていますが、その分資金需要も旺盛になっているため「タイムリーな資金調達」を考えています。

A銀行の担当者

A銀行の担当者は積極的で、まずは現在の決算書や試算表、売掛金・買掛金の状況を確認し、「私の方で計算したところ、年間で御社は○万円程度、資金が不足すると思います。現在の御社の信用力だと、○万円くらいの融資が実行できる可能性が高いと思います。今現在、すぐに必要な資金ではないと思いますが、A行内で審議したいと考えています。いかがでしょうか。」と提案をしてくれました。

その際、あらかじめ審議にかかる必要書類を一覧にして提示してくれていて、効率的なことからB社は満足し、資金調達をA銀行に依頼しました。

このA銀行の担当者ように、こちらから相談する前にきちんと状況を把握して提案をしてくれる担当者は、まさに「良い担当者」と言えるのではないでしょうか。

【D社の事例】事業内容を理解していないC信用金庫の担当者

D社の状況

事業の現状 システム開発事業で、年々売上が増えている分、内製で開発することが厳しくなっている。
取引内容 預金、融資の取引はあるが、サブ的な位置づけ。
ただし、取引歴は5年以上ある。
今後の希望・要望 開発案件の増加に伴い、外注でシステム開発してくれる企業を探している。

D社は、売上拡大に伴うシステム開発案件の増加で、外注企業を探しています。ちょうど、決算後だったため、決算書を取りに来たC信用金庫の担当者に相談しました。C信用金庫は、マッチング(取引先の紹介)などに力を入れているとホームページで掲載もあったからです。
ところが、D社がC信用金庫の担当者に相談したところ「御社は何のシステムを開発しているのですか?」と質問されてしまいました。

C信用金庫の担当者

この事例では、C信用金庫の担当者が転勤し途中で代わっていますが、5年以上取引をし、融資取引をしていることから決算書も提出しています。融資申し込み時には、事業内容や資金使途も説明していたD社は、正直驚いてしまいました。

C信用金庫の担当者のような方だと、また1から説明しなければなりませんね。結局、D社は他の取引金融機関のE銀行に相談して、外注先をマッチングしてもらいました。D社としては、C信用金庫の担当者にまた1から説明して外注先を探してもらうという方法もありましたが、この事例では、これを機会に取引を見直すという結果となりました。

【G社の事例】真剣に顧客の疑問・課題に向き合わないF銀行の担当者

G社の状況

事業の現状 不動産業として、ビルを数棟所有(日本国内・海外)。
ただし経営者が外国人。日本での就労ビザはあるが、永住権はない。
経営者は日本・海外に半分ずつ居住。なお、家族は海外に居住。
G社株式は、経営者が100%所有。日本国内の通常の業務は、日本国内居住の他の役員が中心となり実施。
取引内容 預金の取引のみ。
事業用ビルであり、賃料振り込みは、その預金に入金される。
今後の希望・要望 経営者が外国人ということで、ノンバンクからの融資でビルを購入した結果、一般の金融機関に比べ返済期間が短く、金利がやや高いため融資を乗り換えたい。

G社は日本国内の不動産を有していて、その担保価値や賃料収入で十分に返済源を確保できます。しかし経営者が外国人であり、かつ完全に日本に居住しているわけではないため、なかなか一般の金融機関の融資を受けられず、ノンバンクから融資を受けビルを購入し所有していました。

そこで、賃料収入の入金先で何年も取引実績を積んだF銀行に、ノンバンクからの融資の乗り換えを相談しました。

G社からすれば、担保価値・返済源が十分であっても、経営者が外国人でかつ完全に日本に居住しておらず、家族も海外居住(将来は日本に居住を希望)である点が問題となると想定していました。その点をF銀行に確認し、経営者の居住などの条件面で折り合えば、融資の相談をしたいと考えたのです。

F銀行の担当者

その相談を受け、F銀行の担当者はG社にさまざまな資料を要求してきましたが、F銀行の担当者の説明不足により、G社は何のためにその資料が必要なのかを理解できないまま時間だけが経過しました。提出した資料の中には不動産登記簿謄本など、費用と手間をかけて取得したものもあります。

いつまでも融資が進まず、F銀行の担当者に上司に同席してもらっての打ち合せを設定させましたが、その席で上司から「F行では、日本に居住する方でないと融資はできない」と言われてしまいました。

そうしたF銀行のルールがあるのであれば、早い段階で説明をしてくれれば良いものですが、F銀行の担当者は上司に日本国内での居住が必要かどうかについて確認せず、よくわからないまま資料だけを依頼していたのです。これではG社にとっては、まったくの費用と時間の無駄でした。

この事例では、そのF銀行の担当者が「理解していない」と思った場合、早い段階で、F銀行の担当者の上司に同席を求めるなどして、融資が可能かどうかをはっきりさせることが重要でした。

正直なところ金融機関には、真剣に顧客の疑問・課題に向き合わない担当者がいないとは言えません。金融機関の担当者が真剣に顧客の疑問・課題に向き合わない姿勢の場合、早々に上司や問題点がわかる人に代わってもらうと良いでしょう。

著者:星 武志(経営コンサルタント)

株式会社アスタリスク代表取締役。金融機関、コンサルタント企業、IT企業を経て、2000年代表取締役就任。IT企業、不動産業、商社等の経営戦略、財務戦略、管理会計支援等 を行う。
これまで、銀行等の金融機関の研修・講演講師を70行庫以上務める。主な著書は「渉外マンの現場力/近代セールス社」金融商品取引法・各種業法に基づく「金融商品セールス対応話法集/銀行研修社」等でありその他金融機関向け、雑誌連載実績等多数。

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