金融機関との上手な付き合い方(4) ~金融機関に自社のビジネスを理解させるには~

2022/05/30

金融機関に自社のビジネスを理解させることで、いっそう支援を受けられる可能性があります。金融機関はこれまで企業の財務・担保・保証しか見てきませんでしたが、企業の事業の成長性や営業力などの評価をしようと方向転換しています。ここでは、自社のビジネスを理解させるための金融機関との情報共有などについて、解説します。

「事業内容を適切に評価」し、融資促進を行う金融機関

金融機関はこれまで企業の財務・担保・保証しか見てきませんでしたが、2015年以降、その方針を、金融庁の方針転換により「企業の財務データーや担保・保証に過度に依存せず、企業の事業内容を適切に評価した融資の促進も要求する」という方向へと大きく転換させました。

しかし、その方針を転換させた金融機関が、急に、企業の事業の成長性や営業力などの評価ができるわけではありません。基本的に、よほど良い担当者以外は「決算書やお金の流れは理解しているが、ビジネスは理解していない」という人が多いでしょうし、金融機関によって金融庁の方針転換への取り組みにはバラつきがあります。

積極的に金融庁の方向変換に基づき、融資方針転換をして、成長性・営業力・技術力などを見ようという金融機関もあります。金融機関のホームページで「中小企業支援」「事業性融資」などの文句を掲げてる場合には、具体的に問い合せをしてみるのも、その金融機関の取組み具合を図る手段になります。ご興味があれば現在の取引金融機関や、取引がない自社の近隣の金融機関に聞いてみると良いでしょう。

もし企業の財務・担保・保証だけではなく、成長性・営業力・技術力なども適切に評価した融資に積極的に取り組んでいれば、一度面談の時間を作ってもらい自社のビジネスを理解させることで、金融機関からさらなる支援してもらえる可能性があります。

自社のビジネスを理解させるための項目と、金融機関に期待できる効果

以下に、例として自社のビジネスを理解させるために良い項目と、これを理解してもらうことで金融機関に期待できる効果をまとめています。

ビジネスを理解させるとために良い項目 期待できる効果
事業概要(事業全体と事業単位)
主たる販売先、仕入先、その上位者。
具体的に金融機関に、自社のビジネスを理解させる第一歩。事業全体だけでなく事業単位で理解してもらうなどで、事業への理解が深まり、融資提案、マッチング提案などが期待できる。
事業の強み・弱み
どの点が強くて、どの点に課題があるか。
強みは「技術力」「特許」、弱みは「新規販路拡大」など。事業の特徴を知ってもらう。
強み・弱みに対するマッチング提案などが期待できる。
例えば「販路拡大」であれば、展示会などのイベントや、金融機関本部連携での海外展開相談などの提案が期待できる。
ライバルと差別化
「どの企業がライバルか」「ライバルの位置付け」「ライバルと差別化できる点はどこか」など。
業界やライバルなどの調査レポートなどの提供が期待できる。また、ライバルとの差別化を図る上でのアドバイスやマッチングなども期待できる。

上記以外にも多くのサービスが期待できますが、最低限、金融機関の担当者に上記を理解してもらえると、金融機関内で融資の稟議を担当者が作成するにあたり、具体的な資金需要や回収見通し、今後の事業展開などが記載できるため、担当者にとってもありがたいものになります。

また可能であれば上記を口頭で説明するよりも、書面など形に残るように提出するといっそう担当者の助けとなるでしょう。そして、この内容を以下で説明する形式で、定期的に担当者とコンタクトを取ったり報告したりするとさらに良いでしょう。

金融機関との定期的なコンタクトと情報共有

定期的なコンタクト

金融機関と定期的にコンタクトを取り、情報共有をする目的は「自社のビジネスを理解させること」ですが、さらに双方が親しみを持ち、業績の話題以外のさまざまな話ができるようになります。

その結果、企業側でも「現在の金融機関が重きをおいていること」や「顧客に求めること」などが理解できるようになります。

金融機関の格付けと評価

金融機関は、特に融資取引においては他の業種と異なり「顧客を評価する」ことが仕事です。その評価は「格付」という表現をされるように、信用格付などで顧客をランク付けし、そのランクに応じて取引先の金利を設定したり、返済条件を決めたりします。

その金融機関の評価が良く、格付けが良くなれば、以下のようなメリットがあります。

  • 金利が安くなり、融資の額が大きくなる。
  • 金利などの条件以外でも、金融機関との取引全体に好影響を与える。

金融機関の評価を構成する要素には、以下のものがあります。

  • 1.
    決算書などの数字で評価する「定量評価」
  • 2.
    決算書以外、数字以外で評価する「定性評価」

定量評価

1.の「定量評価」は、決算書という過去の業績での評価なので、すぐに変えることは難しいですが、2.の「定性評価」は、数字以外の評価ですので、その企業の方針や新たな取り組み、現状の課題に対する改善などで変えられます。

定性評価

金融機関では、規模の小さい企業については2.の「定性評価」を見るケースも多いです。その最たるものは「経営者の人望や仕事上での人間関係、幅広い人脈」「地域に根ざした企業で、地場でも知名度がある」「規模は小さいが特別な技術があり大手と取引している」など、数字で表せない部分です。

情報共有

企業側では、例えば「経営者のネットワークで新たに大手と取引する」「自社の持つ技術から特許申請をしようとしている」「大手仕入れ先と業務提携をすることになった」などについて、定期的にコンタクトを取り、その変化や情報について共有をするとよいでしょう。企業の変化や上表には金融機関も興味を持ちますし、内容によっては2.の「定性評価」で良い評価につながることもあります。

ここで注意したいのが、良い情報ばかりでなく「悪い情報も伝える」ということです。時間がたってから、その悪い情報のために業績に影響が出ることがあると金融機関の信頼を失うからです。

企業の月次決算や取引先状況などの状況をこまめに報告する

上記の1.の「定量評価」に関わる情報は、月次決算が終わった段階で、現在の事業・取引先状況などを細めに報告すると良いでしょう。

金融機関が通常、定期的に報告してもらう際に、入手したいと考える資料は以下の通りです。

  • 決算書や試算表
  • 新規取引の場合や変更があった場合には、その時点の会社案内や商品パンフレット
  • 業務提携や資本提携があった場合や、その契約書や相手企業の概要、株主資本構成など変化があった場合には、株主名簿
  • 事業運営上、更新が必要なもので更新手続きしたもの(例:営業許可証やフランチャイズ契約など)

ここで、最も金融機関が重視する資料は「決算書や試算表」です。

予算計画書がある場合には、その予算と月次決算の実績、その予算実績差異の原因分析、今後の業績見通しや取り組み予定などを示すとさらに良いでしょう。

金融機関からすると実績から経営状況が分かりますし、場合によってはその場で融資提案などがあるかも知れません。タイムリーにその企業の実績がわかることは、金融機関にとって非常にありがたいことです。

融資を申し込む際に、決算後にしばらく時間が経たっていれば試算表を求められます。企業側からしても、融資を申し込む前の月次決算が終わった段階で、先に試算表を提出してしまって説明しておくと、融資申し込み時に改めて詳細な説明をする必要がなくなりますね。

試算表は以下のような月次推移表の形で提出すると良いでしょう。

【月次試算表(B/S)】
【月次試算表(P/L)】

「弥生会計」や「弥生会計オンライン」でも残高試算表を作成できます。操作方法が分からない方は、こちらをご確認ください。

また、決算書作成のポイントを資金調達ナビ「資金調達全般の基本」の「資金調達に欠かせない重要資料」で解説していますので、参考にしてください。

ときどき、試算表を貸借対照表(B/S)や損益計算書(P/L)の数字を、提出時点の月だけのもので提出する方もいらっしゃるようですが、金融機関はその月々での推移を確認したいものですので、上記のように「試算表を提出してほしい」と言われたら月次推移表で提出しましょう。

著者:星 武志(経営コンサルタント)

株式会社アスタリスク代表取締役。金融機関、コンサルタント企業、IT企業を経て、2000年代表取締役就任。IT企業、不動産業、商社等の経営戦略、財務戦略、管理会計支援等 を行う。
これまで、銀行等の金融機関の研修・講演講師を70行庫以上務める。主な著書は「渉外マンの現場力/近代セールス社」金融商品取引法・各種業法に基づく「金融商品セールス対応話法集/銀行研修社」等でありその他金融機関向け、雑誌連載実績等多数。

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