金融機関との上手な付き合い方(6) ~セミナーなどへの参加と担当者の喜ぶ取引~

2022/05/30

金融機関との上手に付き合うための方法として、セミナーやイベントへ参加することがあります。また、長い付き合いを意識することも大切です。ここでは、これらの方法について解説し、金融機関の担当者が喜ぶ取引、嫌う取引を紹介します。

金融機関主催のセミナーやイベントに参加する

企業にとって金融機関との取引は、あくまで融資取引などを通じたビジネスです。その視点では、金融機関主催のセミナーやイベントに参加することは、ある意味ギブアンドテイクの付き合いと言えるでしょう。無理に、まったく関係のないセミナーやイベントに参加する必要はありませんが、事業との関連性や発展性があるのであれば参加してみましょう。

金融機関のセミナーやイベントの目的は「顧客を獲得すること」です。もちろん、企業にとっても金融機関にとっても、ボランティアではありません。

例えば金融機関が会場を借り、ブースを有料で顧客に提供する展示会や商談会などのイベントもありますし、著名人や専門家を呼んでのセミナーもあるでしょう。そのセミナーの後に懇親会などで、取引相手として合いそうな企業同士をマッチングするケースもあります。
さらには、そのセミナーなどで金融機関がPRする金融商品を契約するなどのことがあれば、金融機関に喜ばれます。

いずれにしても、金融機関・企業ともにビジネス上でのギブアンドテイクが上手くできると、企業の側でもより取引が深くなり、情報収集などもしやすくなりします。無理なお付き合いをする必要はありませんが、上手くお付き合いしておきたいものです。

またセミナーやイベントという場ですと、金融機関のグループ会社である保険会社やリース会社、ファクタリング会社などを紹介されることもあります。メリットがあればこれらの会社を上手に利用し、お付き合いすることもよいでしょう。

長い付き合いを意識する

金融機関との取引では、その場のみの付き合いもありますが「長い付き合い」も意識しましょう。企業と金融機関は融資取引だけでなく、売掛金や買掛金の決済口座、振込取引など、切っても切れない関係です。よって「今は資金が必要ないから関係ない」と、目先のことだけ考えてお付き合いをするのではなく「いつか取引するかもしれないから」と考えてお付き合いすると良いでしょう。

また、金融機関には経済全体や金利などのマクロ情報、その地域の行政や不動産、個別企業などのミクロ情報があります。その情報こそが金融機関の「資産」なのですが、企業側に「その資産を先々、上手く活用しよう」という視点もあると、さらに意識も変わってくるのではないでしょうか。

金融機関も担当者も人間ですので、見ず知らずの企業よりも良い関係が続いている企業の方が、融資などの取引に積極的に関わってくれるでしょう。

金融機関の担当者が喜ぶ取引

ここでは金融機関や担当者の都合を考え「金融機関に喜ばれる取引先になるにはどうしたらよいか」という視点で整理してみます。

無理をして金融機関や、担当者の都合を忖度して取引する必要はありません。しかし、企業としては「何が喜ばれるのか」を意識した取引を理解しておくと、金融機関と良好な関係を築きやすくなる可能性が高くなり、その結果、企業にとっての得となるでしょう。

以下「金融機関に喜ばれる取引」という視点で、ポイントとなる点を説明します。

融資取引
  • 定量面、定性面、保証人、保全(不動産担保など)で問題のない企業で、かつ与信上問題のない範囲で融資の申し込みをする企業
  • 日本政府金融公庫、信用保証協会付融資を申し込みする企業(取引枠の決まっている公的な融資は歓迎される)
  • 他行庫などの取引を移管してくれる企業。
  • 売上や資金繰りなどの事業状況を定期的に報告してくれる企業
預金取引
  • 決済のメイン口座として利用してくれる企業(売掛金回収、買掛金支払い、給与支払いなど。振込手数料を支払いやインターネットバンキングなどを利用してくれる企業)
  • 金融機関の推奨する金融商品を購入してくれる企業
役員・従業員取引
  • 企業だけでなく役員や従業員についても、融資や預金取引を充実してくれる企業(賞与、カードローン、住宅ローンなど)
その他の取引
  • 金融機関のセミナー、イベント、アンケート調査などに積極的に参加してくれる企業
紹介
  • 顧客を紹介してくれる企業(例えば、取引先企業を金融機関に紹介する場合など。取引先企業からしても、新たな融資取引などができればメリットにつながる)

金融機関との取引は、可能な範囲から実行することで、長い付き合いを意識でき、担当者との人間関係の構築につながるのではないでしょうか。

金融機関の担当者から嫌われる取引

金融機関や担当者の都合で考えると、金融機関から嫌われる取引も押さえておきましょう。「これをすると取引ができない」ということではありませんが、意識として「このような取引は避ける、注意する」「もし結果的にそうなった場合、改善できるところから改善する」と考えておくと良いでしょう。

以下「嫌われる取引」という視点で、ポイントとなる点を説明します。

取引金融機関を頻繁に変える
  • 複数の金融機関と取引することはリスク回避のために重要ですが、融資を受ける金融機関を頻繁に変える会社は金融機関から嫌われます。
  • ある程度「○○の資金はA行」などと決めておき、仮に他行庫であっても、その融資についての情報をオープンにしておくと良いでしょう(金融機関に試算表などを出すと融資残高の変化から知られてしまう情報ですので、他公庫の融資の情報をオープンにしても問題ありません)。
困った時だけ相談する
  • 困ったときだけ融資の相談を行うのではなく、定期的に、または事前に情報提供をして相談しましょう。
  • 金融機関は、「確実に返済を受けたいため、危ない企業には融資をしたくない」と思っているため、困ったときだけ相談する企業を快くは思いません。
  • 企業が本当に困った時点で相談をすると時間の猶予が少く、金融機関としても審査する時間もないことにもなってしまいます。
融資と融資返済用預金口座しない企業
  • 融資と融資返済用預金口座のみの取引だと、金融機関からすると融資実行後の企業実態が分かりません。せめて、売掛金の一部でもその預金に入金するようにしてほしいと思っています。
  • 金融機関では、融資の他、預金やその他サービスなどの複合的な取引を望んでいます。
  • 企業だけでなく役員や従業員についても、融資や預金取引を望んでいます。

特に長い取引を考えると「取引金融機関を煩雑に変える」「困った時だけ相談する」ことには注意が必要ですし、もしそうしてしまった場合は、次回から改善するよう心がけると良いでしょう。

金融機関取引は金融機関の都合を理解したうえで、信頼を積み重ねることが大切です。そして金融機関が求める「信用」を得るには、「約束や期限厳守すること」「それをしっかりと繰り返すこと」で積み重ねるしかありません。

企業の側からも上手に取引し、金融機関をより活用することを考えるとよいでしょう。

著者:星 武志(経営コンサルタント)

株式会社アスタリスク代表取締役。金融機関、コンサルタント企業、IT企業を経て、2000年代表取締役就任。IT企業、不動産業、商社等の経営戦略、財務戦略、管理会計支援等 を行う。
これまで、銀行等の金融機関の研修・講演講師を70行庫以上務める。主な著書は「渉外マンの現場力/近代セールス社」金融商品取引法・各種業法に基づく「金融商品セールス対応話法集/銀行研修社」等でありその他金融機関向け、雑誌連載実績等多数。

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