株主の権利(株式会社の場合)

2020/03/24(2022/5/19更新)

株式会社が増資を行う場合、引き受ける人は会社の新たな株主となるため、今までの株主と同じくさまざまな権利を持つことになります。
今回はこの株主の権利についてみていきましょう。

株主が持つ権利一覧

株主の権利は大きく分けると下図のようになります。

単独株主権 少数株主権
自益権(個人の利益)
  • (1)
    剰余金配当請求権
  • (2)
    残余財産分配請求権
  • (3)
    株式買取請求権
共益権(全体の利益)
  • (1)
    株主総会の議決権を行使する権利
  • (2)
    株主総会の決議の取消・無効・不存在の提訴権
  • (3)
    定款閲覧謄写請求権
  • (4)
    責任追及の提訴権
  • (1)
    株主総会の議題の提案権
  • (2)
    株主総会の招集請求権
  • (3)
    取締役等の解任請求権
  • (4)
    帳簿の閲覧請求権
  • (5)
    解散請求権

まず、株主が個人の利益になることに対して権利を主張できるものである「自益権」と株主全体の利益になることを主張する「共益権」という権利があります。

また、「自益権」は、株主が単独で主張できる「単独株主権」だけであるのに対し、「共益権」は「単独株主権」のほかにまとまった株主でないと主張できない「少数株主権」があります。

自益権(株主個人の利益)の内容

株主の自益権とは株主になることによってその会社から経済的なメリットを受けられる権利です。そのため、持っている株数が多ければ多いほど利益も大きくなります。具体的には次のとおりです。

  • (1)
    剰余金配当請求権・・・配当金を受け取る権利
  • (2)
    残余財産分配請求権・・・会社が解散をしたときに、最後に残った財産の分配を受ける権利
  • (3)
    株式買取請求権・・・自分の持つ株式を買い取ってもらう権利

共益権(株主全体の利益)の内容

共益権は、株主が会社の経営にたずさわることができる権利です。そのため、主張する権利は株主全体の利益になるようなものでなければなりません。このうち、株主が単独で主張できる権利は次のとおりです。

  • (1)
    株主総会の議決権を行使する権利・・・株主総会に参加し、議案に対して「賛成」「反対」の意思を表示する権利
  • (2)
    株主総会の決議の取消等の提訴権・・・株主総会の決議が法令に従って行われていなかった場合にその取消しや無効などを主張できる権利
  • (3)
    定款閲覧謄写請求権・・・会社の定款を見たり、コピーを取ったりすることができる権利
  • (4)
    責任追及の提訴権・・・取締役などが会社の定款や法令違反などによって、会社に損害を与えた場合に、その損害を賠償してもらうための訴訟を起こすことができる権利

少数株主権(少数株主に対する保護)とは

株主の主張は、持っている株数が多いほど通りやすくなります。これは、株主総会の決議が多数決で決められるからです。そのため、少数株主にとっては自分の意見は通り辛くなってしまい、その会社に出資する動機が薄くなってしまいます。

そうなると、新たな株主からの出資を集めづらくなってしまうため、一定割合を持っているものの少数派となってしまう株主を保護するための決まりがあります。これが「少数株主権」です。
これは、大株主による独占的な経営を防止する効果もあります。

保護される権利の内容とそれに必要な議決権の割合は次のとおりです。

権利の内容 必要な議決権割合
(1) 株主総会の議題の提案権 議決権の1%
  • (2)
    株主総会の招集請求権
  • (3)
    取締役等の解任請求権
  • (4)
    帳簿の閲覧請求権
議決権の3%
  • (5)
    解散請求権
議決権の10%

なお、株主総会に関する(1)の提案権、(2)招集請求権や(3)取締役等の解任請求権は、権利の行使前6か月保有していることが要件となります。

株主平等原則と株主名簿の記載

会社に関する決まりごとに関する法律である「会社法」では、株主は平等な権利を持つものとされています。ここでいう平等とは、株式1株についての平等をいいます。そのため、原則的には株式の数を多く持っている人の権利が優先されることとなってしまいますが、「少数株主権」はこの例外として認められている権利です。しかし、最終的には株主総会の決議によって会社の経営方針が決められてしまうため、より多くの議決権を持っている人が有利なことに変わりはありません。

この株主の権利を行使するためには、「株主名簿」に記載がなければなりません。「株主名簿」は、株主の氏名、住所、保有している株数を記載した名簿で、会社はこの名簿の備え付けが義務とされています。議決権や配当を受ける権利などは、会社があらかじめ決めた基準日に、この株主名簿に記載がある場合にのみ行使できます。日々売買が行われる上場会社などは、株主をリアルタイムで正確に把握することが困難であることから、このような取扱いになっているのです。

基準日は、一般的に「決算日」を指定することが多いため、株主総会に参加し、議決権を行使するためにはこの時点で株主名簿に記載がなければなりません。そのため、たとえば3月決算法人の株主総会が6月にある場合に、4月以降に株を取得した株主は株主総会への参加の権利がありません。

このように、株主の権利は「いつ」「誰が」「どの程度の割合で」株式を持っているかが重要になりますので、増資を行う際は、こうした株主側の権利も考慮して計画をすることが重要です。

著者:小島 孝子(税理士)

早稲田大学 社会科学部,青山学院大学 会計プロフェッション研究科卒。
大学在学中から地元会計事務所に勤務し、その後、都内税理士法人、大手税理士受験対策校講師、大手企業経理部に勤務したのち2010年に小島孝子税理士事務所を設立。会計事務所、経理職員向け税務・経理に関するセミナー多数担当。

著書

  • 簿記試験合格者のための初めての経理実務(税務経理協会)
  • 税理士試験計算プラクティス消費税法解法の極意(中央経済社)
  • 3年後に必ず差が出る20代から知っておきたい経理の教科書(翔泳社)
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