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2024-04-05更新
キャリアアップ助成金の対象となる事業主・労働者について解説
2023/02/07
キャリアアップ助成金は、厚生労働省が非正規雇用労働者のキャリアアップ推進のために設けた制度です。有期雇用労働者や派遣労働者などを正社員化したり、処遇改善の取り組みを行ったりした事業主に対して支給されます。従業員20人以下の中小企業や個人事業主などのスモールビジネスにとっても、この助成金を活用してキャリアアップ制度を整備することで、人材が定着したり、成長したりするメリットがあるでしょう。
ここでは、キャリアアップ助成金の目的や対象事業主、助成金額の他、申請の流れや注意点などについて解説します。
キャリアアップ助成金は、有期雇用労働者、短時間労働者(アルバイトやパートタイム)、派遣労働者といった非正規雇用労働者の企業内でのキャリアアップを促進するための制度です。非正規雇用労働者の正社員化、処遇改善の取り組みを行った事業主に対して助成金を支給します。
キャリアアップ助成金は、厚生労働省が管轄しています。事業主は支給要件を満たして厚生労働省の出先機関である都道府県労働局やハローワークへ申請し、申請内容に問題がなければ、必ず助成を受けられる仕組みです。
このキャリアアップ助成金は、大きく分けて「正社員化支援」と「処遇改善支援」の2つに分けられます。
キャリアアップ助成金の支給対象となるのは、労働者を雇用している事業主です。労働者が雇用保険の被保険者であれば、スモールビジネスの事業主でも助成金を受けられる可能性があります。
対象となる事業主の具体的な要件は、下記のとおりです。
キャリアアップ管理者とは、労働者のキャリアアップの目標を定め、目標達成のために何をするかという計画書を作成する担当者です。人事担当者などキャリアアップの知識や経験を持つ労働者、もしくは事業主本人や役員などがになうことができます
キャリアアップ管理者を配置して計画書を作成し、管轄労働局の認定を得て、さらに就業規則を改定するといった計画を実践すると、助成金が支給されます。
キャリアアップ助成金は、中小企業と大企業で支給額が異なります。
ここでいう中小企業とは、資本金額や出資額でくくった範囲です。資本金などがない事業主の場合は、常時雇用する労働者の数によって判断されます。中小企業の範囲は下記のとおりです。
業種 | 資本金額・出資額の総額または常時雇用する労働者数 |
---|---|
小売業(飲食店を含む) | 資本金5,000万円以下または労働者50人以下 |
サービス業 | 資本金5,000万円以下または労働者100人以下 |
卸売業 | 資本金1億円以下または労働者100人以下 |
その他の業種 | 資本金3億円以下または労働者300人以下 |
常時雇用する労働者とは、主に2か月を超えて雇用された労働者です。また、週あたりの所定労働時間が、当該事業主に雇用される労働者と同等程度の労働者を指しています。
キャリアアップ助成金におけるキャリアアップの対象者は、正規雇用ではない労働者です。
具体的には、雇用される期間が通算6か月以上の有期契約労働者、無期雇用労働者、同一の業務について6か月以上の間、継続して従事している派遣労働者などが該当します。
正規雇用、あるいは無期雇用を条件に雇用した労働者は対象外です。さらに、過去3年以内に正規雇用・無期雇用していた労働者や、事業主・役員の親族(3親等以内)も対象外となるため、注意が必要です。
ちなみに、キャリアアップ助成金には、障害のある有期雇用労働者などを正規雇用した場合の「障害者正社員化コース」も設定されています。同コースの対象者は、要件をすべて満たす必要があります。障害者正社員化コースの要件は「キャリアアップ助成金(障害者正社員化コース)のご案内 」(厚生労働省)を確認してください。
キャリアアップ助成金において、非正規雇用労働者を正社員にしたときの「正社員化支援」には、「正社員化コース」と「障害者正社員化コース」の2つがあります。いずれも、非正規雇用労働者を正規雇用に転換した際に助成金が支給されます(正社員化コースは派遣労働者を直接正規雇用した場合も含む)。スモールビジネスを含む中小企業に対しては、大企業に比べて支給金額が多いのが特徴です。
ここでは2つのコースの支給金額などについて、詳しく解説します。
キャリアアップ助成金の中で最も多く利用されているのが、正社員化コースです。
スモールビジネスにおいても、飲食店のアルバイト店員を有期雇用から正規雇用に転換し、店長に抜擢するといった例があります。また、昨今では人材不足で求人広告を出しても効果がないことも多く、事務職の派遣労働者をそのまま正規雇用するなどのケースもあるようです。なお、派遣労働者の正社員化においては、労働者側にも受け取る賃金が増えるというメリットもあります。
中小企業に対する正社員化コースの支給金額は、下記のようになっています。
条件 | 支給金額 |
---|---|
有期雇用から正規雇用(正社員) | 57万円 |
有期雇用から正規雇用(正社員)、なおかつ生産性向上要件を満たす場合 | 72万円 |
無期雇用から正規雇用(正社員) | 28万5,000円 |
無期雇用から正規雇用(正社員)、なおかつ生産性向上要件を満たす場合 | 36万円 |
正社員化コースにおいては、上記の支給金額に対して大企業・中小企業同一の加算措置があります。特に魅力的なのは、有期雇用の派遣労働者を派遣先で正規雇用労働者として直接雇用する場合、57万円の支給金額に1人あたり28万5,000円が加算され、合計85万5,000円が支給されることです。
非正規雇用労働者を正規雇用し、なおかつ生産性向上が認められると、さらに支給金額は増えます。ただし「支給申請を行う直近会計年度における生産性が3年度前に比べて6%以上伸びている」などの要件を満たす必要があり、生産性向上を算出する作業も含め、スモールビジネスにおいてはやや難度が高いといえるでしょう。
43.5人※以上の労働者を雇用している事業主は、1人以上の障害者の雇用が義務付けられています。未達成の場合にはハローワークから行政指導が行われることもあるため、キャリアアップ助成金活用によって、障害者雇用に取り組むのがおすすめです。
中小企業に対する障害者正社員化コースの支給金額は、下記のとおりです。
支給対象者 | 条件 | 支給金額 |
---|---|---|
重度身体障害者、重度知的障害者および精神障害者 | 有期雇用から正規雇用(正社員) | 120万円 |
有期雇用から無期雇用(正社員) | 60万円 | |
無期雇用から正規雇用(正社員) | 60万円 | |
重度以外の身体障害者、重度以外の知的障害者、発達障害者、難病患者、高次脳機能障害と診断された者 | 有期雇用から正規雇用(正社員) | 90万円 |
有期雇用から無期雇用(正社員) | 45万円 | |
無期雇用から正規雇用(正社員) | 45万円 |
仮に上記条件に合致しても、キャリアアップ助成金の支給金額が支給対象の障害者に支払われている賃金額を上回る場合には、賃金額が支給されることになるので注意が必要です。
キャリアアップ助成金では、非正規雇用労働者の労働条件改善を支援する「処遇改善支援」の助成金も用意されています。処遇改善支援には4つのコースがあります。スモールビジネスで活用されることが多い「賃金規定等改定コース」を中心に、詳しく見ていきましょう。
賃金規定等改定コースは、事業主が非正規雇用労働者などの賃金規定を改定し、3%以上増額させたときに助成金が支給されるコースです。2022年12月に改定され、条件見直しとともに支給金額が拡充されました。
条件 | 支給金額 |
---|---|
賃金改定率3%以上5%未満 | 5万円 |
賃金改定率5%以上 | 6万5,000円 |
賃金規定等共通化コースにおいては、中小企業の事業主が、非正規雇用労働者と正規雇用労働者の共通の賃金規定を新たに規定・適用した場合に、1事業所あたり57万円(生産性向上が認められる場合は72万円)が助成されます。
「同一労働同一賃金」という言葉を耳にすることも多い昨今、同じ職務を行っているにもかかわらず、非正規・正規雇用の立場によって賃金が異なる状況は改善される必要があるため、今後いっそうの活用が予想されるコースです。
賞与・退職金制度導入コースでは、中小企業の事業主が非正規雇用労働者を対象に、賞与・退職金制度を新たに規定・適用すると、1事業所あたり38万円(生産性向上が認められる場合は48万円)が助成されます。
短時間労働者労働時間延長コースは、中小企業の事業主が非正規雇用労働者の1週間あたりの所定労働時間を3時間以上延長し、社会保険を適用した場合、1人あたり22万5,000円(生産性向上が認められる場合は28万4,000円)が助成されるコースです。
キャリアアップ助成金の申請を行うには、どのような流れで行えば良いのでしょうか。ここでは、スモールビジネスの利用が最も多い正社員化支援の「正社員化コース」を例に、申請までの流れを見ていきましょう。
まずは、「キャリアアップ計画」を作成・提出する必要があります。キャリアアップ計画とは、3~5年以内の期間を定め、対象者、目標、期間、目標を達成するために事業主が行う取り組みについての計画です。キャリアアップ管理者を決め、厚生労働省による「有期雇用労働者等のキャリアアップに関するガイドライン」に沿って、取り組みの流れを決定。対象労働者の意見が反映されるよう、非正規雇用労働者を含むすべての労働者代表からヒアリングします。
計画書は、都道府県労働局またはハローワークに提出します。ハローワークでは提出時に計画書の内容について確認してもらうことが可能です。そこで問題がなければ、ハローワークから労働局に提出してくれます。
就業規則に正社員への転換についての規定がないときには、改定が必要です。時期、対象者、試験や面接など、正社員転換の条件や手続きなどを就業規則の内容に盛り込み、労働基準監督署に届けます。例えば、非正規雇用労働者の就業規則に、「80%以上の出勤、評価が5段階中3以上、さらに役員面談で審査を行う」といった要件を作るといいでしょう。
ただし、労働者10人未満のスモールビジネスにおいては、就業規則の作成や労働基準監督署への届出が義務ではありません。助成金申請にあたって就業規則の作成は必要ですが、労働基準監督署への届出については、就業規則が全労働者に対し周知が行われており、公正・適正に実施されていることを証明する就業規則申立書の提出でも代用可能です。
なお、正規雇用労働者用と非正規雇用労働者用の2種類の就業規則があった場合、非正規雇用労働者は正社員化を機に、正規雇用労働者の就業規則適用となります。
就業規則などに定められたとおりに試験や面接などを行い、問題なければ対象者へ雇用契約書(労働条件通知書)を交付。正社員に転換します。
該当労働者を正社員に転換した後、6か月間雇用し、賃金を支払う必要があります。これは連続6か月でなく、累積6か月でも問題ありませんが、正社員転換前の6か月間の賃金と比較して3%以上の増額が必要です。なお、転換後6か月の間に妊娠や病気などで休職したとしても、就業日が11日以上あれば1か月とカウントされます。
累積6か月分の賃金を支払ったら、支給申請が可能となります。6か月の賃金を支払った日の翌日から2か月以内が申請の期限です。支給申請には、支給申請書の他、労働者名簿、賃金台帳、出勤簿の提出が必要となります。雇用契約書や就業規則も同時に提出します。
支給審査では、提出書類などからそれぞれの整合性や時間外・休日・深夜の手当てが支給されているか、計算方法は正しいか、労働基準法に違反する事項はないかなどが細かくチェックされます。重大な違反が発覚すれば不支給になるので注意してください。
審査をパスすれば支給決定の通知書が交付され、事業主の指定口座に助成金が振り込まれます。
スモールビジネスがキャリアアップ助成金を申請する際には、いくつか注意したいポイントがあります。最後に、キャリアアップ助成金申請時の注意点を解説します。
最大の注意点は、キャリアアップ計画の認定を受けたコースについて、確実に実施する必要があることです。
例えば、「正社員化コース」の計画認定を受ける前に該当労働者を正社員へ転換してしまうと、助成金は支給されません。あくまで、「計画」「認定」「実施」の順に行う必要があります。
また、計画と認定に時間を要することもあるので、コース実施日の1か月前など、余裕を持った提出も重要なポイントです。スムーズに手続きが進んだとしても、申請から支給までに1年半程度かかることも念頭に置いておきましょう。
ちなみに、キャリアアップ計画は、いつでも変更が可能です。ただし、変更後は管轄労働局に「キャリアアップ計画変更届」を提出する必要があり、提出しないと助成金を受給できない場合もあるので注意してください。
また、支給申請期間中に対象者が離職したときにも、同様に受給はできません。
注意したいのは、キャリアアップ助成金の支給要件です。支給申請は正社員へ転換後または処遇改善後6か月の賃金を払った後に行います。仮に、申請時に支給要件を満たさない何らかの問題が発覚しても、さかのぼっての修正はできません。
そこで、正社員転換や処遇改善の実施前に、支給要件をしっかり確認したり、就業規則の改定方法について都道府県労働局やハローワークに相談したりするのがおすすめです。
ちなみに、支給要件は変更されることがあります。例えば、正社員化コースは、2022年10月の改定により正社員の定義が変わり「正社員は賞与・退職金の制度かつ昇給が適用されている者に限る」という規定が追加されています。ただし、業績不振で支給できないなどの事情がある場合は、特に問題ありません。
就業規則を策定していなければ、作成する必要があります。特に、賃金テーブル作成には専門知識が必要であり、社会保険労務士に依頼するのがいいでしょう。
就業規則があり、そこに正社員への転換規定が盛り込まれていれば、事業主が支給申請まで手続きすることは難しくありません。「1人では難しそう」と感じるなら、最初の転換時は社会保険労務士に依頼し、2人目の正社員転換からは自身で申請するといった方法をとることをおすすめします。
キャリアアップ助成金は、労働基準法に違反している事業主に対して支給されることはありません。不正受給から5年以内に申請を行ったケースも同様です。
また、助成金事業においては、まれに会計検査院の実地調査が行われることがあります。その際、会計検査院への協力を拒否したり、申請書や添付書類の疑義に対し適切な対応をとらなかったり、検査自体を拒否するなどの場合も受給できません。
さらに、正社員転換や処遇改善後、6か月間雇用している証明も必要で、出勤簿や賃金台帳などが整っていなければ不支給の対象となります。
キャリアアップ助成金は、雇用環境の変化に合わせて改定されながら継続している助成金制度です。今後も非正規雇用労働者から正規雇用労働者への転換、非正規雇用労働者の処遇改善のため、要件の見直しなどをしながら続いていくと考えられます。
スモールビジネスにおいても、飲食店の店舗を増やすために非正規雇用労働者を正社員化し店長を任せる、動画制作会社の動画編集事業が好調で、事業拡大のために正規雇用労働者を増やすなど、人材確保が必要となる局面が訪れることもあります。
そうなると、就業規則を整備したり、処遇改善したりする企業努力も必要です。そこで、キャリアアップ助成金をきっかけに、人への投資を考えてみてはいかがでしょうか。
「助成金受給と引き換えに法令遵守しなければならない」と敬遠するスモールビジネス事業主もいます。しかし、そもそも法律は守らなければいけないもの。助成金受給とその周辺の作業を敬遠するのではなく「助成金をきっかけに事業主として必要な環境を整備しよう」と前向きに考えた方が建設的でしょう。
助成金の財源は、元をたどれば労働者のために事業主が負担している雇用保険料です。人材確保のためにも、労働者の処遇改善のためにも、戦略的かつ積極的に助成金を活用してください。
有限会社人事・労務 チーフ人事コンサルタント。日本大学法学部卒業後、食品メーカーを経て現職。従業員が500人を超える会社から数人の会社まで、幅広い企業のES向上型人事制度作成に数多く携わる他、多くの労働基準監督署の是正勧告対応などの労務トラブルに対応。その経験から、リスク管理に長けた就業規則を作成するなど、中小企業の人事・労務に精通。執筆や講演も精力的に行っている。
社会保険労務士法人TECO Consulting 代表社員。ESコモンズ(有限会社人事・労務 主宰)メンバー。大学卒業後、社会保険労務士の資格を取得。東京都内の社会保険労務士事務所で約3年間、HRテックを活用したバックオフィスDXのコンサルティング経験を積む。その後、上場準備中(N-2期)のベンチャー企業に参画し、上場審査に向けた労務管理体制の構築を行う。現在はベンチャー企業を中心に、バックオフィスDXをメインとした人事労務コンサルタントとして独立。
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