中小建設業の資金調達ポイント(1)

~資金調達の重要性と課題~

2023/04/24

国内建設業の現状と課題

国内建設投資は、都市開発や東京オリンピックなどの需要増とも相まって「建築バブル」と呼ばれるほどの好調になっていました。こうした新規の建築需要だけでなく、高度経済成長期以降に整備されたたくさんの建造物が老朽化するのにともない、それらの修繕や維持管理などの需要も高まるとされています。
業界的には、高まる需要、増える工事件数に対し「人材不足」という課題も抱えています。
人材不足の課題を解決するには、労働環境や給与水準の向上、IT化による業務の効率化などを進める必要があると言われています。

スモールビジネスの建設業特有の課題

しかし、建設業の中でもスモールビジネス(小規模事業者)では、状況も大きく変わります。人材不足は同様ですが、それ以外にもビジネス上の課題があります。
課題を整理すると、以下の3点となるでしょう。

  • 課題1 業界的な課題 ~元受け・下請け構造で、利幅が取れない~
  • 課題2 資金繰り ~先行して資金が必要なケースが多い~
  • 課題3 建設業許可 ~建設業許可制度がハードルに~

課題1 業界的な構造

元々、建設業は「元受け・下請け構造」にあります。例えば、国・自治体・民間大型工事などは、建設大手が受託し元受けとしてその下に下請け企業を配置します。その下請け企業から、更に孫請け企業・個人事業者に注文を流す形態です。
建設業は、土木工事業、建築工事業、建築リフォーム工事業、管工事業、電気工事業等と裾野も広く、それぞれの専門分野があります。全国約50万社ある建設会社のうち、約99%は資本金額が3億円未満の建設中小企業が占めているといわれています。
その重層構造の中、スモールビジネスの建設業は、工事規模が大きくなればなるほど、その末端に位置づけされてしまいます。すると、予算(売上)の関係も最も厳しくなってしまい、結果として利幅の取れない仕事をせざるを得ない状況となります。
更には、業界的に「どんぶり勘定でコスト計算が甘い(天候などで追加費用発生しがち)」、「重層構造で前段階の工事進捗によっては工事スケジュールが狂ってしまう」という問題がでやすい業界です。

課題2 資金繰り

建設業界は以下のような特徴があり資金繰りにおける課題が発生しやすい素地があります。

  • 工事1件ごとにかかる金額が高額
  • 工事完成まで売上が立たないケースが多く工期も長い
  • 材料費や人件費、外注費など支払いが先行しやすい

特に大規模工事になると、多くの事業者が関わりますし天候等でスケジュールが伸びれば余計に建設機械等のレンタル費や、人件費・外注費などもかかる可能性があります。

課題3 建設業許可

建設業許可の取得は、ビジネスの幅を決定づける重要なポイントです。建設業界でそれなりの規模の仕事を請け負うには許可を保有している必要があるからです。
もちろん、建設業許可がなくても工事ができるものもあります。しかし、許可なしでできる工事には、一定の制限が設けられています。可能なのはいわゆる小規模・軽微な工事です。

建設業許可が不要な工事

建築法上の軽微な建設工事

  • 軽微な建設工事には、工事金額が1,500万円未満の建築一式工事や、延面積150㎡未満の木造住宅工事
  • 建築一式工事以外の場合、税込500万円以下の工事(軽微な工事)
    他、自社が使用する建物を自社で施工する場合は建設業許可が不要

全ての工事が建設業許可の記載対象に入らなかったのは、許可制度を設けることによるスモールビジネスの建設業者への負担を考慮されたことが理由です。
ただし、上記以上の工事を請け負うことは出来ません。それ以外にも、建設業許可がないと以下の点で支障・制限が出ます。

建設業許可がないことによる支障

  • 国や地方公共団体が発注する公共工事を受注したい事業者は経営事項審査が必要だが、その審査に建設業許可が必要
  • 建設業許可があれば、ゼネコンなどの元受け企業から下請けとして指名されやすくなる
  • 建設業許可があれば、技能実習制度や特定技能制度を利用することができ、人材不足・働き手不足の解消の1つとして、在留資格が与えられ外国人人材を受け入れることができる

このように建設業許可があればメリットを享受できますが、管理責任者・専任技術者等の設置などの人的な問題。財産的基礎、申請にかかる費用や労力など簡単ではありません。仮に、建設業許可の取得を検討する場合、まずは自社の事業計画を考えた上で、先を見越した周到な準備が必要でしょう。

(参考)国土交通省 建設業許可 新しいウィンドウで開く

建設業は業界的に資金繰りが苦しい傾向

資金繰りの苦しくなる原因

業界的に、実際の建設工事が始まる前に建設資材の仕入などを支払わなければならないケースがほとんどで、立替資金が必要となります。売上代金回収は先になるため、そのタイムラグに対し、運転資金が必要となるわけです。建設業界では「運転資金=立替資金」ともいえるでしょう。
そのよくある立替資金は、以下のようになります。

よくある立替資金

  • 建設資材の仕入れの際などにかかる「材料費」
  • 外注作業を依頼する業者への「外注費」
  • 作業員の給与などになる「人件費」
  • その他「現場の環境を整える費用」「仮事務所の設置費用」など

上手く先に工事を実施した売上代金が回収できて上記の支払いに充てられれば問題はないのですが、中々タイミング良くとはいかないでしょう。また、事業が順調となり、受注(売上)が増える(工事の受注件数が増加する)ほど、その立替金の額が大きくなり資金不足になりがちです。

資金繰りが苦しくなる具体的なケース

具体的に、資金繰りが苦しくなるのは以下のようなケースがあるでしょう。

資金繰りが苦しくなるケース
一件あたりにかかる費用が高額 工事の規模が大きくなれば大きくなるほど、立替資金も大きくなりがちです
すると、せっかく良い工事の受注機会があっても、立替資金がなければ受注すらできないこともありえます
前払金の負担が大きい 工事を自社のみで完結できる業者は多くありませんので、多くの場合、下請業者への外注が必要となります
その場合、その下請業者は重機をレンタルしたり、人員を確保する上で、多額の費用を負担します。そのレンタル料等について工事代金を受け取る前に前払いすることになりますので、その負担は大きいものです
売上代金の入金サイトが長い 工事を受注しても、その売上が現金として入ってくるまでの期間が数か月先などと入金サイトが長いケースです
売上があっても現金がない状態では、追加で工事を受注しても資金が切迫するようになります
元請け先との力関係 業界的に元受け・下請け・孫請けと重層構造であり、それはそのまま「力関係」となります
無理な値引きや長い入金サイトを求められるケースがあり得ます

このように、資金繰りが困難になりがちであり、更にスモールビジネスであればその資金力からいってもこれでは立ち行かないでしょう。

資金繰りで悩まないために

そこで、資金繰りで悩まないために以下のことを実施すべきです。

資金繰りの悩みを回避するポイント
自社の規模にあった工事を受注する 売上の大きさに惑わされ、自社の規模感に合わない規模の工事を受注すると資金繰りに影響が出ます
大きな工事になればなるほど、業務に必要な立替資金が多額になり、会社の財務状況を圧迫することになりかねません
代金の回収基準を見直す 代金回収が早いと、次々新しい契約を受けることができ、受注のサイクルを回しやすくなります
例えば「入金までの期間が短い契約をする」ことでしょう。ただし、元請け先との力関係とのバランスを見てということになります
資金計画(資金繰り)を見直す 資金計画(資金繰り)を立て、定期的にチェックします
工期が伸びたり追加工事を受注したりと、予期せぬ事態が起きても対応できるようにしましょう
また、資金計画を立てておけば、資金不足がある場合でも早めに金融機関に相談できることになります

いずれにしても、業界的にはどうしても立替金が発生しますので、金融機関との円滑な取引に取り組み、運転資金について相談できる体制を整えることが重要です。
次の記事では、運転資金をはじめとする資金調達を実践するための具体的な資料の作成方法などのポイントを解説します。

中小建設業の資金調達ポイント(2)~具体的な借入・融資申請方法~

著者:星 武志(経営コンサルタント)

株式会社アスタリスク代表取締役。金融機関、コンサルタント企業、IT企業を経て、2000年代表取締役就任。IT企業、不動産業、商社等の経営戦略、財務戦略、管理会計支援等を行う。
これまで、銀行等の金融機関の研修・講演講師を70行庫以上務める。主な著書は「渉外マンの現場力/近代セールス社」金融商品取引法・各種業法に基づく「金融商品セールス対応話法集/銀行研修社」等でありその他金融機関向け、雑誌連載実績等多数。

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