中小建設業の資金調達ポイント(2)

~具体的な借入・融資申請方法~

2023/04/24

金融機関に提出すべき書類と融資

前提として、金融機関に融資を申し込んだ場合、「決算書(個人事業主の場合は確定申告書)」「試算表」「資金繰り表」を求められます。建設業の場合、それとあわせて以下の書類が求められます。

工事代金回収までの運転資金で求められる資料

実際に運転資金を金融機関に融資を申込む場合、特にスモールビジネスの建設会社の場合、受注工事の明細とその工事代金の回収の資料を求められることが多くあります。
これは、工事代金回収と借入返済を同時に行う形の「紐づけ融資」の形態です。
受注工事の明細とその工事代金の回収の資料は、金融機関によって呼び名が異なります。
「受注工事明細表」または、「請負工事明細表」が最もポピュラーな名称ですが、さまざまな名称で資料を求められる場合もあります。

以下については、「受注工事明細表」または、「請負工事明細表」と同じ意味です。受注した工事の「発注者名」「発注工事名」「工事場所」、「契約工期期間」「請負金額」などを記載します。また、それぞれの資料で、工事代金入金済・入金予定(サイトや現金比率)、支払予定済・支払予定(サイトや現金比率)、進捗計画や進捗度合の記載欄があるかないかくらいの差となります。

工事代金回収までの運転資金で求められる資料
受注工事明細表(書)(票) 請負工事明細表(書)(票) 受注明細表(書)
受注残高推移表 受注工事残高明細表 手持工事明細書(表)(管理表)
工事受注明細及び入金予定表 工事見返資金申込相談シート 請負工事状況調査表
工事現況調(書)(表) 工事概況調(表) 受注工事進状況表(現況表)

また、以下のような表も金融機関では使っています。

完成工事実績表 工事受注調(状況表) 工事現況調書

これらは、より詳しくその工事ごとの原価(材料費・外注費等)を記載させたり、工事内容について詳しく記載させる欄があります。

また、この資料には建設業で使う独特の勘定科目で表示されていることが多いです。その独特に勘定科目には、以下のようなものがあります。

建設業独特な勘定科目
完成工事高=売上高 完成工事未収金=売掛金
完成工事原価=売上原価 未成工事受入金=前受金
工事未払金=買掛金 未成工事支出金=仕掛品(未完成の工事に支出した原価)

具体的な受注工事明細表の記載例

実際に「受注工事明細表」での記載例をあげて説明します。

資料1

1.は完成工事状況で、それぞれ受注先・工事名があり、それ元受・下請で区分しています。そして完成工事高、完成工事未収金があります。
工事未収金は工事費用にあたる「材料費」「労務費」「外注費」「工事経費」の未払金額を記載しています。
また、工事の完成時期、回収時期、将来6ケ月の入金・支払の予定を記載します。

2.仕掛工事・未着手工事の状況で、現在進行中もしくは、これから実施する工事を記載します。
請負金額は、その工事の受注金額で、続いて工事期間や進行割合(工事の進行状況の%)、原価率(請負金額に対する予定工事原価の%)を記載します。
入金済額の未完成工事受入額は、入金済になった金額。支払済額の未完成工事支出金は、支払をした工事費用となります。やはり、将来6ケ月の入金・支払の予定を記載します。
この資料1でいうと、1.2.の合計が「入金合計―支払合計」の欄になり、この表でいうと3月は△1,450千円、4月は△2,330千円となり、3月・4月は受注工事明細表で合計△3,780千円の資金が不足することになります。
手持ち資金でこの支払や、工事以外の通常の支払(給与や事務所家賃、他支払)がまかなえれば問題はありませんが、まかなえなければ融資などで資金を調達しなければなりません。
そこで例えば、工事収支のマイナスとなる3月から、8月の大きな入金予定のある6,510千円までの間、借入金でまかなうなどの手段を取ることになります。

車両・機械工具等の設備資金の必要書類

スモールビジネスの建設会社の場合、設備資金はあまりないかも知れませんが、車両や機械工具などの固定資産を購入することがありえるでしょう。
この場合、資金使途と必要金額を明確にし、具体的には見積書などを持って金融機関に問い合わせることを検討します。
運転資金に比べ、設備資金は運転資金よりも返済期間が長い傾向にあります。詳しくは、資金調達ナビの資金調達の知識 設備投資とは ~設備資金の考え方~(1)~(3)をご覧ください

ここでは、車両・機械工具等の設備資金の必要書類について記載します。おおむね以下の書類を求められます。

車両・機械工具等の設備資金の必要書類
見積書 購入予定の設備や物品などを見積もった書類
返済根拠(返済計画書) 購入設備によって、事業の目的をどう実現させ、どう返済していくのかの計画
  • 設備購入後の経常利益+減価償却費>設備投資における借入金年間返済額

スモールビジネスの建設業者が検討すべきステージごとの資金調達

スモールビジネスの建設業者の検討すべき資金調達について説明します。なぜ、ステージごとに資金調達を意識する必要があるかというと、

  • 工事の受注件数が増加するほど資金繰りが困難になる業界
  • 手持ち資金や金融機関からの資金調達が一層重要な業界で、企業成長するとますます資金繰りが苦しくなる

ためです。

建設業界では、慣例的に「立替金」取引が多く行われています。工事代金は、その契約によっては完成後、竣工後の入金というケースが少なくありません。
着工時や工事の進捗度合いに応じて、着手金・中間金という形で入金される契約もありますが、自己資金を利用して工事が進められることが多くあります。
企業が成長し、工事の受注件数が増えたり、受注工事自体の金額が大きくなればなるほど、その分立替金も増えて資金繰りが難しくなる訳です。
しかも、受注した工事を実施する上で、多数の協力会社に仕事を外注し、多岐にわたる支払条件で支払が発生する場合もあります。更に、複数の異なる工事同時期に進むなどということもあり得ます。

もう1点、建設業界ならではの問題ですが、多数の事業者が関わり工事を行うためその進捗が計画通り行くとは限りません。そして天候の問題もあります。
結果、工期通りに工事が進行することも難しく、追加工事が発生したり、工期が延びてしまうこともたびたびです。すると、更に立替金が増大してしまうことも少なくありません。
手持ちの資金が重要である以上に、建設業では有効かつ多額の資金調達ができるかどうかで、経営の安定化や成長が図れるかどうかが決まるのです。

しかし、いきなりスタートアップ時から多額の資金が調達できる訳ではありません。そこで、まず会社のステージごとに資金調達方法を検討し、徐々に少しでも良い条件(低金利・無担保無保証・長期借入など)で資金調達をすることをイメージしましょう。
実現できれば、会社ごとの事業ステージと信用力に合わせた適切な借入先の選定が楽になります。

1)創業期~

個人事業主として独立、建設会社を立ち上げてまだ1・2年などという創業期では中々、民間の金融機関に融資を受けることがスムーズに行きません。
そこで、創業してしばらくは「日本政策金融公庫」「信用保証協会」の利用から進めると良いでしょう。

創業期に活用すべき金融機関・制度
金融機関
融資名
日本政策金融公庫
「新創業融資制度」
信用保証協会
「創業関連保証」
特徴 新たに事業を始める方または事業開始後税務申告を2期終えていない方が対象
:融資限度額3,000万円(うち運転資金1,500万円)
事業業を営んでいない個人で、1か月以内に事業を開始する方や2か月以内に会社を設立する方、創業した日から5年未満の中小企業などが対象
:融資限度額3,500万円

日本政策金融公庫「新創業融資制度」

一般的に企業融資は創業すぐの会社に低金利で行われることはないのですが、この融資制度では担保の有無等、その条件によって異なりますが低金利で、しかも無担保無保証の融資もあります。
この融資は建設業とも相性がよく、融資の際に、その事業における経験が審査に大きく影響を及ぼすといわれています。つまり、建設業で起業する人は下積みを経験しているため、審査での評価が高くなりやすい傾向にある点が特徴です。
資金調達ナビでは、新創業融資制度の申請に必要となる「創業計画書」を無料でWeb上で作成できるサービスを提供しています。

信用保証協会「創業関連保証」

創業すぐの会社で利用したい制度です。低金利、無担保で開業に必要な資金を支援してくれます(ただし保証協会ですので保証料がかかります)。創業の扱いが日本政策金融公庫よりも5年と長いため、その分創業後時間が経過していても利用できます。
申し込みをする都道府県の信用保証協会によって異なりますが、例えば東京信用保証協会の創業関連保証 新しいウィンドウで開くでは、「ワンストップサポートメニュー」として、創業前から草創期までの創業者を対象に「金融支援」と「経営支援」の両面から継続的なサポートを行っています。
具体的には、「ステップアップセミナー(創業編)」「創業計画策定支援」「創業スクール」「創業者(5年未満)への専門家派遣」などです
融資申込検討とともに、このようなサービスの利用も確認すると良いでしょう。

信用保証協会「創業関連保証」 新しいウィンドウで開く

2)成長期~

日本政策金融公庫・信用保証協会の利用とともに、徐々に民間金融機関、それも入金口座や支払口座で利用している取引金融機関のプロパー融資を利用したいものです。
中小建設業の資金調達ポイント(1)~資金調達の重要性と課題~」でも触れましたが、建設資材の仕入れの際などにかかる材料費、外注作業を依頼する業者への外注費など支払先行資金が発生します。

最初は、現在工事を実施中の案件に対し、これから発生する費用につき、その工事が完了して売上代金が回収できるまでの期間の「短期のつなぎ融資」から相談すると良いでしょう。長期間融資を受けるよりも、審査のハードルが下がりますし、金融機関の側からしても「費用=資金使途」と「返済源=工事の売上代金回収」が明確なので審査しやすいという側面もあります。
実際に提出する書類については、日本政策金融公庫・信用保証協会と同様ですが、「金融機関に提出すべき書類と融資」もあわせてご覧ください。
また、民間金融機関で繋ぎ融資を検討する場合、以下の手法があります。

民間金融機関の一般的なつなぎ融資の手法
手形貸付
  • 借主から銀行等の金融機関に対し、金融機関宛の約束手形を振り出し、一方で金融機関は借主に対し手形に記載されている額面から利息分を差し引いた金額を支払う仕組み
  • 融資期間は1年以内
手形割引
  • 手形の所持人が支払い期日以前の手形を金融機関などの第三者に裏書譲渡し,支払い期日までの利息や手数料を差し引いて支払う仕組み
  • 融資期間はその手形の支払期日

手形貸付は必要な支払費用を借り入れ、売上代金の回収(完成工事未収金の回収)で返済期日に一括返済する形式です。まずこの手形貸付のある程度返済実績をつけて、その後にもっと長い期間(1年以上)の融資である証書貸付の交渉をすると良いでしょう。
ただし、大手建設会社や公共工事からの売上代金回収なら金融機関から信用度が高く評価されるのですが、二次下請や三次下請会社からの売上代金の回収ですと金融機関からの評価が低くなることなり、信用保証協会付きでの融資などを勧められる可能性があります。

一方、手形割引ですが建設業は売上代金を手形で受け取ることもある業界ですので、検討の余地があるでしょう。ただし、金融機関の審査としては、「手形の発行元の信用力」次第となります。大手建設会社の受取手形を持っている場合は、比較的スムーズに手形割引ができるでしょう。一方、中小企業の手形ですとその手形の審査もありますので、あまりに信用力が低い手形の場合は難しい場合もあります。
そうはいっても、一般的な融資に比べて手形割引は審査の敷居が低く、融資実行までの期間も短いです。どんなに手形の信用力があっても申込者である企業の業績が著しく悪ければ割引料(金利)が高くなりますし、場合によっては断られる可能性もあります。

いずれにしても、成長期においては、日本政策金融公庫・信用保証協会の利用とともに、つなぎ融資から民間金融機関のプロパー融資を利用し、返済実績を積み上げます。
ただし、短期繋ぎ融資は、工事代金の回収を持って一括返済となりますので、その返済時点ではまとまった資金が出る(返済する)ことなります。よって、資金管理は厳しくチェックしなければなりません。
資金調達ナビの「返済シミュレーター」で、金額をシミュレーションすることができますので、ご活用ください。

3)最終的なゴール

公的金融機関と民間金融機関をバランス良く利用

創業期、成長期を経て、徐々に民間金融機関に短期つなぎ融資で返済実績も付けて来たら、最終的には公的金融機関と民間金融機関をバランス良く利用して行くことが重要です。
例えば、つなぎ資金の返済実績を重ねると徐々に信用が付きますので、民間金融機関が素早く対応してくれることで、日本政策金融公庫・信用保証協会よりも早く融資が実行されるケースなどが期待できます。
ただし、返済期間や金利は、日本政策金融公庫・信用保証協会の方が有利なケースもあるでしょう。そうした意味で公的金融機関と民間金融機関をバランス良く利用し、常時公的金融機関の与信枠(特別な業績変化がなければ、この枠であれば融資が受けられる可能性のある枠)を持っておくというもの1つの手段です。
建設業では、先行的にかかる材料費や外注費という運転資金について、売上代金回収までの間をつなぐということが、重要なポイントです。金融機関は、建設業の運転資金(材料費・外注費等の工事立替資金)につき、建設工事ごとの必要資金を融資するのが基本的な対応だからです。

短期繋ぎ融資だけでなく、長期安定資金も検討

継続して経営していると徐々に信用も付き、大きな工事にたずさわったり、外注以外にも現場やバックオフィスの人員も必要となります。そうした人員の経費や今より広い事務所が必要な場合もあるでしょう。更には、機材・工具の購入やそれを運ぶ車両や専門設備などもあった方が、いつもレンタルや外注するよりもコストダウンになるなどということもあるでしょう。
このように、会社の成長においては、工事立替金以外にも資金が必要となる場合があります。そこに、工事立替金の支払が重なると資金繰りが苦しくなるかも知れません。
そこで、その資金使途ごとに返済期間を短期・長期の融資を受けるという分類をしておくことも必要でしょう。

資金使途毎の理想の返済期間設定
返済期間 資金使途
短期 (運転資金)工事立替金
  • 工事代金の回収を持って一括返済
長期 (運転資金)工事立替金に加え人件費他、諸経費
  • 資金繰り安定化のために長期分割返済
(設備資金)車両・専門設備等
  • 長期分割返済

詳しくは資金調達ナビの「運転資金、設備資金」をご覧ください。

日本政策金融公庫・信用保証協会では、長期返済期間の融資がありますが、民間金融機関ですと中々、ハードルが高いものです。
しかし、徐々に返済実績等で信用を積み重ね、民間金融機関でも長期の融資を受けられるようにしましょう。
運転資金においても、長期返済の融資であれば、ある程度先にまとまった金額の融資を受けておき、分割で返済することで資金繰りが安定します。

円滑な資金計画作成のため対応

1)工事管理システムの検討

建設業にとって、資金計画(資金繰り表)は非常に重要なものになります。半年先、できれば一年後までのお金の流れが見通せるものにすると良いでしょう。
ここで一番の資金計画の変動要因は、受注工事の予定です。その工事案件の時期や契約金額、外注費等の支払の計画を厳密に記載し、変更があった場合、すぐに対応できるようにすることが重要です。
それには、現場毎の発注元の担当者等と連携をとり、現場別採算管理を徹底して資金計画に反映できるようにすることです。
しかし、紙やExcelで管理しているとミスが発生しがちです。特に現場で追加工事や工期延長などの変更が多く発生すれば、管理から漏れてしまうかも知れません。
そこで、「工事管理システム」の導入をし、厳密に管理し資金計画の精度向上に役立てたいものです。工事管理システムの導入におけるメリットは主に以下のようものがあります。

工事管理システム導入のメリット
工事(施工)のデータを一元管理 工事案件(物件情報、契約情報など)、発注管理(外注などへの発注管理)、業者得意先管理、入金管理、原価管理、支払管理等
作業状況をリアルタイムで把握 工事の工程・進捗管理等
ペーパーレス化の実現 工事現場では、工程管理表や日報など、多くは紙で管理されているが、スマートフォンなどで確認しペーパーレス化
意思決定の迅速化 現在の工事の状況、売上・利益・人材の状況などの経営情報が確認出来、意思決定の迅速化

特に、追加工事、工期延長などあると、往々にして原価管理が甘くなりがちになります。作業進捗とあわせて見て行くことで、資金計画の精度も向上します。

デメリットとしては、「管理体制が整っていないと、製品を使いこなせない」「不要な機能がある場合は割高になる」などがあります。

システム費用は、クラウドサービスのような安価なものから、会計ソフトなどと連携した本格的な基幹システムまであり、金額は様々ですので、自社の管理したい目的に合わせ必要最低限の機能が揃っているものを選択すると良いでしょう。

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2)定期的な取引金融機関とのコミュニケーション

いくら資金計画の精度を向上させても、特に建設現場や他業者の工事進捗や天候等、当初の計画から変動する要因が非常に多い業界です。
不測の事態が生じた場合、資金繰りが急に苦しくなってしまう場合も少なくありません。
そこで、融資申込時以外にも、定期的に取引金融機関とのコミュニケーションを取っておくと良いでしょう。そのコミュニケーションでは、金融機関がその企業の経営状況が理解できる資料を持ってコミュニケーションを取りたいところです。
その資料としては、以下のようなものが考えられます。

金融機関に経営状況を説明する際の情報・資料

  • 決算書、試算表
  • 「受注工事明細表」または、「請負工事明細表」
    • 受注工事、受注予測工事の情報共有

こうした情報を定期的に共有し、現状・今後の資金繰り予定などを説明すると取引金融機関からすれば融資申込があった場合もスムーズですし、逆に金融機関の方から融資提案をしてくれることもあります。

いずれにしても、定期的にコミュニケーションを重ね、不測の事態になった場合、スムーズに融資相談ができる状況を作っておくことが重要です。

著者:星 武志(経営コンサルタント)

株式会社アスタリスク代表取締役。金融機関、コンサルタント企業、IT企業を経て、2000年代表取締役就任。IT企業、不動産業、商社等の経営戦略、財務戦略、管理会計支援等を行う。
これまで、銀行等の金融機関の研修・講演講師を70行庫以上務める。主な著書は「渉外マンの現場力/近代セールス社」金融商品取引法・各種業法に基づく「金融商品セールス対応話法集/銀行研修社」等でありその他金融機関向け、雑誌連載実績等多数。

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