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2024-07-26更新
2022/07/05
資金繰りは個人事業主や中小企業の経営者にとって、常に頭を悩ます課題といえます。資金繰りには、銀行からの融資や第三者からの投資などさまざまな種類がありますが、実は「法人クレジットカードの活用」が有効な手段であることを知らない方は多いでしょう。
そこで今回は、一般社団法人 法人クレジットカード相談士協会の代表理事である花田 敬さんに、法人クレジットカードの資金繰りへの活用方法などについて解説していただきました。
法人クレジットカード(以下、法人カード)とは、企業に対して発行されるクレジットカードです。ビジネスクレジットカード(以下、ビジネスカード)は、法人かどうかにかかわらず個人事業主でも申請できます。
ビジネスカードでは、ビジネス決済用の口座から利用代金が引き落とされるため、法人の場合は法人名義の口座、個人事業主の場合は個人名義の口座を引き落とし口座に設定することが可能です。年会費が必要なものと無料のものがあり、決済枠や付帯サービス、発行できるカードの枚数などに違いがあります。
法人カードの種類は、大きく「コーポレートカード(大企業向けのもの)」と「ビジネスカード(個人事業主、小規模、中小企業向けのもの)」の2つです。
以下、小規模・中小企業向けのビジネスカードについて説明します。
ビジネスカードはWebでも申し込みができますが、その場合は個人で申し込みいただくクレジットカードとほぼ同じ手続きです。審査時に決算書などは必要なく、社長個人の信用枠で利用可否が決まります。
個人事業主と法人は、カード会社と直接交渉することで決済枠を広げてもらえる可能性があります。ただし、カード会社との交渉はWeb上からはできません。
個人事業主の場合、確定申告書、預貯金や証券口座の残高、生命保険の解約返戻金などの「資産状況がわかる書類」をできるだけ多くカード会社へ提出することで、決済枠を広げる交渉ができます。
一方、法人の場合は2~3期分の決算書提出や年商など、さまざまな条件を満たすことによって、法人カードの決済枠を広げる交渉ができます。
個人事業主や法人成りして間もない法人は、個人の信用で決済枠を交渉しなくてはいけません。そのため、法人成りした後2~3期程度経過してから、改めてカード会社と交渉することによって、決済枠を広げられる可能性が高いです。
法人カードと個人のクレジットカード(以下、個人カード)の一番の違いは、引き落とし先の口座と決済枠の大きさです。
個人カードはショッピングをした際、個人の口座から利用代金が引き落とされます。そのため、個人の信用情報に基づいた申請が必要です。法人カードはビジネス決済用の口座から利用代金が引き落とされますが、個人の信用情報提供を求められるときもあります。
また、個人カードの決済枠は多くて数十万円程度ですが、法人カードの場合、交渉次第で決済枠が数百万円から1,000万円程度になる場合があります。したがって法人カードであれば、個人事業主の資金繰り手段として有効活用できるでしょう。
資金繰りにおける、法人カードのおもなメリットは以下の通りです。
法人カードの利用料金は翌月以降の請求になるため、支払い(キャッシュアウト)のタイミングを遅らせることが可能です。決済枠を広げた法人カードであれば大きな金額を動かせるため、支出や仕入れ、税金など、さまざまな支払いに活用できます。
支払い期限を延長できれば、資金繰りに大きな影響が出ます。法人カードの中には、最大3か月程度の支払いサイト(取引期間の締め日から支払期日までの期間)が設定されているものもあるため、有効活用したいところです。
前述の通り、法人カードの決済枠は交渉によって、数百万円~1,000万円程度に拡張してもらえる場合があります。そのため、個人事業主の資金繰り手段として活用可能な点は大きなメリットだといえるでしょう。また、決済のタイミングも翌月以降になるため、財務状況の改善に大いに役立ちます。
法人カードで決済できる対象が広がることで、会計業務のデジタル化につながります。支払い情報などをデータ化して、会計ソフトと連携できることは、業務の効率を考えると大きなメリットです。
インボイス制度や電子帳簿保存法改正などの影響もあり、キャッシュレス化やデジタル経営は、今後企業にとってますます重要になってくるでしょう。会計ソフトと連携して業務効率化することで、間接部門の人件費削減効果も期待できます。
法人カードの利用時に付与されるポイントも、さまざまな形で資金繰りに活用できます。
例えば、ポイントを商品券に交換してモノが買えたり、マイルに交換したりすることが可能です(ポイントの私的利用は禁止されています)。出張が多い企業の場合、マイルが活用できればかなりの経費削減につながるでしょう。
ただし、JALとANAのマイルで交換した航空券は、二親等の親族にまでしか適応されないため、従業員の福利厚生には利用できません。海外の航空会社のマイルであれば第三者への利用が可能なので、そこからJAL、ANAの航空券に交換することは可能です。ポイントを福利厚生に活用できれば、社員の士気を高める効果が期待できます。
一方、ポイントをキャッシュバックに活用できる法人カードもあるので、引き落とし金額を下げてもらうことで利益率の改善が図れるでしょう。
法人カードのキャッシングは、資金繰りの手段としては不適切です。
法人カードのキャッシング枠は概ね50万円程度、多くても100~200万円程度と少なめです。
また、金利も年利で最大18%であり、非常に高いです。法人カードでキャッシングをして支払って、また資金が不足したらキャッシングをするという方法は、雪だるま式に借金が増えるだけなのでおすすめできません。
海外出張時に現金のドルが必要になり、円をドルに換えるために使う方はいらっしゃいますが、資金繰りの手段としては有効といえません。
法人カードの利用明細を活用して会計のデジタル化が実現すれば、会計ソフトにデータをそのまま取り込めます。現金で会計処理をしている場合は作業が煩雑になり、また仮払い時などに不正が発生するリスクが高いですが、法人カードを導入すれば社員や部署ごとの利用明細が時系列で管理できるため、管理が楽になり不正抑制にもつながるでしょう。
さらに、法人カードは従業員や部門ごとに明細が出てくるため、不要な支出がある場合は、すぐにわかります。担当者や部門も一目瞭然なので、無駄なものはカットして経営の効率化につなげることが可能です。
一方、法人カードの利用明細書を領収書の代わりに使えるかどうかについては、確実に支払ったという実態を可視化できれば可能です。
国税庁のWebサイトの質疑応答事例では、消費税法上はお店の名前、購入した日付、商品・サービスの内容、購入金額、購入した人や会社の名前などが記載されていることで、仕入れ税額控除が可能との回答が掲載されており、消費税の計算で利用明細の活用が想定されています。
社員名義の法人カードにしておけば、社員名なども記録されますので、領収書の代わりとして十分使えるでしょう。ただし、あくまでも領収証の代わりであって利用したお店から発行された領収書ではないので、できればカードの利用明細だけでなく領収書も保存しておくほうが安全です。今後の電子帳簿保存法改正の基準によっても利用明細が領収書として使えるかどうかが変わってくるかもしれませんので、税理士と相談しながら経理を行うとよいでしょう。
法人カードの企業向け特典は、ポイント以外にもたくさんあります。代表的な企業向け特典は以下の通りです。
カード会社によって提供しているサービス内容に差があるため、自社にあったものがないか事前に確認しておくことも重要です。また、サービス内容は変更されることもあるので、公式サイトで確認するようにしましょう。
法人カードの利用明細があれば、領収証を保存する必要があるかないかという点については、担当の税理士に相談する必要がありますが、電子帳簿保存法に基づき領収書をデジタル化して保存しておくと安心でしょう。ただし、同じ取引について明細書をもとに経費計上した後、さらに領収書をもとに経費計上すると、経費の二重計上になるため注意が必要です。
また企業で会計処理を行う際に、支払った消費税が8%の場合と10%の場合があるため、利用明細だけでは消費税の判断が難しいケースもあるでしょう。この点からも、利用明細だけでなく領収書を保存しておくことをおすすめします。
法人カードを私的利用した場合には、基本的に会社資金を私的に使うことはNGですので、私的利用分を「役員貸付金」などで処理する必要があります。故意ではなく、間違えて利用してしまうケースも多く、例えば、ETCカードを法人カードにしていたときにプライベートで使ってしまった場合、酔っているときに法人カードを飲食店の清算に利用した場合などが挙げられます。
長期にプライべート分を清算していない場合は「役員貸付金」として処理しなくてはいけませんが、すぐに清算するような場合は「仮払金」として処理をするのがよいでしょう。
法人カードのポイントに関する仕訳項目についてはまだ明確な定義がなく、国税庁もこれから検討を開始するそうです。しかも、マイナポイントをクレジットカードやPayPayに紐づける必要があるなど、ポイントの扱いは非常に面倒になっています。
また法人カードのポイントは、そのまま使わなければ失効する場合があります。マイルも同様で、基本的に3年で失効します。法人カードは使えば使うほどポイントが付与されるため、本来は毎月仕訳が必要ですが実際に対応するのは難しいでしょう。
よって、基本的には「ポイントを利用したとき」に仕訳をするのが妥当な方法です。よくあるのが1万円の商品を購入して、5,000円分をポイントで支払うといったケースなどです。事業に必要なものであれば、ポイント分を雑収入で計上してもポイント使用分を経費計上することが可能です。また、ポイントを使った分は値引きとして処理することもできます。
参考:国税庁/No.6480 事業者が商品購入時にポイントを使用した場合の消費税の仕入税額控除の考え方
法人カードを選択するときの一番の基準は「決済枠」です。どんなにすばらしいカードでも決済枠が希望額より少ないと、ビジネスには使えません。何をどの程度決済するかによっても、選択する法人カードが異なります。
年会費が安くなると決済枠が取りづらくなるため、このあたりのバランスも考慮しなくてはいけません。法人カードの中には無料のものもありますし、ラグジュアリーカードと呼ばれる入会金が110万円、年会費が66万円というものもあります。企業の状況に合わせた年会費の法人カードを選ぶべきでしょう。
一方、ポイントの使いかたやマイルによっても選択肢が異なります。例えばJALやANAしか使わない企業と、海外の航空会社をメインに使う企業では、選択するべき法人カードがまったく異なるため注意が必要です。
なお、法人カードを比較検討する際には、価格.comなどのWebサイトを参考にするのがよいでしょう。ただし、検討時には必ず公式サイトも見るようにしましょう。カード会社のサービス内容が目まぐるしく変わるため、比較サイトの内容が追いついていない場合あるからです。
まず、比較サイトで自社にあった法人カードの目途をつけたうえで、公式サイトで再度確認します。このとき普通に窓口やWebで申し込むと決済枠が低くなるため、担当営業経由で決済枠の希望を交渉することが大切なポイントです。
1999年イーエフピー株式会社を設立し、これまでの卓越した営業実績に基づいた営業ノウハウをベースに、大手銀行、生命保険会社、損害保険会社、証券会社、大手住宅メーカーなどの企業コンサルティングや社員研修を行うほか、セミナーや講演も多数手掛ける。 また、2010年から関東学園大学の非常勤講師も務める。2020年11月より(一社)法人クレジットカード相談士協会を立ち上げ「法人クレジットカード検定」や「法人クレジットカード相談士」の資格認定講座を運営している。著書に「売れる営業の基本」「プロ中のプロが教える営業のセオリー」「売るための教科書」「誰も気づかなかったセミナー営業で顧客が10倍」「図解&事例で学ぶ「売れる」営業の教科書」「誰か教えて一生にかかるお金の話」などがある。
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