売掛金・買掛金を適切に管理して、資金ショートを防止しよう

2022/09/07

中小企業の経営者にとって、会社運営をスムーズに行うために資金繰りはとても重要です。「黒字なのに、資金繰りが厳しい」という状態に陥り資金ショートが発生してしまうと、経営が破綻してしまいます。ここでは資金繰り管理を行い、資金ショートを回避するための対策について、売掛金と買掛金を中心に解説していきます。

短・中期的な資金繰りの必要性とポイント

短・中期的な資金繰りの重要性

会社経営において、運転資金が不足して会社運営に支障が出ないようにするための短・中期的な資金繰りはとても重要です。

短・中期的な資金繰りを管理するため、3か月先、半年先などの資金繰りを把握し、現金残高や預貯金残高に問題がないかを確認しましょう。問題がありそうであれば、銀行借り入れなどによって対策を行う必要があります。資金繰りを管理しておけば前もって銀行に相談することができますし、銀行担当者とも借り入れの内容を具体的に相談することが可能です。

損益の状況と資金繰りは別である

短・中期的な資金繰りを行う際には、損益の状況と資金繰りが別であることを念頭におくことが重要と考えてください。損益計算上の利益は黒字でも、資金繰り表をみるとマイナスになっていることがあるからです。損益の状況と資金繰りは別の視点で捉える必要があります。

例えば、リース債務の支払い、借入金の返済、車のローンなどの割賦の支払い予定があると、資金が必要になりますので、資金不足とならないかどうかを確認しなければなりません。

資金繰りの状況は貸借対照表でも計算できますが、資金繰り表を作成すると、よりわかりやすいです。

予測ベースの資金繰り表で管理する

実績ベースの資金繰り表では、過去の資金繰りしかわかりません。詳細な資金管理を行うには、予測ベースで資金繰り表を作成する必要があります。

日々経営は変化しますので、月ごとに予測ベースの資金繰り表を、短期・中期と作成していくのが望ましいと考えてください。予測ベースの資金繰り表は、少なくとも6か月先まで1か月ごとに作成するとよいでしょう。資金繰りが厳しい会社ほど、エクセルや会計ソフトなどを活用してしっかりとした資金管理していくことをおすすめします。

中小企業ですと、予測ベースの資金繰り表を毎月作成するのは手間がかかって大変な場合もあります。実務的には、実績ベースを基にした資金繰り表を作成し、これを基に経営者の頭の中で資金繰りの予測をすることもあります。いずれにしても、資金繰りを念頭においた経営をしていくことが重要です。

資金繰り表の作成時に考慮すべきこと

予測ベースの資金繰り表には、売掛金・買掛金の回収時期・支払時期を把握し、これを反映させる必要があります。

具体的には、仕入計画・売上計画を立てることで資金繰り表を作成しやすくなります。売上が増えれば仕入れも増加しますので、このような変化を予測し、資金繰り表に反映させていきましょう。

他に資金繰り表を作成するうえで考慮すべき事項として、突発的な支出にも注意しましょう。例えば、従業員の賞与や税金の支払いなどです。毎月の支払いとは異なる大きな支払いがあると資金がショートしやすいので、忘れず資金繰り表に反映するようにしましょう。特に、決算後に納付する必要がある税金は利益によって変化するため、損益予測をしっかり行い、利益は出ているけど税金を納付する現金がないという事態にならないよう注意してください。

資金繰り表は、技術的には税理士が作成することも可能です。とはいっても、税理士が資金管理をしてくれるわけではありません。税理士は、決算書などから資金繰り管理を行い、資金ショートが起こりそうかどうか会社で判断できるように指導する立場にあります。資金繰りに不安がある場合には、経営者自身がしっかりと資金繰り管理を行うためにも、税理士を活用するとよいでしょう。

資金ショートが発生する原因

売掛金と買掛金の回収サイクルの違い

資金ショートの原因の1つ目に、売掛金と買掛金の回収サイクルの違いが挙げられます。一般的な傾向として、売掛金は回収サイクルが1か月、1.5か月、2か月などと長く、買掛金は回収サイクルが1か月程度と短いと言われています。このため、売掛金の回収代金を買掛金の支払い代金にあてようとすると、間に合わない事態が発生することがあります。

回収サイクルは、業種ごとに商慣習の違いがあるため、特徴があります。一般的な傾向として、建設業、製造業など昔からある業種では、手形を利用しており、回収サイクルが長いのが特徴です。これに比べてIT業や飲食店などでは、1か月以内の現金取引が中心というように、回収サイクルが比較的短いと言われています。

多額の在庫の存在

資金ショートの原因の2つ目として、多額の在庫を抱えていることが挙げられます。

例えば、新規事業で新規の商材を扱うケース。新規事業では最初に多くの在庫が必要となり、営業部門や仕入れ部門がその発注を行い、多額の支払いが必要となることがあります。支払い段階で多額の支払いが必要なことに気付いても、これに対応する売上代金の回収が間に合わない場合には、資金繰りが厳しくなってしまうのです。

多量の在庫を抱えてしまうことは、資金が眠っている状態といえます。賞味期限がないものであっても長期保存できないものと想定して、在庫管理を行うとよいでしょう。新規事業を成功させるためにも、在庫管理はしっかり行うことが大切です。

為替レートの変動

資金ショートの原因の3つ目として、為替レートの変動が挙げられます。売上や仕入れを円以外の通貨で行っている場合には、為替レートの変動により売上代金の回収が想定より少なくなったり、仕入債務の支払いが想定より高くなったりする可能性があり、資金ショートの原因となり得るのです。

昨今は円安傾向にあるため、仕入れ代金の支払い時に想定より多くの金額が必要となる場合があるため、より注意が必要でしょう。

資金ショートを回避する対策

資金ショートを回避するには、短・中期的な資金繰りの必要性とポイントで説明したように、資金繰り管理で現状を把握することが大切です。
資金ショートの発生が予測できた場合には、回避するための対策を行い、必要があれば銀行に借り入れをしなければなりません。

売掛金と買掛金の回収サイクルを合わせる

資金ショートの原因が売掛金と買掛金の回収サイクルの違いにある場合には、売掛金と買掛金の回収サイクルを合わせる方法があります。例えば、売掛金の回収が2か月先であったら、買掛金の支払いも2か月先にするということです。

支払い期間の変更を行うには、事前に取引先と交渉する必要があります。急な支払期間の変更は、取引先の資金繰りの予定上難しいこともありますし、資金繰りが厳しい企業と判断されてしまう可能性もあります。少なくとも3~6か月以上前に、支払期間変更の交渉をして承諾を得るとよいでしょう。

クレジット決済の利用

支払いサイクルを長くする方法として、クレジット決済を利用する方法もあります。ただし、業者間でクレジット決済が利用できるケースは少ないでしょう。クレジット決済が利用可能なケースとしては、建設業者がホームセンターなどの小売店で材料を購入する事例などが挙げられます。

在庫の回転率を上げる

多額の在庫が問題となりそうな場合には、回転率の高い商材にシフトしていくと、在庫を抱えるリスクが低くなります。計画生産、計画販売、在庫管理も大切です。

売掛金の早期現金化(ファクタリング)

売掛金の早期現金化を行う方法として、ファクタリングがあります。ファクタリングとは、売掛金をファクタリング会社に売却することで、資金ショートを防ぐ1つの手段です。ただし手数料がかかりますので、これを考慮したうえで検討する必要があります。

売掛金の回収ができない場合には

即時催促を行う

資金繰り上、売掛金の回収は重要な業務となります。期日に入金がなく、売掛金の回収が滞っていることが判明したら、取引先に対して即時催促を行うようにしましょう。即時催促を行うことで、当社が売掛金の管理をしっかり行っていることを取引先に意識してもらうことにつながります。

売掛金が期日までに入金されないと、先方の取引先の経営状況が悪化しているのではないかと心配になったり、催促をすることを嫌がられるのではないかと不安になったりもするでしょう。しかし、実際には単なる「入金忘れ」というケースも多く、必ずしも経営状況が悪化しているとは限りません。心配や不安を感じる前に、取引先に入金がされていないという事実を伝える形で催促することで、問題なく回収できることが多いのです。

相殺できる債務がないか確認する

取引先に催促をしても入金されない場合には、同じ取引先に買掛金などの債務がないか確認を行ってみましょう。買掛金があれば売掛金と相殺することが可能です。

法的手段と貸し倒れ処理

売掛代金が入金されず、売掛金と相殺可能な債務がないという場合は、相手の経営状況が悪化している可能性が高くなり、法的手段をとることを視野に入れる必要も出てきます。この場合、回収は難しくなります。回収にどれだけのコストをかけて、どれだけの金額が回収できるのか、ケースバイケースとなるでしょう。

法的手段をとっても回収できないか、回収金額より回収コストが多くなってしまい、売掛金の回収ができなかった場合には最終的には貸し倒れ処理をすることになります。

取引先から弁護士を通して破産通知がきて、売掛金の回収できなかったケースもあれば、夜逃げなどで取引先と連絡がとれず回収できないケースもあります。

売掛金の回収不能を避けるために気を付けるべきポイント

売掛金の回収不能を避けるためには、取引先の経営状況に注意し、支払いが滞りがちになるなど予兆がある場合には、取引額を少なくするなどの対策をとりましょう。取引先とのトラブルによる回収不能もあり得ますので、取引内容をあらかじめ明瞭に取り決めをしておくことも大切です。大規模な取引では、契約書作成の際に弁護士に依頼した方が安心です。

経営状況が厳しそうな取引先との取引は避けるのが最善ですので、事前に取引先の経営状況の情報を得られるとよいのですが、これはなかなか難しいです。経営者同士の親密度によっては情報を得られることもありますので、日頃から取引先とコミュニケーションをとっておくのもよいでしょう。

著者:林 孝行(エスコート税理士法人代表社員。税理士・CFP®)

2012年、林孝行税理士事務所開業。2015年、エスコート税理士法人へ組織変更し代表社員に就任。NPO法人をはじめとする中小企業・個人に対する会計・税務業務に従事。元日本FP協会東京支部運営委員。元東京税理士会王子支部総務部長。著書に「NPO法人仕訳ハンドブック」(清文社)、「税理士が教える資金調達Q&A」(TAC出版)(ともに共著)

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