SDGs・ESG私募債

2022/08/18

SDGs・ESG私募債については、小規模・中小企業にとってハードルが高い手法です。もし、中小企業がSDGs・ESG私募債を発行するとしたら、公的制度を利用することになるでしょう。

ここでは公的制度である特定社債保証(SDGs型)、民間金融機関のSDGs・ESG私募債について説明いたします(2022年3月時点の内容)。

SDGs・ESG私募債とは?

私募債とは、一般の投資家を対象とした公募債(証券会社などを通して一般に募集される社債)とは異なり、少人数の投資家が直接引き受けることによって発行される社債のことです。そしてSDGs・ESG私募債とは、SDGs・ESGに取り組んでいる事業者を対象とする社債(私募債)を意味します。

中小企業向けのSDGs・ESG私募債については、主に信用保証協会の信用保証付き「特定社債保証(SDGs型)」として実施されています。また、民間金融機関においては「寄付型私募債」というスキームで実施している金融機関が多いです。

公的制度:特定社債保証(SDGs型)

特定社債保証の概要

中小企業向けのSDGs・ESG私募債については、主に信用保証付きの特定社債保証(SDGs型)として展開されています。なお実施有無につきましては、各信用保証協会に確認してください。

「特定社債保証」とは、事業者の資金調達手段の多様化を図るため、一定の要件を満たす事業者の発行する社債(私募債)について保証を行う制度です。

中小企業が発行した債券を投資家(金融機関)が購入し、企業はその資金を事業に運用して所定の期限に利息をつけて返済するというものです。特定社債保証は、厳しい適債基準(財務要件)を満たす必要があり、特定社債保証が発行できるということは優良企業の証とされ、企業の信頼度向上にもつながります。

この特定社債保証の1つとして、SDGsに貢献する取り組みを進めようとする事業者に対し、長期・安定的な資金の供給を行う特定社債保証としてSDGs型の社債保証制度が実施されています。

以下、特定社債保証(SDGs型)の概要になります。

特定社債保証(SDGs型)の概要

内容
保証対象者 適債基準(財務要件)を満たしている企業
など
資金使途 事業資金
保証金額 4億5,000万円
保証期間 7年以内
発行形式 振替債(券面を発行しないペーパーレス債権)としており、社債の種類は問わない
支払い利息 発行体所定利率
返済方法 満期一括償還または定時償還
担保・保証人
  • 担保:必要に応じ徴求
  • 保証人:不要
信用保証料 例1)0.35%〜1.80%
例2)0.35%〜1.74%
例3)0.30%〜1.75%
など
その他
  • SDGs社債保証は「SDGsに貢献する取り組みを行っている(行おうとしている)こと」が前提であり、「SDGs社債保証要件確認書」の提出が必要になる場合があります。
  • SDGs型の場合は、通常の特定社債保証の保証料率から割引で利用できる場合があります。
  • 特定社債保証(SDGs型)を実施している信用保証協会においては、ほぼ上記のような概要となっていますが、異なる点もありますので、詳細については各信用保証協会にて確認してください。

適債基準(財務要件)

特定社債保証(SDGs型)では、以下のような適債基準(財務要件)をクリアする必要があります。

適格基準(財務要件)

資格要件 基準1 基準2 基準3
純資産額 5,000万円以上
3億円未満
3億円以上
5億円未満
5億円以上
1. 自己資本比率 20%以上 20%以上 15%以上
2. 純資産倍率 2.0倍以上 1.5倍以上 1.5倍以上
3. 使用総資本
事業利益率
10%以上 10%以上 5%以上
4. インタレスト・カバレッジ・レーシオ 2.0倍以上 1.5倍以上 1.0倍以上
  • 資格要件は1・2のいずれかおよび3・4のいずれかの要件を満たすことが必要です。

上記の資格要件である財務指標の計算式は、以下の通りです。以下の詳細や計算などについては顧問税理士や資金調達の専門家などに相談することお勧めいたします。

計算方法

  • 自己資本比率
    =純資産額÷(純資産額+負債額)×100
  • 純資産倍率
    =純資産額÷資本金
  • 使用総資本事業利益率
    =(営業利益+受取利息・受取配当金)÷ 総資産額×100
  • インタレスト・カバレッジ・レーシオ
    =(営業利益+受取利息・受取配当金)÷(支払利息+割引料)

SDGs社債保証要件確認書

特定社債保証(SDGs型)では、SDGs社債保証要件確認書の提出が必要になります。これは各信用保証協会によって、体裁が異なっているようです。以下は、ある信用保証協会のSDGs社債保証要件確認書の一例になりますので参考にしてください。

SDGs社債保証要件確認書の一例 該当項目に○、複数選択可能

目標 内容
貧困をなくそう あらゆる場所あらゆる形態の貧困を終わらせる。
飢餓をゼロに 飢餓を終わらせ、食料安全保障および栄養改善を実施し、持続可能な農業を促進する。
保健 あらゆる年齢のすべての人々の健康的な生活を確保し、福祉を促進する。
教育 すべての人に包摂的かつ公正な質の高い教育を確保し、生涯学習の機会を促進する。
ジェンダー ジェンダー平等を達成し、すべての女性および女児のエンパワーメントを行う。
水・衛生 すべての人々の水と衛生の利用可能性と持続可能な管理を確保する。
エネルギー すべての人々の安価かつ信頼できる持続可能な近代的エネルギーへのアクセスを確保する。
経済成長と雇用 包摂的かつ持続可能な経済成長および、すべての人々の完全かつ生産的な雇用と働きがいのある人間らしい雇用(ディーゼント・ワーク)を促進する。
インフラ、産業化、イノベーション 強靭(レジリエント)なインフラ構築、包摂的かつ持続可能な産業化の促進およびイノベーションの促進を図る。
上記以外の目標 (具体的な取組内容を記入してください)

申請する中小企業は、上記のようなチェックリストを提出することにより「SDGsに貢献する取組を継続的に行っている、または行おうとしている」ということを表明します。そして、金融機関は「申込人がSDGsに貢献する取り組みを継続的に行っている(または行おうとしている)ことを確認した」というサインをします。

民間金融機関のSDGs・ESG私募債(寄付型SDGs・ESG私募債)

民間金融機関が実施しているSDGs・ESG私募債は、主に都市銀行や大手地方銀行といった大手金融機関を中心に実施されています。制度名称としては「SDGs〇●私募債」「ESG〇〇私募債」というものが多いです。

特徴としては、金融機関が私募債を発行する企業から受け取る手数料の一部(私募債発行額の0.1%~)を拠出し、医療・福祉施設・公益的な活動を行う法人・団体、幼稚園・保育園、小・中・高等学校・大学など、スポーツチームなどの団体、地方公共団体などへ寄付(寄付型SDGs・ESG私募債)を行うというスキームになっているケースが多いです。

寄付先については発行企業が選べる形式が多く、長期の安定資金を確保できるとともに、SDGs・ESGに対する取り組み姿勢を広くアピールすることにもつながります。

第三者機関スキーム・イメージ

民間金融機関が実施しているSDGs・ESG私募債のイメージは以下の通りです。各金融機関によってスキームが異なりますので、詳細については各金融機関にご確認ください。

民間金融機関のSDGs・ESG私募債のイメージ

内容
対象者 SDGs・ESGに取り組んでいる事業者
資金使途 運転資金・設備資金
発行金額 例1)3,000万円以上
例2)5,000万円以上
例3)1億円以上
など
利率 金融機関所定 など
発行期間 2年~ など
償還方法 定時償還または満期一括償還など
担保・保証人 状況による
その他 私募債発行金額の0.1%~相当額を寄付
など
  • 各金融機関によって異なります。

著者:吉田 学(財務・資金調達コンサルタント)

株式会社MBSコンサルティング代表取締役。1998年の起業以来、「資金繰り・資金調達支援」に特化して創業者や中小事業者を支援。これまでに1,000 社以上の資金調達相談・支援を行い、その資金調達支援総額は20億円超。
主な著書に、「社長のための資金調達100の方法」(ダイヤモンド社)、「究極の資金調達マニュアル」(こう書房)、「税理士・認定支援機関のための資金調達支援ガイド」(中央経済社)などがある。

また、全国の経営者・士業などを対象にした会員制の資金調達勉強会「資金調達サポート会(FSS)」を主催している。

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