少人数私募債における事業計画の重要性と資金使途

2021/11/24

ここでは、少人数私募債による資金調達を行う場合の事業計画作成ポイントについて説明し、どのような資金使途が望ましいかについて解説します。

事業計画の重要性

経営者の知人などに対し「少人数私募債を引き受けて欲しい」と言っても、事業計画を提示しなければ「どのような計画で」「調達した資金を何に使い」「どのように利益を出して償還するか」が分かりません。

少人数私募債は縁故債ですので、経営者の直接の知人・友人であれば「〇〇社長が言うなら」と引受けてくれるかも知れません。しかしそれは、その経営者を信頼しているだけで、会社の事業を信頼して応援するつもりで、資金を提供してくれるのではありません。取引先や従業員などであれば、なおさらです。

少人数私募債を引き受けてもらうためには、事業計画を立案して、これらの人々の信頼を得る必要があります。具体的で信頼できる事業計画があれば、経営者の方針や事業計画に、これまで以上に協力や応援をしてくれる可能性が高くなります。

信頼性の高い事業計画の作成ポイント

事業計画をもとに事業計画書を作成しますが、これは書式や記載内容は決まっていません。その会社の独自の書式や内容で作成すれば問題ありません。

ただし、信頼性の高い事業計画書を作成するにするには、いくつかのポイントがあります。ここでは「少人数私募債を募集するための事業計画書」という視点から、中期事業計画(3~5年)を取り上げ解説していきます。

通常の経営計画に必要な基本項目と、少人数私募債による資金調達で追加すると良い項目を以下の表にまとめましたので、ご覧ください。ここでは、新商品開発を行う場合を例にあげています。

経営計画に必要な項目(少人数私募債による資金調達で新商品開発を行う場合)

通常の場合の基本項目 少人数私募債による資金調達(新商品開発のため)を行う場合に追加すると良い項目
ビジョン・理念・目的
事業概要・実績・目標数字
市場環境
自社のサービス・商品、その強み・特徴 新商品開発
販売・マーケティング戦略 新商品開発完了後の販売方法など
生産方法・仕入先など 新商品の開発内容・手法など
組織 新商品開発を実現するための組織
事業課題・改善施策 新商品開発上の課題・改善施策
損益計算書・貸借対照表・資金計画書 新商品開発などを盛り込んだ損益計算書・貸借対照表・資金計画書

重要な項目は「自社のサービス・商品、その強み・特徴」「販売・マーケティング戦略」「生産方法・仕入先など」「事業課題・改善施策」「損益計算書・貸借対照表・資金計画」です。これに、少人数私募債による資金調達を行いたい場合には、調達した資金の使途などを盛り込みます。

例としている新商品開発のための資金調達であれば、「自社のサービス・商品、その強み・特徴」に新商品開発を、「生産方法・仕入先など」にその開発内容・手法などを盛り込みます。「販売・マーケティング戦略」については、新商品開発完了後の販売方法などを盛り込むと良いでしょう。

「組織」は新商品開発を実現するための組織となり、「事業課題・改善施策」は新商品の開発上の課題や改善施策となるでしょう。また「損益計算書・貸借対照表・資金計画書」についても、新商品開発などを盛り込んだものとなります。

事業計画書の作成例

ここでは、システム開発を行う会社の新商品を例にあげ、事業計画書について具体的に見て行きます。事業計画の流れやポイントをつかむために、事業計画書の簡易的な事例を見ながら解説していきます。

【1】自社商品・販路/事業領域と今後の新商品の販路

事業計画書の最初で、自社製品の販路と事業領域を分析し、今後の新商品についての販売戦略の計画を立てています。左側の【従来事業領域】として、「システム受託開発」「システム保守・運用」の売上は100%となっています。うち、〇〇業界のa・b・c社などへの売上が全体売上の80%を占め、その粗利率は40%です。

このような状況にある中、自社商品を新規開発することで第二の事業の柱にし、粗利益70%を実現しようとする計画です。〇〇業界は従来の顧客ですので、実際の取引先からの生の声を活かすことができます。

【2】自社商品開発の事業課題・改善施策

次に、実際に自社商品開発に取り組む場合の課題・改善を事業計画書に記しています。改善するためにはコストがかかるため「少人数私募債」による資金調達を行うことが示されており、資金使途が明確にされています。

【3】自社商品開発ライバルとの差別化

次に事業計画書で示しているのが、自社商品のライバルとの差別化です。少人数私募債の引受人は、特定の業界に詳しい方やシステムの専門家とは限りません。具体的にライバル会社であるA社と比較するなど引受人に分かりやすい方法で優位性の説明をすると良いでしょう。

このような資料を事業計画書として提示することで、「自社商品を開発する目的」「どのような点が優れているか」について、引受人に理解してもらうことができます。

【4】収支計画書・資金計画書

最後に【1】~【2】を整理して数字にし、収支計画書・資金計画書を作成します。これらの資料には、新商品開発時・開発後の運営費・営業費用なども盛り込みます。収支計画書は、直近の1年は月ごとに作成することが望ましいですが、それ以降は年度単位でも問題ありません。

ただし資金計画書については、可能な限り、少人数私募債の償還までは月単位で作成すると良いでしょう。開発や販売計画にズレが生じた時、いくらの資金不足があり、償還するための資金はいくら必要かなどの目安になるからです。

償還時には通常、まとまった資金が流出しますので、事前の準備・チェックが必要です。

少人数私募債での資金使途と注意点

上記の事業計画書の事例では、新商品であるシステム開発に対して投資を行うものでした。

このような投資により一定間にわたる開発を実施し、その後の販売で売上増加を図るほか、設備投資として新機械の購入や生産ライン増設により生産量を増やすことで、売上増加が見込まれます。これは、少人数私募債で調達した資金使途として望ましいといえます。

少人数私募債で調達した資金使途として注意したいのが、運転資金です。運転資金の中でも、季節性のある夏物商材を仕入れ、秋・冬には販売し代金が回収できるものであれば問題はありません。

しかし、定常的な買掛金・人件費などの支払いのため、少人数私募債で資金を調達し、償還期日が半年後というように、短期間で償還しなければならない場合には注意が必要です。大きな売掛金の回収見込みもなく、定常的に運転資金が苦しい会社などがこれを行うと、償還資金が足りないということになってしまいます。

少人数私募債は、根本的なキャッシュフロー改善にはつながりません。したがって新たな事業投資や設備投資のように、資金を柔軟に確保したい場合に少人数私募債を利用することが望ましいといえます。

著者:星 武志(経営コンサルタント)

株式会社アスタリスク代表取締役。金融機関、コンサルタント企業、IT企業を経て、2000年代表取締役就任。IT企業、不動産業、商社等の経営戦略、財務戦略、管理会計支援等 を行う。
これまで、銀行等の金融機関の研修・講演講師を70行庫以上務める。主な著書は「渉外マンの現場力/近代セールス社」金融商品取引法・各種業法に基づく「金融商品セールス対応話法集/銀行研修社」等でありその他金融機関向け、雑誌連載実績等多数。

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