少人数私募債の活用事例
~アプリ開発企業の新商品開発~
2021-11-24更新
2021/11/24
ここでは、少人数私募債による資金調達に成功した具体的な事例を紹介し、解説していきます。旅館業・民泊業を営むB社が、マンスリーマンションへの転用を新事業とするための資金調達として、少人数私募債を発行したケースをご紹介します。
B社のこれでまでの事業形態は、マンションなどの不動産を所有する不動産オーナーから、一括でその物件を借り上げ、内装工事の実施や宿泊のための設備設置を行うとともに、旅館業・民泊業の行政手続きを行って運営するというものでした。
B社は、旅行者や出張者をOTA(Online Travel Agent)サイトで集め、宿泊サービスを提供しています。OTAでは売上代金に対し手数料が発生するために、徐々に宿泊者を自社会員化し、直接B社のサイトで予約できるように販売促進した結果、現在はOTAの仲介を通さない顧客も増えてきています。
不動産オーナーに対しては、一括借り上げでの賃料を支払うほか、その売上高に応じて上乗せ賃料も支払っているため、評判も良く、良好な関係を築いています。
しかし物件によっては宿泊稼働にバラツキがあり、稼働率の悪い物件を所有する不動産オーナーから「一部マンスリーマンションへの転用はできないか?」という相談が持ち込まれました。
マンスリーマンションは月単位の賃貸で、短期の契約者をターゲットとしています。一般の賃貸とは異なり、敷金や礼金の必要がありません。マンスリーマンションには、生活に必要な家具や家電が最初から備え付けられており、部屋に着いたらそのまま生活できる環境が整えられています。
現在の旅館業・民泊の設備は、マンスリーマンションに利用できるものが多く、不動産オーナーからみると、状況に応じて旅館業・民泊業にもう一度戻したり、一般の貸借に転用したりすることができるという利点があります。
B社はその相談を検討した結果、旅館業・民泊業向けの設備を設置しているものをマンスリーマンションにするには、そのターゲットに合わせた設備を整える必要があると考えました。具体的には、ビジネスマンが多ければPC・プリンターなどのOA機器を設置し、女性が多ければ家具などを女性向けに変更することとなります。
またB社では、マンスリーマンション運営のノウハウがありませんでした。そのためノウハウのある人材の募集や、マンスリーマンションを管理するための新たなシステム構築が想定されました。
これらの点について不動産オーナーに相談したところ、「マンスリーマンションという新事業に参入することで、事業のリスクヘッジになる」「同じ考えを持つ不動産オーナー向けに営業活動をすることで、新事業への協力が得られるのではないか」「資金的に難しいのであれば、相談にのる」といった回答が得られたため、B社はマンスリーマンションを新事業とすることについて具体的に計画を策定することにしました。
B社は、これまでの旅館業・民泊業を通じ、取引先(物件の仕入先)である不動産オーナーとの信頼関係を築いてきました。その不動産オーナーからの相談により、マンスリーマンションのサービスは、他の不動産オーナーに対しても需要があると考えました。
物件によって設置している設備を見直したり、想定する利用者によってOA機器などの設備を追加で設置したりしなければなりません。またマンスリーマンションを管理したり、契約書を整理したりすると言ったノウハウはなく、新たに人を雇う必要があります。
B社の強みは、既存事業の旅館業・民泊業で利用しているシステムの「宿泊者管理」のノウハウを短期利用者管理に置き換えることができたり、問い合わせの窓口であるコールセンターを活用できたりする点です。
B社は、以下のように新事業への必要投資を整理しました。
B社がこれらの計画を不動産オーナーと相談すると、不動産オーナーは自身の事業のための投資と捉えてくれ、かつ仲間である同業者の紹介など販売面での協力も約束してくれました。不動産オーナーからの紹介により販路拡大できた場合、B社はその収益の一部を販売手数料で支払うことを示しました。
不動産オーナーは新形態の商品の品揃えになり、計画や運営はB社が実施するためリスクが少なく、同業者にもニーズがあり、長期的な視点でも問題がないと考えました。
以上を踏まえ、B社は、以下のような少人数私募債の発行を決断しました。
B社の少人数私募債の概要
B社が少人数私募債による資金調達を行うことで、発行会社であるB社側と引受人である不動産オーナー側の双方に、以下のようなメリットがあります。
B社は結果として、少人数私募債の募集総額600万円を資金調達することができました。
B社の経営者は、少人数私募債による資金調達を行って、以下の点が良かったそうです。
「自己資金が少なく、新規事業ができる」
「最初から販売先がある」。
マンスリーマンションのノウハウのある人員採用以外は、自社の資産(設備・システムなど)を活用することができ投資総額はそれほど大きくならず「小さいリスクで新事業がスタートできる」「販売先もあり、協力もしてもらえる」という点で取り組みやすいものでした。
マンスリーマンションのノウハウのある人材採用ができない点についてリスクがありましたが、少人数私募債の引受人である不動産オーナーとも相談し、スタート時までに採用を決めることが困難であれば、外注などを活用して進める方針としました。
このように、少人数私募債は資金調達という側面だけでなく「取引先である不動産オーナーを巻き込んで新規事業を構築する」いう取り組みが可能です。これは、資金調達を金融機関からの融資で行った場合には実現できなかった取り組みといえます。
株式会社アスタリスク代表取締役。金融機関、コンサルタント企業、IT企業を経て、2000年代表取締役就任。IT企業、不動産業、商社等の経営戦略、財務戦略、管理会計支援等
を行う。
これまで、銀行等の金融機関の研修・講演講師を70行庫以上務める。主な著書は「渉外マンの現場力/近代セールス社」金融商品取引法・各種業法に基づく「金融商品セールス対応話法集/銀行研修社」等でありその他金融機関向け、雑誌連載実績等多数。
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