少人数私募債の活用事例
~旅館業・民泊業の新事業~
2021-11-24更新
2021/11/24
ここでは、少人数私募債での資金調達に成功した具体的な事例を紹介し、解説していきます。今回のケースは、スマートフォン向けアプリ開発企業であるA社が、新商品開発のための資金を少人数私募債により調達したケースです。
A社は、システムの受託開発事業を中心としてきた企業です。特にスマートフォン向けのシステム受託開発を手掛け、実績はあるももの「あくまで、下請け」的な立場に甘んじてきました。
そこで、A社は自社開発の新商品を打ち出したいと考えたのです。その新商品開発の資金調達を目指したのですが、資金使途がこれまでの「受託開発売上の代金が入ってくるまでのつなぎ資金」「受託増加に伴う増加運転資金」とは異なります。
受託開発売上のためのつなぎ資金などであれば、確実に売掛金の回収が見込まれますが、新商品開発の場合は、売れなければ代金回収はありません。また開発期間によっては、長期間に渡る投資になる可能性もあります。
そこでA社は、少人数私募債の発行を決断し、引受けを取引先や従業員にしたのです。
その狙いは、取引先や従業員と会社の間に強い信頼関係を築くとともに、金融機関に頼らない資金調達を行うことでした。
A社はこれまでの受託開発事業で、取引先に携帯ショップ代理店や家電量販店がありました。そこに、スマートフォン向けアプリを開発し、販売できないかと考えました。
実際の顧客の声から商品を企画し、以下の点にポイントをおきながら、その計画を策定しました。
事業計画上、初期開発費用やコールセンターなどを含めた人件費など、当面の運営費用として4,500万円の資金調達を行うために少人数私募債の発行を行い、償却期間は初期開発期間や販売活動期間を加味し、3年としました。
この事業計画を発表すると、取引先はもとより開発に携わる従業員からも賛同を得られたため、少人数私募債の発行を決断しました。
A社の少人数私募債の概要
A社が少人数私募債による資金調達を行うことで、発行会社であるA社側と引受人である取引先や従業員側の双方に、以下のようなメリットがあります。
A社は結果として、少人数私募債の募集総額4,500万円を資金調達することができました。
A社の経営者は、少人数私募債による資金調達を行って、以下の点が良かったそうです。
「時間のかかる新商品開発において、元金返済を気にせず開発に専念できた」「従業員が我が事と思って、この新商品開発に積極的に関わってくれた」
「取引先が想定していなかった販路展開や機能追加の可能性など、アイデアを出してくれ、具体的な顧客の紹介に結び付きそうだ」。
A社は、これまで受託中心の業務でしたが「自社の新規商品を作るのだ」という社内の意識が変化したことに手ごたえを感じ、予定通りのスケジュールで新商品をリリースすることを目指しています。
このように少人数私募債には、資金調達以外にも「社内の機運を高める」「取引先に一層の協力をしてもらえる」という効果があります。これは、資金調達を金融機関からの融資で行った場合には実現できなかった効果といえるでしょう。
株式会社アスタリスク代表取締役。金融機関、コンサルタント企業、IT企業を経て、2000年代表取締役就任。IT企業、不動産業、商社等の経営戦略、財務戦略、管理会計支援等
を行う。
これまで、銀行等の金融機関の研修・講演講師を70行庫以上務める。主な著書は「渉外マンの現場力/近代セールス社」金融商品取引法・各種業法に基づく「金融商品セールス対応話法集/銀行研修社」等でありその他金融機関向け、雑誌連載実績等多数。
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