中小企業が美しい決算書を作る意味(2)

~貸借対照表を美しく見せるポイント~

2021/12/22

中小企業の経営者の中には「実は貸借対照表の見方を理解できていない」という方もいらっしゃるかもしれません。しかし貸借対照表を美しく見せることで、金融機関からの借入がしやすくなったり、取引先に信用を得られたりする点がメリットです。また、お金の動きが理解できれば効果的な経営戦略も立てやすくなるでしょう。

この記事では、中小企業が貸借対照表を美しく見せるポイントを説明します。

貸借対照表(BS)で見られるポイント

純資産

純資産とは、株主からの出資と利益の蓄積により構成される項目です。内訳としては、資本金・資本余剰金・利益余剰金・新株予約権などで構成されます。

貸借対照表で金融機関から特に見られるポイントは「事業のために自分で用意できる資金がどれだけあるか」です。資本主義の社会では事業のために、以下の3つの方法で資金を用意します。

  • 1:
    資本金(株主から集めてきた資金)
  • 2:
    利益剰余金(自力で稼いだ資金)
  • 3:
    負債(他人から借りてきた資金)

負債に関しては銀行などからの借入になるため、期限内に返済する必要があります。一方、 資本金と利益剰余金は企業が自身で用意した資金のため、返済の必要はありません。

資本金と利益剰余金は純資産を構成するものなので、純資産が増えると会社は安定し、金融機関からの評価も高くなります。中小企業は上場企業のように潤沢な資金調達ができないため、資本金を増やすことには限界があります。したがって、基本的には利益から積み増しができる利益剰余金を増やすことに注力するべきでしょう。

金融機関は基本的に、資金繰りが悪化して困っている時には新規の融資をしてくれません。そのため、企業としてコツコツ純資産を積み上げることが中小企業には必要なのです。

内部留保の割合

内部留保とは利益剰余金が蓄積されたもので、外部に出ることなく企業に残る資産のことです。内部留保が潤沢であれば、赤字になった際にも過去の積み上げとなる資産で対処できます。

例えば、新型コロナウイルスの影響で大きく赤字を作った企業も、過去からの積み上げがあることで倒産を避けられました。このような事態に備えて、中小企業は節税よりも利益剰余金を積み上げることにフォーカスしたほうがよいでしょう。また、資本金1億円以下の法人には、基本的に留保金課税は発生しません。

また小規模企業の場合、役員報酬を多めに設定しておき、資金繰りが悪くなった場合には役員借入金に振り替えるという方法も考えられます。役員借入金とは役員から法人へ貸し付けることです。利息の発生が任意・返済の時期が自由になるため、金融機関から借入するよりも柔軟に運用できます。

欧米の企業は株主優先のため、レバレッジを高めて株主還元を最優先する点が特徴です。一方、日本企業はバブル崩壊を経験していることもあり、危機に備えて内部留保を多めに蓄えてきました。

日本企業は株主還元が少ないという批判もありましたが、コロナ禍で日本企業が再評価されている要因は、内部留保の多さに起因します。今回のような不測の事態においては、内部留保を積み上げてきた企業が強いことが証明されました。

安全性を図る指標

企業の安全性(継続的に経営ができる状況であるか)を図るために、以下のような指標の数字も見られます。

安全性の代表的な指標は下記の6項目となります。

安全性 ① 当座比率 当座資産÷流動負債×100【%】
② 流動比率 流動比率÷流動負債×100【%】
③ 固定長期適合率 固定資産÷(自己資本+固定負債)×100【%】
④ 固定比率 固定資産÷自己資本×100【%】
⑤ 自己資本比率 自己資本÷総資本×100【%】
⑥ 現預金比率 現金預金÷総資本×100【%】

当座比率・流動比率

短期資金の余裕を図りたい場合には、当座比率・流動比率を確認します。

当座比率とは、流動負債に対して当座資産がどの程度保有されているかを示す指標です。当座資産は流動資産のうち棚卸資産等を除いたもので、換金性の高い現預金・有価証券・売掛債権だけを含めます。

流動比率とは、流動資産と流動負債の比率を図る指標です。流動負債に対して、流動資産が少ない・同等という状態は危険です。流動資産にある売掛金が焦げつく、不良在庫があったとなると、負債分をカバーできないからです。流動資産は流動負債の100%を超えていないといけません。150%~200%超えると安心できます。

2つの指標を比べると、棚卸資産等を含めない当座比率の方が短期の安全性をシビアに判断するといえます。厳しく見たい場合には、当座比率を利用したほうがよいでしょう。

固定長期適合率・固定比率

固定長期適合率・固定比率をみることで、投資と調達のバランスが確認できます。

固定長期適合率とは、固定資産が固定負債と自己資本でカバーできているかを図る指標です。自己資本と固定負債を超える額の固定資産がある状態は、流動負債(短期借入金など)で固定資産を支えている状態となるため非常に危険です。固定資産は自己資本と固定負債でカバーできる範囲に留めるべきといえます。

また、固定比率は固定資産が自己資本だけでカバーできているかを図る指標で、固定長期適合率よりもシビアです。固定負債も省き、自己資本の範囲だけで固定資産を支えられる状態であれば安心といえるでしょう。

自己資本比率・現預金比率

自己資本比率とは、会社のすべての資本(総資本)のうち自己資本(資本金・資本剰余金・利益剰余金)の占める割合です。一方、現預金比率とは、総資本を占める現預金の割合をさします。

中小企業の自己資本比率の理想形は無借金経営です。企業を運営する以上、買掛金や支払債務などが発生するため「完全無借金」経営は不可能ですが「実質無借金」経営は可能です。

実質無借金経営とは、現預金が有利子負債よりも大きい状態です。この状態の場合、手持ちの現金で有利子負債をいつでも返済できる余力があります。そのため、借金があっても「実質」無借金といえます。実質無借金の会社は金融機関からの評価も高くなるでしょう。

中小企業の自己資本比率は30%程度が理想的といわれることもありますが、実際には50%以上を目指していけるとよいでしょう。

自己資本比率を高めるためには、以下の方法があります。

  • 1:
    増資・内部留保の蓄積
  • 2:
    借金を返済して負債を減らす

ただし借金を返済して負債を減らす場合は、手元資金を減らすことで資金繰りが悪化する可能性があります。返済することによって手元資金が手薄になれば、黒字倒産してしまう危険性があるため、無理やり実施するべきではありません。したがって、中小企業は自己資本比率だけではなく、キャッシュの状況も逐次チェックする必要があります。

自己資本比率50%以上で現預金比率30%以上が達成されれば、実質無借金経営が実現します。理想の貸借対照表の状態は下記の通りです。

  • 自己資本比率:50%以上
  • 現預金比率:30%以上
  • 有利子負債≦現金預金(実質無借金)
  • 流動比率:150%以上
  • 固定比率:100%以下

ギアリング比率と債務償還年数

借入額の妥当性を図る指標としては、下記の2つが代表的です。

  • 1:
    ギアリング比率(レバレッジ比率:%)=有利子負債÷自己資本
    ギアリング比率とは、自己資本に対する有利子負債(他人から借りているお金)の割合を示す数値です。ギアリング比率は100%以下が理想で、300%を超えると危険といわれています。
  • 2:
    債務償還年数(年)=有利子負債÷(経常利益×0.65+減価償却費)
    債務償還年数は、有利子負債の額と企業が生み出す利益を比べて、銀行融資の返済に何年かかるかを示す数値です。毎年計上する減価償却費は実際にキャッシュが実際に外部流出するものではないため、債務償還年数の計算に含めます。債務償還年数は10年以内であれば大きな問題はないです。

フリーキャッシュ・フロー

フリーキャッシュ・フローとは、会社が稼ぎ出したお金から投資などの支出を差し引いて、借入返済前に手元に残ったキャッシュのことで、借入金の妥当性を図るためにチェックするべき数値です。黒字倒産という言葉もありますが、会社は借入金が多くて倒産するのではなく、現金預金がなくなって倒産します。そのため「どれだけキャッシュがあるか」に注目しましょう。

フリーキャッシュ・フローの算出方法は以下の通りです。

フリーキャッシュ・フロー=営業キャッシュ・フロー+投資キャッシュ・フロー

  • 営業キャッシュ・フローとは、会社の事業活動で稼いだお金の流れです。+であることが通常です。
  • 投資キャッシュ・フローとは、会社が投資で動いたお金の流れです。具体的には工場の設立や株の売買でお金が動きます。-の状態が会社の成長を表します。

また、キャッシュ・フローは貸借対照表が前年度に比べてどんな動きをしているかでも算出できます。

まとめ

中小企業の経営は、銀行などからの借金に頼らず純資産を積み上げて純資産の範囲で投資できるようになることが理想です。安全性の指標が良くなるように貸借対照表を整えることで、安定した経営が可能になります。

特に、自己資本比率や現預金比率が良くなるように、貸借対照表を整えていきましょう。

著書:プロ・ビジョン株式会社

弥生会計と連動して月次決算書や分析帳票を作成できるアプリケーションソフト「参謀役シリーズ」を開発。「会計参謀」「決算参謀」は全国2000を超える会計事務所で導入されており顧問先の経営指導に活用されている。
2002~2005年:弥生会計AEの開発顧問として仕様検討(主にキャッシュフロー計算書)を請負う。2006年:弥生株式会社の経営診断サービスを開発。著書:弥生会計オフィシャルハンドブック 「あなたの会社の実力、信用力がわかります!」中経出版

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