融資における金融機関の審査とは
~変わりつつある金融機関の融資姿勢と会計データ融資~
2023-11-08更新
2025/12/12

与信審査とは、取引先が信用できる企業かどうかを見極め、売掛金の未回収リスクを防ぐために行う大事なプロセスです。審査をおろそかにすると、支払遅延や連鎖倒産など、経営を揺るがすトラブルにつながるおそれもあります。
この記事では、与信審査の目的や具体的な流れ、適切な与信審査を実施するポイントをわかりやすく解説します。与信審査は、個人事業主や企業の経営者など、取引を行うすべての事業者がリスク管理を強化するうえで欠かせない要素です。
「与信審査」とは、取引相手に取引上の信用を与えても問題がないかを判断するための審査です。クレジットカードやローンなど個人を対象とした審査でも「与信審査」という言葉は使われますが、企業間取引における与信審査は、法人や事業者の支払能力・信用力を評価する点で異なります。この記事では企業間取引における与信審査について解説します。
企業間取引では商品やサービスの提供後にまとめて精算する「請求書払い(掛/掛け売り)」が多く採用されています。請求書払いでは、商品やサービスの提供後に代金を請求するため、取引先に十分な支払能力がなければ、売掛金が回収できないおそれがあります。そのため、事前に取引先の状況を確認し、取引を継続しても問題がないかを見極めることが必要です。このために与信審査が行われます。
与信審査では、「信用調査」や「反社チェック」によって、相手先の信用力や社会的信頼性を総合的に評価します。それぞれの特徴を順に紹介します。
信用調査とは、取引相手の信用性を確認する調査です。これによって企業の財務状況や経営状態、社会的な信用度を把握します。この調査結果を基に与信審査を行って、請求書払いで取引可能かどうかを判断します。
この調査は、リスクの高い取引先を事前に確認する手段として有効です。新規取引時だけでなく、既存取引先の状況に変化があった際にも、売掛金未回収などのトラブルを未然に防ぐことができます。
「反社チェック」とは、取引先が反社会的勢力に属していないかを確認する作業のことです。 反社会的勢力とは、暴力や威力、詐欺的手法を用いて経済的利益を追求する集団や個人を指します。具体的には、暴力団やその関係企業、総会屋、社会運動標ぼうゴロ、政治活動標ぼうゴロ、特殊知能暴力集団、匿名・流動型犯罪グループ(半グレ)などが挙げられます。
企業がこうした勢力とかかわりを持つことは、法的・社会的リスクだけでなく、信用問題にも直結します。契約を締結した時点で、実際の取引開始前であっても、社会的には「反社会的勢力と関係を持った」と見なされるおそれがあります。取引リスクを防ぐためにも、契約前の段階で反社チェックを実施することが強く推奨されます。
反社チェックの方法には、反社チェックツールでの検索や公的機関の情報照会、外部調査会社の利用などが挙げられます。
与信審査における信用調査や反社チェックは、取引先の支払能力を知り、未回収や連鎖倒産を防ぎ、自社・自事業の信用・評判を守ることが主な目的です。それぞれについて詳しく解説します。
与信審査を行う目的の1つは、取引先に十分な支払能力があるかどうかを確認し、売掛金の未回収を防ぐことです。請求書払いの取引では、商品やサービスを先に提供するため、取引先の財務状況に問題があると売掛金未回収のリスクが高まります。
倒産リスクのある企業や支払能力がない企業と取引してしまうと、自社・自事業の経営に大きな影響を及ぼすおそれがあります。そのため、取引を開始する前にリスクを把握しておくことが求められます。
また、与信審査は一度きりではなく定期的に見直すことで、未回収リスクへの対策をより万全にできます。
取引先から売掛金を回収できないと、キャッシュ・フローが悪化して資金繰りに影響するおそれがあります。特に、未回収の売掛金を抱えた取引先が倒産した場合、自社・自事業のキャッシュ・フローが悪化して借入金の返済や仕入れ先への支払いに支障をきたすこともあり、連鎖倒産のリスクが高まります。
このような事態を避けるためにも、取引開始前に取引先の状況を正確に把握しておきましょう。また、取引先の状況は変化する可能性があるため、定期的に見直しを行うことで、連鎖倒産のリスクをさらに抑えられます。
与信審査を適切に行わないと、意図せず反社会的勢力とかかわりのある企業と取引をしてしまうおそれがあります。 反社会的勢力や関連企業との取引は、自社・自事業の社会的な信用を損なうだけでなく、既存の取引先との信頼関係にも悪影響が出てしまいかねません。その他にも金融機関との取引が停止されるリスクや、場合によっては、企業や従業員が脅迫や誘拐などの犯罪に巻き込まれるリスクも考えられます。
取引先の信用力や背景を事前に確認しておけば、反社会的勢力との関係を避け、健全な取引環境を維持できます。企業や個々の従業員の安全を確保し、自社・自事業の信用を守るためにも、反社チェックの徹底は特に求められます。
与信審査は、主に5つの手順で進めていきます。各項目について、その特徴や具体的な内容を順に解説します。
初めに、取引に関連する情報を幅広く収集することが重要です。集める情報は大まかに分類すると「外部情報」「内部情報」に分けられます。これらは種類や入手方法が異なっており、両者をバランスよく収集して多方面からの情報を分析することが、取引先の信用力を正確に評価する土台づくりにつながります。与信審査全体の精度を高めるために、できるだけ多くの情報を収集して分析に活用しましょう。
外部情報とは、取引先の信頼性や経営状況を把握するために、外部から収集する情報です。入手方法は以下のように、無料と有料があります。
無料で得られる情報はインターネットなどで手軽に集められますが、正確性や最新性に欠ける場合もあるため、参考程度にとどめておくほうがよいでしょう。一方、有料の情報はコストこそかかりますが、信頼性が高く、取引先の信用力を客観的に判断するのに役立ちます。
「内部情報」とは、取引先とのかかわりの中で、企業や個人が得る情報のことです。営業担当者による訪問や商談、日常のやり取りを通じて得られる印象や担当者の対応姿勢などは、外部情報だけでは得られない貴重な情報です。また、経営者や担当者と面談を通して得られる企業の経営方針や、将来の見通しなどの情報も有効です。
これらを併せて活用することで、より多角的に、実態に即した与信判断が行えます。
ただし、与信管理が目的であっても、取引先にヒアリングの強要はできません。協力を仰ぎ、相手の同意を得たうえで情報を収集することが大切です。
情報収集が完了した後は、収集した情報を分析し、取引の可否を判断します。分析方法には、主に「定量分析」と「定性分析」の2種類があります。
「定量分析」とは、取引先の信用力を数値データに基づいて評価する分析手法です。具体的には、貸借対照表・損益計算書などの財務諸表を用いて、企業の収益性・安全性・成長性を数値的に判断します。
ただし、黒字であっても資金繰りが悪化し倒産する「黒字倒産」のケースもあるため、キャッシュ・フロー計算書の確認も行うとより正確な判断が可能です。定量分析は客観的な判断に役立ちますが、数字だけに頼らず、次に紹介する定性分析と併せて総合的に評価することが大切です。
なお非上場の企業や個人事業主の場合、詳細な財務諸表の入手が困難なことも多く、その際は外部の信用調査レポートや定性分析の比重が高まります。
定性分析とは、数値では表せない情報を基に取引先の信用力を評価する分析手法です。経営者の経歴や人柄、企業の評判、業歴、周囲(取引先や従業員など)からの評価など、企業の信頼性を左右する要素を幅広く確認します。
分析方法には、インターネットでの情報収集や口コミ調査だけでなく、実際に取引先を訪問して経営者や担当者と面談するなど直接的な手段も有効です。定性分析は、定量分析だけでは見落としがちなリスクを補完できる点がメリットであり、両者を組み合わせることで、より現実に即した与信判断を行えます。
与信審査で得た情報を基に、取引先ごとの取引上限金額を決めることが「与信限度額の設定」です。信用度が高い取引先には比較的高めの限度額を設け、信用度が低い取引先には低めの限度額を設けて、リスクをコントロールします。
限度額は、取引先との契約条件や支払条件を決定する際の基準にもなるため、慎重に設定しましょう。また、与信限度額は一度決めたら終わりではなく、取引状況や経営環境の変化に応じて定期的に見直すことが大事です。与信限度額の有効期限を設けておくとよいでしょう。
与信限度額の具体的な決め方については、次の項目で詳しく解説します。
「取引先単価を基準とした算出方法」とは、1取引先当たりの平均取引額に、売掛金の回収サイト(日数)を掛け合わせて「売掛債権の平均単価」を求める手法です。例えば、1回の平均取引額が40万円で、回収サイトが60日(約2か月)の場合、40万円×2か月=80万円を基準として与信限度額を設定します。
この方法は、取引実績を基に算出できるため、与信管理を初めて行う中小企業・スタートアップ企業、個人事業主でも導入しやすい点が特徴です。ただし、売掛金未回収のリスクが高い業界では基準を厳しくする必要がある、取引先が少ない場合は1社当たりの売上依存度が高くなるなど、注意点もあります。慎重に基準を設定したうえで、実際の取引状況や業界動向を踏まえて柔軟に見直すようにしましょう。
「自社・自事業の売掛債権全体を基準とした算出方法」とは、会社全体の売掛債権の総額に一定の割合を掛け、取引先の格付けウエイトを加味して与信限度額を設定する手法です。
計算方法は「会社全体の売掛債権の総額×一定割合×格付けウエイト」です。「一定割合」とは、万が一の際の影響を一定以下に抑えるために設定するもので、10%が目安です。仮に総売掛債権が5,000万円、一定割合が10%、格付けウエイトが1.1倍とした場合、550万円(5,000万円×10%×1.1倍=550万円)が与信限度額となります。さらに、格付けの高い取引先には上乗せ、低い取引先には減額するなど柔軟な調整が可能です。
この方法では取引先ごとの売上依存度を分散させることができ、リスクヘッジにつながります。取引先が多く、売掛債権の金額も大きい企業に適した算出方法です。
「純資産を基準とした算出方法」は、取引先の格付けレベルに応じて純資産の一定割合を与信限度額として設定する手法です。例えば、格付けが高い企業には純資産の10%、低い企業には3%までを目安、などとして与信限度額を決定します。
自社・自事業の体力を超える取引を避けることで連鎖倒産のリスクを抑えやすく、安全性の高い取引管理を行えます。ただし、売上の成長速度に比べて純資産の拡大スピードが遅い場合もあるため、取引の成長率が低くなるおそれもあります。
純資産を基準とした算出は、特に財務の安定性を重視する企業・個人事業主や、売掛金未回収リスクを最小限にしたいときに適した方法です。
与信限度額が決定したら、次に取引先との契約条件を交渉します。これは与信審査の結果を踏まえ、合理的かつ安全な条件を設定するための大切なステップです。
契約書には、入金遅延時の遅延損害金や期限の利益喪失(滞納などにより分割払いや支払猶予の権利を失い、一括支払義務が発生すること)に関する条項など、将来的に起こり得るリスクをカバーする内容を盛り込むことが大事です。
契約締結前に可能性のある問題点を洗い出し、必要に応じて条項を調整することで、自社・自事業の信用や資金回収の安全性を高められます。
契約を締結した後も、継続的に与信管理を行う必要があります。取引先から期日までに入金されない、あるいは支払いが遅延する場合は、財務状況や経営環境に問題が生じているおそれがあるため、早めに状況を把握する必要があります。取引状況や支払履歴、外部環境の変化に応じて与信限度額や契約条件の見直しを行うことで、未回収リスクや連鎖倒産リスクを最小限に抑えられます。
また、取引に問題がなくても、1年に1度など定期的に見直しを行うことも大切です。定期的な見直しによって、取引先の信用力の変化を把握し続けることができます。
なお「与信管理」については、以下の記事で詳しく解説していますので、併せて参考にしてください。
与信審査を適切に行うには、自社・自事業内に与信部門などを立ち上げて評価基準を決める、外部サービスを利用するなどの方法が考えられます。それぞれについて、順に解説します。
自社・自事業内に与信部門を設けることは、与信審査を適切に行ううえで非常に有効です。
与信審査では確認すべき項目が多岐に渡るため、業務が属人化すると、審査の精度や一貫性にばらつきが生じやすくなります。専属の与信部門を設ければ、担当者ごとの判断の違いを抑えながら、統一された評価基準での審査が可能です。
評価基準を明確にして自社・自事業内で共有することで、取引先ごとの信用リスクを比較・分析しやすくなり、合理的な与信判断が実現します。また、与信審査の強化により取引先の信用リスクを早期に把握でき、未回収リスクや連鎖倒産リスクの低減にも役立ちます。
ただし、高い情報収集能力や分析力が求められるため、専門スキルや経験を有する人員の確保が必要である点には注意しておきましょう。
与信審査を効率的かつ正確に行ううえで、外部のサービスを活用する方法も有効です。特に中小企業や新興企業、海外企業の場合は、公開情報が限られていることも多く、自社・自事業だけで審査を行うと情報不足に陥るおそれがあります。このような場合、外部の信用調査サービスや与信支援ツールを活用することで、必要な情報をスピーディに入手でき、判断の精度を高められます。
弥生のグループ会社「アラームボックス
」では、簡単な操作で取引開始前の企業調査、風評チェックや反社チェックを実施できます。与信判断に役立つ情報を手軽に取得できるため、取引リスクの把握や審査作業の効率化に役立ちます。
自社・自事業内のリソースだけで対応すると膨大な手間が発生するため、外部サービスを適切に組み合わせて効率化を図ることも検討してみましょう。
ここでは、おすすめの与信審査サービスを3つご紹介します。サービスの概要や料金など、与信審査サービスの導入を検討している方は、ぜひ参考にしてください。
アラームボックスの「パワーサーチ
(パワーサーチ for 弥生ユーザー
※弥生ユーザー対象 )」は、企業名を入力するだけで取引開始前に必要な情報を手軽に収集できるサービスです。風評チェックや反社チェック、信用情報の確認など、与信判断に役立つ情報を迅速に取得できます。
初期費用はかからず、料金プランは3,000円から利用可能です。また、1件500円から個別に反社チェックや信用チェックを行うこともできます。
シンプルな操作で効率的に与信審査が行えるため、中小企業や取引先が多い企業・個人事業主でも手軽にリスク管理を進められる点が特徴です。
三井物産クレジットコンサルティングの「SMART」は、国内外の企業を対象に与信管理を行うサービスです。三井物産の信用格付けロジックを活用し、企業の信用情報や財務状況、取引リスクなどを総合的に分析して、適切な与信判断をサポートします。また、業態・規模・取引形態・与信方針などに応じてオリジナルの与信限度額算出ロジックを作成、業務運用に落とし込むまで支援してくれます。
基本料金は提供するサービス内容や調査範囲に応じて変動します。規模の大きな取引先や海外企業との取引でも、専門的な分析結果に基づき、合理的な与信管理を行うことが可能です。
リスクモンスターの「e-与信ナビ」は、国内最大級の550万社超のデータベースから、与信情報と反社情報を同時に取得できるサービスです。企業名を入力すると、1社単位で商号・代表者・役員・グループ企業を自動検索でき、手軽に企業情報を確認できます。
基本的な料金として入会金30,000円、システム利用料20,000円がかかり、与信+反社チェックのヒートマップは1件1,700円から利用可能です。取引前のリスク把握や与信判断を効率的に行えるため、中小企業や取引先が多い企業および個人事業主でも手軽に審査作業を進められます。
一例として、反社チェックの効率化を実現した、株式会社オオバ様の導入事例をご紹介します。
株式会社オオバ様は創業100年を超える企業であり、年間約2,000件の反社チェックを行っています。しかし、従来の方法では1件当たり平均1時間程度かかっていたため担当者の負担が大きく、業務効率化が課題となっていました。
アラームボックスを導入したことで1件当たりの所要時間は約15分まで短縮され、チェック作業の迅速化と履歴の一元管理実現しました。その結果、担当者は反社チェックにかかる時間を大幅に削減でき、より多くの案件にリソースを割けるようになっています。
株式会社オオバ様のアラームボックス導入事例については、以下の記事で詳しく解説していますので参考にしてください。
与信審査は、取引先の信用リスクを把握し、売掛金の未回収や連鎖倒産のリスクを未然に防ぐために欠かせないプロセスです。自社・自事業内に与信部門を設け評価基準を明確にし、外部の信用調査サービスを活用することで、効率的かつ正確な審査が実現します。
特にアラームボックスの「パワーサーチ
(パワーサーチ for 弥生ユーザー
※弥生ユーザー対象 )」を利用すれば、取引先名を入力するだけで反社チェックや風評チェック、信用情報の収集がスピーディに行え、審査作業の負担を大幅に軽減できます。与信審査の効率化には、内部での取り組みと外部サービスを組み合わせるのが効果的です。「パワーサーチ
(パワーサーチ for 弥生ユーザー
※弥生ユーザー対象 )」を活用して、安心・安全な取引環境を整えましょう。
タグ: