銀行はどう変わる? 経営者個人保証を付けない融資について ~2023年4月開始:「金融機関が個人保証を徴求する手続きに対する監督強化」~

2023/05/25

2023年4月より、金融機関は経営者に対して個人保証を求める際、保証契約の必要性に関して個別具体的に説明することが求められるようになります。「なぜ保証が必要なのか?」「今後どう改善すれば保証契約の解除ができるのか?」などについて、説明する必要があるのです。本記事ではその内容と、金融機関から融資を受ける事業者への影響について解説します。

「金融機関が個人保証を徴求する手続きに対する監督強化」とは?

2022年12月23日に「保証を徴求する際の手続きを厳格化することで、安易な個人保証に依存した融資を抑制するとともに、事業者・保証人の納得感を向上させるため、監督指針を改正する」と金融庁が公表を行いました。これは2023年4月より適用されます。
「監督指針」とは、金融機関等の検査・監督を担う職員向けの手引書として、検査・監督に関する基本的考え方等について体系的にまとめられた指針のことです。

具体的には「経営者保証改革プログラム」の中で以下のように公表されました。

金融機関個人保証を徴求する手続きに対する監督強化

  • 金融機関が経営者等と個人保証契約を締結する場合には、保証契約の必要性等に関し、事業者・保証人に対して個別具体的に以下の説明をすることを求めるとともに、その結果等を記録することを求める。【23年4月~】
    • どの部分が十分ではないために保証契約が必要となるのか
    • どのような改善を図れば保証契約の変更・解除の可能性が高まるか
  • ①の結果等を記録した件数を金融庁に報告することを求める。【23年9月期 実績報告分より】
    • (※)
      「無保証融資件数」+「有保証融資で、適切な説明を行い、記録した件数」=100%を目指す
  • 金融庁に経営者保証専用相談窓口を設置し、事業者等から「金融機関から経営者保証に関する適切な説明がない」などの相談を受け付ける。【23年4月~】
  • 状況に応じて、金融機関に対して特別ヒアリングを実施

簡単に説明しますと、2022年4月以降は、金融機関が経営者等に個人保証を結ぶ場合、「個人保証の必要性」や「今後の解除の可能性」などについて具体的に説明することが要求されます。このように監督指針が改正されますので“事実上の義務化”という見方もできます。また、その結果等を記録した件数を金融庁に報告することを求められ、金融庁に「経営者保証専用相談窓口」が設置されます。金融機関等から適切な説明がされないというような場合には、事業者は金融庁の本窓口に相談をすることができます。

「金融機関が個人保証を徴求する手続きに対する監督強化」
の具体的な改正内容

主に以下の4点が改正されます。

主な改正内容

  • 1.
    保証契約時の保証人に対して説明した記録を残すこと
  • 2.
    保証人に対して説明するべき内容
  • 3.
    保証契約時の客観的合理的な理由の説明
  • 4.
    金融庁の監督手法・対応

1.は、「個人保証契約において金融機関は、保証人に対し説明した旨を確認し、その結果等を書面または電子的方法で記録する」と改正されます。
現行内容は「必要に応じ、保証人から説明を受けた旨の確認を行う」となっていますので、「書面または電子的方法で記録する」と拡充されています。

2.は、主に以下のような改正内容になっています。

  • 1)
    どの部分が十分ではないために保証契約が必要となるのか、個別具体の内容
  • 2)
    どのような改善を図れば保証契約の変更・解除の可能性が高まるか、個別具体の内容
  • 3)
    原則として、保証履行時の履行請求は、一律に保証金額全額に対して行うものではなく、保証履行時の保証人の資産状況等を勘案した上で、履行の範囲が定められること

1)は、現行は「保証契約の必要性」の説明となっていますので、より強い拡充になります。2)は、現行は触れられていない内容であり、追加されています。

また、1)2)について、「経営者保証に関するガイドラインに掲げられている第4項(2)に掲げられている要素を参照の上、債務者の状況に応じた内容を説明。その際、可能な限り、資産・収益力については定量的、その他の要素については客観的・具体的な目線を示すことが望ましい」と追記されています。

特に注目したいのは、「定量的」「客観的・具体的な目線」という部分です。これまではこの点についてはやや曖昧であり、具体的な財務・数値などの目標について不明瞭であった傾向は否定できないと思われます。事業者側としては、具体的な目線・目標などが明確になり保証解除に向けた財務等の改善計画などが検討しやすくなると考えられます。

なお、「第4項(2)に掲げられている要素」については、以下にて確認してください。

3)は、現行の内容が引き続き継続されています。

次に、「3. 保証契約時の客観的合理的な理由の説明」は、「保証契約を締結する場合には、どの部分が十分ではないために保証契約が必要なのか、どのような改善を図れば保証契約の変更・解除の可能性が高まるか、の客観的合理的理由について、顧客の知識、経験等に応じ、その理解と納得を得ることを目的とした説明を行う」と追加改正されます。

現行においては「客観的合理的理由」「顧客の知識、経験等に応じ」「その理解と納得を得ること」といようなより具体的に踏み込んだ記載はありませんでしたので、金融機関に対して、よりしっかりとした対応を求めていく、といえるでしょう。

「4. 金融庁の監督手法・対応」については、「金融庁は金融機関への各種ヒアリングの機会等を通じ、経営者保証に関するガイドラインを融資慣行として浸透・定着させるための取組方針等を公表するよう金融機関に促していく」と変更改正されます。さらに、監督上の対応として、「重大な問題があると認められる場合には業務改善命令を発出する」となっています。

「取組方針等を公表するよう促していく」となっていますが、現在も金融機関によってはディスクロージャー誌などで取り組み方針などを掲げているところもあります。「業務改善命令を発出する」という箇所は現行と変わらず継続されます。

なお、今回解説した「監督指針の改正について」の詳細内容については、以下にて確認することができます。

事業者としては、2022年4月以降、どういう姿勢で取り組めばよいのか?

今回の監督指針の改正に関しては、「2022年4月より経営者保証が廃止される」というような主旨でありませんので、事業者の皆さまは、くれぐれも勘違いのないように注意してください。あくまでも「(金融機関等は)保証を要求する際に丁寧な説明が要求される」ということを理解してください。

今回の改正は金融機関等にとってどのような影響があるのでしょうか。実際のところは2023年4月以降の金融機関等の動向を注視する必要がありますが、少なくとも経営者保証解除に積極的でなかった金融機関等にとっては、プレッシャーになっていると想像できます。事業者側としては、この改正事実を把握して金融機関からの説明や提案を引き出すことが重要です。

全国のあらゆる民間金融機関が横並びに一斉に柔軟な対応をするとは考えにくいと思われます。金融機関や支店によっては、やはり対応の温度差はあるでしょう。

もし万が一、金融機関から、「経営者保証改革プログラム」及び「監督指針の改正」の主旨に反するような対応をされた場合は、2023年4月以降に設置される「経営者保証専用相談窓口」などを利用してみましょう。また、顧問税理士や専門家などにも相談することもお勧めいたします。

著者:吉田 学(財務・資金調達コンサルタント)

株式会社MBSコンサルティング代表取締役。1998年の起業以来、「資金繰り・資金調達支援」に特化して創業者や中小事業者を支援。これまでに1,000 社以上の資金調達相談・支援を行い、その資金調達支援総額は20億円超。
主な著書に、「社長のための資金調達100の方法」(ダイヤモンド社)、「究極の資金調達マニュアル」(こう書房)、「税理士・認定支援機関のための資金調達支援ガイド」(中央経済社)などがある。

また、全国の経営者・士業などを対象にした会員制の資金調達勉強会「資金調達サポート会(FSS)」を主催している。

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