事業承継ファイナンス(3)

~事業承継に関する信用保証制度及び自治体制度融資~

2024/04/23

事業承継に関して、信用保証協会の信用保証制度や自治体制度融資などでも支援策が実施されています。ここでは、信用保証協会が実施している事業承継に関する保証制度、および自治体が実施ししている事業承継に関する制度融資について解説します。

信用保証協会の事業承継支援

信用保証協会においては、事業承継に関して多くの信用保証制度を実施しています。以下の通り、持株会社方式やM&Aなどさまざまな事業承継の類型に対応した保証制度や経営者保証を不要とする保証制度などを取り扱っています。なお、各制度の詳細については、「各都道府県の信用保証協会」などにお問い合わせください。

保証制度の使い分け方

事業承継フローチャート お客さまの利用目的に合った事業承継制度をご確認いただけます。チャートの結果から受けられる支援を確認!

事業承継関連の信用保証制度

制度 概要
事業承継特別保証 経営者保証が不要であり、また経営者保証ありの既存の借入金についても借換により経営者保証を不要にすることが可能な保証制度
事業承継サポート保証 持株会社を設立し、持株会社が事業会社の株式を買い取る資金に利用できる保証制度
経営承継関連保証 中小企業者が経営の承継のために必要な資金に利用できる保証制度
特定経営承継関連保証 後継者である中小企業者の代表者が経営の承継に伴い当該中小企業者以外の者から株式等を取得するために必要な資金に利用できる保証制度
経営承継準備関連保証 M&Aによる事業承継に必要な資金に利用できる保証制度
特定経営承継準備関連保証 従業員をはじめとした事業を営んでいない個人による買収(EBO等)による事業承継に必要な資金に利用できる保証制度
経営承継借換関連保証 経営者保証を提供している金融機関からの借入れによる債務を経営者保証が不要とする融資に借り換えるための保証制度

事業承継関連の信用保証制度の特徴としては、「経営承継円滑化法」の認定を受けた方を対象としている場合が多くなっています。経営承継円滑化法の概要については「事業承継ファイナンス(1)」をご参考にしてください。

事業承継特別保証について

数ある事業承継関連の保証制度の中でも、特に事業承継時に経営者保証を不要とする「事業承継特別保証」(2020年4月開始)が大きな注目を受けています。ここでは本制度を取り上げて説明いたします。

事業承継時に、旧経営者との保証契約を解除し、かつ、新経営者との保証契約を締結しなかった件数は、政府系金融機関においては3.5%、信用保証協会においては9.9%、民間金融機関においては16.8%となっています(令和5年度上期実績)。本制度は、金融機関による更なる経営者保証の解除を後押しするため、一定の要件を満たす企業の経営者保証を解除することを前提とした信用保証制度です。

以下の通り、「対象者(2)①~④」のような財務的な要件も課されていますが、本制度を利用できれば、新・旧経営者双方の経営者保証なしに事業を引き継ぐことが可能になります。

事業承継特別保証

概要
対象者

次の(1)かつ(2)に該当する中小企業者

  • (1)
    3年以内に事業承継(=代表者交代等)を予定する「事業承継計画」を有する法人。又は令和2年1月1日から令和7年3月31日までに事業承継を実施した法人であって、承継日から3年を経過していないもの
  • (2)
    次の①から④の全ての要件を満たすこと
    • 資産超過であること
    • 返済緩和中ではないこと
    • EBITDA有利子負債倍率((借入金・社債-現預金)÷(営業利益+減価償却費))10倍以内
    • 法人と経営者の分離がなされていること
申込方法 与信取引のある金融機関経由に限る
保証限度額

2.8億円(うち無担保80百万円)

  • 責任共有制度(8割保証)の対象
保証期間
  • 【一括返済の場合】1年以内、
  • 【分割返済の場合】10年以内(据置期間1年以内)
対象資金
  • 事業承継時までに必要な事業資金
  • 既存のプロパー借入金(保証人あり)の本制度による借り換えも可能(ただし、一定期間内に事業承継を実施した法人に対しては、事業承継前の借入金に係る借換資金に限る)
保証料率
  • 0.45%~1.90%
  • 中小企業活性化協議会による確認を受けた場合、0.20%~1.15%に大幅軽減
担保・保証人
  • 担保:必要に応じて
  • 保証人:必要なし

本制度の特徴としては、大きく以下の3点になります。

  • 1.
    経営者保証が不要
  • 2.
    中小企業活性化協議会等による確認を受けた場合は信用保証料を大幅に軽減
  • 3.
    既存のプロパー借入金(保証人あり)の本制度による借り換えも可能

2については、中小企業活性化協議会によるガバナンス体制の確認を受けた後、事業承継・引継ぎ支援センターによる事業承継計画の確認を受けた「ガバナンス体制の整備に関するチェックシート」を提出した場合をいいます。なお、「中小企業活性化協議会」とは中小企業の活性化を支援する「公的機関」としてすべての都道府県に設置されており、全国各地の商工会議所等が運営しています。

そして、3の「既存のプロパー借入金(保証人あり)の本制度による借り換えも可能」については、従来は「旧債振替」に該当するので禁止されていますが、本制度に関しては特例扱いされています。

自治体が実施している事業承継関連の制度融資(例:東京都)

自治体にも事業承継関連の制度融資を実施しています。信用保証制度として用意されている制度を元に実施している場合もありますが、自治体独自の事業承継支援や融資制度などを実施しているケースもあります。

たとえば東京都にでは、事業承継時の金融支援ばかりではなく「地域金融機関による事業承継促進事業」を実施しています。地域密着型の取引ネットワークを持つ地域金融機関と連携し、事業承継に係る課題の洗い出しから、課題解決策の立案、事業承継の実現に必要な資金調達までの取組を一貫して支援するスキームとなっています。

現時点において、東京都においては事業承継融資制度として、「事業承継一般」、「事業承継経営者保証不要型」(国の全国統一保証制度)、「事業承継個人融資型」の3つの制度融資を実施しています。

参考のため、一例として東京都の「事業承継一般」を案内いたします。

事業承継融資/事業承継一般

概要
対象者
  • (1)から(4)のいずれかに該当する中小企業者並びに(1)若しくは(2)のいずれかに該当する組合
    • (1)
      事業承継を10年以内に行う計画を策定し、計画の実行に取り組むこと。
    • (2)
      事業承継をした日から5年未満であって、事業計画を策定し、承継後の経営の安定化等に取り組むこと。
    • (3)
      事業承継に伴い、事業活動の継続に支障が生じているとして、経営承継円滑化法に係る都道府県知事の認定を受けたこと。
    • (4)
      事業活動の継続に支障が生じている他の中小企業者の事業承継に伴い、経営承継円滑化法に係る都道府県知事の認定を受けたこと。
融資限度額 2億8,000万円(4億8,000万円)
融資期間 10年以内
(2年以内)
融資利率
  • 固定1.7%以内~2.2%以内
  • 責任共有制度対象外:固定1.5%以内~2.0%以内
信用保証料補助 3分の2
保証人・担保
  • 保証人:必要となる場合がある
  • 担保:新規の保証を含めた保証の合計額が8千万円超の場合は原則必要

各都道府県の自治体及び信用保証協会などによって実施している制度が異なります。是非、地元の事業承継関連の融資制度について調べてみてください。また自治体や信用保証協会などよっては、「事業承継の総合相談窓口」などを設置しているところもありますので、必要に応じて利用することを検討されることをお勧めいたします。

事業承継・M&Aについて学ぶなら事業承継ナビ

著者:吉田 学(財務・資金調達コンサルタント)

株式会社MBSコンサルティング代表取締役。1998年の起業以来、「資金繰り・資金調達支援」に特化して創業者や中小事業者を支援。これまでに1,000 社以上の資金調達相談・支援を行い、その資金調達支援総額は20億円超。
主な著書に、「社長のための資金調達100の方法」(ダイヤモンド社)、「究極の資金調達マニュアル」(こう書房)、「税理士・認定支援機関のための資金調達支援ガイド」(中央経済社)などがある。

また、全国の経営者・士業などを対象にした会員制の資金調達勉強会「資金調達サポート会(FSS)」を主催している。

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