中小企業の設備投資に役立つ補助金・助成金とは? 税制優遇制度も解説
2023-10-31更新
事業者が育児休業・介護休業を設ける際の注意点は?
2023/10/31
仕事と出産、育児、不妊治療などとの両立が難しく、働くことをあきらめる従業員がいます。また、介護のために働き盛りの従業員が退職する介護離職も、大きな社会問題となっています。
今、すべての事業者には、従業員が出産・育児や介護を目的としても安心して休業できたり、休業後にブランクがあっても仕事で活躍できたりといった雇用環境づくりが求められている時代なのです。
この記事では、雇用環境の整備などを行う事業者を支援する制度「両立支援等助成金」について、概要や申請のメリット、注意点のほか、審査に通るポイントについて解説します。
両立支援等助成金は、出産、育児、不妊治療、介護などを理由に仕事を辞めることなく、従業員が働き続けられる雇用環境を作る事業者を支援する制度です。2023年度は、以下の5つのコースが設けられています。
コース名 | 目的 |
---|---|
出生時両立支援コース(子育てパパ支援助成金) | 男性の育児休業取得を支援 |
育児休業等支援コース | 仕事と育児の両立を支援 |
介護離職防止支援コース | 仕事と介護の両立を支援 |
不妊治療両立支援コース | 仕事と不妊治療の両立を支援 |
新型コロナウイルス感染症に関する母性健康管理措置による休暇取得支援コース | 妊娠中の女性従業員のコロナ関連休業取得を支援 ※2023年9月30日まで |
この記事では、各種コースの内容について、従業員20人以下のいわゆるスモールビジネス事業者を含む、中小事業者向けに解説します。
両立支援等助成金の出生時両立支援コース(子育てパパ支援助成金)は、男性従業員が育休を取得しやすい雇用環境や業務体制の整備を行い、実際に男性従業員が育休を取得した場合に、事業者に助成金が給付されるものです。大きく分けて「第1種」と「第2種」があります。
出生時両立支援コースの第1種は、男性従業員が子供の出生時に育休を取得するための制度です。以下の要件をクリアすると、事業者に対して20万円が助成されます。
代替要員を新たに確保すると20万円(3人以上確保した場合は45万円)が加算され、育児休業(以下、育休)の取得状況を厚生労働省が運営するWebサイト「両立支援のひろば」に公表するとさらに2万円が加算されます。
男性従業員が育休を取得して、その従業員の業務をカバーできる体制を整備することで助成金が受けられ、さらに代替要員を確保すると加算がある仕組みです。
なお、社内の複数の男性従業員が育休を取得するたびに受けられるのではなく、1事業者につき1回限りの支給であることに注意が必要です。
第1種の助成金を受けた事業者が以下の要件を満たした場合、第2種の助成金も受けられます。第1種は特定の男性従業員が育休を取得した場合に支給されるものですが、第2種は社内での男性従業員の育休取得率が上がった場合に支給されます。
支給額は、1事業年度以内に男性従業員の育休取得率が30ポイント以上上昇の場合で60万円、2事業年度以内に30ポイント以上上昇、または連続で70%以上の場合は40万円、3事業年度以内に30ポイント以上上昇、または連続で70%以上の場合は20万円です。
従業員が育休を取得したときや職場復帰したとき、代替要員となる人材を確保した場合に助成金が支給されるのが育児休業等支援コースです。
育児休業等支援コースには大きく分けて「育休取得時・職場復帰時」「業務代替支援」と「職場復帰後支援」の3つがあります。ここではそれぞれについて解説します。
なお、「出生時両立支援コース(子育てパパ支援助成金)」を受ける対象となった従業員は、「育児休業等支援コース」を受けるための対象とすることはできないので注意してください。
育児休業等支援コースには、新型コロナウイルス感染症対応特例も設けられています。小学校などの臨時休業による特別有給休暇制度(賃金全額支給)や両立支援制度を整備し、対象従業員の有給休暇利用が生じた場合に支給されます。支給額は、1人あたり10万円(上限100万円)です。
従業員が育休を取得する際には「同僚に迷惑をかけてしまうのではないか」などの悩みが生じやすく、職場復帰の際には「仕事についていけないのではないか」といった悩みを抱えがちです。
育児休業等支援コースは、そのような悩みの解決に向けた内容になっているのが特徴です。「育休復帰支援プラン」を作成してスムーズな育休の取得と職場復帰に取り組み、実際に従業員が育休を取得した中小事業者に助成金が支給されます。
育休復帰支援プランとは、育休取得や職場復帰をスムーズにするために作成するもので、厚生労働省のWebサイトに作成の参考となる「育休復帰支援プラン策定マニュアル」が掲載されています。また、専門のプランナーが希望する中小事業者を訪問し、無料でプラン策定支援を行っています。
従業員の育休取得時に以下の要件を満たすと、事業者に対して30万円が支給されます。
なお、育休取得時の助成を受け、その対象となった従業員の職場復帰時に以下の取り組みを行うと、さらに30万円が事業者に追加支給されます。
育児休業等支援コースの業務代替支援制度では、育休中の業務を代替する従業員を新規雇用した場合に50万円、代替要員を確保せずに周囲の従業員で業務をカバーする場合は10万円が事業者に支給されます。
育休取得者が有期雇用労働者の場合には、10万円の加算措置も設けられています。
業務代替支援においては、対象の従業員が3か月以上の育休を取得していたり、事業者は原職に復帰させることを就業規則などに規定したりすることなどが支給要件となっています。
育児休業等支援コースの職場復帰後支援制度は、育休から職場復帰後、仕事と育児の両立が特に難しい時期にある従業員を支援する仕組みです。対象の従業員のため、育児・介護休業法を上回る看護休暇制度や保育サービス費用の補助などを導入すると30万円、その制度の利用があると利用に応じた一定額が事業者に支給されます。
支給要件は、対象従業員が1か月以上の育休から復帰後6か月以内に同制度を利用していることなどです。
育児休業の取得状況を厚生労働省が運営するWebサイト「両立支援のひろば」に公表するとさらに「育休取得時」「職場復帰時」「業務代替支援」「職場復帰後支援」のいずれかの支給額に2万円が加算されます。
両親などの介護が必要になり、仕事との両立が難しくなって退職を考える人も少なくありません。介護離職防止支援コースは、そんな介護と仕事を両立する従業員の支援に取り組む事業者を支援するものです。
支給対象となるのは、「介護支援プラン」を作成し、介護のためにスムーズに休業・職場復帰できる取り組みを行い、介護休業者や制度の利用者が生じた事業者です。介護支援プランについては厚生労働省のWebサイトに掲載されている「介護支援プラン策定マニュアル」を参考にしてください。
介護離職防止支援コースは、「介護休業(休業取得時、職場復帰時)」と「介護両立支援制度」に大別されます。
介護離職防止支援コースの介護休業では、対象従業員が休業取得時と職場復帰時に以下の要件を満たすと、30万円が支給されます。
介護休業取得時の助成金を受け、その対象となった従業員に以下の取り組みを行うと、さらに30万円が追加支給されます。
なお、介護休業取得中の業務を代替する従業員を新規雇用した場合は20万円、代替要員を確保せずに周囲の従業員に手当を支給してカバーさせる場合は5万円が加算されます。
また、新型コロナウイルス感染症への対応として「新型コロナウイルス感染症対応特例」も設けられました。介護のための有給休暇制度(年次有給休暇を除く)を設け、休業しやすい環境を整備した事業者には、対象となる従業員1人あたり休業5日以上10日未満で20万円、10日以上で35万円が支給されます。
介護両立支援制度は「介護のための柔軟な就労形態の制度」ともいい、介護のための所定外労働の制限制度や時差出勤制度のほか、短時間勤務制度、介護のための在宅勤務制度、介護サービス費用補助制度などの介護両立支援制度を設けた事業者に対する支援を行うものです。
介護支援プランによって支援することを、あらかじめ従業員に周知するほか、介護支援プランにもとづいて業務体制を検討し、介護両立支援制度を1つ以上設け、それを対象者が計20日以上利用したなどの要件を満たすと、30万円が支給されます。
なお、従業員に介護休業などの自社制度について資料をもとに説明したり、相談体制を整備したりといった要件を満たすと、15万円が加算されます。
不妊治療両立支援コースは、不妊治療と仕事とを両立する対象従業員のため、不妊治療のための休暇制度、短時間勤務制度、フレックスタイムやテレワークなどの制度を導入した事業者を支援するものです。
申請の際には社内ニーズを調査したり、就業規則で規定したうえでそれを周知したりした後、両立支援担当者の選任や対象従業員との面談を行い、「不妊治療両立支援プラン」を策定します。
事業者には環境整備と計5日以上の休暇取得で30万円、その後、20日以上連続して休暇取得し、対象従業員を原職などに復帰させ3ヵ月間継続勤務した場合には30万円が支給されます。いずれも1年度1事業者につき1回のみの支給です。
両立支援等助成金の申請により得られる効果はいくつもあります。ここでは、両立支援等助成金を事業者が申請するメリットをご紹介します。
事業者が両立支援等助成金を受給するための仕組みを作ることにより、従業員が安心して休業しやすくなります。
出産や育児、介護のために休業すると、他の従業員に迷惑をかけたり、会社に負担をかけたりしないかと不安に思う従業員は多いものです。そこで、両立支援等助成金を受けるために雇用環境の整備などを行った事業者なら、従業員は「この職場は出産・育児や介護などと仕事を両立しやすく、長く働けそう」と感じられるため心理的安全性が高まり、結果的に従業員の定着につながっていくでしょう。
雇用環境を整備し、両立支援等助成金を受けることで、従業員の出産・育児や介護などを支援する姿勢がある会社と対外的にアピールできます。若い世代を中心に、ワーク・ライフ・バランスが整っているかどうかは企業選びの際の重要な要素にもなっています。
生活を大切にしながら仕事ができて、家事や育児も両立しやすいと感じてもらえることで、人材採用にもプラスの効果が期待できます。
昨今は男性の育休取得が奨励されており、大企業を中心に男性育休取得率が上がっています。
中小事業者でも両立支援等助成金の「出生時両立支援コース(子育てパパ支援助成金)」を活用し、男性育休制度を設けていることをアピールすれば、「社会課題に問題意識を持って行動する事業者」というポジティブな印象を得られるので、株主や取引先、金融機関など社外のステークホルダー(利害関係者)にも好印象を持たれる可能性があります。
両立支援等助成金を活用すると、実際に事業者と従業員においてどのようなメリットがあるのでしょうか。ここでは、ある事業者の両立支援等助成金の活用事例をご紹介します。
ある40人規模の事業者では、女性従業員も多く、そのほとんどが自社のサービスや商品を愛しており、子育てと両立して長く働くことを希望していました。
事業主は女性従業員のニーズを踏まえ、「育休復帰支援プラン」を作成。出産、育休取得後も復帰しやすい職場環境を整えました。その甲斐あって育休の取得、職場復帰はスムーズに行われ、助成金も受給することができました。
また、育休・職場復帰を果たす女性従業員が増えたことから、男性従業員も影響を受けて育休を取得し始め、いずれは「出生時両立支援コース(子育てパパ支援助成金)」を申請する可能性もあるとのことです。
メリットのある両立支援等助成金ですが、いくつか気をつけたいこともあります。続いては、両立支援等助成金申請の注意点を解説します。
従業員の育休時の支援プランを作成しても、実際に育休を取得する従業員がいなければ助成金は受給できません。対象者が出るまでの間は、「支援プランを作っただけ」という状態です。
また、対象となる従業員と面談して支援プランを作成し、その支援プランにもとづいて育休を取得することが支給要件になっているコースもあります。この場合、従業員が面談せず、支援プランを作らないまま育休取得すれば、その従業員は助成金の対象とはなりません。
育児や介護による休業から職場復帰した対象従業員を、6か月以上雇用していることが要件となっているコースもあります。実際に助成を受けるまでにはタイムラグがあることを認識しておく必要があるでしょう。
2022年度までは、「労働生産性を向上させた事業者」に対して助成金の割増制度が設けられていました。この要件は2022年度で廃止され、2023年度には設けられていません。
両立支援等助成金には5つのコースがありますが、「育児休業等支援コース」以外は、中小事業者のみが対象となっています。中小事業者の範囲も定められており、範囲は以下のとおりです。
業種 | 資本金額または出資額 | 常時雇用従業員数 |
---|---|---|
小売業(飲食業を含む) | 5,000万円以下 | 50人以下 |
サービス業 | 5,000万円以下 | 100人以下 |
卸売業 | 1億円以下 | 100人以下 |
上記以外のその他の業種 | 3億円以下 | 300人以下 |
業種ごとに資本金の金額または出資総額、あるいは常時雇用する従業員数の上限が定められています。
両立支援等助成金を含む助成金は、一般的に要件を満たしていれば支給されます。まずは応募要項において要件をしっかりと確認し、期限内に申請することが必須です。
また、従業員一人ひとりについて、社内の状況をきちんと把握していないと、支援プランの作成やその申請は困難です。専門家に依頼する場合でも、事業者が社内の状況をしっかりと把握する必要があるでしょう。
少子高齢化に伴う人材不足の時代に、中小事業者が優秀な人材の採用力や定着率を高めるのであれば、雇用環境の魅力向上が不可欠です。その意味でも、両立支援等助成金を受給するための雇用環境づくりや仕組みづくりによって人材の採用力・定着率が高まるなら、大いに取り組む価値があるといえます。
出産を控えた女性従業員が多かったり、家族の介護が必要になりそうな世代の従業員が多かったりする事業者の場合には、体制構築のために早めに動き始めることをおすすめします。とはいえ、社内制度を利用して休業する従業員が増えた場合、今度は休業中の労働力の確保なども課題になるでしょう。それらについて事業者として対応できるのかどうかも慎重に考える必要があります。
重要なのは、助成金ありきで社内制度を設けるのではなく、必要に応じて社内制度を設け、助成金を利用することです。社内制度を作ったものの、従業員の意識や業務体制がついていかないようでは意味がありません。事業者として「将来どういう会社にしたいのか」という思いを起点にして、両立支援等助成金の活用について検討してみましょう。
補助金・助成金に必要な基礎知識についてはこちらの記事で解説していますので、参考にしてください。
有限会社人事・労務ヘッドESコンサルタント。厚生労働省認定キャリア・デベロップメント・アドバイザー。一般社団法人日本ES開発協会代表理事。
福島大学行政社会学部卒業後、有限会社人事・労務にて、日本初のES(人間性尊重経営)コンサルタントとして、企業をはじめ、大学、商工団体で講師を務めるなど幅広く活動する。「会社と社員の懸け橋」という信念のもと、介護事業所や福祉施設、製造業、サービス業など、さまざまな中小企業でのクレドづくり・ES組織開発に取り組む。また、「日本の未来の“はたらくカタチ”をつくる」をテーマに、社員一人ひとりが地域社会との接点を持ち共感資本を高めるための活動を推進中。
マインドコネクションズオフィス代表。社会保険労務士。つなぐ人材・組織パートナー。
関西学院大学社会学部卒業後、製紙会社やドラッグストアで約20年間、人事・総務業務に従事する。その間、1,000名を超える社員面談を通して、さまざまな職場問題を解決し、社員のエンゲージメントを高めながら、50店舗から230店舗に拡大する組織の中で人材マネジメントを行う。「もうかる人事」を目指し、採用、管理職育成、評価制度、報酬制度、等級制度などに取り組む。現在、社員一人ひとりの個性を活かした職場環境づくりを推進し、経営者のビジョン実現をサポートしている。
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