第三者割当増資後の株主への対応

2022/03/08

第三者割当増資を引き受けた後、株主は「自分が出資した会社は、どのように事業展開しているのか」と、気になっているはずです。第三者割当増資では、株主総会などで株主への連絡・報告を行うことが重要となります。今回は、株主総会とその前段階である取締役会について詳しく解説いたします。

定期的な報告・連絡

定期的な報告・連絡の必要性

決算後に、年に1度の定時株主総会で株主に報告はしますが、それ以外にも定期的な報告・連絡をすると良いでしょう。

例えば四半期(3か月)、半期(6か月)ごとに、その時点までの試算表や事業報告をレポートとして株主に送るだけでも、株主から信頼を得られます。

中小零細企業の第三者割当増資は取引先など、経営者との人的な関係が強い株主が多いことが一般的です。実際に、第三者割当増資後に「お金を出させるまでは熱心なのに、その後は何も報告がない」と、株主とトラブルになるというケースもあります。

経営者には「出資を受けた資金で、計画した事業や経営に突き進む」という目的があり、株主とのトラブルは良い影響をおよぼさないでしょう。中小零細企業の第三者割当増資では、このように株主への報告・連絡には特に注意しましょう。

投資契約書を締結している場合の報告

第三者割当増資に伴い、別途「投資契約書」を締結している場合は、その契約内容に従って報告をします。

投資契約書は必ずしも第三者割当の増資登記手続き上、必要なものではありません。しかし投資契約書があると、第三者割当増資の段階で利害関係を調整し、後のトラブルを回避することに役立ちます。

例えば、増資をしたい企業が「特殊な技術を活用し、開発をしていて将来有望である」「今後どんどん事業拡大し、将来は株式公開など大きく変貌を遂げる可能性がある」など、株主が「儲かりそうだ」という期待を持つ場合に、第三者割当増資の段階で企業・経営陣・投資家の利害関係を調整し、その利害を整理することが可能です。

投資契約の内容としては、主に以下のような内容が含まれます。

  • 投資の前提条件に関する内容
  • 株式に関する内容・会社の運営に関する内容
  • 投資の撤退(株式買取ってもらうことで撤退する)に関する内容
  • 投資に関する基本的な事項についての内容
    (発行される株式の種類、発行される株式の数、株式の価格(株価)、投資をする人が払い込む金額の総額に関する条項など)

この投資契約書の内容によっては、例えば毎月の月次決算に対する予算・実績・差異・その差異の原因分析・今後の改善や、見通しを求められる場合もあります。

第三者割当増資は、出資をしてもらい増資登記が終われば手続き自体は終了しますが、その資金をどう使って、どう実績を上げるのかが重要です。

第三者割当増資を実施した会社の責務は、その結果を株主に報告・連絡し、最終的には配当を行うなどの方法で株主に利益還元することと言えるでしょう。

株主総会の招集と開催

株主総会とは

株主総会は、株主を構成員とする株式会社における機関です。例えば、定款の変更や会社の合併・解散、その他取締役や監査役の選任など、株式会社の基本的な方針や重要事項の決定のほか、決算書を基に企業の経営・財務状況、業績動向などの情報発信も行います。

株主が経営者1人などのケースで、株主総会を実施していなかったり、実施していたとしても形式的だったりしていないでしょうか。第三者割当増資を実施し、第三者である株主がいる場合には、株主総会は厳格に実施しておきたいものです。

株主総会には「定時株主総会」と「臨時株主総会」の2種類があります。以下、それぞれ説明します。

定時株主総会

定時株主総会は毎事業年度のあと、年に一度必ず開催される株主総会のことです。決算の承認、それに伴う剰余金の分配、役員の選任などが行われます。定時株主総会は、決算日から3か月以内に開催することが会社法で義務付けられています。

一般的には一事業年度は1年ですので、株主総会は年に1回開催しますが、事業年度を半年にしている場合は、半年ごとに定時株主総会を開催する必要があります。

ちなみに日本では3月末決算の企業が多いため、定時株主総会は6月(特に6月後半)に多く開催されます。さらにその中でも、6月の最終営業日の前の営業日は「集中日」と呼ばれ、最も株主総会が集中する日と言われています。

臨時株主総会

臨時株主総会はその名のとおり、臨時で開催される株主総会です。定時株主総会が年に1回ですので、定時株主総会の開催されていない時期に、会社の分割や合併や株式の交換など、会社にとっての重要事項を決める際に臨時的に開かれます。逆に重要事項を決める必要がなければ、1年を通じて開催されない場合もあります。

株主総会の開催手順

定時・臨時株主総会の開催手順は、第三者割当増資の手順(「第三者割当増資の具体的な手続き(1) 株主総会招集手続き」)と同様、まず株主に対し招集通知を発送します。

株主総会は定款に基づき招集をかけ開催し、それぞれ開催後に定時・臨時株主総会議事録を作成します。取締役や監査役などの印鑑のある議事録の原本を会社に保管し、その写しを株主に送ります。

取締役会の開催(複数取締役がいる場合)

取締役会設置会社の場合、前述の「株主総会の招集と開催」を実施する前に、取締役会を開催し議案について決議し、その決議事項について株主総会に上申し、株主総会の決議を受けることとなります。以下、取締役会について解説していきます。

取締役会とは

取締役会は株式会社の業務執行の意思決定機関で、株式総会で任命を受けた3名以上の取締役によって構成されます。この取締役の中から(最少で)1名が「代表取締役」に選任され、その人が通常は会社のトップとなります。さらに取締役会を設置している株式会社は、原則として、取締役会の業務を監視する監査役を置く必要も生じます。

会社法上の取締役会の決議事項

会社法で以下の事項について、取締役会で決議しなければならないと定められています。

  • 重要な財産の処分及び譲受け
  • 多額の借財
  • 支配人その他の重要な使用人の選任及び解任
  • 支店その他の重要な組織の設置、変更及び廃止
  • 社債を引き受ける者の募集に関する重要な事項として法務省令で定める事項
  • 内部統制システムの構築に関する決定
  • 定款の定めに基づく取締役会決議による役員及び会計検査人の会社に対する責任
  • 譲渡制限されている株式の譲渡
  • 株式分割
  • 株主総会の招集
  • 代表取締役の選任・解任
  • 会社の利益に相反する取引や競業取引の承認

など

企業の実情に合わせた取締役会の運営

取締役会の決議事項は上記のように会社法で定められていますが、それ以外にもそれぞれの企業の実情に合わせて、取締役会の運営を検討すると良いでしょう。例えば「予算の決定や修正を決議事項とする」「重要事業の進捗状況や売上を報告事項とする」などです。

「第三者割当増資」では、株主総会で株主への連絡・報告を行うことが重要となりますが、現実には中小零細企業の中には、取締役会を定期的に開催していない場合もあります。今まで取締役会を開催していなかった会社も、第三者割当増資を機会に、これからは定期的な取締役会の運営に取り組んでみてはいかがでしょうか。

著者:星 武志(経営コンサルタント)

株式会社アスタリスク代表取締役。金融機関、コンサルタント企業、IT企業を経て、2000年代表取締役就任。IT企業、不動産業、商社等の経営戦略、財務戦略、管理会計支援等 を行う。
これまで、銀行等の金融機関の研修・講演講師を70行庫以上務める。主な著書は「渉外マンの現場力/近代セールス社」金融商品取引法・各種業法に基づく「金融商品セールス対応話法集/銀行研修社」等でありその他金融機関向け、雑誌連載実績等多数。

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