運転資金の基礎知識(3)

~増加運転資金~

2022/01/25

運転資金には「運転資金の基礎知識(1)~運転資金の種類~」で説明したように、さまざまなものがあります。今回は、運転資金のうち「増加運転資金」について説明します。

増加運転資金とは

増加運転資金とは、企業が成長しているときに必要な運転資金です。

その発生要因は、主として売上増加に伴うものです。売上が増加すると仕入が増えたり、在庫が増えたりしますので、これまで以上に資金がかかります。

売上が増えることは、喜ばしいことです。売上増加の原因は、既存の取引先への販売数の増加や新しい取引先との取り引きなど、さまざまなケースがあるでしょう。その結果、これまでの通常の運転資金では足りなくなってきます。通常の運転資金とは「運転資金の基礎知識(2)~経常運転資金~」で説明した「経常運転資金」です。

計算方法は「経常運転資金=売上債権+棚卸資産-買入債務」であり、ここで算出された金額が「通常の事業活動を維持するために必要となる運転資金」です。

しかし売上が増えると、これまで以上に運転資金が必要となります。売上増加分の仕入資金が必要となってくるからです。

また、実際に売上が増えると、人手もいっそう必要になることがありますね。その場合は、人件費なども必要になってきます。これが「増加運転資金」です。

企業が成長しているときに、もし十分な増加運転資金を用意していないと、黒字なのに資金不足で倒産する「黒字倒産」に陥ってしまう恐れもありますので、注意が必要です。

増加運転資金を計算する

上記で説明したように「黒字倒産」を避けるためにも、増加運転資金を計算しその不足する資金を捉えておく必要があります。

経常運転資金の計算式を基にし、増加運転資金について具体的に説明します。

1、〇か月前
売上債権100万円+棚卸資産100万円-買入債務100万円=100万円
2、現在
売上債権200万円+棚卸資産200万円-買入債務200万円=200万円

「1、〇か月前」と「2、現在」を比べると、現在は200万円の資金が必要であり、〇か月前より「+100万円」必要となる資金が増えています。これは売上債権の回収までの間、立て替えるお金が増えるということですから、これまでよりも現時点では資金繰りが苦しくなる(お金が必要となる)ことになります。

増加運転資金の発生原因

回転期間を考慮する

単純に売上増加に伴って経常運転資金が多くなること以外にも、増加運転資金の発生要因があります。例としては、以下の通りです。

  • 売上債権回転期間の長期化に伴うもの
  • 棚卸資産回転期間の長期化に伴うもの
  • 買入債務回転期間の短縮化に伴うもの

例えば新たな販売先で売上が増えたけれど、その売上代金の回収条件がこれまで月末締めの翌月回収であったものから、翌々月回収と1か月長くなったり期間の長い手形での支払いがあったりなど、取引の変化によって増加運転資金が発生することがあります。

運転資金の回転期間を確認するための計算

増加運転資金の発生原因がどこにあるのかを知るために、まず以下のような計算で回転期間を見ておくと良いでしょう。

売上債権回転期間の長期化に伴うものかの確認

売上債権回転期間=売上債権の金額÷1日当たりの売上高

例えば売上債権の金額が200万円、1日当たりの売上高が10万円の場合、200万円÷10万円=20日となります。過去と比べてその回転期間が長期化していれば、増加運転資金の要因になります。

棚卸資産回転期間の長期化に伴うものかの確認

棚卸資産回転期間=棚卸資産の金額÷1日当たりの売上高

例えば棚卸資産が200万円、1日当たりの売上高が10万円であれば、200万円÷10万円=20日となります。

20日間で棚卸資産(在庫など)が回る(出荷できる)ことになりますが、これが仮に40日に伸びれば2倍の期間となりますので、400万円の棚卸資産を持つ必要があります。資金繰り上は、その差額の200万円分は増加する必要な資金ということになりますね。

買入債務回転期間の短縮化に伴うものかの確認

買掛債務回転期間=買掛金の金額÷1日当たりの売上高

例えば買掛債務が100万円、1日当たりの売上高が10万円であれば買掛債務回転期間は10日です。

回転期間を考慮した売上増加後の運転資金の算出

売上増加後の運転資金は、回転期間を考慮すると、以下のよう計算方法で算出できます。

売上増加後の運転資金=(売掛金回転期間+棚卸資産回転期間−買掛金回転期間)×売上増加後の1日当たりの売上高

例えば売掛金回転期間が20日、棚卸資産回転期間が20日、買掛金回転期間が10日の場合で、1日当たり売上高が従来10万円であったものが20万円に増加したとすると、運転資金は以下のようになります。

従来の運転資金=(20日+20日−10日)×10万円=300万円

売上増加後の運転資金=(20日+20日−10万円)×20万円=600万円

従来の運転資金よりも、売上増加後の運転資金が300万円増加することが分かります。

現状の運転資金と売上増加後の運転資金とを、それぞれ計算・比較して「総額でいくらかかるか」「どのくらい増加するのか」を捉えておくと良いでしょう。

増加運転資金は金融機関の融資を受けやすい

売上が増えたことで、さらに多くの資金を立て替える必要がある場合などの資金調達として自己資金で賄うのか、金融機関融資を受けるのかの選択になるでしょう。

金融機関融資を検討する場合「売上が増える」という前向きな理由になりますので、金融機関は比較的前向きに検討してくれる可能性があります。その理由は、売掛金の回収や棚卸資産の売却により、融資の返済が可能であると判断するからです。

ただし、過去の財務状況やその金融機関との取引状況にもよりますので、必ず融資を受けられるわけではありません。融資を受けられる可能性を高めるためには、融資相談の際に「増加運転資金」の計算方法が役立ちます。金融機関からすれば、「いくら融資が必要なのか」という根拠を示して相談すると、しっかりとした会社だと信頼してくれるでしょう。

また、売上が増加することを裏付ける契約書や受注書なども添えて、増加運転資金の金額の根拠を説明すると良いでしょう。

著者:星 武志(経営コンサルタント)

株式会社アスタリスク代表取締役。金融機関、コンサルタント企業、IT企業を経て、2000年代表取締役就任。IT企業、不動産業、商社等の経営戦略、財務戦略、管理会計支援等 を行う。
これまで、銀行等の金融機関の研修・講演講師を70行庫以上務める。主な著書は「渉外マンの現場力/近代セールス社」金融商品取引法・各種業法に基づく「金融商品セールス対応話法集/銀行研修社」等でありその他金融機関向け、雑誌連載実績等多数。

タグ:

この記事を読んだ人が読んでいる記事

サムネイル

借換について知る
借り換えのパターン(1)

サムネイル

運転資金の基礎知識(4)
~赤字補填資金~

サムネイル

運転資金の基礎知識(2)
~経常運転資金~

カテゴリ

お役立ち・新着コンテンツ

サムネイル

BPSPとは? メリットや請求書支払い代行サービスをわかりやすく解説

サムネイル

ファクタリングは請求書のみで利用できる?
必要な書類を詳しく解説

サムネイル

ファクタリングの手数料はどのくらい?
相場や抑える方法を紹介

人気のタグ