物的担保付き融資

2022/07/25

ここでは、物的担保付き融資の種類とその金融機関の評価について、詳しく見ていきます。金融機関によって、その取り扱う物的担保の種類、条件、評価などが異なる場合もありますので、融資検討の際には事前に確認すると良いでしょう。

金融機関が取り扱う物的担保の種類

物的担保の種類には不動産や有価証券、指名債権、動産があり、それぞれ融資条件や評価方法が異なります。

不動産

土地・建物のような不動産には、抵当権(※1)や根抵当権(※2)が設定されます。

不動産の担保付き融資でよくある条件は、以下のとおりです。

  • 所有権であること(建物は所有権で、土地が借地権などの場合は評価が下がります)
  • 法令違反でないこと(建物などが建築基準法違反でないなど)
  • 流動性があること(駅近くなど、販売してもすぐに売れそうな場所や建物の状態であること)
  • 権利関係が複雑ではなく(単一または夫婦で所有など)、他の権利(差し押さえなど)がないこと

不動産担保の評価方法は、国税庁路線価価格、取引事例(相場の取引)など、その金融機関の評価方法で算出した評価額の70%程度です。

建物への融資の場合、融資期間は減価償却の法定耐用年数期間内となるため、予想より短くなる可能性があります。建物の法定耐用年数とは「その建物の価値が最大で○○年間評価できる」という年数のことです。主に建物の造り(木造か、鉄骨か、鉄筋コンクリートか)から計算されます。

例えば、建築後15年経過している鉄筋コンクリート造りの建物であれば、法定耐用年数は39年ですので、39年−15年=24年と計算でき、24年間の融資返済期間を設定することができます。

  • ※1
    抵当権
    抵当権は、不動産を目的として設定される権利のことです。設定された土地や建物などを使用して利益を得る権利は所有者が継続しています。
  • ※2
    根抵当権
    根抵当権は、抵当権の一種です。特定の融資を担保するものではなく、限度額を定めて一定の範囲で複数の融資を担保することができ、金融機関との間で繰り返して融資を受ける場合によく用いられます。

抵当権と根抵当権の詳細は、「抵当権と根抵当権の内容と手続き」「抵当権や根抵当権設定のメリット・デメリット・注意点」をご確認ください。

有価証券

株式、受取手形、社債、公債(国債・地方債の総称)といった有価証券は、有価証券担保差入書などの契約書を締結し、有価証券の現物を金融機関に預けることで担保を設定します。

有価証券の担保付き融資でよくある条件は、以下のとおりです。

  • 株式、社債は上場会社の銘柄であること(ただし、上場会社でも「除外銘柄」として、特定の企業の株式、社債を担保として認めない場合もある)
  • 受取手形を担保にした融資は、上場企業(除外銘柄を除く)、取引先企業(金融機関の信用調査を通過したもの)の発行する手形で、その手形の期日(手形を現金化できる期間)まで
  • 受取手形を担保にした融資の形式は、手形割引(その期日までの金利を差し引いて企業に融資)、譲渡手形担保(手形を担保として金融機関に譲渡)の形式
  • 公債を担保にした融資は、その償還期間まで

有価証券の評価方法は金融機関によって異なりますが、上場会社の株式、社債であれば、その時の株価から算出した評価額となり額面の70~80%です。受取手形はその手形金額、公債は額面の90%などの方法で評価されます。

指名債権

指名債権とは売掛金、工事請負代金、割賦販売代金債権、預金などです。売掛金、工事請負代金、割賦販売代金債権の場合は、債権譲渡契約を締結し、債権譲渡登記をすることで担保を設定します。

預金の場合は、定期預金や定期積金などに質権を設定する契約書を締結することで担保を設定します。

指名債権の担保付き融資でよくある条件は、以下のとおりです。

  • 売掛金の場合、相手企業の規模、取引歴、取引額などで判断される(相手企業の倒産による売掛金未回収リスクを勘案)
  • 工事請負代金、割賦販売代金債権などもその回収リスクがないかで判断される
  • 病院の診療報酬債権であれば、支払者は国や市町村、健康保険組合なので、支払い能力に問題がないと判断される
  • 預金の場合、その預金と相殺するとその金融機関は回収できるのでリスクはないと判断されるが、最近は預金を担保にせず、預金を解約して必要資金として使ってもらう形態が多い

指名債権の評価は、売掛金、工事請負代金、割賦販売代金債権では、その評価額の70%程度です。診療報酬債権、預金は100%などで評価されます。

動産

動産とは機械設備、船舶、自動車、航空機、牛などの畜産物などをいいます。動産は、動産譲渡契約を締結し譲渡担保登記をすることで、担保を設定します。

動産の担保付き融資でよくある条件は、以下のとおりです。

  • 流動性(換金性があり、他に販売できる)があること
  • 基本的に取引歴のある農場等に限られる(地域によっては、牛などの畜産に対する動産担保を扱っている)

動産の評価は、それぞれに金融機関が評価額を算定し、その評価額の70%などです。ただし、金融機関によっては、その評価ノウハウの問題で動産担保を扱わないことも少なくありません。

物的担保と金利の関係

一般的に担保は債権者(銀行など)にとっては、債権を回収する可能性が高くなる材料となります。そのため有担保の借り入れと無担保の借り入れでは、有担保はリスクが低く、無担保はリスクが高いと判断されます。

無担保融資はリスクが高く、債権者側はそれだけ高いリターンを求めることになります。その結果、回収不能や滞納のリスク対策のために貸出金利を高く設定する必要があります。

担保付き融資はリスクが低く、貸出金利を低くすることも可能になります。金融機関側は担保により回収不能や滞納のリスク対策ができるため、金利をその分だけ下げることができます。このような意味で、提供できる担保があるということは、債務者にとって有利な材料となります。

物的担保と返済期間との関係

担保付き融資の資金使途にもよりますが、担保付き融資の多くは比較的大きな額を融資してもらえることも多く、返済期間も比較的長めに設定することが可能です。

最たる例は不動産担保付き融資です。金融機関からすると、不動産という担保があるからこそ、貸したお金に対して返済期間を比較的長く設定することができます。

無担保融資の場合は、返済期間を長く設定すると、その間に業績や事業環境などが激変する可能性があり、返済できないリスクは返済期間の短い場合に比べ高くなります。担保があるからこそ、返済期間を長めに設定できるケースが多いというメリットがあります。

ただし、返済期間は無限に長くなるというものではありません。資金使途(例えば、運転資金・設備資金)であったり、またその担保とする建物が法定耐用年数の期間内であることなど、一定の条件が付きます。

最初から物的担保融資をすると、保証人や連帯保証人の設定が不要

最初から自分の提供できる物的担保を提供して融資を利用すると、保証人や連帯保証人の設定が不要な場合が多いというメリットがあります。

通常、融資の申し込みをした場合、金融機関から「貸してもいいが担保が欲しい」と言われることも少なくありません。中には、保証人や連帯保証人を求められることもあります。

保証人や連帯保証人という言葉に敏感な方は多いですし、融資の際に周囲の人に保証人や連帯保証人をお願いしても断られることが多いのではないでしょうか。このようなときは、最初から自分が提供できる担保を付けて融資の申し込みをすると良いでしょう。

融資はその担保の評価の範囲内になりますが、金融機関と融資の条件を話し合う際に「保証人を立てて欲しい」と求められることを防止できます。不動産を担保にできる人は不動産担保付き融資に申し込めば良いですし、動産を担保にできる人は動産担保付き融資に申し込めば良いでしょう。

著者:星 武志(経営コンサルタント)

株式会社アスタリスク代表取締役。金融機関、コンサルタント企業、IT企業を経て、2000年代表取締役就任。IT企業、不動産業、商社等の経営戦略、財務戦略、管理会計支援等 を行う。
これまで、銀行等の金融機関の研修・講演講師を70行庫以上務める。主な著書は「渉外マンの現場力/近代セールス社」金融商品取引法・各種業法に基づく「金融商品セールス対応話法集/銀行研修社」等でありその他金融機関向け、雑誌連載実績等多数。

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