返済計画の立て方(1)

どれくらい借りることができるのか?返済可能額は?

2019/05/09

当然のことですが、借入をしたら返済する必要があります。よって、しっかりと返済計画を立てなければいけません。「自社がどれくらい借入れすることができるのか?」、そして「借入れしたら返済することができるのか?」という点について解説いたします。

借入をする際に最も重要なこと

借入を行う際に最も重要なことは、資金使途です。つまり、「その資金を何に使うのか?」を明確にすることです。ちなみに銀行等の金融機関の融資審査では、この資金使途がとても重要になります。

それでは、資金使途がそこまで詳細に問われない融資(ローン)商品の場合はどうでしょうか?たとえば資金使途が「事業に必要とされる資金」などという場合です。これなら漠然と「借りられるだけ借りればよいのではないか?」と思われるかも知れません。

しかしながら、漠然と資金を借りて漠然と資金を使っていくことを繰り返していくと、自社の資金繰りの状況を見失うことになります。特に業績が悪化してくると借入金返済のための借入金が必要になって、その時には既に取り返しのつかない状況になっていることもあります。

そうならないためにも、融資を受ける際には、「何に資金を使うのか?」を明確にして、計画的に利用するように心がけてください。借入の“どんぶり勘定”はとても危険です。

資金使途は出来る限り具体的に!

経営者の中には、「自社はどれくらい借入をすることができるのだろうか?」、また「借りられるだけ借りたいんだけど…」と思っている方もいらっしゃるのではないでしょうか。

また、「運転資金だから内訳なんてない。運転資金だから何に使っても自由なのではないか?」と思っている方もいるのではないでしょうか。しかしながら、たとえ運転資金でも出来る限り具体的にその資金使途などを明確にしてください。漠然と「資金繰りが厳しいから何しろ運転資金が必要だ」では駄目です。一例ですが、「今月末には、取引先である○○社への支払いが○○○万円あって、手元資金は○○○万円しかなく支払することができない。資金繰り状況などから判断して○○○万円足りないので資金調達が必要だ」というくらい資金使途を明確にしてください。

たとえ資金使途が問われない融資商品を利用する場合であっても、このレベルまで明確にしてください。資金繰りに追われて、無計画に借入を続けていくと「何しろ借りられればよい」という考え方になって、最終的には街金や闇金などに手を出してしまう経営者もいます。そうなったらもう経営どころではなくなります。そうならないように十分に注意してください。

どれくらい借りることができるのか?返済することができるのだろうか?

資金使途などが明確になってはじめて、「どれくらい借りることができるのか?」ということを検討することになります。専門家などによって様々な考え方があると思いますが、この流れでぜひ検討するようにしてください。

自社が「どれくらい借りることができるのか?」「どれくらいなら返済できるのか?」について予測する方法について解説いたします。これについても様々な判断方法があると思われますが、ここでは以下の3つの考え方について解説いたします。

(1)「経常運転資金」額を算出してみる

経常運転資金とは、「売掛債権+棚卸資産-仕入債務」で算出することができます。たとえば(売掛金+受取手形+棚卸資産)-(買掛金+支払手形)という計算で算出することができます。

事業活動においては、支払いが先で入金は後になるケースが一般的です。そのため上記の計算式で算出される金額を手元に持っている必要があります。つまり、運転資金に関しては、この計算式で算出される金額を準備しておく必要があるのです。別の見方をしますと、この範囲の運転資金なら銀行などの金融機関は融資しやすいのです。つまり、比較的簡単に「借入れすることができる額である」という見方もできるわけです。

(2)借入金月商倍率を算出してみる

借入金月商倍率とは、「借入金÷月商」で算出することができます。借入金が月商の何倍であるかを示しています。金融機関が借入金の返済余力を見る代表的な数値の一つです。一般的には、借入金が月商の3倍(3ヶ月)までなら健全、6倍(6ヶ月)を超えると危険だと判断されます。企業側から見ると「どれくらい借りることができるのか?」の判断材料にもなり得ます。

なお、現在のところ、金融機関においては「借入金月商倍率」より、次に解説する「キャッシュフロー」ベースで判断する傾向になっています。

(3)「税引き後当期利益+減価償却費」を算出してみる

「利益+減価償却費」とは、簡易キャッシュフローとも言われており、金融機関が融資審査の際に重視する数値の一つでもあります。つまりこの数値が“返済原資”であるという見方です。「利益」については、様々な考え方がありますが、ここでは「税引き後当期純利益」と捉えてくださって結構です。

たとえば、前期の税引き後当利純利益が20万円で減価償却費が100万円の場合は、簡易キャッシュフローは「120万円」となります。つまり、これが“年間の返済できる額(返済可能額)”と判断することができます。一般的には、この10倍(1,200万円)以上の融資をすることは困難だといわれています。この考え方は「債務償還年数」(有利子負債÷キャッシュフロー)という分析指標に基づいた考え方です。

しかしながら、この簡易キャッシュフローは、正確な数値ではありません。売上高は計上されても入金は翌月であったり、支払も翌月だったりすることは一般的なことです。つまり、損益計算書の数値は、“実数”とは異なります。

また、この考え方ですと、前期の損益計算書の実績をもとに簡易キャッシュフローを算出しますので、あくまでも“過去”の数値がベースとなった考え方です。借入は“これから(未来)”するのであって、今後の資金繰りをベースに判断した方が正確です。

資金繰り予定表を作成するのが最も判断しやすい!

簡易キャッシュフローでは正確な判断ができないとすればどうすればよいのでしょうか?過去の現金の動きについては、キャッシュフロー計算書を作成すればわかりますが、あくまでも過去の実績です。

最も有効なのは「資金繰り(予定)表」を作成することです。資金繰り(予定)表を作成すれば、今後の自社の現預金(キャッシュ)の動き(増減)について予測することができます。そうすれば、「どれくらい借りることができるのか?」「どれくらい借りるべきなのか?」また、「その借入を返済することができるのか?」などについて、一目瞭然で予測することができます。まさに一目瞭然です。

資金繰り表の概要、メリット、作成方法については「はじめての資金繰り表の作り方」でも解説しています。
また、会計ソフトを利用した資金繰り表の作成手順は「資金繰り表の作成手順を知ろう」でも解説しています。

しかしながら、基本的には、月別損益計画等を作成して、それをベースに資金繰り予定表を作成することになりますので、少々手間がかかります。よって、顧問税理士や専門家などのアドバイスを受けながら作成されることをお勧めいたします。

以上、4つの判断方法、考え方について解説いたしましたが、不動産担保などがあれば、返済能力以上の借入れができてしまうこともあるかもしれません。そういう場合でも「本当に返済することができるのか?」ということを十分に検討して借入れを行うようにして下さい。

著者:吉田 学(財務・資金調達コンサルタント)

株式会社MBSコンサルティング代表取締役。1998年の起業以来、「資金繰り・資金調達支援」に特化して創業者や中小事業者を支援。これまでに1,000 社以上の資金調達相談・支援を行い、その資金調達支援総額は20億円超。
主な著書に、「社長のための資金調達100の方法」(ダイヤモンド社)、「究極の資金調達マニュアル」(こう書房)、「税理士・認定支援機関のための資金調達支援ガイド」(中央経済社)などがある。

また、全国の経営者・士業などを対象にした会員制の資金調達勉強会「資金調達サポート会(FSS)」を主催している。

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