資本性劣後ローン(2)

~日本政策金融公庫の従来タイプの資本性劣後ローン~

2022/04/28

日本政策金融公庫では、従来型の資本性劣後ローンとして「挑戦支援資本強化特例制度」を取り扱っています。今回は、この挑戦支援資本強化特例制度について解説いたします。ほかに従来型でない新型コロナウイルス対策のための「資本性劣後ローン」がありますが、「日本政策金融公庫の新型コロナ対策のための資本性劣後ローン(1)~内容~」「日本政策金融公庫の新型コロナ対策のための資本性劣後ローン(2)~攻略方法~」で解説いたします。

挑戦支援資本強化特例制度は業績連動の利率や期限一括返済など、事業者側にとってはとても魅力的な制度ではありますが、利用できる要件が厳しく気軽に利用できる制度ではありません。ここで本制度の特徴などについてしっかりと理解し、利用可能かどうかを検討すると良いでしょう。

挑戦支援資本強化特例制度(資本性劣後ローン)とは

日本政策金融公庫の挑戦支援資本強化特例制度(資本性劣後ローン)とは、ベンチャー企業・スタートアップ企業や新事業展開・海外展開・事業再生などに取り組む方の財務体質の強化や、ベンチャーキャピタル・民間金融機関などからの資金調達力の強化の支援をする制度です。

創業や新事業展開などの取り組みに必要となる安定資金の確保と同時に、財務体質の強化を図ることができる融資制度だと言えるでしょう。

挑戦支援資本強化特例制度(資本性劣後ローン)2021年12月時点

内容
〈1〉対象者

次の1および2を満たす法人または個人企業の方

  • 1.
    適用できる融資制度
    • 日本政策金融公庫が指定した融資制度の対象となる方
  • 2.
    その他の条件
    • 次のいずれの要件も満たす方
      • (1)
        地域経済の活性化にかかる事業を行うこと。
      • (2)
        税務申告を1期以上行っている場合、原則として所得税などを完納していること。
〈2〉融資限度額 4,000万円(一部の融資制度に限り、別枠4,000万円となります。)
〈3〉返済期間 5年1か月以上15年以内
〈4〉返済方法 期限一括返済(利息は毎月払)
〈5〉利率 融資後1年ごとに、直近決算の業績に応じて、貸付期間ごとに3区分の利率が適用される。
〈6〉担保・保証人 無担保・無保証人
  • 2021年12月時点において13の制度が指定されている。

〈1〉対象者の1.の要件については、以下の制度の対象になり、技術・ノウハウなどに新規性、独自性などがみられる事業者であれば対象となり得ます。

〈1〉対象者の1.の要件について対象となる制度(2021年12月時点)
  • 新規開業資金
  • 女性、若者/シニア起業家支援資金
  • 再挑戦支援資金(再チャレンジ支援融資)
  • 新事業活動促進資金
  • 中小企業経営力強化資金
  • 食品貸付
  • 一般貸付
  • 海外展開・事業再編資金
  • 事業承継・集約・活性化支援資金
  • 企業再建資金
  • 生活衛生新企業育成資金
  • 生活衛生企業再建資金
  • 生活衛生事業承継・集約・活性化支援資金

挑戦支援資本強化特例制度の特徴

本制度は主に以下のような特徴があります。

挑戦支援資本強化特例制度の特徴
  • 1)
    新たな事業を始める方や、事業開始後間もない方などが対象となる。
  • 2)
    業績に応じた金利設定となっている。
  • 3)
    資本性劣後ローンによる借入金は、自己資本とみなすことができる。

日本政策金融公庫によると、上記の通り「新たな事業を始める方や、事業開始後間もない方などが対象となる」としていますが、実際は本制度を活用するのはとてもハードルが高いです。

ポイントとしては、技術・ノウハウなどに新規性が見られる事業者、特許権などの知的財産権を利用して事業を行う事業者、経営多角化・事業転換を図る事業者などでないと対象にはなりにくい制度だといえます。

特徴の3)である「資本性劣後ローンによる借入金は、自己資本とみなすことができる」について、償還期限まで5年以上有する債務については、残高の100%を借入金ではなく自己資本としてみなすことができます。そして、残存期間が5年未満となった債務については、1年ごとに20%ずつ自己資本としてみなすことができる割合が減っていきます。

返済期間と利率について

返済期間について

挑戦支援資本強化特例制度(資本性劣後ローン)とは」の表の「〈3〉返済期間」であるように、返済期間は「最短5年1か月からの期限一括返済」となります。よって、返済期日までの間は利息のみの支払いとなります。そのため、融資期間中は元金の返済負担がありません。

つまり事業化までに時間がかかるような事業の場合などは、その間の資金操りの負担を軽減することができます。なお、原則として、契約後の期限前返済はできませんので、注意してください。

利率について

挑戦支援資本強化特例制度(資本性劣後ローン)とは」の表の「〈3〉返利率」の利率は、以下の通りです。

利率(2021年12月時点)
売上高 減価償却前 経常利益率 貸付期間
5年1か月以上
7年以内
7年超
9年以内
9年超
12年以内
12年超
15年以内
5%超 5.30% 5.60% 5.95% 6.20%
0%以上5%以下 3.15% 3.30% 3.45% 3.60%
0%未満 0.95% 0.95% 0.95% 0.95%

利率については、直近決算の業績(売上高 減価償却前 経常利益率)に基づいて設定されています。また貸付期間によっても利率が異なります。業績が良ければ高利率になります。業績がよくない場合においては低利率となっていますので、とても魅力的なしくみですね。

挑戦支援資本強化特例制度の注意点

本制度による債務については、借入金ではなく自己資本とみなすことができます。よって、資本性の資金でありながら株式ではないため、株主の持株比率を低下させることもありません。

また、法的倒産手続きの開始決定が裁判所によってなされた場合、すべての債務(償還順位が同等以下とされているものを除く)に劣後します。これは資本性劣後ローンの共通の特徴になります。

本制度には、以下のような条件が課せられますので注意してください。

  • 1)
    審査時に事業計画書を提出する必要がある。
  • 2)
    税務申告を1期以上行っている場合、原則として所得税などを完納されていることが必要である。
  • 3)
    四半期ごとの経営状況の報告などを含む特約を締結することになる。

著者:吉田 学(財務・資金調達コンサルタント)

株式会社MBSコンサルティング代表取締役。1998年の起業以来、「資金繰り・資金調達支援」に特化して創業者や中小事業者を支援。これまでに1,000 社以上の資金調達相談・支援を行い、その資金調達支援総額は20億円超。
主な著書に、「社長のための資金調達100の方法」(ダイヤモンド社)、「究極の資金調達マニュアル」(こう書房)、「税理士・認定支援機関のための資金調達支援ガイド」(中央経済社)などがある。

また、全国の経営者・士業などを対象にした会員制の資金調達勉強会「資金調達サポート会(FSS)」を主催している。

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